膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

血管ベーチェット病

 
血管ベーチェット病は非常に難しく、その要因として個人的には3つ挙げたい。
  • 動静脈・血管径問わず様々な病変を起こすため、病変が多彩すぎる
  • ベーチェット病自体確たる診断方法がないのに、血管型に関しては更にあやふやな部分が多く、確定診断が非常に困難
  • 希少疾患すぎて治療が全くわかっておらず、効果判定も難しい
比較的新しいレビュー・ガイドラインをできる限りまとめてみた。

①総論

  • ベーチェット病は口腔内アフタ・外陰部潰瘍・ぶどう膜炎が特徴的な自己炎症性疾患だが、たまに血管炎を起こす
  • CHCC2012分類では、”Variable vessel vasculitis” =あらゆるサイズ(小・中・大) とタイプ(動脈・静脈・毛細血管)に病変のある血管炎と分類されている→動静脈・血管径問わず、様々な病変を起こす

②疫学

  • 男性で多い
  • 有病率は不明だが、10-20%程度とする報告が多い
    • 日本では表在性血栓性静脈炎は血管性病変では なく、皮膚病変に分類されるため、日本の血管BDは海外と比較して少なめ?
    • トルコ(796例):血管病変は14.3%。表在静脈血栓症53.3%>深部静脈血栓症29.8%>3.6%で動脈病変(Int J Dermatol. 2006;45(8):919. )
    • 中国(796例):血管病変は12.8%。動脈病変54.9%、静脈病変70.6%(Clin Rheumatol. 2013;32(6):845-852.)
    • 日本:6.3-15.3%と低頻度ベーチェット病診療ガイドライン2020)
  • 予後…肺動脈瘤、大動脈瘤などの病変は危険。男性、若年発症、頻回再燃は死亡リスク高いとされる。
 

③症状・病変

かなり非特異的だが、原因不明の動脈病変・静脈血栓症で疑うほかない
血管ベーチェット病を疑う所見
(J Jpn Coll Angiol, 2009, 49: 391–398.)
他の原因がない50歳以下の動脈瘤・動脈閉塞で、 口腔内潰瘍や外陰部潰瘍を認める場合、「将来的にベーチェット病と診断される可能性がある」ことを考慮
  • 原因が明らかでない上大静脈症候群
  • 多発する表在静脈の血栓性静脈炎
  • 通常ではない深部静脈血栓症
  • 通常ではない下腿潰瘍 
  • 形の悪い(囊状)動脈瘤 
  • 50歳以下の動脈瘤で他に原因のないもの
  • 動脈壁の異様な薄さ
  • 血管造影などによる動脈閉塞・穿刺部動脈瘤
 

◎血管ベーチェット病における病変と症状

病変 頻度 症状 長期合併症
静脈病変
深部静脈血栓症 30.4% 下肢腫脹・疼痛 肺塞栓など
皮下血栓静脈炎 28.2% 下肢腫脹・疼痛 血栓症状、跛行
上大静脈閉塞 16.8% 顔面・上肢浮腫、呼吸困難 睡眠時無呼吸症候群、胸水、喉頭浮腫
下大静脈閉塞 12.8% 腹痛、腹水など 食道静脈瘤など
脳静脈洞血栓症 4.1% 頭痛、複視など 視神経萎縮、視野障害など
Budd-Chiari症候群 2.3% 腹痛、腹水など 食道静脈瘤など
その他の静脈閉塞 3.2% - -
動脈病変
肺動脈閉塞/動脈瘤 4.9% 喀血、胸痛など 肺高血圧など
動脈瘤 1.4% - 破裂リスク
四肢閉塞/動脈瘤 6.1% 疼痛、チアノーゼ 破裂リスク、虚血
その他閉塞/動脈瘤 5.8% - -
心室血栓 0.3% - 肺塞栓、肺梗塞など
( J Rheumatol. 1992;19(3):402-410./Nat Rev Rheumatol. 2023;19(2):111-126.参照)
  • 日本(105例):105例の検討では、静脈病変 71.4%>動脈病変 29.5%>肺病変 24.8%(肺塞栓 19.0%、動脈瘤 7.6%)>心病変 6.7%(Springer Japan, 2015:79-100.)
    • 日本では比較的肺動脈瘤は少ないとされる
 

◎静脈病変

閉塞性炎症性血栓→DVT、上大静脈症候群やBudd-Chiali症候群
  • ベーチェット病の全身症状、ぶどう膜炎のある患者で多いとされる(Rheumatology (Oxford). 2001;40(6):652. )
  • Budd-Chiali症候群の場合、DVT・IVC血栓症が多い
  • 皮下血栓静脈炎→皮膚潰瘍などを起こすが、先述の通り日本では皮膚病変と扱われる
 

◎動脈病変

  • 動脈系病変の方がより重篤で致死的
  • 外膜の炎症→動脈壁の障害による狭窄/閉塞または動脈瘤、二次性動脈解離
  • 腹部大動脈瘤をはじめ大型∼中型に好発(Int J Adv Rheumatol. 2007;5:8. )
    • 多い…頸動脈、肺動脈、大動脈、腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈
    • 少ない…脳動脈、腎動脈
  • 致死的病態として、肺動脈瘤が重要(日本では少ない)(Chest. 2005;127(6):2243. )
    • 症状…喀血街最多。その他咳、呼吸困難、発熱、胸膜痛
    • 血栓塞栓症と誤診→抗血栓療法実施しても改善しないというパターンに注意
      • 右肺動脈瘤Cureus. 2023;15(7):e41928.)

◎心病変

  • 潜在性で、臨床的には問題となりにくい
  • 肺血管病変がある例では注意が必要…1/3で心内血栓合併あり
  • 症状…心外膜炎、心内膜炎、弁膜症(特にAR)、心筋繊維症、冠動脈血管炎、心内血栓症
 

④診断

 

◎血管ベーチェット病の鑑別

静脈病変
通常のDVT…長期臥床・安静、肥満、妊娠、心不全
血液凝固能亢進疾患…Protein C/S欠損症、アンチトロンビン欠損症、多血症、抗リン脂質抗体症候群、悪性腫瘍、薬剤(経口避妊薬など)
外的要因…手術、骨折、熱傷、カテーテル検査後
動脈病変 他の血管炎…高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、感染性動脈瘤、IgG4関連疾患、結節性多発動脈炎、バージャー病など
→高安動脈炎はHLA-B52のことが多く、鑑別に役立つ
肺動脈病変 動脈瘤…高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、Hughes-Stovin症候群、Marfan症候群など
喀血…感染症(肺アスペルギルス、結核)、悪性腫瘍、気管支拡張症など
 

⑤治療

  • 最初の血管イベント後約半数が2年以内に再度の血管イベントを起こす
  • 血管イベント後の免疫抑制によって再発を減らすことができるとされるClin Exp Rheumatol. 2022;40(8):1491-1496.)
 

◎内科的治療

  • 本的には中-高用量(PSL0.5-1mg/kg/d)+ほか免疫抑制剤(Azathioprine: AZA 50-100mg, Cyclophosphamide: CyC, Cyclosporine A: CyA 5mg/kg/dなど)
  • コルヒチンに関してはデータがほぼ無く、症例報告レベルでは効いたという報告はある(Medicine (Baltimore). 2020;99(16):e19814.)→使用すべきかは不明
 
-動脈病変
  • その他…TNF阻害薬(Infliximab、Adalimumab)の他、Baricitinib・Tocilizumabなど報告あり(※日本ではInfliximab以外適応なし)
  • 動脈瘤に関しては、降圧療法をガイドラインに従って行う
-静脈病変
  • 免疫抑制療法>抗凝固療法…内皮細胞炎症による血栓症と考えられているため
    • →免疫抑制療法先行の併用が多い
  • 日本ガイドラインでは
    • DVT:PSL少量-0.5mg/kg/d+AZA50-100mg or MTX8-16mg/w
    • 大静脈病変:PSL1mg/kg/d+IVCY 500-1000mg/2-4w→ほか免疫抑制剤
    • 治療抵抗例:Infliximab5mg/kg(早期導入も考慮可)
  • Adalimumab治療の方が他DMARDs治療より改善が早いとするデータあり(※日本では適応なし)(Arthritis Rheumatol. 2018;70(9):1500-1507. )
  • 抗凝固薬に関しては、急性期はヘパリン→Warfarin使用例が多い(肺動脈瘤合併例では注意)
    • DOACへのデータは限られているが、成功報告もあることはある(Case Rep Hematol. 2016;2016:2164329.)
    • 疾患活動期は継続し、中止もOK?
 

◎外科的治療

  • 基本的には内科治療が優先…術後吻合部の動脈瘤血栓閉塞などのリスクが高い→可能であれば急性炎症期には術前に免疫抑制剤治療を行うべき
    • ただしステロイド使用による感染リスク・創傷治癒不良リスクあり、ケースバイケースで判断したほうが良い
    • 合併症…ステントグラフト部・術後吻合部への仮性動脈瘤、弁置換術後の早期離開(仮性瘤)
      • ステント留置→近位・遠位部の仮性動脈瘤Ann Thorac Surg. 2019;107(5):e301-e303.)
  • ただし、動脈瘤破裂などの緊急事態の際には外科治療が優先される
  • 待機的な外科介入(Nat Rev Rheumatol. 2023;19(2):111-126.)
    • 動脈瘤…行われることが多いが、術後吻合部合併症発生率が多いことに注意
    • 動脈瘤致死的な場合以外は非推奨(死亡例が多いため)
    • 動脈瘤以外の末梢動脈瘤…小さい・無症状・破裂リスクが低い場合を除き、手術またはステント留置が必要
  • DVT治療…静脈壁損傷リスクあるため、IVCフィルターは非推奨
 
参考:
Ann Vasc Dis. 2018;11(1):52-56.
Nat Rev Rheumatol. 2023;19(2):111-126.