膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

後腹膜線維症レビュー

Curr Rheumatol Rep. 2021;23(3):18.
AJR Am J Roentgenol. 2008;191(2):423-431.
 
後腹膜線維症はIgG4関連疾患の関係で膠原病内科に相談が来ることが多いが、いい文献がなかったのでまとめてみた
 

【ポイント】

  • 後腹膜線維症は、IgG4関連疾患・特発性後腹膜線維症等の良性の他、悪性腫瘍転移によるものがある
  • 腹痛・腎障害が症状として多いが、無症状も多い
  • 診断の基本は画像診断+臨床診断。確定診断は組織生検だが、部位的にハードルが高い
  • 内科的治療はまずステロイド、再発例ではMTX・MMF・RTXなどの併用考慮

【まとめ】

表:後腹膜線維症の診断、典型的症状、治療

診断
病理
・Ⅰ型コラーゲン繊維からなる組織で、太く不規則な束で組織化されている
・単核球の炎症性浸潤…リンパ球、形質細胞、マクロファージ(稀に好酸球・肥満細胞も)
・浸潤部位はコラーゲン繊維または血管周囲
・免疫組織化学染色…IgG4陽性細胞が検出され、IgG4/IgG比が40%以上の場合、IgG4関連疾患と分類される
画像
・腹部エコー:尿管閉塞による水尿管腎盂症、大動脈周囲の低エコー
・CT:腹部大動脈前外側・総腸骨動脈を囲む均質なプラーク。筋組織と等吸収で、造影効果は様々。
MRI:T1低信号、T1は様々
・FDG-PET:後腹膜腫瘤への取り込み亢進
典型的症状
全身症状
微熱、食欲不振、疲労感、体重減少、軽度の便秘
(27-92%)
疼痛
・持続的な鈍い腹痛、腰痛、側腹部痛
・尿管閉塞の場合、尿管疝痛様の急性側腹部痛
( 90-95%)
尿管・腎合併症
・腫瘤の尿管浸潤→水尿管腎症
・両側尿管閉塞による急性腎障害・慢性腎臓病
・片側尿管狭窄→無症状で腎萎縮をおこす
(55−72%)
血管合併症
・静脈・リンパ管圧迫による下腿浮腫(8-23%)
・腎動脈狭窄→腎性高血圧、動脈虚血(稀)
精巣・性機能合併症
・精巣静脈瘤→精巣痛、水腫、精索静脈瘤、逆行性射精、勃起不全など(13-51%)
胸部大動脈病変
・反回喉頭神経麻痺→嗄声
・乾性咳嗽、上肢跛行
(稀)
治療
First-line
ステロイド経口投与
・PSL1mg/kg/dayを1ヶ月投与
・6−12ヶ月で5mg/dayまで漸減/休薬
Second-line
(再発、ステロイド禁忌)
・MTX20mg/week
・MMF1gx2/day
・RTX375mg/m2/week x4週 or 1g/2w x2回
・タモキシフェン 0.5mg/kg/day

図:特発性後腹膜線維症の診断フローチャート

【Intro】

  • 後腹膜腫瘤は大動脈周囲の炎症によって発生する腫瘤で、「慢性大動脈周囲炎(chronic periaortitis: CP)」とも表現される
    • この結果、後腹膜線維症(Retroperitoneal Fibrosis: RPF)が起こる
      • 胸部大動脈周囲の所見
  • 腹部大動脈と腸骨動脈の腎下部周辺から発生することが多く、後腹膜腫瘤が尿管等の隣接する臓器を巻き込むことを特徴とする疾患で、腎不全の原因となる
        • 腹部大動脈周囲への腫瘤→右尿管閉塞
  • 原因は多彩で、75%は特発性で、25%は二次性(悪性腫瘍・感染症など)である
    • 特発性後腹膜線維症…推定発症率は0.1~1.3例/10万人/年、発症平均年齢40-60歳、男性優位
    • その他IgG4関連疾患に伴うものも特徴的
 

【病態】

  • 環境因子と遺伝因子の組み合わせによるものと思われる
  • 発症メカニズムは現状不明
    • IL-6軸・B細胞軸は関係あると思われる
  • 組織学的特徴…線維性組織と慢性炎症
    • 動脈壁外膜に浸潤し、外膜周囲に広がる。中膜・内膜はspareされる
    • マクロファージで構成される単核球浸潤が中心
        • 繊維化(*)、リンパ球による炎症性浸潤(矢印)
    • コラーゲン線維内に散在していることが多いが、結節状の凝結塊を構成することがある
        • コラーゲン線維内に散在するリンパ球・形質細胞
    • 免疫組織化学染色でIgG4陽性細胞が検出され、IgG4/IgG比が40%以上の場合、IgG4関連疾患と分類される
 

【臨床症状・検査所見・鑑別診断】

◎臨床症状

  • 非特的な症状が多い→早期診断は困難
    • 主症状の尿管狭窄も大半が無症状
  • 全身症状…微熱、食欲不振、疲労、体重減少など(30~90%)
  • 体質症状…便秘など(腫瘤による軽度の腹膜刺激作用?)
  • 最多症状は疼痛(~90%)…腹部、腰部、脇腹→非特異的な腰痛と誤診されることが多い
    • NSAIDsがある程度効く
  • その他
    • 男性:精巣痛、下垂体痛、精索静脈瘤、逆行性射精、勃起不全など
    • 肛門症状
    • 血尿・排尿障害

◎合併症

  • 水尿管腎盂…合併症として最多(60-70%)
      • (CMAJ October 23, 2007 177 (9) 1027-1027-b)
    • 両側性の場合、腎機能低下・無尿をおこす
    • 片側性尿管瘤は非可逆性のことが多く、腎低形成/萎縮をおこす
  • 下肢深部静脈血栓症・静脈炎→下腿浮腫
  • 腎血管性高血圧症…腎動脈狭窄が原因
  • 反回神経麻痺、空咳、上肢跛行…胸部大動脈への大動脈周囲炎
  • 腸管虚血→腸間膜虚血、腸閉塞
  • 動脈瘤の形成(※大動脈に多いが、腸骨動脈狭窄は稀)

◎検査所見

  • -80%の患者で炎症反応上昇…CRP、ESR
    • 治療で改善し、上昇は再発を示唆する
    • ただし、炎症性上でも、腫瘤の再発が起こる場合もある
  • 貧血…腎病変がある場合に多い
  • クレアチニン上昇、CKD…泌尿器科的な介入で回復する場合あり
  • 蛋白尿…閉塞性腎症による糸球体障害
  • 自己抗体…SLE、関節リウマチ、小血管炎、自己免疫性甲状腺炎、膜性腎症など
 
まとめ:血算・生化学(CRP, Cre)・ESR・尿検査の他、自己抗体(抗核抗体、抗DNA抗体、血清補体値、リウマトイド因子、ANCAなど)甲状腺検査(TSH、FT3/4、抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺抗体)は測定すべき
 
 

◎鑑別診断

  • 悪性腫瘍
    1. 後腹膜へのリンパ腫・肉腫・固形腫瘍の転移
    2. カルチノイド腫瘍…転移なしで後腹膜線維症リスクあり
    1. 脊髄・脊椎周囲への膿瘍
    2. 結核…近接病変から進展する場合もあれば、遠隔播種の場合もある
    3. 骨盤内放線菌…子宮内避妊器具の使用歴のある女性
    4. ヒストプラスマ
    1. エルドハイム・チェスター病…腎周囲への浸潤が多く、“hairy kidney”が特徴的
        • Abdominal Radiology volume 42, pages979–980 (2017)
    2. 大血管炎(高安動脈炎・巨細胞性動脈炎)…後腹膜・尿管病変は稀
    3. IgG4高値となる炎症性疾患…好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、エルドハイム・チェスター病、Castleman病など
      • 生検で証明されたIgG4関連疾患のうち40-50%は血清IgG4値正常→血清IgG4値は鑑別にはあまり有用ではない
  • その他
    • 薬剤性…メチセルジド、ヒドララジン、β遮断薬、エルゴタミン、メチルドパ、アンフェタミン、鎮痛薬(フェナセチン)、ペルゴリド、コカイン
    • 出血…大動脈瘤、大動脈周囲血腫、外傷・手術
    • 炎症…Crohn病、憩室炎、膵炎
    • 腎外傷

【画像所見】

腹部超音波、CT・MRI、PET-CTで評価することが多い
  1. 腹部超音波

    • 尿管浸潤・水腎症有無の確認には有用だが、後腹膜線維症そのものの確認には向かない
    • 大動脈周囲病変が見えることもある
        • 大動脈前方の低エコー軟部組織(AJR Am J Roentgenol. 2008;191(2):423-431.)
  2. CT・MRI

    • 病変範囲・尿管浸潤・大動脈圧迫有無を正確に評価可能
    • 特発性後腹膜線維症は、腹部大動脈前外側・総腸骨動脈周囲の均質なプラークとして現れる
    • 造影されるかは様々
        • 大動脈・総腸骨動脈周囲の均質プラーク(AJR Am J Roentgenol. 2008;191(2):423-431.)
    • 大動脈を圧迫する膨満・隆起性病変の場合、後腹膜線維症よりも悪性腫瘍が示唆される
        • 非Hodgkinリンパ腫(AJR Am J Roentgenol. 2008;191(2):423-431.)
  3. MRI

    • T1強調画像で低信号、T2強調画像はvariable(活動期では組織水腫・細胞増多のため高信号)→感染症との鑑別に有用
      • (AJR Am J Roentgenol. 2008;191(2):423-431.)
  4. PET-CT

    • 活動性炎症がある場合、高取り込みになるとされる
        • (AJR Am J Roentgenol. 2008;191(2):423-431.)
    • PET-CT取り込み有無と疾患活動性の相関に関しては現状不明
      • PET陰性でも疾患活動性がある場合がある
    • ただし、PET陽性→活動性あり、PET陽性陰性→活動性なしのことが多いので、治療開始前にPET-CT撮像することは有用
    • 参考

      ctd-gim.hatenablog.com

 

【生検】

  • 画像所見だけで特発性後腹膜線維症と他疾患(悪性腫瘍など)を鑑別するのは困難→非典型的症例では生検が診断に必要
  • CTガイド下吸引生検・コア生検は、感度が低く信頼性に欠ける
    • 悪性腫瘍の場合、転移細胞は繊維化病変内に散財しているため
    • ただ生検検体に悪性腫瘍がない場合、死亡率は低い→臨床経過次第での再検査も許容される?(Surgery 1977; 81:250-257)
 

【治療】

良性後腹膜線維症の場合、予後良好
悪性腫瘍による後腹膜線維症は非常に予後が悪く、平均生存期間は3-6ヵ月(Br J Radiol 2000; 73:214-222)
泌尿器科的治療(尿管閉塞解除)+炎症反応改善・線維性腫瘤の縮小を目的とした内科的治療が治療の基本
 

泌尿器科的治療

  • 両側水腎症・急性腎障害がある場合、尿管ステント・腎瘻での尿路減圧術が必要
    • 片側閉塞であっても重度の水腎症がある場合、腎臓へのダメージ保護のための介入が必要
  • 症状が残存する場合、尿管剥離術(Ureterolysis)・腎摘出術も考慮される
 

◎内科的治療

  1. 1st line
    • ステロイド治療が基本で、他の免疫抑制剤は再発性orステロイドのtaper agent目的で使用される
      • PSL1mg/kg/day、1ヶ月投与→2ヶ月目に0.5mg/kg/day→3,4ヶ月目に0.25mg/kg/day→5ヶ月目以降、さらに漸減
    • 効果判定は、症状・水腎症の改善、炎症の正常化、画像の改善と定義され、75-95%で達成される
    • 治療期間は6-12ヵ月程度で、治療反応性が良い場合より早期にステロイド漸減可能
    • ステロイド反応性が乏しい場合、悪性腫瘍等の二次性後腹膜線維症を考慮し、生検を実施すべき
  2. 2nd line
    • 再発性・ステロイド使用禁忌の場合、免疫抑制剤使用を考慮…アザチオプリン、メトトレキサート(MTX)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、シクロホスファミド、シクロスポリン
      • どれも症例報告レベルのみ
    • MTX…RA・巨細胞性動脈炎への使用経験からが使われることが多い
      • ただし腎機能には注意
    • MMF…1gx2/day+PSL40mg/day→6ヶ月で漸減という報告あり(Rheumatology (Oxford). 2007:717–8. vol. 4.)
  3. 生物学的製剤…症例報告レベル
    • リツキシマブ(RTX)…375mg/m2/week x4回 or 1g/2week ×2回
      • IgG4関連疾患以外の特発性後腹膜線維症にも有効性が示されている(Ann Rheum Dis. 2020:433–434. vol. 3, Ann Rheum Dis. 2012:1262–4. vol. 7.)
      • 維持療法…ANCA関連血管同様、500mg/6ヵ月考慮
    • トシリズマブ(TCZ)…4例報告あり(Clin Exp Rheumatol. 2014;32(3 Suppl 82):S79-S89.)
    • タモキシフェン(抗エストロゲン薬)…ステロイドに効果は劣る(Lancet. Jul 23 2011;378(9788):338–46.)
      • デスモイド腫瘍に対して抗線維化作用を有する
 

【フォローアップ】

  • 採血…1−2ヶ月毎:内科的治療への反応観察のため
  • 腹部エコー…治療開始後2-3ヶ月後に実施→尿管閉塞有無確認
  • CT…最初の2年は半年ごと、以後1年おき
  • 可能ならPET-CT施行
  • 再発症例…MTX、MMF、RTXなどを考慮