膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

117回医師国家試験　膠原病リウマチ分野

国家試験
毎年恒例の国家試験を解いてみた。解答を示すというより問われている内容の背景知識の解説。
例年と比較すると膠原病分野は素直な問題ばかりだった。あえて言えば自己抗体を明記しない膠原病の問題が多くなっており、症候からの診断に重きをおいている印象。
 

①A1…SLE合併妊娠の胎児合併症

SLEの胎児合併症が問われている。
SLE合併妊娠のoutcome自体は改善傾向にはあるが、母体・胎児共に合併症リスクが上昇する（Am J Obstet Gynecol. 2008;199(2):127.e1-127.e1276.）
妊娠
緊急帝王切開、子癇前症、子癇
胎児
早産・流産、胎児発育不全、新生児ループス
母体
SLEの悪化、脳卒中、血栓症、感染症、出血、血小板減少
妊娠母体の脳卒中（脳出血含む）のリスクは上がるが、新生児の脳出血自体は上がらないと思われる。探す限りでは文献なし。
新生児ループスの症状は主には皮膚・心臓で、特に心ブロックが有名。
 

②A26…高安動脈炎の診断

若年女性・不明熱・心雑音・左鎖骨下動脈欠損→高安動脈炎
胸骨左縁第3肋間最強点の拡張期雑音→大動脈弁閉鎖不全症（AR）
おそらくは沼野分類Ⅱa or Ⅱb型（上行大動脈、大動脈弓及びその分岐±下行大動脈）。

 
高安動脈炎は非常に非特異的な症状を呈することで有名だが、注意すべき合併症として大動脈弁閉鎖不全症があり、高安動脈炎患者の13-25%に発生するとされる（Ann Intern Med, 120 (1994), pp. 919-929）。最悪弁置換術になる例もある。
参考

③A68…感染性心内膜炎の診断だが、選択肢にGPA・SLE

当然答えはaなのだろうが、選択肢に多発血管炎性肉芽腫症（GPA）・全身性エリテマトーデス（SLE）が入っている。少なくともSLEは心内膜炎を起こしうる。
  • GPAで弁疣贅ができることは、少なくとも極めてまれ。
    • 探してみるとケースレポートはあり、小児では報告少数あり（Pediatr Rheumatol Online J. 2022;20(1):94.）
    • ただ感染性心内膜炎そのものでANCA陽性となることもあるので、なんとも言えないように思える。
  • SLEの心膜炎は"Libman-Sacks心内膜炎"と呼ばれ、低頻度で存在する
    • SLEの炎症によるサイトカインによる弁炎症→炎症分子・血栓等による疣贅形成が機序とされる
    • SLEの活動性と相関することになっているため、SLE罹患歴のない患者がいきなりLibman-Sacks心内膜炎を起こすとは思い難い
 

④C50…SLEの診断

発熱・慢性多関節炎・手指紅斑・脱毛・硬口蓋潰瘍・糸球体腎炎疑い・血球減少→SLE
SLE分類基準の大体を網羅している。

特に特徴的なのは硬口蓋潰瘍で、無痛性が特徴的とされる。（実際には有痛性も多いが…）
 
 

⑤D6…APSの基礎知識

抗リン脂質抗体症候群（APS）の基礎知識を問う問題
  • a×…APSは血小板減少が特徴。原発性APSよりもSLE続発APSのほうが血小板減少頻度は高い
  • b×…APS合併妊娠は低用量アスピリン＋ヘパリン併用で良好な生児獲得率を得られる。ただヘパリンは点滴・皮下注製剤しか無いため、ハイリスク例ではヘパリン自己注射の指導が行われる。
  • c×…APTT延長が特徴的。in vitroとの違いに注意。
  • d◯…血栓症の他、流産・死産・妊娠高血圧症などの合併症と関連あり
  • e×…ITP・SLE合併以外ではステロイド投与は行わない
 

⑥D29…強皮症の合併症

レイノー現象が先行→手指潰瘍・毛細血管拡張・皮膚硬化・Puffy finger・Ⅱ音亢進→SSc・肺高血圧症
  • 病歴的には抗セントロメア抗体陽性限局性皮膚硬化型全身性強皮症（lcSSc）らしさがある。
  • 抗セントロメア抗体は低リスクと思われがちがだが、肺高血圧症合併・後期の手指潰瘍合併リスクがあるため注意が必要
 
 

⑦D31…MPAの診断

高齢女性・発熱・間質性肺炎・半月体形成性糸球体腎炎・MPO-ANCA陽性・補体正常→顕微鏡的多発血管炎（MPA）、という典型的な問題
 
  • 非常に典型的・リウマトイド因子（RF）はAAVで非特異的に陽性になることが多い
  • 補体（CH50）正常値→SLE・ループス腎炎ではないことのアピール？というのは116回でも同じことがあった
 

⑧D41…AOSDの診断

周期発熱・咽頭痛・リンパ節腫脹・肝脾腫・発熱と相関する発疹・関節炎・好中球優位の白血球上昇・肝機能異常・抗体陰性→AOSD→フェリチン高値の確認
  • 嚥下痛/咽頭痛を伴う不明熱→AOSDを疑う
  • フェリチン高値自体はAOSDに特異的なものではなく、原因としては悪性腫瘍・感染症・鉄過剰・肝機能障害が圧倒的多数なので注意（J Clin Rheumatol. 2013;19(6):324-328.）
 

⑨E13…膠原病と症状の組み合わせ

c
脊椎関節炎の炎症性腰痛の特徴は
  • 若年発症（＜40歳）
  • 体動で改善、安静で悪化
  • 夜間疼痛　といった特徴がある
 
その他選択肢
  • a…中足趾節関節（MTP関節）はDAS28（RA評価項目）には入っていないが、非常によく罹患する
  • b…遠位指節間関節（DIP関節）はRAでは少ないが、乾癬性関節炎等のSpAでは多い。特に爪乾癬がある患者の場合DIP関節炎が多い。
  • d…長期のSicca症状の結果、舌乳頭の萎縮が起こる。Sjögren症候群の重要な身体所見で、「ツルツルした舌」が特徴。

    • （Quintessence Int. 2010;41(10):863-867.）
  • e…皮膚筋炎における筋力低下は頚部・上肢近位筋が最多。頚部の場合屈筋障害が多く、"drooped head"と呼ばれる。（Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2021;8(4):e1016.）
 

⑩F58…痛風のリスク

痛風の増悪因子…急激な尿酸値の上昇→飲酒・脱水・運動・薬剤
→スタチンは関係なし
 

※過去分