Rheumatology (Oxford). 2018;57(9):1525-1532.
再発性多発軟骨炎は、非常に稀な自己抗体陰性の自己免疫性疾患だが、一例一例に悩む症候群である。
最近はVEXAS症候群(MDS等との合併)・MAGIC症候群(ベーチェット病様病変の合併)もあってややこしい。
【再発性多発軟骨炎とは?】
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再発性多発軟骨炎(Relapsing polychondritis: RPC)は稀な自己免疫性疾患の一つである
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症状としては、主に耳・鼻・関節・起動などの軟骨構造の免疫介在性破壊をおこす
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原因ははっきりしないが、軟骨・胸膜などに多い2型コラーゲンに対する自己免疫反応が原因とされる
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英国では年間140万人に1人が罹患し、標準化死亡比は2.16
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発症ピークは40-55歳で、白人に多い
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臨床症状は多彩で、聴覚・視覚症状が中心だが、30−50%が肺合併症を持っている
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重大な呼吸器症状を持つRPC患者は予後不良
【RPC臓器病変】
①耳
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耳介軟骨炎が最多の症状で、主訴にもなる
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耳介軟骨炎の結果、耳朶(耳たぶ)以外の部分の外耳の紅斑性炎症・腫脹をおこす
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軟骨炎を繰り返すことで、カリフラワー耳、広範な石灰化、limp pinna(前方聴取耳)のような永続的な変形をおこす
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軟骨菲薄化を起こすと、皮下血管が見えやすくなる(Blue ear sign)
所見
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画像
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耳介軟骨炎
(Am J Clin Dermatol. 2017;18(1):77-86. )
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カリフラワー耳
(BMJ Case Rep. 2017;2017:bcr2017219424.)
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広範な石灰化
(BMJ Case Rep. 2017;2017:bcr2017219424.)
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Blue ear sign
(Rheumatology (Oxford). 2011;50(2):427.)
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②目
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よくある症状で、発症時になくても経過中に出現する場合も多い
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最多症状は強膜炎(前部強膜炎・上強膜炎)で、結膜炎も多い
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強膜炎(Rheumatology (Oxford). 2011;50(2):427.)
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眼球突出・眼瞼浮腫も報告はある
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角膜炎・ぶどう膜炎の頻度は低い
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稀な重症例…網膜動脈・静脈閉塞、視神経炎、網膜症、網膜剥離など
③鼻
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耳ほどではないが、鼻軟骨炎も一般的
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鼻軟骨の痛みを伴う炎症が特徴で、鼻詰まりを感じることもある
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進行すると鞍鼻をおこす
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その他症状…鼻出血、鼻漏、鼻の痂皮
④関節
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肋軟骨炎に伴う後胸部痛が多い
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重症の場合、呼吸障害をおこす
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関節炎はRPCで2番目に多い症状→多関節痛で受診することが多い
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非対称的・断続的
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小・大関節炎両方を起こす
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非破壊的・非びらん性・血清陰性の関節炎が多い
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体軸性病変は起こさない
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腱鞘炎は稀
⑤心血管病変
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死因としては呼吸器病変に次いで多い
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最多症状は、大動脈起始部拡張に伴う大動脈弁閉鎖不全症
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その他の心病変…僧帽弁閉鎖不全症、房室ブロック、心膜炎、心筋炎
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血管系では、動脈瘤が多い
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上行大動脈に好発し、大動脈弁閉鎖不全症をおこす
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その他の血管病変…血管炎、血栓性静脈炎
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→血管障害はわかりにくいため、定期的なフォロー・モニタリングが重要
⑥皮膚
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紫斑、丘疹、結節などの非特異的な皮膚症状がよく見られる
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その他局所血管炎によって、アフタ性潰瘍・遠位皮膚潰瘍も見られる
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ベーチェット症候群様の口腔内潰瘍・陰部潰瘍と他のベーチェット症候群様症状が合併する場合がある→MAGIC(Mouth and Genital ulcers with inflamed cartilage)症候群と呼ばれる
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軟骨炎に先行する体幹上部・肩に分布する明瞭な環状の発疹性じんま疹が、RPCに特異的とされる
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(J Am Acad Dermatol. 2011;65(6):1161-1166.)
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MDSとも関連しているとされる
⑦中枢神経病変
⑧腎臓
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稀だが、腎病変がある場合は予後不良
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最多はメサンギウム増殖性糸球体腎炎で、次いで巣状壊死性糸球体腎炎
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IgA腎症・尿細管間質性腎炎の報告もある
⑨消化器
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炎症性腸疾患(IBD)・自律神経障害を合併したという報告はある
⑩咽頭・気管・肺
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RPC患者の半数以上は、経過中に呼吸器疾患を発症し、うち半数は気道症状が顕著
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呼吸器合併症・下気道感染症は、RPCの死因として最多
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◎喉頭軟骨炎
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患者の半数で見られる
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症状…嗄声、気管輪部の圧痛、咳、息切れ、喘鳴
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多発血管炎性肉芽腫症(GPA)で見られるような局所的声門下狭窄はまれ
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致死的なリスクあり
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放射線所見…気道壁の肥厚、疾患の重症度に応じた局所的/びまん性の気道狭窄、気管気管支軟化症
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強制呼気時の軟骨障害が特徴的→肺機能検査・呼気時肺CTが有用
⑫血液(※追記)
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骨髄異形成症候群(MDS)を合併することがある
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特に男性で再発性多発軟骨炎と骨髄異形成症候群両方を合併した場合、VEXAS症候群を考慮する必要がある
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※VEXAS症候群…Vacuoles, E1 enzyme, X-linked, autoinflammatory, somatic (VEXAS) の頭文字をとった症候群
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ユビキチン化をおこす酵素をコードするX連載電子であるUBA1遺伝子によって起こる
【診断・評価】
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診断は基本的には臨床評価で、McAdam基準を用いることがおおい
McAdam基準
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以下の3つ以上を満たす
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診断が不確実の場合は、軟骨生検が役立つ…単核球の炎症性浸潤を伴う線維性結合組織に囲まれた断片化した軟骨組織、軟骨周囲の炎症による線維性組織
◎初期評価
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採血…CRP、ESR、ANCA、尿検査、腎機能評価
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その他…聴力検査、眼科検査、心電図・心エコー、CT(呼気CT含む)
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必要あれば、心臓MRI・気管支鏡検査
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最近はPET-CTによる上気道病変検出の有用性報告もある(Rheumatology (Oxford). 2014;53(8):1482-1490.)
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呼吸機能検査…発症時、新規呼吸器障害発生時、経過フォローで測定する
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呼吸機能障害は疾患進行初期に発生し、呼吸器症状に先行することが多い
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画像:重度の流出閉塞を起こしたRPC患者のフローボリューム曲線
【治療】
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定まった治療プロトコルはない
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ただ急性症状は緩和できることはあるが、疾患進行抑制は難しく、重症例の予後は不良
◎薬物治療
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重症度に合わせて段階的な調整を行うことが多い
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軽症…NSAIDs、コルヒチン、ダプソン
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再発例…生物学的製剤
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※中等症以上では手術療法も考慮
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生物学的製剤…ケースシリーズでは報告がある。特に報告が多いのはインフリキシマブ(IFX)
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RPCはTNFαを介した疾患特徴があるため、TNFα阻害薬の使用報告が多い
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IFXは、MTXと組み合わせることで再発性RPCの二次治療とみなせる?
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特に肺病変患者での報告が多い
◎非薬物療法
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主には気道病変管理が多い
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手術…根治術ではないが、症状緩和に役立つ
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内科治療に失敗した、治療までのブリッジング、気道閉塞患者などに適応がある
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非侵襲的陽圧換気も呼吸器症状予防に役立つかもしれない
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RPCに合併したMDSがある場合、造血幹細胞移植・骨髄移植を考慮する