全身性強皮症(SSc)患者に関節炎・腱鞘炎症状はよく合併し、実臨床で悩むことは多い
【Key point】
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SScにおける関節炎はかなり高頻度であり、原因は多彩…SScそのもの、オーバーラップなど
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SSc関連関節炎は皮膚症状の合併による拘縮が問題となることが多い
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画像所見では、DIP関節を中心とした骨変化・腱鞘の石灰化・局所的な石灰化所見が特徴的である
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治療法は確立したものはなく、経験的にヒドロキシクロロキン・メトトレキサートを用いることが多い。生物学的製剤の有用性も示唆されている。
【SScと関節炎】
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SSc患者における関節症状は、経過中25-97%・発症時12-66%に見られる(Ann Rheum Dis 1982; 41(2): 147–152.)
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SScにおける筋骨格症状は、多関節痛・多関節炎、腱炎が中心
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オーバーラップ症候群も関連あり?…関節リウマチ(RA)様・全身性エリテマトーデス(SLE)様の関節炎を起こすこともある
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痛みの原因としては関節炎の他、虚血・外傷性四肢潰瘍、石灰化、線維筋痛症の併発といった二次的要因もある
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SScそのものの重症度・進行度と関節炎は関連し、びまん性皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)では高頻度で見られる
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好発部位…指・手関節の伸筋腱・屈筋腱、肘、膝、足関節
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皮膚・筋骨格病変の合併によってこわばり・拘縮が発生することがある
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初期dcSSc患者におけるMCP関節屈曲変形→エコー上、滑膜肥厚所見はない(b)が、基節骨上の皮膚硬化所見は目立つ(c)
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小関節拘縮は不可逆的な損傷であり、発症から4年以内に最大30%に発生する(J Scleroderma Relat Disord 2017; 2(2): 127–134.)
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関節拘縮は死亡リスク上昇とも関連
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lcSScとRAのオーバラップ症例。手指・手関節の変形及び関節腫脹を起こす関節炎+石灰化所見
【SSc関連関節炎の評価】
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一般的な関節炎同様、身体所見・検査所見・画像所見から判断する
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DAS28-CRPのようなRAのスコアを用いることが多く、信頼率も高い
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関節症状とCRP・血沈高値との関連はSScではあまり見られない
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自己抗体
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抗CCP抗体…SSc患者の2.6-8.3%に見られ、SSc・RAオーバーラップの可能性がある(Clin Exp Rheumatol 26(4): 542–547.)
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陽性の場合、RA・SScのオーバーラップなのか、SSc関連関節炎なのかを鑑別することは困難
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リウマトイド因子…SSc患者の30-50%に見られるが、非特異的(Semin Arthritis Rheum 2005; 35(1): 35–42.)
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その他関節症状と関連している抗体…U1RNP、U3RNP、RNAポリメラーゼⅢ抗体
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画像検査
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関節X線写真
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関節周囲の骨量減少、骨びらん、関節裂隙狭小化、拘縮、石灰化などが見られることがある→強皮症の炎症・萎縮・線維化と関連
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lcSScと関節炎のある患者。IP関節屈曲変形・広範囲の骨石灰化、尺骨遠位端−前腕にかけての石灰化
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SSc患者の骨びらん・関節裂隙狭小化はDIP関節で特に多い(Ann Rheum Dis. 2006;65(8):1088-1092.)
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関節超音波
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RA同様、関節液貯留・滑膜肥厚・骨びらん等の描出が可能
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その他、腱鞘炎・腱滑膜肥厚・軟部組織石灰化・皮膚肥厚の検出も可能
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関節滑膜炎±浸出液・腱鞘炎がSSc関節炎の所見として最多(Eur J Radiol 2011; 77(2): 254–257.)
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MCP関節の滑膜肥厚
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硬化性腱鞘炎・石灰化はSSc関節炎で特異的とされる(Arthritis Care Res 2012; 64(8):1244–1249.)
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DIP関節屈筋腱症に沿った石灰沈着(⇩)、局所的な石灰化(↓)
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滑膜炎・骨びらんの検出感度が高い
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CMC関節の関節内石灰化(^)、遠位伸筋腱内の石灰化(*)、皮膚びまん性肥厚・局所的な破壊(⇐)
【SSc関連関節炎の治療】
定まったものは特にない→症例報告ベース
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拘縮が完成する前にリハビリテーションを行うことが重要
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ただSScは慢性疾患のため、長期的なリハビリが必要→ストレッチ・マッサージについて教育が必要
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NSAIDs
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強皮症そのものには効果ないが、鎮痛自体には役立つ(Arthritis Rheum. 1984;27(10):1137-1143.)
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NSAIDs有害事象(消化器・腎臓・心血管・血液)に注意
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鎮痛・抗炎症作用を期待して使用される
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高用量ステロイド(PSL≧15mg)は強皮症腎クリーゼリスクを上げるため、非推奨(Arthritis Rheum 1998; 41(9): 1613–1619.)
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一方低用量ステロイド(PSL≦10mg)はクリーゼリスクほぼない(Rheumatol Int 1994; 14(3): 91–94.)
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ステロイド注射
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局所的な鎮痛効果は十分ある
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ヒドロキシクロロキン(HCQ)
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RA・SLEの滑膜炎への有用性が示されているため、使用される
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欧米では第一選択になる場合もある
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SScによる滑膜炎患者への有効性の報告自体はある(Joint Bone Spine 2017; 84(6): 747–748.)
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メトトレキサート(MTX)
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SSc関連関節炎での使用率は高いが、一方でエビデンスはほぼない
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SSc皮膚病変への有効性はかなり否定的
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間質性肺疾患合併症例では避けたほうが良い
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その他のDMARDs…アザチオプリン、レフルノミド、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド等の報告はあるが、症例報告のみ
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生物学的製剤
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TNF阻害薬…症例報告レベル。ルーチンでの使用は推奨されていない(Clin Exp Rheumatol 2011; 29(2 Suppl 65): S40–S45.)
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リツキシマブ…SSc関連間質性肺疾患(SSc-ILD)での有用性報告はあるが、関節痛に関しては未知数
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トシリズマブ・アバタセプト…EUSTAR観察研究では、双方ともに関節炎改善報告あり(Ann Rheum Dis 2013; 72(7): 1217–1220.)
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手術
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指の変形・拘縮症状に対して行われることがある
参考:
Journal of Scleroderma and Related Disorders. 2019;4(1):3-16.
Semin Musculoskelet Radiol. 2018;22(2):166-179.
Up To Date ”Overview of the treatment and prognosis of systemic sclerosis (scleroderma) in adults”, “Clinical manifestations and diagnosis of systemic sclerosis (scleroderma) in adults"