膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

SLEの関節炎

Best Pract Res Clin Rheumatol. 2009;23(4):495.
Curr Opin Rheumatol. 2017;29(5):486-492.
 
SLE患者の-90%に見られる非常にコモンな症状である(Clin Rheumatol. 2009;23(4):495-506.)
一方で関節炎に特異的な治療があるわけではなく"non-renal SLE"の一部として雑多に扱われている症候であり、実臨床では困る場面が多い
 
【ポイント】
  • SLEの関節症状は大別すると、非びらん性関節炎・手指変形・腱障害・他膠原病との合併の4つに分かれる
  • 頻度的には非びらん性関節炎が多く、対称性・膝/小関節中心の多関節炎が典型的
  • 手指変形はJaccoud関節症と呼ばれ、RAの変形とは異なり容易に整復可能なことが特徴
  • 画像検査では滑膜炎・腱炎所見がよく見られるが、無症候性滑膜炎も多いので注意
  • RAと合併した場合"Rhupus"と呼ばれ、骨びらんを伴う関節炎を起こす
  • SLE関節炎の重要な鑑別は、化膿性関節炎・無血管性壊死
  • 治療はHCQ+MTX+ステロイドが多く、ベリムマブなども使用される

【所見】

SLEの関節症状は軽症〜変形を起こすものまで様々
大別すると以下の4つに分かれる
  1. 非びらん性関節炎
  2. 手指変形
  3. 腱障害
  4. 膠原病との合併(rhupus)
 

①非びらん性関節炎

  • RAとは異なり、非びらん性関節炎がSLEでは多い
  • 移動性関節炎が多く、通常対称性・多関節炎
  • 罹患関節…膝・手指(特にPIP)に多く、足・肘・肩・股関節は少ない

②手指変形(Jaccoud関節症)

  • 靱帯や関節包の弛緩や関節亜脱臼の結果、手の変形が起こることがある
  • 変形を起こすとJaccoud(ジャクー)関節症と呼ばれる
    • 骨病変ではないので、RAの変形と異なり固定化していないことが多い…平坦なところに押し付けると変形は容易に整復可能
      • (Best Pract Res Clin Rheumatol. 2009;23(4):495.)
    • ただ、固定化する例もあるため注意
  • 変形リスク…ステロイド治療、抗体Ro/SSA, La/SSB抗体、長期罹病(Lupus. 1994;3(5):419.)

③腱障害

  • 腱滑膜炎は10-44%で見られる(Best Pract Res Clin Rheumatol. 2009;23(4):495.)
  • 腱断裂は稀だが、膝蓋腱断裂・アキレス腱断裂を起こす例もある(Arthritis Rheum. 1974;17(6):1033-1036. など)
 
その他、仙腸関節炎・環軸椎亜脱臼の報告もある
rhupus(RAとの合併)については後述
 

【検査】

◎関節液検査

  • 炎症性であることが多いが、白血球数はやや少ないことが多い
  • 特異的な関節液所見はない
  • 関節液の特徴(Clin Rheumatol. 2009;23(4):495-506.)
    • 白血球数は2,000以下が多いが、最大18,000まで上昇する
    • 多核球・リンパ球が存在するが、リンパ球優位
    • 透明〜やや混濁
    • 粘稠度は良好
 

◎超音波検査

  • 無症候性滑膜炎がかなりの割合で見られる…関節炎がない患者でもパワードップラー陽性が多く見られる
  • 関節炎よりも腱炎のほうが多い
    • 第2屈筋腱横断像…滑膜肥厚、パワードップラー陽性(Rheumatology (Oxford). 2012;51(12):2278-2285.)
  • 無症候性滑膜炎を治療すべきかどうかはわかっていない
 

◎単純X線写真

  • 骨びらんは無いことが一般的
  • ごく一部の患者においてびらん性疾患が報告されている
  • 所見…嚢胞性骨病変、関節周囲軟部組織の腫脹、骨硬化、関節亜脱臼、骨びらんなど
      • (Best Pract Res Clin Rheumatol. 2009;23(4):495.)
  • Jaccoud関節症、スワンネック変形、骨びらん・関節腔の狭小化はない(Clin Rheumatol. 2009;23(4):495-506.)
 

MRI

MRIでみてみると骨びらんは案外多い
  • SLE関節炎患者34名に造影MRI→手関節の93%、MCP関節の63%に骨びらんあり(Rheumatology (Oxford). 2014;53(10):1835-1843.)
    • A) RF/ACPA陰性SLE患者のMCP関節骨びらん所見(T1脂肪抑制)、B)MCP関節grade3滑膜炎・骨びらん(造影T1脂肪抑制)
  • RF・抗CCP抗体の有無は骨びらん有無と関係なかった
 

【関節リウマチとの関連】

  • RF/ACPA陰性でもSLEの関節炎は起こるが、RF/ACPA陽性で骨びらんを伴う関節炎を起こす患者も多い
  • SLEの患者のうち、RAの分類基準を満たす人は、"rhupus"と呼ばれる
    • SLE全体の2.8-3.5%がrhupusとされる(Rev Bras Reumatol 2006; 46:261–265)
  • Rhupus 患者では、SLE 患者と比較して、RF・ACPAの有病率が高い(J Rheumatol 1988; 15:65–69.)
 
表:RAとSLEの比較(UpToDate "Arthritis and other musculoskeletal manifestations of systemic lupus erythematosus" 参考に作成)

【鑑別】

感染性関節炎・骨髄炎の他、無血管性壊死が重要
  • 感染性関節炎…単関節炎が多い(SLE関節炎は通常多関節炎)
  • 無血管性壊死大腿骨頭壊死など)…時に両側発症を起こすため「多関節炎」としてSLE患者に現れる
    • リスク因子の高い患者では積極的に疑い、画像診断(X線MRI)で鑑別する
    • 無血管性壊死リスク…外傷、アルコール多飲、抗リン脂質症候群等の凝固異常、鎌状赤血球貧血、骨びらん性疾患、骨髄障害、妊娠、慢性肝疾患、化学療法、喫煙、ステロイドの使用、血管炎、レイノー現象、中枢神経系障害
  • また線維筋痛症・変形性関節症がSLEに合併することは非常に多いため、炎症性要素があるかどうかの見極めも重要
 

【治療】

  • NSAIDs・HCQ(ヒドロキシクロロキン)・ステロイド・MTX(メトトレキサート)・ベリムマブなどが頻用される。
    • 使用頻度的にはHCQ +MTX  ±ステロイドが多い
    • MTX以外の経口免疫抑制剤MMF・アザチオプリンなど)の関節炎への効果は限定的とされる(Joint Bone Spine. 2012;79(4):347-350.)
    • ベリムマブの筋骨格症状改善効果は臨床試験的にも証明されている(Lancet. 2011;377(9767):721.)
  • フローチャートガイドラインはなく、経験的には以下のような使用が多い(Curr Opin Rheumatol. 2017;29(5):486-492.)
    • 軽症…HCQ、NSAIDs
    • 持続性・重症…ステロイド、MTX、レフルノミド
    • 治療抵抗例…タクロリムス、ベリムマブ、アニフロルマブなど
  • 日本のガイドライン的には以下の通り(全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019, 南山堂)
  • RA合併例(Rhupus)ではRA同様の治療(TNF阻害薬・アバタセプト・トシリズマブ・JAK阻害薬など)が行われる
    • ただしTNF阻害薬による薬剤性ループス、トシリズマブによる好中球減少には注意が必要