膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

難治性炎症性筋症の管理へのエキスパートオピニオン

Lundberg IE. Expert Perspective: Management of Refractory Inflammatory Myopathy. Arthritis Rheumatol. 2021;73(8):1394-1407. doi:10.1002/art.41762
 
難治性の特発性炎症性筋症(Idiopathic inflammatory myopathies (IIMs)に対しての治療のエキスパートオピニオン
 
管理原則
  1. 残存症状が持続的な炎症によるものか、炎症後のダメージによるものかを区別する→再度の診断・検査が重要
  2. 筋力低下が残っている場合、筋炎の診断が正しいのか、他の原因で症状が説明可能かどうかを確認する
  3. 組織に残存する炎症が証明された場合、治療を変更する戦略を立てる

【前置き】

「筋炎」とも総称されるIIMは近位筋の低下が共通症状であり、多くの患者で皮膚・関節・肺などの筋外症状を起こす
IIMの注意点として
  1. 様々な疾患があり、免疫抑制剤による治療反応性が全く異なる…筋症状優位のものもいれば、間質性肺炎が中心のものも要る
  2. 免疫抑制療法では改善しない「筋炎ミミック」があるため、正しい診断が必要→筋炎特異的抗体(MSA)の提出が有用
  3. 治療法としてエビデンスの確立したものが少ない
が挙げられる
 

【アプローチ】

①残存症状が持続的な炎症によるものか、炎症後のダメージによるものかを区別する

◎筋力低下の残存

  • IIMの活動性スコアとしてHAQ・MMT・筋酵素(CK,LDH,AST/ALT,アルドラーゼ)等によるコアセットも有用(Rheumatology (Oxford). 2004;43(1):49-54.)
  • 難治性の筋力低下が筋肉の炎症によるものか炎症後の損傷によるものかの鑑別に、CK等の筋酵素は役に立たない場合がある
    • 炎症が進行していても、ステロイド治療によって筋酵素は正常化することがあるため
  • MRIでのSTIR高信号・脂肪抑制T2での筋浮腫像は進行性の炎症を示している可能性がある
    • ただし筋ジストロフィー等の非炎症性疾患でも上記所見ありうるため、IIMに特異的なものではない
  • 再度の筋生検(re-biopsy)・MRIガイド下筋生検による筋炎症の確認も有用
  • MRI・筋生検で炎症所見なく他臓器でも炎症がない場合、以前の炎症による筋萎縮・筋肉の脂肪変性が最多と思われる
  • この場合、免疫抑制療法強化は行うべきではなく、ステロイドの漸減・運動療法が重要
    • 運動後の一過性CK上昇に注意が必要
 
◎肺症状の残存
  • 呼吸機能検査・肺のHRCTが有用
◎嚥下障害の残存
  • 咽頭・食道機能評価は、内視鏡検査・食道内圧評価・リアルタイムMRI等で可能→原因・障害部位の特定に有用
  • ※嚥下障害の評価手順(Curr Rheumatol Rep. 2020;22(10):74.)
    1. スクリーニング問診「食事が喉に詰まることがはありますか?」「何度も飲み込まないと食べにくいということはないですか?」
    2. 嚥下のQoL評価(SSQなど)(Gastroenterology. 2000;118(4):678-687.)
    3. 嚥下内視鏡
    4. 嚥下造影検査、リアルタイムMRIなどで評価
    5. 治療へ

②持続性炎症を伴う難治性疾患への対処

◎診断は正しいのか?
  • 持続性の炎症性筋症の症状がある患者で最も重要なことは、IIMの診断が正しいかどうかである
  • 再検査
    • 筋力テスト等の再検査・自己抗体の再度のスクリーニングは役立つかもしれない
    • 再度の筋生検考慮
    • 悪性腫瘍の繰り返しのスクリーニング
◎治療抵抗例への治療選択肢

  • 推奨される一次治療はAZP(アザチオプリン)またはMTX(メトトレキサート)+ステロイド
    • ※日本ではAZP・MTX共に保険適応外
  • 難治例への二次治療は、MMF(ミコフェノール酸モフェチル)、CyA(シクロスポリン)、Tac(タクロリムス)、MTX・AZP併用療法などがある
    • ※日本ではMMF・CyAは保険適応外。Tacは皮膚筋炎性間質性肺炎にのみ適応あり
  • 三次治療としては、Abatacept、RTX(リツキシマブ)、シクロホスファミド、JAK阻害薬などが報告されている
 
◎持続性炎症を伴う難治性筋力低下
  • 筋症状よりも先に血清CK値は正常化する→筋症状の客観的な改善には少なくとも3ヶ月は要する
  • 皮膚筋炎患者においてCK正常でも筋炎症が持続している場合があるため、注意が必要
◎持続性炎症を伴う難治性間質性肺疾患(ILD)
  • エキスパートオピニオンレベルでの治療アルゴリズムは以下の通り

  • IIMでのILDは、急速進行性もあれば慢性経過の無症候性もあるが、どちらも治療抵抗性となりうる
  • 初期から積極的な治療を行う必要があり、高用量ステロイド免疫抑制剤(AZP、MMF、CyA、Tac)を組み合わせて行う
    • ※日本で保険適応があるのはTac(皮膚筋炎性間質性肺炎)のみ
    • MMFはSSc-ILDでの報告が多い
    • 副作用の問題でAZPよりMMFが用いられやすい(Chest. 2019;156(5):896-906.)
  • 難治例ではRTX・CYCの追加、MMF・Tac併用などが報告されている
  • その他、Abataceptなども報告がある
  • 免疫抑制以外の治療
◎持続性炎症を伴う難治性皮膚発疹
  • 皮膚科との連携が重要
  • ヒドロキシクロロキン(HCQ)は有用
    • ※日本では保険適応外
    • 抗SAE-1/2抗体陽性例では、逆にHCQで皮疹が増加するという報告があり注意(JAMA Dermatol. 2018;154(10):1199-1203.)
  • その他…IVIG、Lenabasum(カンビナノイド)、JAK阻害薬なども有望な選択肢
  • 皮下石灰沈着症は、若年発症皮膚筋炎で多く見られるが、非常に難治性
    • Abataceptでの治療報告はある(J Pediatr. 2012;160(3):520-522. )
    • 参考:

       

      ctd-gim.hatenablog.com

       

  • 重度のそう痒症…アプレミラストの報告あり(J Clin Rheumatol. 2019;10.1097/RHU.0000000000000999.)
  • 難治性メカニックスハンドの抗ARS抗体陽性皮膚筋炎…ウステキヌマブの報告あり(Rheumatology (Oxford). 2019;58(7):1307-1308.)
◎持続性炎症を伴う難治性嚥下障害
  • 誤嚥性肺炎併発が多く、致死的な合併症となりうる
  • 補助的治療
    • 嚥下障害患者へのプロトンポンプ阻害薬PPI)は推奨される
    • 一部の患者にはPEG(経皮的胃瘻造設術)が必要となる場合がある
    • 言語・嚥下リハビリも有用
  • 嚥下障害は、基本的には免疫抑制療法で改善する
    • IVIGの有用性は報告されている(※日本でも保険適応あり)(Arthritis Care Res (Hoboken). 2010;62(12):1748-1755.)

③筋炎特異的抗体別の治療

◎抗ARS抗体
  • 筋炎特異的抗体の中で最多
  • 抗ARS抗体の中でも抗Jo-1抗体が最も一般的で、IIM患者の20-30%に見られる
  • 症状…筋炎、ILD、関節炎、機械工の手、レイノー現象など多彩なのが特徴
  • 難治性抗ARS抗体症候群にはRTXが有用という報告が多く、難治性ILDにはRTXの追加・スイッチが有用な可能性あり(PLoS One. 2015;10(11):e0133702.)
  • 参考:

     

    ctd-gim.hatenablog.com

     

◎抗MDA5抗体
  • 筋症状が殆どない一方で、急速進行性ILD(RPILD)を起こしやすい
  • いわゆる「CADM(clinical amyopathic DM)」で多い
  • RPILDへの初期治療としてステロイド+カルシニューリン阻害薬(CyA/Tac)+IVCY(シクロホスファミド静注)での「triple tyerapy」が推奨される
  • 難治例の場合、二次治療としてRTXとCYCの併用も選択肢だが、感染リスクが高い
  • 3次治療としては、IVIG、血漿交換、ポリミキシンBなどが提案されてはいる
  • 潜在的な治療としてJAK阻害薬が提案されており、今後の臨床試験が必要
◎抗SRP抗体・抗HMG-CR抗体
  • 免疫性壊死性筋症を起こす
  • ステロイド・MTX等の従来の治療に対して治療抵抗性のことが多く、難治例が多い
  • 抗SRP抗体にはRTXが有用な可能性あり(Arthritis Care Res (Hoboken). 2010;62(9):1328-1334. )
  • 抗HMG-CR抗体にはIVIGが有用な可能性あり(N Engl J Med. 2015;373(17):1680-1682.)
 

症例)

38歳女性、下肢近位筋の筋力低下・CK上昇で受診
  • 筋電図上の筋原性変化・殿部筋萎縮あり
  • 大腿筋生検…筋線維サイズの変動/内部核があり、他は正常
  • 多発性筋炎(PM)の診断で高用量ステロイド・アザチオプリン・シクロスポリンで治療
    • MTXは妊娠希望あり避けた
  • ただ筋力低下は進行し、ハムストリング筋萎縮出現
→再度筋生検したが所見なし
抗HMGCR抗体を測定してみると陽性
→抗HMGCR抗体陽性壊死性筋症としてIVIG投与してみると、筋力は改善した