毎年のことながら、なんとなく膠原病分野を解いてみた。多分あっているだろうが、責任は負いませんのであしからず。
感想
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普通の問題ばかりだが、生物学的製剤導入前のβDグルカン測定を問題にするのはひどいと思った
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深く見ると「しっかり作っている」「考えさせられる」問題も多いので、作っている先生方はすごいなと思った。
114回:
115回:
①116A-10:続発性レイノー現象
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強皮症による”puffy finger”(ソーセージ指)
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強皮症の皮膚病理像は3期に分かれる
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真皮の浮腫性変化…浮腫期
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真皮の線維化が進行し、硬化を起こす…硬化期
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硬化局面が拡大し、菲薄化・萎縮を起こす…萎縮期
その他
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a…通常両側性
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e. 血圧左右差を起こすのはレイノーのような毛細血管障害ではありえない
②116A-70:GPAの治療
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頭頚部症状(鼻・耳)・肺結節・腎炎所見→古典的にはELK→多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
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活動性重症GPAにおける治療→ステロイド+リツキシマブ or シクロホスファミド
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(ACR2021年ガイドライン)
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ac. コルヒチンは推奨なし。カルシニューリン阻害薬の使用はかなり稀。
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d. 非重症例ではメトトレキサート使うこともあるが、今回は明らかな臓器障害があり重症例に当たる
補足
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ANCAを測定しない意図は謎(難しくしているつもり?)
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補体(CH50)正常値→SLE・ループス腎炎ではないことのアピール?(ただANCA関連血管炎でも補体が低下する例もあるが…)
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IgG比較的低値→「あんまりステロイドで免疫抑制ガンガンしないでね」というアピール?
③116C-12:滲出性胸水の鑑別
b…肝硬変だけ非炎症性疾患→漏出性胸水(静水圧の上昇・血漿膠質浸透圧の低下が原因)
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全身性エリテマトーデス(SLE)の胸水は当然炎症によるものなので、滲出性
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SLEの胸水の原因はループス胸膜炎によるものだが、他の原因(特に肺炎随伴胸水)との鑑別は苦慮することが多い(どちらも滲出性胸水)
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ループス胸膜炎の方が胸水抗核抗体・血清CRP高値が多いという報告もあったりする(Lupus. 2015;24(3):321-326.)
④116C-22:CRPとサイトカイン
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IL-1β→IL-6→(肝臓)→CRPという経路になっている
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(PLoS Pathog. 2016;12(12):e1005973.)
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IL-6阻害薬であるTocilizumab(アクテムラ®)を投与すると、CRPは陰性化する
⑤116C-36:生物学的製剤導入前スクリーニング
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生物学的製剤導入前のスクリーニング検査の問題
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消去法でβDグルカンとなるが、エビデンスを求められるとかなり怪しい問題と感じる
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「RAに対してのTNF阻害薬仕様の手引き」を参照すると、日和見感染リスクの確認として「白血球数・リンパ球数・βDグルカン」の測定が望ましいとされる(https://www.ryumachi-jp.com/publish/guide/guideline_tnf/)
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欧米(EULAR)2014年…Ann Rheum Dis. 2014;73(3):492. Epub 2013 Oct 25.
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あとは風土によってスクリーニングするものは変わっている
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例えばアメリカならヒストプラズマ・コクシジオイデスの既往を確認する(UpToDate "Tumor necrosis factor-alpha inhibitors: Bacterial, viral, and fungal infections")
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日本ではニューモシスティス肺炎等の真菌感染リスクが海外と比較して高いとされているので、そのスクリーニング・早期診断方法としてβDグルカンを採血する流れとなっているが、調べる限り別に確たるエビデンスがあるわけではなく、あくまで「推奨」と感じる
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実臨床でもルーチンでβDグルカン測定はしており、陽性なら使用はためらうだろう
その他
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a. EBNA抗体は、EBウイルス既感染を示すマーカー
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生物学的製剤でのEBウイルス再活性化の報告自体がなく、測定意義はないだろう
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参考…RAとEBウイルス
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RA発症にEBウイルスが関連する?(Arthritis Res Ther. 2006;8(1):204.)
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c. アスペルギルス抗体…肺アスペルギルス症の診断で利用する
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d. 抗水痘・帯状疱疹抗体(VZV抗体)は既感染を示す
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VZVは生物学的製剤・JAK阻害薬投与による再活性化リスクはある
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ただし、VZV抗体を測定してもリスクはわからない
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e. 血中サイトメガロウイルス抗原(C7-HRP)
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サイトメガロウイルスは液性免疫の要素が大きく、生物学的製剤による細胞性免疫低下とはあまり関連はなく、報告も稀
⑥116C-40:SLEの貧血
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日光過敏→発熱・皮疹・関節炎・蝶形紅斑・腎炎・血球減少・dsDNA陽性→SLE
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直接Coombs陽性・赤血球単独の血球減少・LDH軽度上昇であり溶血性貧血を第一に考える→b
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SLEは造血障害・溶血どちらの機序でも血球減少を起こす
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細かく言うと更に多彩
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赤血球:出血(消化管・肺胞出血)、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、慢性炎症、赤芽球癆、腎性貧血
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細かく見てみると他鑑別のための検査が一応記載されている
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出血…BUN/Cre正常
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慢性炎症…CRP陰性
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赤芽球癆…ハプトグロビン低値(だが、AIHAよりも本症例では可能性低い)
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腎性貧血…Cre正常
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c. C1インヒビター低下は遺伝性血管性浮腫(HAE)の特徴
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SLEでC1インヒビター抗体が出現する場合もあるが、稀(Lupus. 2010;19(5):634-638.)
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d. ADAMTS-13は、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)とその他の病態の鑑別に利用する
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e. SLEは補体低下が特徴的
⑦116D-44:MDA5陽性皮膚筋炎
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MDA5による筋症状を伴わない皮膚筋炎(CADM)
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逆Gottron徴候(鉄棒の豆様皮疹)が特徴的(J Am Acad Dermatol. 2011;65(1):25-34.)
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急速進行性間質性肺炎(RPILD)が高リスクだが、悪性腫瘍合併は少ない
⑧116D-50:MTXによる血球減少
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MTX副作用による粘膜障害・白血球減少→ロイコボリン(活性型葉酸)レスキューが必要
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恐らくは体調不良・脱水中のMTX内服に伴うものだろう
⑨116D-64:高安動脈炎の検査
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若年女性の不明熱・頚動脈雑音→高安動脈炎
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高安動脈炎の精査・フォローのための画像検査は色々あるが、生検しようがない動脈に起こるからこそ大血管炎は診断が難しい
参考:
⑩116F-15:好中球への自己抗体
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ANCAは正式には、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody)
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白血球の一種である好中球の細胞質内顆粒とリソソームを対応抗原とする自己抗体の総称
参考:
⑪116F-41:振動によるレイノー
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Hand-Arm Vibration Hazard(振動障害)によるレイノー現象
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チェンソー・掘削機等による振動が原因で起こる末梢循環障害
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治療は振動の回避(Aust Fam Physician. 2003;32(7):530. )