膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

2023ACR/CHEST間質性肺疾患推奨

Johnson SR, Bernstein EJ, Bolster MB, et al. 2023 American College of Rheumatology (ACR)/American College of Chest Physicians (CHEST) Guideline for the Treatment of Interstitial Lung Disease in People with Systemic Autoimmune Rheumatic Diseases. Arthritis Care Res (Hoboken). Published online July 8, 2024. doi:10.1002/acr.25348
Johnson SR, Bernstein EJ, Bolster MB, et al. 2023 American College of Rheumatology (ACR)/American College of Chest Physicians (CHEST) Guideline for the Treatment of Interstitial Lung Disease in People with Systemic Autoimmune Rheumatic Diseases. Arthritis Rheumatol. Published online July 8, 2024. doi:10.1002/art.42861
 
ACR/CHEST合同でのILD推奨が出ていたのでまとめ
 
個人的重要ポイント
  • リウマチ性疾患患者の中でもILDリスクの高い患者を特定し、CT・呼吸機能検査でスクリーニングする
  • 以後、CT・呼吸機能検査でフォローしつつ治療介入を考慮する
  • 治療薬のFirst-line推奨は出ているが、日本の保険適応的にはあまり現実的ではない薬が多い(MMFなど)(※SSc-ILDには使えるようにはなったが…)
  • 急速進行ILDの場合、MDA5に注意しつつ多剤併用療法を行う
  • 治療薬に関してはまだわかっていないことが多いが、ステロイドはなるべき短期にしたいという意思は伝わる

①検査・スクリーニング

◎疾患ごとのリスク因子

リウマチ性疾患の中でも全身性強皮症・関節リウマチ・特発性炎症性筋疾患(IIM)・混合性結合組織病(MCTD)・シェーグレン症候群(SjS)といった疾患の患者は間質性肺疾患(ILD)リスクが高い
ただ全例でのスクリーニングは非推奨
→下記のリスク・Shared-Decision-Makingの下でスクリーニングを行う
 
疾患名 リスク因子
全身性強皮症
(SSc)
抗Scl-70陽性
抗核抗体Nucleorパターン
びまん性皮膚硬化型SSc(dcSSc)
男性、アフリカ系アメリカ人
疾患初期(発症後5–7年以内)
急性期反応物質の上昇
関節リウマチ
(RA)
高力価リウマチ因子、高力価抗CCP抗体
喫煙、関節リウマチ発症時高齢、高疾患活動性
男性、BMI高値
特発性炎症性筋疾患
(IIM)
抗体陽性…抗ARS抗体(Jo-1、PL7、PL12、EJ、OJ、KS、Ha、Zo)、抗MDA-5抗体、抗Ku抗体、抗Pm/Scl抗体、抗Ro52抗体
機械工の手、関節炎/関節痛、潰瘍性病変
混合性結合組織病
(MCTD)
嚥下障害、レイノー現象
その他の全身性硬化症の臨床的または検査的特徴
シェーグレン症候群
(SjS)
抗Ro52抗体、抗核抗体
レイノー現象、高齢、リンパ球減少症、重度の虫歯
 

◎スクリーニング・モニタリング推奨

スクリーニングは呼吸機能検査+CT→呼吸機能検査でモニタリング というのが推奨
(日本ではCTフォローのほうが楽ではあるが…)
問診・診察に関しては診断精度が乏しいが、評価は行うべき

 
基本的に推奨される検査は胸部CT・呼吸機能検査で、Xp・6分間歩行検査などはあまり推奨されない
スクリーニングとしての非推奨検査 モニタリングとしての非推奨検査
  • 胸部X線
  • 6分間歩行検査
  • 酸素飽和度検査(呼吸機能検査実施が不十分な場合使用していいかもしれない)
  • 気管支鏡(感染症、サルコイドーシス、リンパ腫、肺胞出血の除外として実施していいかもしれない)
  • 外科的肺生検(強く非推奨)(悪性腫瘍の除外として実施していいかもしれない)
  • 胸部X線
  • 6分間歩行検査(呼吸機能検査実施が不十分な場合使用していいかもしれない)
  • 気管支鏡(感染症、肺胞出血の除外として実施していいかもしれない)
 

②治療

◎初期治療

  全身性強皮症 筋炎 MCTD RA SjS
First-line 優先 MMF、TCZ、RTX MMF、AZP、RTX、CNI MMF、AZP、RTX MMF、AZP、RTX MMF、AZP、RTX
追加 CyC、Nintedanib
AZP
JAKi
CyC
TCZ
CyC
CyC CyC
ステロイド 使用しないことを強く推奨 短期使用 短期使用 短期使用 短期使用
MMF:ミコフェノール酸モフェチル、TCZ:トシリズマブ、RTX:リツキシマブ、CyC:シクロホスファミド、AZP:アザチオプリン、CNI:カルシニューリン阻害薬、JAKi:JAK阻害薬
 
※第一選択の ILD 治療選択肢として、レフルノミド、メトトレキサート、TNF阻害薬、アバタセプトを条件付きで推奨しない
 

◎初期治療でもILD進行する例への治療

初期治療でも進行する例では、以下の治療を追加orスイッチ
  全身性強皮症 筋炎 MCTD RA SjS

治療
オプション
MMF、RTX、Nintedanib、TCZ、CyC
経験のある施設での自家造血幹細胞移植
MMF、RTX、CNI、Nintedanib、CyC、IVIG
JAKi(MDA5陽性例で考慮)
MMF、RTX、Nintedanib、TCZ、CyC、IVIG MMF、RTX、Nintedanib、TCZ、CyC、Pirfenidone MMF、RTX、Nintedanib、CyC
ステロイド 使用しないことを強く推奨
長期のステロイド使用は非推奨
  進行例では適切な時期に肺移植の評価を考慮
 

◎急速進行性ILDの場合の管理

◎使用する薬剤と注意点

薬剤 注意すべき副作用 開始用量・頻度 モニタリング
アザチオプリン
AZP
肝毒性、白血球減少症、まれに膵炎 50mg/dayから開始
→2~3mg/kg/日まで増量
ベースライン血算
開始後2~3週間後・用量増加後2~3週間の肝機能検査
→安定後は3ヶ月ごとに1回
(※+NUDT15)
シクロホスファミド
CyC
骨髄抑制、不妊、出血性膀胱炎、避妊の必要性
長期…膀胱癌等の悪性腫瘍
静脈内投与…500~750 mg/m 2 IVを4週間ごとに6ヶ月間投与 ベースラインでの血球分画と尿検査、静脈内投与の場合は投与後10~14日と次回投与直前に血球分画と血球分画を検​​査
経口…50~150mg/dayから開始
目標用量は2 mg/kg/day(最大200 mg//dayまで)で6か月間継続する
100mg/dayを最大用量とする人もいる。
投与開始後10~14日目・用量増加後10~14日目に血算を測定
→安定後は4週間ごとに測定
  安定した投与量では4~8週間ごとに尿検査
年1尿細胞診
シクロスポリン
CyA
感染症、高血圧、腎毒性、高カリウム血症、肝毒性、神経毒性、歯肉増殖、血栓性細小血管症、悪性腫瘍、多毛症 3 mg/kg/day
目標トラフ値100~150 ng/mLに調整
ベースライン血圧、血清Cre、BUN、血算、マグネシウムカリウム、尿酸、脂質
治療開始後最初の3か月間は、隔週で血圧、血算、血清Cre、BUN、尿酸、カリウム、脂質、マグネシウムをモニタリング
→3か月以降は毎月モニタリング
ステロイド 高血糖、高血圧、気分障害骨粗鬆症、虚血性骨壊死 パルス:メチルプレドニゾロン1gx3日間 血圧、血糖値
3ヶ月以上投与が予想される場合はDEXAスキャン
プレドニゾン:1mg/kg/day投与  
IVIG 無菌性髄膜炎静脈血栓塞栓症のリスク増加、腎不全、溶血性貧血 2 g/kgを4週間ごとに2~5日間に分けて点滴投与 投与開始前のIgA値
…特にIgA欠乏症患者の場合、投与中のアナフィラキシーおよび血栓塞栓症のモニタリング

初回投与前および定期的に腎機能の検査

JAKi
トファシチニブ
バリシチニブ
ウパダシチニブ
白血球減少症、帯状疱疹、心血管リスク、悪性腫瘍 トファシチニブ:1日2回5mg経口投与 開始前のB/C型肝炎ウイルス感染、潜在性結核のスクリーニング
ベースライン、開始後4~8週間、その後3ヶ月ごとのCBC(白血球分画を含む)と包括的代謝パネルを検査
ベースライン、開始後4~8週間、毎年脂質を検査
バリシチニブ:1日2mg経口投与
ウパダシチニブ:1日15mg経口投与
MMF 骨髄抑制、肝毒性、妊娠への警告
ミコフェノール酸モフェチル:1日2回500mg経口投与から開始→1日2回1,000~1,500mgの治療用量まで増量
ベースライン、開始後2~3週間、用量増加後2~3週間、および用量が安定した場合は3ヶ月ごとに1回、白血球分画および包括的代謝パネルを含むCBCを実施。全身皮膚検査(できれば皮膚科医による)を毎年実施。
ミコフェノール酸:1日2回経口投与で360mgから開始→1日2回720~1,080mgの治療用量まで増量
Nintedanib 肝毒性、下痢、心血管イベントのリスク増加、出血のリスク増加の可能性 100~150 mg 経口、12時間ごと 3か月間は毎月肝機能検査を実施。その後は3か月ごとに下痢や体重減少をモニタリングする
Pirfenidone 発疹、下痢、吐き気、腹痛、光線過敏症、体重減少、上気道感染症、めまい 1日目から7日目: 267 mgを1日3回、8日目から14日目: 534 mgを1日3回、15日目以降: 801 mgを1日3回 ベースラインでのL肝機能検査
最初の6か月間は毎月、その後は3か月ごとに実施し、光過敏症と体重減少をモニターする
リツキシマブ
RTX
血球減少症、感染症B型肝炎の再活性化、進行性多巣性白質脳症のリスク 2週間ごとに1gをIVで2回投与。必要に応じて24週間ごとに繰り返すことができる。 開始前にB/C型肝炎ウイルス感染、潜在性結核のスクリーニングを実施。ベースライン時および2~4か月間隔でCBC(白血球分画)を実施
infusion-reactionをモニター
タクロリムス
Tac
白血球減少症、腎不全、神経毒性 投与量:0.075 mg/kg/日、目標全血トラフ値5~10 ng/mLに調整
(最大トラフ値を6 ng/mLとする専門家もいる)
タクロリムスのトラフ値、包括的代謝パネル、マグネシウム、リンを最初の1ヶ月間は週1~2回、3ヶ月間は毎月、その後は2~3ヶ月ごとにモニタリング
血圧モニタリング
トシリズマブ
TCZ
高トランスアミナーゼ血症、高脂血症、腸穿孔 毎週162mg皮下投与 治療開始前の潜在性結核スクリーニング
ベースライン、治療開始後 4~8 週間、その後 3 か月ごとの 血算・白血球分画、
ベースライン、治療開始後最初の 6 か月は 4~8 週間ごと、その後は 3 か月ごとの ALT/AST、ALP、総ビリルビン、ベースライン
治療開始後 4~8 週間ごと、治療開始後 6 か月、その後は毎年の脂質検査
 

③感想

  • スクリーニングとしては呼吸機能検査が重視されているが、日本ではHRCTのほうがハードルが低いのでそこには注意。そもそも3ヶ月に1回呼吸機能検査すると患者も大変な気が…
  • 治療に関してはステロイド漫然仕様への警告、他代替薬の模索が中心。MMF・RTX優先度が高い印象。MMFに関してはSSc-ILDで使えるようにはなったが、他疾患へも適応広がるのだろうか?