膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

手指のびらん性変形性関節症(Erosive OA)

Nat Rev Rheumatol. 2022;10.1038/s41584-021-00747-3.
 
多発手指関節炎を訴える患者の中に「びらん性変形性関節症(Erosive OA)」としかいいようがない患者がいる。
多発関節炎で受診し、Seronegative RAまたはundifferential perioheral SpAか?と思って治療するが改善なく、レントゲンフォローするとOAとしか言いようがない変化をきたしており診断、というパターンが多いように感じる。(結晶性関節炎の併発があるかもしれないが…)
ただこのerosive OA、まとまった文献がほぼない。Nature Reviewが総説を出していたので読んでみた。
確立した治療法・診断があるわけではないというのが悲しい所…
 
【Key-point】
  • びらん性変形性手指関節症(EHOA)は重症の手指OAであり、遺伝子要因が示唆されている
  • EHOAの画像所見は、関節の"central erosion"が特徴的で、放射線画像も超音波画像も診断に有用
  • EHOAには炎症要素があると思われ、症状・骨びらんの出現と相関する
  • EHOAのバイオマーカーとして有用なものは見つかっていない
  • EHOAの進行を遅らせる治療は現状見つかっていない

【変形性手指関節症について】

  • 変形性関節症(Oateoarthritis: OA)は多くは膝関節に多いが、次いで手・股関節にも起こる
  • 手のOAは3つのサブタイプに分けられる
    1. びらん性変形性手指関節症(Erosive hand OA: EHOA)
    2. 結節性手指関節症(非びらん性手指関節症: non-EHOA)
    3. 母指CM関節の変形性関節症
  • non-EHOA
    • 罹患関節…DIP関節が最多、次いでCM関節・PIP関節
    • 関節骨肥大による結節が特徴的…ヘバーデン結節・ブシャール結節
  • EHOA
    • DIP・PIP関節への炎症・骨びらんが特徴的
    • 重度の炎症性の臨床表現型・X線上の明確な異常所見が特徴的
 

【EHOAの歴史】

  • 1966年に提唱された概念…DIP・PIP関節での著明な軟骨破壊、central erosion、骨棘形成が特徴
  • EHOAとnon-EHOAが別分類なのかどうかははっきりしない
    • EHOAはnon-EHOAが進行して発生する可能性もある…X線所見・罹病関節が似る
    • 臨床的・血清学的・放射線学的特徴と進行パターンが全く異なる→異なる疾患の可能性が高い
 

表:EHOAの特徴

リスク因子
女性、肥満、高血圧、脂質異常症
バイオマーカー
ESR、sIL-2、CRP、CTXⅠ、Col2-3/4C、MPO、Visfatin、CLU、C2C、CS846、HA、Coll2-1NO2
症状・所見
腫脹、疼痛、熱感、異常感覚、DIP・PIP関節の結節、発赤、圧痛、亜脱臼、不安定性、強直
遺伝子素因
遺伝子型…SERPINA1*MS、IL1β5810AA
HLA…A23,A26,S29,B38,B44,DRB1*01,DRB1:07
X線所見
中心性骨びらん、関節裂隙狭小化、Gull-wing erosion、Sawtooth erosion、強直、骨棘形成、アライメント不良
超音波所見
関節浸出液、滑膜造成、関節包肥厚、パワードップラー陽性、嚢胞
MRI所見
骨棘形成、アライメント不良、骨びらん、屈筋腱鞘炎、関節裂隙狭小化、骨髄異常所見、滑膜炎

【疫学・臨床所見】

  • 正確な定義がないため有病率は不明
    • OAと診断された患者のうち10%程度にEHOAのような骨びらんがあるとする研究が多い
    • f:id:CTD_GIM:20220212120327p:image

  • 男性と比較して女性に多い(3.3%vs9.9%)(Ann. Rheum. Dis. 70, 1581–1586 (2011).)

◎症状

  • 急性発症の疼痛・腫脹・発赤→関節症状の持続
  • その後、非びらん性変形性関節症と同様の変形が急激に起こる
      • f:id:CTD_GIM:20220212120242p:image

        • a.初期のEHOA…PIP・DIP関節の柔らかい腫脹
        • b.後期のEHOA…関節の変形、結節の形成、PIP関節亜脱臼

◎部位

  • DIP関節が最多、次いでPIP関節
    • MCP関節は稀
  • 第2,3指病変が最多で、次いで第4,5指

◎臨床的影響

  • 機能障害予測因子…女性(特に閉経後)、X線上で所見のある関節数
  • 疼痛の程度は関節リウマチ(RA)と同等
    • ただ疼痛がまったくない症例も多くある
 

【血液検査】

  • ESR・CRP…EHOAでは、non-EHOAよりも高い
    • ただし感度は低い
  • sIL-2レセプター…EHOA患者で高い傾向あり
    • →EHOAの病態生理に免疫系が関与している?
  • その他高値となる血清マーカー…CTXⅠ、Col2-3/4C、MPO、Visfatin、CLU、C2C、CS846、HA、Coll2-1NO2
    • f:id:CTD_GIM:20220212120335p:image

 

【画像検査】

X線写真

  • EHOAとnon-EHOA・その多関節炎の鑑別に役立つ
  • EHOAの特徴…中心性骨びらん、関節裂隙狭小化、Gull-wing erosion、Sawtooth erosion、強直、骨棘形成、アライメント不良
所見
画像
◎EHOA
Gull-wing erosion(*)
…central erosionによる関節中央部の骨破壊、骨硬化症・骨吸収で起こる。DIP関節で多い。
・関節裂隙狭小化(↑)
 

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◎EHOA
Sawtooth erosion(*)
…PIP関節で多い

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◎EHOA
・著明な関節裂隙狭小化(赤*)
・関節の融合(黃*)

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◎関節リウマチ
・骨びらん(*)
MCP関節亜脱臼(↑)
・母指基部変形性関節症(▲)

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◎乾癬性関節炎
第3末節骨の
・marginal erosion(辺縁無骨びらん)(白矢印)
・"sausage digit"(軟部組織腫脹)(])
・"mouse ear" appearance(黄矢印)

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・関節包腫脹を伴う指節間骨びらん

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◎超音波検査
  • X線では見えない微小骨びらんを検出できる
  • central erosion・骨棘を高感度・高特異度で検出可能
    • f:id:CTD_GIM:20220212120317p:image

    • 超音波での骨びらん検出(Osteoarthritis Cartilage. 2009;17(10):1283-1287.)
  • パワードップラー陽性・滑膜浸出液・増生は、non-EHOAとの鑑別に有用
    • f:id:CTD_GIM:20220212120322p:image

    • 滑膜増生、パワードップラー陽性(Osteoarthritis Cartilage. 2009;17(10):1283-1287.)
 

MRI

  • Xp・超音波同様に関節全体の評価が可能
 

【治療】

  • 疾患進行を予防する/遅延させる治療は現状無い
  • 非薬物治療…患者教育、副子、理学療法

薬物療法

  • 経口・局所NSAIDs…経口NSAIDsは短期間使用のみ推奨
  • ステロイド関節注射…フレア・疼痛のある患者で考慮
  • 臨床試験のあるDMARDsは以下の通り
    • f:id:CTD_GIM:20220212120343p:image

  • csDMARDs
    • ヒドロキシクロロキン…X線画像変化の改善なし
    • メトトレキサート…滑膜炎改善効果あり?
  • bDMARDs
    • アダリムマブ…改善効果なし
    • エタネルセプト…疼痛を効果的に緩和した?
 

【結論】

  • EHOAは炎症性の変形性関節症であり、臨床・血清マーカー・画像所見を考慮するとnon-EHOAとは異なる病態と思われる
  • EHOAの特徴は、non-EHOAと比較して突然発症・臨床転機不良であることが挙げられる
  • 治療に関してのデータは現状ほぼなく、今後の研究が必要