血管ベーチェット病は非常に難しく、その要因として個人的には3つ挙げたい。
①総論
②疫学
- 男性で多い
- 有病率は不明だが、10-20%程度とする報告が多い
- 日本では表在性血栓性静脈炎は血管性病変では なく、皮膚病変に分類されるため、日本の血管BDは海外と比較して少なめ?
- トルコ(796例):血管病変は14.3%。表在静脈血栓症53.3%>深部静脈血栓症29.8%>3.6%で動脈病変(Int J Dermatol. 2006;45(8):919. )
- 中国(796例):血管病変は12.8%。動脈病変54.9%、静脈病変70.6%(Clin Rheumatol. 2013;32(6):845-852.)
- 日本:6.3-15.3%と低頻度(ベーチェット病診療ガイドライン2020)
- 予後…肺動脈瘤、大動脈瘤などの病変は危険。男性、若年発症、頻回再燃は死亡リスク高いとされる。
③症状・病変
かなり非特異的だが、原因不明の動脈病変・静脈血栓症で疑うほかない
血管ベーチェット病を疑う所見
(J Jpn Coll Angiol, 2009, 49: 391–398.)
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◎血管ベーチェット病における病変と症状
病変 | 頻度 | 症状 | 長期合併症 |
静脈病変 | |||
深部静脈血栓症 | 30.4% | 下肢腫脹・疼痛 | 肺塞栓など |
皮下血栓静脈炎 | 28.2% | 下肢腫脹・疼痛 | 血栓症状、跛行 |
上大静脈閉塞 | 16.8% | 顔面・上肢浮腫、呼吸困難 | 睡眠時無呼吸症候群、胸水、喉頭浮腫 |
下大静脈閉塞 | 12.8% | 腹痛、腹水など | 食道静脈瘤など |
脳静脈洞血栓症 | 4.1% | 頭痛、複視など | 視神経萎縮、視野障害など |
Budd-Chiari症候群 | 2.3% | 腹痛、腹水など | 食道静脈瘤など |
その他の静脈閉塞 | 3.2% | - | - |
動脈病変 | |||
肺動脈閉塞/動脈瘤 | 4.9% | 喀血、胸痛など | 肺高血圧など |
大動脈瘤 | 1.4% | - | 破裂リスク |
四肢閉塞/動脈瘤 | 6.1% | 疼痛、チアノーゼ | 破裂リスク、虚血 |
その他閉塞/動脈瘤 | 5.8% | - | - |
右心室血栓 | 0.3% | - | 肺塞栓、肺梗塞など |
( J Rheumatol. 1992;19(3):402-410./Nat Rev Rheumatol. 2023;19(2):111-126.参照)
◎静脈病変
閉塞性炎症性血栓→DVT、上大静脈症候群やBudd-Chiali症候群
◎動脈病変
- 動脈系病変の方がより重篤で致死的
- 外膜の炎症→動脈壁の障害による狭窄/閉塞または動脈瘤、二次性動脈解離
- 腹部大動脈瘤をはじめ大型∼中型に好発(Int J Adv Rheumatol. 2007;5:8. )
- 多い…頸動脈、肺動脈、大動脈、腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈
- 少ない…脳動脈、腎動脈
- 致死的病態として、肺動脈瘤が重要(日本では少ない)(Chest. 2005;127(6):2243. )
◎心病変
④診断
- 基本的には通常のベーチェット病同様、臨床症状で診断する
- 主症状…口腔内再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍、眼症状
- 副症状…関節炎、副睾丸炎、消化器症状、神経症状、血管症状
- 参考所見…針反応、HLA-B51・HLA-A26など
- その他血管病変特異的な検査を並行して実施する
- DVT…D-dimerなど→超音波・造影CT
- 動脈病変…超音波・造影CT+ABI
- 肺動脈病変…造影CT、必要に応じてMRI/MRA・血管造影
- 心病変…心電図、心臓超音波、冠動脈CT
- 日本ではベーチェット病の厚生労働省基準を用いることが多いが、血管ベーチェット病患者の場合ベーチェット病の典型的症状を呈さない例も多く診断は難しい
◎血管ベーチェット病の鑑別
⑤治療
- 最初の血管イベント後約半数が2年以内に再度の血管イベントを起こす
- 血管イベント後の免疫抑制によって再発を減らすことができるとされる(Clin Exp Rheumatol. 2022;40(8):1491-1496.)
◎内科的治療
- 基本的には中-高用量(PSL0.5-1mg/kg/d)+ほか免疫抑制剤(Azathioprine: AZA 50-100mg, Cyclophosphamide: CyC, Cyclosporine A: CyA 5mg/kg/dなど)
- コルヒチンに関してはデータがほぼ無く、症例報告レベルでは効いたという報告はある(Medicine (Baltimore). 2020;99(16):e19814.)→使用すべきかは不明
-動脈病変
-静脈病変
- 免疫抑制療法>抗凝固療法…内皮細胞炎症による血栓症と考えられているため
- →免疫抑制療法先行の併用が多い
- 日本ガイドラインでは
- DVT:PSL少量-0.5mg/kg/d+AZA50-100mg or MTX8-16mg/w
- 大静脈病変:PSL1mg/kg/d+IVCY 500-1000mg/2-4w→ほか免疫抑制剤
- 治療抵抗例:Infliximab5mg/kg(早期導入も考慮可)
- Adalimumab治療の方が他DMARDs治療より改善が早いとするデータあり(※日本では適応なし)(Arthritis Rheumatol. 2018;70(9):1500-1507. )
- 抗凝固薬に関しては、急性期はヘパリン→Warfarin使用例が多い(肺動脈瘤合併例では注意)
- DOACへのデータは限られているが、成功報告もあることはある(Case Rep Hematol. 2016;2016:2164329.)
- 疾患活動期は継続し、中止もOK?
◎外科的治療
- 基本的には内科治療が優先…術後吻合部の動脈瘤、血栓閉塞などのリスクが高い→可能であれば急性炎症期には術前に免疫抑制剤治療を行うべき
- ステント留置→近位・遠位部の仮性動脈瘤(Ann Thorac Surg. 2019;107(5):e301-e303.)
- ただし、動脈瘤破裂などの緊急事態の際には外科治療が優先される
- 待機的な外科介入(Nat Rev Rheumatol. 2023;19(2):111-126.)
- 大動脈瘤…行われることが多いが、術後吻合部合併症発生率が多いことに注意
- 肺動脈瘤…致死的な場合以外は非推奨(死亡例が多いため)
- 肺動脈瘤以外の末梢動脈瘤…小さい・無症状・破裂リスクが低い場合を除き、手術またはステント留置が必要
- DVT治療…静脈壁損傷リスクあるため、IVCフィルターは非推奨
参考:
Ann Vasc Dis. 2018;11(1):52-56.
Nat Rev Rheumatol. 2023;19(2):111-126.
J Jpn Coll Angiol. 2009, 49: 391–398.
https://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/04/4905_49zacho_so.pdf