膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

SLE・シェーグレン症候群の肺病変

Ther Adv Musculoskelet Dis. 2021;13:1759720X211040696.
 
強皮症・皮膚筋炎と比較してシェーグレン症候群・SLEでの肺症状は稀ではあるが、特徴的なもの・致死的なものが多い

①SLEの肺病変

胸膜炎が最多だが、血管・実質病変もありうる
 
肺病変
臨床的特徴
ループス胸膜炎
  • SLEの肺病変で最多(最大50%)
  • リスク…長期罹患、慢性的なダメージ、高齢発症SLE、抗RNP抗体、抗Sm抗体
  • 症状…胸痛・発熱・咳嗽・呼吸困難など
    • 無症状も多い(画像で初指摘)
  • 胸水…両側性・滲出性であることが多く、少量〜中等量であることが一般的
    • 外観は様々
    • 検査:多形核細胞、糖低値、LDH高値、補体低値・抗核抗体陽性など
  • 胸腔鏡検査…免疫複合体沈着のある臓側胸膜結節が検出されることもある
  • 治療…NSAIDs、NSAIDs非反応例ではステロイド
    • 難治例では、アザチオプリン(AZP)・メトトレキサート(MTX)・ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、ベリムマブなどの報告あり
急性ループス肺炎(ALP)
  • 稀だが、重症
  • リスク…他臓器の再燃時、抗Ro/SSA抗体陽性
  • 重度の呼吸器疾患(呼吸困難、頻呼吸、低酸素血症)・発熱・咳・肺底部雑音を伴う急性発症の肺炎
  • HRCT…胸水随伴が多い、斑状の両側浸潤影・すりガラス陰影
  • 鑑別診断…感染症、組織性肺炎(OP)、肺塞栓、薬物中毒、異種肺胞出血(DAH)、悪性腫瘍→診断難重する場合、肺生検が推奨される
  • 治療…ステロイド高用量+免疫抑制剤併用が中心
    • PSL1mg/kg/day、パルスも考慮
    • 免疫抑制剤…AZA、MMF、シクロホスファミド(CYC)など
    • 難治例…IVIG、血漿交換の報告あり
びまん性肺胞出血(DAH)
  • 稀だが、致命的
  • 血清学的・臨床的に高活動性の若年女性に多い
  • リスク…抗Ro/SSA抗体、血小板減少、CRP上昇、抗リン脂質抗体陽性など
  • 症状…急性/亜急性の呼吸困難、咳嗽、喀血、貧血
  • 胸部X線検査…斑状/びまん性陰影
      • (J Intensive Care. 2014;2(1):47.)
  • 呼吸機能検査…DLCO増加が一般的(肺胞内に血管外ヘモグロビンがあるため)
  • BAL(気管支肺胞洗浄液)…血性
  • 治療…高用量ステロイド
    • CYC、リツキシマブ(RTX)の併用の有効性報告が多い
    • 軽症〜中等症では、MMF・AZA考慮
SLE関連間質性肺疾患
  • 稀である
  • 非特異的間質性肺炎(NSIP)、通常の間質性肺炎(UIP)、間質性肺炎(OP)、リンパ球性間質性肺炎(LIP)、濾胞性細気管支炎、結節性リンパ球増殖症などの報告あり
  • 症状…運動耐容能低下、乾性咳嗽、呼吸困難、肺底部雑音
  • 検査…呼吸機能検査、HRCT、血液検査など
  • 治療…抗炎症薬・抗線維化薬どちらもありうる
    • 抗炎症薬…PSL投与が多いが、その他はデータなし
      • 軽症〜中等症…AZAやMMF
      • 重症・急速進行例…CYC・RTX
    • 重症再発…ステロイドパルス+RTXorCYC→維持療法としてAZA・MMFなど
血栓塞栓症
 
  • SLEそのものが肺塞栓のリスク
    • 特に膜性腎症・抗リン脂質抗体陽性でリスクが高い
  • 治療…抗凝固薬
肺動脈性肺高血圧症(PAH)
  • 強皮症との合併例(MCTD)で多い
  • 早期は無症状→進行すると労作時呼吸困難を起こす
  • 身体所見…Ⅱp増強
  • 呼吸機能検査…DLCOの減少、肺活量正常
  • 胸部X線検査…心肥大・肺動脈分岐の肥大
  • 経胸壁心エコー…PAHのスクリーニングに有用
  • 右心カテーテル検査…PAHの確定診断・鑑別に必要
    • 安静時平均肺動脈圧≧25mmHg、肺動脈楔入圧正常がPAHの定義
  • 治療…他の膠原病PAH・特発性PAHと同様
    • エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、血管拡張薬など
    • 免疫抑制剤が有効な可能性もある
Shrinking lung syndrome
  • 原因不明の呼吸筋障害、非常に稀
  • 他の膠原病(関節リウマチ・シェーグレン症候群など)でも起こるが、最多はSLE
  • 呼吸困難、胸痛、呼吸機能検査での肺活量減少、胸部X線写真での横隔膜挙上が特徴(肺実質は正常)
  • 免疫抑制剤が有効という報告が多い
  • 咳・発熱・呼吸困難等の呼吸器症状を伴う患者、特に免疫抑制剤内服中の患者では、常に除外すべき
  • 胸部X線写真やHRCT…ALP、DAH、間質性肺疾患と見分けがつかない場合あり
  • →確定診断には、血液・痰・BAL等での細菌検査が必要
  • ワクチン接種での予防が推奨…肺炎球菌、インフルエンザ

②シェーグレン症候群の肺病変

腺外症状としては、呼吸器症状が最多。気道症状が多いが、リンパ腫合併には注意が必要。
 
肺病変
臨床的特徴
上気道炎症
  • 肺症状で最多
  • sicca症状による鼻粘膜・中咽頭粘膜の乾燥→上気道障害惹起
  • 一般人口よりもシェーグレン症候群では有病率が高い
気管支炎
・濾胞性細気管支炎
・慢性細気管支炎
・閉塞性細気管支炎
  • シェーグレン症候群による気道病変では最多
  • 症状…咳と呼吸困難
  • PFTは正常の場合もあるが、拘束性or閉塞性障害もありうる
  • HRCT…網状または網状結節状陰影
    • 濾胞性気管支炎による網状陰影(a.吸気、b.呼気)
  • 病理…気管支血管束に沿って分布する反応性胚中心を有する過形成リンパ小胞が特徴
  • 治療…定まったものはない
気管支拡張症
  • 特徴…高齢者、食道裂孔ヘルニア、抗平滑筋細胞抗体陽性
  • 症状…咳嗽、呼吸困難、まれに喀血
  • 画像…気管支壁肥厚
      • (Eur Respir Rev. 2016;25(140):110-123.)
  • 呼吸器系感染症・肺炎の罹患頻度が高い
  • 治療…粘液溶解剤・去痰剤・生理食塩水/高張食塩水でのネブライザーマクロライド投与(非結核性抗酸菌症・感染がない場合)
間質性肺疾患(ILD)
  • ILD合併例の特徴…ばち指、体重減少、小唾液腺生検でのフォーカススコア⩾4、アルブミン/グロブリン比低下、IgMLDH・血沈高値、抗Ro52抗体陽性
  • 乾性咳嗽・呼吸困難は半数に見られる。残り半数は完全に無症状
  • 聴診…両肺底部での吸気終末捻髪音(“velcro-like” crackle
  • ILDパターン…最多はNSIP(41-45%)。次いでUIP、OP、LIP→HRCT所見も様々
  • 呼吸機能検査…初期では、FVC正常・DLCOが低下
治療
  • 軽症→無治療または経過観察
  • 中等症~重症→ステロイド+MMForAZA
    • 線維化病変→抗線維化薬
    • 炎症性病変→RTX、カルシニューリン阻害剤(シクロスポリンA(CsA)、タクロリムス(Tac))、CYCなど
    • その他、ベリムマブ、アバタセプト、JAK阻害薬
予後
リンパ腫
  • シェーグレン症候群はリンパ腫リスクが高い
    • 唾液腺・涙腺・リンパ節での発生が多いが、20%は肺に発生
  • サブタイプ…MALTリンパ腫が最多
  • リスク…紫斑、耳下腺肥大、低補体血症、II 型クリオグロブリン血症、CD4+T細胞リンパ球減少症、CD4/CD8比低値
  • 肺リンパ腫の症状…咳、徐々に進行する呼吸困難、B症状(発熱、寝汗、体重減少)
  • 画像所見…単発/多発性結節・腫瘤、両側肺浸潤影、間質性陰影、浸潤影、すりガラス陰影など(下葉優位)→他疾患と鑑別困難な例もある
      • 多発結節影(Respir Med. 2007;101(1):84-92.)
      • 気管支周囲の両側肺浸潤影(Respir Med. 2007;101(1):84-92.)
  • 軟部組織画像…縦隔リンパ節腫脹、胸水が多い
  • 確定診断…生検
  • 治療…化学療法
偽リンパ腫
  • 良性腫瘍、一般的に無症状
  • HRCT…孤立性の結節・腫瘤
      • (Korean J Intern Med. 2007;22(3):192-196.)
    • 胸水・縦隔リンパ節腫脹があった場合、リンパ腫を疑う→生検
  • ステロイド免疫抑制剤で退縮することがある
  • 稀にリンパ腫に移行する場合がある
肺アミロイドーシス
  • 非常に稀
  • 症状…倦怠感、喀血、胸膜痛を伴う咳嗽・呼吸困難
  • 画像所見…石灰化した大きな結節がランダムに分布し、不規則で滑らかな境界を持つ
  • 単独発生の場合もあるが、LIPと関連する場合もある
サルコイドーシス
  • 症状…無症状も多い。労作性呼吸困難・乾性咳嗽
  • Heerfordt症候群…顔面神経麻痺、耳下腺腫脹、前部ぶどう膜炎、微熱が特徴→耳下腺腫脹という点でシェーグレン症候群と鑑別が必要
  • X線検査…両側肺門リンパ節腫脹、肺浸潤・線維化
嚢胞性肺疾患
(Cystic lung disease)
  • 比較的よく見られるが、大半は不顕性
  • 抗SS-B/La抗体との関連が示唆されている
  • 嚢胞は通常両側性で、大部分は中葉
      • (Am J Respir Crit Care Med. 2015;191(12):1354-1366.)
  • 治療は不要
血栓塞栓症
 
  • 抗リン脂質抗体陽性例でリスクが高い
肺動脈性肺高血圧症(PAH)
  • 身体所見…Ⅱp増強
  • 呼吸機能検査…DLCOの減少、肺活量正常
  • 胸部X線検査…心肥大・肺動脈分岐の肥大
  • 経胸壁心エコー…PAHのスクリーニングに有用
  • 右心カテーテル検査…PAHの確定診断・鑑別に必要
    • 安静時平均肺動脈圧≧25mmHg、肺動脈楔入圧正常がPAHの定義
  • 治療…他の膠原病PAH・特発性PAHと同様
    • エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、血管拡張薬など
リンパ球性胸膜炎
  • 症状…胸痛、発熱、咳、呼吸困難
  • 検査…RF・抗SS-A,SS-B抗体高値、補体低値
  • 滲出性胸水が特徴
  • 胸膜生検…胸膜へのリンパ球浸潤
神経筋疾患
  • 非常に稀
  • 原因不明…仮説)サーファクタント欠損による微小無気肺・ヒアルロン膜、横隔膜筋症、横隔神経神経障害
  • 呼吸困難、胸痛、呼吸機能検査での肺活量減少(肺実質は正常)
  • 免疫抑制剤が有効という報告あり