Ann Rheum Dis. 2021;80(1):31-35.
Nat Rev Rheumatol. 2021;17(1):17-33.
治療の進歩によって関節リウマチ(RA)の予後は大きく改善したが、それでも難治例は残っている。
難治例の中には、「薬が効かない」というだけでなく、線維筋痛症のような痛みが残る・変形でADLが低下している・金銭面で治療強化困難といった患者もいるが、そのあたりの区別に感じて論じたレビューがいくつか出ており自分なりにまとめてみた。
【ポイント】
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難治性関節リウマチ(Refractory RA) は、「生物学的製剤/JAK阻害薬を複数使っても症状/所見が残るRA」(治療抵抗性関節リウマチ)の一部である
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難治性関節リウマチは、持続的炎症性難治性RA(PIRRA)と非炎症性難治性RA(NIRRA)の2つに分かれる
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機序ははっきり分かっていないが、PIRRAは遺伝子・自己抗体、NIRRAは中枢神経経路・疼痛経路異常が主因とされる
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この2つを区別することは治療戦略上非常に重要で、主には臨床所見・炎症反応・画像所見で判断する
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PIRRAに関しては獲得免疫寄りor自然免疫寄りを判定することで、個別化治療が可能になるかもしれない
【難治性関節リウマチと治療抵抗性関節リウマチ】
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「難治性関節リウマチ」(Refractory RA) という用語のほか、「治療抵抗性関節リウマチ」(Difficult-to-treat rheumatoid arthritis: D2TRA)があり、その使い分けは不明瞭
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Refractory RAには明確な定義はないがD2TRAには、ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)から2021年に提唱された定義がある
表:治療抵抗性関節リウマチ(D2TRA)定義(Ann Rheum Dis. 2021;80(1):31-35.)
要約すれば「生物学的製剤/JAK阻害薬を複数使っても症状/所見が残るRA」ととなるが、難治性RAと比較して広い定義となっている。
一方で「難治性RA」は「DMARDが効率的に作用しない」という定義が提案されており、より狭い定義となっている
図:D2TRAと難治性RAの区分
難治性RAは炎症性と非炎症性に分かれ、持続的炎症性難治性RA(Persistent inflammatory refractory RA: PIRRA)は珍しく、非炎症性難治性RA(Non-inflammatory refractory RA: NIRRA)のほうが多いとされる
【難治性RAの分類】
①持続的炎症性難治性RA(Persistent inflammatory refractory RA: PIRRA)
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治療導入→非寛解→治療変更を繰り返しても関節炎が残存するものを指す
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炎症が残っているRAで、昔は関節変形の進行・動脈硬化進行・早期死亡などが見られたが、現在は治療の進歩で重症例は少なくなった
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長期間の寛解後に出現することはほぼ無いとされる
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◎自己抗体との関連
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大関節症状が残る場合、脊椎関節炎(SpA)様の血清反応陰性RA(Seronegative RA)が多い→SpAとの鑑別が重要となる
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小関節・対称性関節炎が残る場合、RF/ACPA(抗CCP抗体)陽性の血清反応陽性RA(Seropositive RA)が多い
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→SpA所見・エコー所見等での鑑別が重要
②非炎症性難治性RA(Non-inflammatory refractory RA: NIRRA)
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客観的炎症所見が乏しい(炎症反応正常・腫脹関節ほぼなし)一方で、症状改善が乏しい一群を指す
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例)DAS28では安定している(腫脹圧痛関節ほぼなし)一方で、HAQ・VASのようなpatient-reported outcome measures (PROMs)は全く改善しない(線維筋痛症様)
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→DMARDsを変更しても全く改善しない事が多い
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一方で関節予後に関わる腫脹関節・CRP値・びらん性病変は、ほぼない事が多い→長期予後は、持続的炎症性難治性RAと全く異なる可能性がある
【難治性RAのメカニズム】
①持続的炎症性難治性RA(Persistent inflammatory refractory RA: PIRRA)
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自己抗体
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RF/ACPA陽性RAは、重症。予後不良リスクが高い
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遺伝子
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特定の遺伝子とPIRRAの関連は現状不明
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HLA転座とACPA陽性が相関している場合がある
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HLA-B*08は乾癬性関節炎(PsA)感受性との関連が報告されており、HLA-B*08関連ACPA陰性RAは、PsAと類似している可能性がある
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遺伝子のエピジェネティックな変化
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加齢等によるエピジェネティック変化がRA発症・難治化に関連している可能性がある
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エピジェネティックなプログラミングに影響を与えるde novo変異
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未確定の潜在能を持つクローン造血(Clonal haematopoiesis of indeterminate potential: CHIP)はMDS・心血管リスクとなることが知られているが、RAにも関連している可能性がある
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喫煙
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RAの予後不良因子・発症リスクとされている
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煙中の化学物質が炎症性環境に多大な影響を与えるが、その他エピジェネティック変異・体細胞変異・CHIPと関連している可能性がある
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また非炎症性難治性RA患者での持続症状との関連も示唆されれているが、原因不明
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免疫経路
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RAはIL-6・TNF等のサイトカイン経路が関与しているが、PIRRA患者の場合他の経路が関与している可能性がある
②非炎症性難治性RA(Non-inflammatory refractory RA: NIRRA)
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PIRRAと比較するとメカニズムははっきり分かっていない
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抗炎症薬の投与でも残存する疼痛の原因は、中枢感作(central sensitization)・不適切な疼痛処理によるものであることが示唆されている
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原因としては中枢神経経路の異常・自己免疫による神経-炎症性疼痛経路の異常の2つが提唱されている
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a.中枢神経経路:関節での慢性炎症・アライメント異常・骨などの損傷→関節からの神経の異常→慢性的疼痛を伴う痛覚過敏・アロディニア(異痛症)発生
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疼痛経路に関してはTNF等が関与していると思われるが、JAK阻害薬がTNF阻害薬と比較して疼痛症状に効果があったことを考えると、JAK-STATシグナルが関与するTNF以外の経路が痛みの発症に関与している可能性がある(J Clin Med. 2019;8(6):831.)
【難治性関節リウマチの管理】
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持続的炎症性難治性RA(PIRRA)と非炎症性難治性RA(NIRRA)を区別する事が非常に重要
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区別することで不要なDMARDs変更の回避・治療方針の決定に役立つ
提唱されているのは以下の方法
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まず血液検査(炎症反応)画像評価(エコーなど)・臨床評価で層別化→非炎症性難治性RA(NIRRA)患者はDMARDs継続・他の治療戦略を考慮する
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持続的炎症性難治性RA(PIRRA)を3つに層別化する…RF,ACPA,HLA評価→獲得免疫寄り or 自己炎症性寄りかを判定
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HLA関連のある自己抗体陽性RA
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HLA関連のない自己抗体陰性RA(RF/ACPA両方陰性)
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HLA関連のない自己抗体陰性RA(より自己炎症性?)
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持続的炎症性難治性RA(PIRRA)の炎症が体液性・T細胞性・自然免疫(自己炎症性)かを判定し、治療薬を選択する
今後、RA患者のゲノムシークエンス等での個人の特性評価によって、個別化アプローチが可能となるかもしれない