J Clin Med. 2022;11(3):495.
巨細胞性動脈炎(Giant cell arteritis: GCA)は2つのサブタイプに分かれる
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Cranial GCA…頭蓋血管の血管炎。いわゆる「側頭動脈炎」
側頭動脈炎の鑑別に関しては以前まとめたので、今回はLV-GCAの方の鑑別。
【ポイント】
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大血管巨細胞性動脈炎(LV-GCA)は、特異的な症状・検査がないため診断困難例がある
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ただ大血管炎では病理診断は困難であるため、注意が必要
【LV-GCAについて】
表:大血管巨細胞性動脈炎(LV-GCA)の鑑別
疾患
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臨床所見
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検査結果
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IgG4関連疾患
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後腹膜線維症
リンパ系:数cm大の腫脹
消化器:膵炎、ステロイド反応性胆管炎
眼:涙嚢炎、涙腺炎、眼窩偽腫瘍
頭頚部:唾液腺炎、耳下腺腫大
神経:頭痛、脳神経麻痺、神経根障害、肥厚性硬膜炎
内分泌:糖尿病、甲状腺機能低下症
肺:胸水、びまん性間質性肺疾患
大動脈:大動脈解離、動脈瘤、大動脈周囲炎、大動脈炎
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血清IgG4の上昇(>1.35g/L)(80%程度)
ESR・CRPの上昇
好酸球増多
多クローン性高ガンマグロブリン血症
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エルドハイム・チェスター病
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心病変:心膜炎、右心房偽腫瘍、冠動脈浸潤
肺病変:間質性肺疾患、胸膜浸潤
動脈:大動脈周囲炎
骨:長骨骨硬化、骨痛
皮膚:眼窩周囲黄色腫、結節性の丘疹
腎:水腎症、hairy kidney、後腹膜線維症
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泡沫状組織球(Foamy histiocyte)
CD68+CD163+FXIIa+CD1a-
BRAFV600E(57-70%)
CRP・ESRの上昇
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発熱、体調異常
敗血症、心雑音
病歴:免疫抑制、輸液歴が濃厚
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CRP・ESRの上昇
細菌学的検査所見
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皮膚:口腔・陰部潰瘍、仮性毛包炎、結節性紅斑
関節:関節痛、乏関節炎(膝・足関節)
動脈:大動脈炎、動脈瘤
静脈:表在性/深在性静脈血栓症
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HLA-B51
CRP・ESRの上昇
針反応
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関節リウマチ
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両側・対称性の破壊性多発関節炎
関節外:リウマトイド結節、びまん性間質性肺疾患、リウマチ性胸膜炎、強膜炎、上強膜炎
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CRP・ESRの上昇
RF・抗CCP抗体陽性
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脊椎関節炎
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炎症性腰痛、非対称性乏関節炎
関節外症状:皮膚乾癬、非肉芽腫性前部ぶどう膜炎
慢性炎症性腸疾患(Crohn病、潰瘍性大腸炎など)
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HLA-B27陽性(50-90%)
CRP・ESRの上昇
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再発性多発軟骨炎
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軟骨炎:耳介、鼻、呼吸樹、肋軟骨
全身症状:発熱、無力症、体重減少
関節:関節痛、乏関節炎、非対称性・非びらん性・移動性多関節炎
頭頚部:感音性難聴
眼科的症状:強膜炎、上強膜炎、結膜炎
皮膚:血管性紫斑病、環状蕁麻疹
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CRP・ESRの上昇
RF陽性(15%)
抗Ⅱ型コラーゲン抗体陽性(非特異的)
骨髄異形成症候群との関連
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全身性エリテマトーデス
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皮膚:蝶形紅斑、円板状皮疹、光線過敏
神経:痙攣、精神症状
関節:非びらん性関節炎
腎:糸球体腎炎
胸膜炎、心膜炎
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ESR上昇、CRP中等度上昇
抗核抗体・抗dsDNA抗体・抗Sm抗体陽性
C3低下
抗リン脂質抗体
溶血性貧血、リンパ球減少、血小板減少
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サルコイドーシス
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全身症状:発熱、無力症、体重減少
皮膚:皮膚サルコイド、結節性紅斑
肺:縦隔リンパ節腫脹、間質性肺疾患
関節:関節痛、遊走性関節炎(足関節++)
神経:頭痛、認知行動障害、痙攣、脳神経麻痺
腎:間質性腎炎、腎結石、腎石灰化
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リンパ球減少(CD4 T細胞)
CRP・ESR増加
ACE上昇
多クローン性高ガンマグロブリン血症
高カルシウム血症、高カルシウム尿症
1,25(OH)2ビタミンD上昇
非乾酪壊死性肉芽腫
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VEXAS症候群
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発熱
皮膚:好中球性皮膚炎(Sweet症候群)、白血球破砕性血管炎、中型血管炎
肺:肺浸潤、胸水
耳・鼻の軟骨炎
関節炎
大型血管炎
睾丸炎/精巣上体炎
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CRP・ESR増加
UBA1遺伝子変異
骨髄異形成症候群の所見
巨赤芽球性貧血
血小板減少、骨髄空胞(骨髄系・赤血球系の前駆細胞に限る)
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【LV-GCAミミック】
①感染性大動脈炎
…梅毒、結核、コクシエラ症など
◎梅毒性
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大動脈の原因としては稀
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無症候性が多い(Am. J. Med. 1989;87:425–433.)
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診断時平均年齢は60歳で、梅毒罹患から20年後の第3期に発症する
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上行大動脈(AA)・下行大動脈(DA)の紡錘型動脈瘤(Am J Cardiol. 2015;116(8):1298-1303.)
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◎結核
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結核性大動脈炎は非常に稀
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肺症状に加え、全身症状(発熱・寝汗・発熱)を伴う四肢跛行・血圧左右差・末梢脈拍の減弱があった場合大動脈病変が疑われる
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大動脈瘤は腹部大動脈に多い
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壁浸潤を伴う下行胸部大動脈の狭窄(J Vasc Surg. 2017;66(1):209-215.)
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◎コクシエラ症(Q熱)…Coxiella burnetti
◎その他
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その他…Listeria monocytogenes、Pasteurella multicoda、Clostridium septicum
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※文献確認したが、罹患後/接種後に大動脈炎が発生したという報告レベル(Ann. Vasc. Surg. 2021;75:109–119, Rheumatology. 2021:keab756.など)
②IgG4関連疾患
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IgG4が豊富なリンパ形質細胞浸潤を特徴とする線維性炎症をおこす疾患
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※IgG4関連疾患を4表現型に分類→膵・肝胆膵、頭頸部に限局した症状、大動脈炎・後腹膜線維症、Mikulicz病(腺症状)に分けられる(Ann Rheum Dis. 2019;78(3):406-412.)
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血清IgG4高値の場合IgG4関連疾患が疑われるが、基本的には組織診断
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IgG4関連疾患による動脈炎は、全体の10-50%程度に発生する(Arthritis Care Res. 2010;62:316–322.)
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罹患部位(Am. J. Surg. Pathol. 2008;32:197–204.)
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大動脈周囲炎(20-36%)…副腎動脈病変を起こしやすい
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大動脈炎(8%)…炎症性胸部大動脈瘤を起こしやすい
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大動脈病変のみの場合は稀で、後腹膜線維症等の他のIgG4関連疾患症状を起こすことが多い(Autoimmun. Rev. 2020;19:102694.)
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画像:IgG4関連疾患患者のFDGPET…大動脈炎及び多発リンパ節腫脹
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治療…ステロイド単独では再発率が高い→再発例ではリツキシマブ考慮(日本では保険適応外)
③ベーチェット病
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ベーチェット病全体の4-34%で大動脈病変が発生する
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罹患部位…腹部・胸部大動脈の動脈瘤が多い。びまん性大動脈炎は稀。(Medicine. 2012;91:18–24.)
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ベーチェット病の症状…口腔・陰部潰瘍、皮膚病変、眼科病変、関節症状
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大動脈病変に関連する症状…発熱、腹痛・腰痛、四肢跛行、大動脈機能不全(Rev. Med. Interne. 2016;37:230–238.)
④エルドハイム・チェスター病(Erdheim Chester Disease: ECD)
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非ランゲルハンス細胞組織球症(non-Langerhans form of histiocytosis)の一種
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主に成人男性が罹患し、診断時の年齢の中央値は55歳
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病変…心臓病変(右房偽腫瘍、冠状動脈浸潤、心膜炎)、黄色腫、長骨骨硬化、尿崩症、中枢神経病変、腎臓病変(hairy kidney)、後腹膜線維症、肺病変(間質性肺疾患、胸膜浸潤)
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- 腎周囲脂肪織・周囲筋膜への両側性浸潤(hairy kidney)
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大動脈病変…40-60%で報告
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基本的に大動脈炎は無症候性
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治療…IFN-α投与など
⑤医原性
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免疫チェックポイント阻害薬…抗PD-1抗体製剤で少数報告あり
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G-CSF…一過性に発生し、ステロイド投与・G-CSF中止で1ヶ月以内に改善する(Cytokine. 2019;119:47–51.)
⑥その他リウマチ性疾患での大血管炎
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関節リウマチ…リウマチ性血管炎を起こした患者での大動脈炎報告あり(SpringerPlus. 2014;3:509.)
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脊椎関節炎…上行大動脈・大動脈弓での大動脈炎報告あり(Scand. J. Rheumatol. 2014;43:246–248.)
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再発性多発軟骨炎…合併しうる。172人中11人が発症したという報告あり(Jt. Bone Spine. 2018;85:345–351.)
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サルコイドーシス…症例報告あり(Clin. Exp. Rheumatol. 2015;33:S19–S31.)
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SLE…高疾患活動性時の大動脈炎報告あり(Lupus. 2020;29:1652–1654.)
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大半の患者は他の症状なく、孤立性大動脈炎を起こした
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VEXAS症候群(Vacuoles, E1 enzyme, X-linked, autoinflammatory, somatic)
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UBA1遺伝子変異で発生する疾患
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高齢男性に発症する
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再発性多発軟骨炎症状と骨髄異形成症候群(MDS)を起こすが、大血管炎を起こすこともある
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大血管炎に加えて、血球異常(大球性貧血・MDS)、高用量ステロイド依存性、再発性多発軟骨炎・好中球性皮膚症症状のオーバーラップがある高齢男性患者ではVEXAS症候群を鑑別する必要あり
⑦アテローム性動脈硬化
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鑑別ポイント
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A:健常者…動脈への取り込みなし
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B:動脈硬化…腹部大動脈・大動脈分岐部での斑状取り込み
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C:血管炎・・・上行大動脈・頚動脈への均一な取り込み
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動脈硬化の場合、FDG-PETでの取り込みが弱い