膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

結節性紅斑レビュー

結節性紅斑は脂肪織炎の一種で、下肢脛骨前面の柔らかい紅斑を特徴とする
原因ははっきりしていないが、様々な抗原暴露に対しての過敏反応で起こるとされる
たまに不明熱の形で結節性紅斑が紹介されることがあるので、新しいレビューをまとめてみた
 
◎Key point
  • 結節性紅斑は主には特発性だが、全身性疾患の最初の症状である可能性がある
  • 結節性紅斑のトリガーとなる疾患はいくつかあるため、効率的な精査を行うことが必要である
  • 症状の初期評価・精査・鑑別診断・治療法を含むアルゴリズムを用いることで、迅速な診断・治療が可能となる

 

 

【疫学】

  • 女性に多く、男女比は1:5程度(Int J Dermatol. 1998;37(9):667-672.)
  • 全年齢で発生するが、20−30代での発症が多い

【病態】

  • 結節性紅斑は、様々な抗原暴露に対しての過敏反応が原因とされる
  • 遺伝的要因がある可能性もある

【臨床所見】

  • 直径1-6cm程度の触ると痛く、紅斑性結節・プラークの急性発症が特徴
  • 両側・対称性分布のことが多い
  • 部位…下腿遠位の脛骨前面に後発するが、足関節・大体・前腕に起こることもある
  • 1−6週間で自然消退することが多い
  • 治癒の過程であざのような病変が残ることがあり、「erythema contusiformis」と呼ばれる
  • 皮膚症状の他に全身症状を伴うことがある…発熱、倦怠感、頭痛、消化器症状、咳嗽、リンパ節腫脹、体重減少、関節痛(主に膝・足関節)
  • 特徴的な臨床像から臨床診断されることが多い
    • ただ、確定診断には深部皮膚生検(皮下脂肪まで含む)を行う必要がある
  • ただ結節性紅斑と診断できても、それが一次性(特発性)なのか二次性(背景疾患あり)なのかを区別するのは難しい

【組織所見】

  • 血管炎のない脂肪織炎を特徴とする
  • 初期病変…出血・浮腫状の隔壁を呈し、隔壁に隣接する小葉周囲へのリンパ球・組織球・好酸球・多数の好中球による混合性炎症浸潤
  • 後期病変…リンパ球・組織球・多核巨細胞・ごく少数の好中球が浸潤した線維化・肥厚を起こした隔壁とともに、小葉消失所見が見られる

【病因】

  • 二次性の原因は様々だが、約半数は原因同定できない(特発性)(Clin Exp Rheumatol. 2007 Jul;25(4):563-70. )
  • 最多の原因は感染症(溶連菌が最多)
  • その他の原因…薬剤(経口避妊薬など)、炎症性腸疾患、悪性腫瘍、サルコイドーシス、妊娠が多い
原因
 
一次性
特発性
細菌感染
β溶血性連鎖球菌、ブドウ球菌大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌結核菌、非定型マイコバクテリア、エルシニア、サルモネラ症、細菌性赤痢ブルセラ症リケッチア症レプトスピラ症、野兎病、バルトネラ症、梅毒、ハンセン病Bartonella henselae髄膜炎、淋病、下疳、Campylobacter spp、Chlamydia pisttaci、Corynebacterium diphteriae、Cutibacterium acnes、Moraxella cataralis、Pasteurella pseudotuberculosis
ウイルス感染
伝染性単核球症、B型・C型肝炎サイトメガロウイルス、単純ヘルペス、パルボウイルスB19、HIV、麻疹、水痘、ポックスウイルス、Covid-19
真菌感染
コクシジオイデス症、ブラストミセス症、ヒストプラスマ症、スポロトリコーシス、ノカルジア症、ムコルミセス症、アスペルギルス症、皮膚糸状菌
寄生虫感染
アメーバ症、ジアルジア症トキソプラズマ症、有鉤条虫症、回虫症、エキノコックス、トリコモナス症、芽殖孤虫、鉤虫症
全身疾患
サルコイドーシス、炎症性腸疾患、セリアック病、大腸憩室症、ベーチェット病、Reiter症候群、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質症候群、関節リウマチ、強直性脊椎炎、高安動脈炎、Buerger病、結節性動脈炎、多発血管炎性肉芽腫症、Sweet病、成人Still病、Acne fulminans(激症痤瘡)、シェーグレン症候群、IgA腎症、慢性肝炎、肉芽腫性乳腺炎
薬剤性
抗菌薬、経口避妊薬プロゲステロン、金製剤、カルバマゼピン、ACE阻害薬、G-CSF、ワクチンなど
悪性腫瘍
Hodgkinリンパ腫・非Hodgkinリンパ腫、白血病、Sarcoma、骨盤内悪性腫瘍、カルチノイド腫瘍、固形腫瘍(腎癌、子宮頚癌、胃癌、直腸癌、肺癌、肝細胞癌、膵癌など)
妊娠
-

ベーチェット病

  • ベーチェット病と診断された患者の約44%に結節性紅斑があり、最大5.7%で初期症状として結節性紅斑があった( Br J Dermatol. 2007;157(5):901-906.)
  • 組織学的には2種類に分けられる
    1. 典型的な隔壁性脂肪織炎パターン(septal panniculitis)…軽症例が多い
    2. 小葉混合性脂肪織炎パターン+血管炎…重症例が多い
 

②炎症性腸疾患(IBD

  • 消化器症状以外の「腸外症状」として結節性紅斑を起こすことがある
  • 発生率…Crohn病で4-15%、潰瘍性大腸炎で3-10%
 

③サルコイドーシス

  • サルコイドーシスの皮膚症状の中では、結節性紅斑が最多
  • Löfgren症候群(サルコイドーシスの1亜型)…両側肺門部リンパ節腫脹、発熱、結節性紅斑が特徴。足関節炎及び肘・膝の丘疹性病変が特徴的(Clin Dermatol. 2007 May-Jun; 25(3):288-94.)
  • 基本的に確定診断は、組織生検(非乾酪性肉芽腫)の確認
 

感染症

  1. 連鎖球菌感染症
    • 咽頭連鎖球菌感染から2-3週間後の皮膚病変として出現する
    • 診断…咽頭培養、迅速連鎖球菌抗原検査、ASO測定など
  2. その他の感染症
    • 多種多様な感染症で報告がある
    • 患者の地理的状況・渡航歴が状況
    • Covid-19による結節性紅斑の報告もある(Dermatol Ther. 2020;33(4):e13658.)

⑤薬剤・ワクチン

⑥悪性腫瘍

  • 悪性腫瘍の中では、血液悪性腫瘍(白血病・リンパ腫)が最多
  • 稀に固形腫瘍によって起こる場合もある
  • 結節性紅斑病変がある際は、悪性腫瘍が再発している場合もある
    • ただし、放射線治療によって発生する場合もあるため注意

【診断評価】

  • 結節性紅斑は鑑別があまりに多いため、費用対効果を意識した検査が必要
  • 考案されているアルゴリズムは以下の通り

  1. 病歴・身体所見の確認→二次性結節性紅斑かどうかの確認
  2. 精密検査…病歴・身体所見に基づいて実施
    • ルーチン的には、血算・血沈・CRP・ASO力価・咽頭スワブ培養・胸部X線写真、妊娠反応検査(妊娠可能年齢の女性の場合)
    • その他は所見に応じて追加
  3. 二次性結節性紅斑がある程度鑑別できるが、大半の場合特定の原因はっきりせず→特発性結節性紅斑という扱いになる

【鑑別疾患】

以下の通り
鑑別診断
コメント
バザン硬結性紅斑
  • 結核に伴う小葉性脂肪織炎
  • 通常下肢後面に発生し、壊死性潰瘍・瘢痕化を起こしやすい
表在性血栓性静脈炎
  • 表在性静脈に沿って発生する硬結性紅斑
  • 圧痛・疼痛を伴う
  • 患部静脈の血栓によって、触知可能な線状結節が存在することもある
皮膚結節性多発性動脈炎
  • 中型動脈の血管炎
  • 下肢の有痛性皮下結節、livedo reticularis、潰瘍
  • 軽度の全身症状が見られることもある
脂肪織炎様T細胞リンパ腫
  • 四肢・体幹に発生する、多発/単発性の結節・プラーク
  • 結節・プラークが消失するにつれて、脂肪萎縮領域に変わることがある
  • 全身症状が見られることもある
Erythema Nodosum Leprosum
(らい病結節)
  • 2型ハンセン病の反応状態
  • 主に顔面・四肢に、表在性の紅斑性炎症性結節・丘疹が発生する
  • 全身症状が見られることもある
α-1アンチトリプシン欠乏症
  • 若年性の肺気腫COPD症状・肝機能障害・脂肪織炎を起こす先天性疾患
  • 皮下に紅斑-紫斑性の圧痛を伴う結節・プラークを形成し、潰瘍化・排膿を起こすことがある
  • 通常、体幹下部・四肢近位部に発生し、瘢痕化・萎縮を伴って治癒する
ループス脂肪織炎
  • SLE(全身性エリテマトーデス)に伴って起こる脂肪織炎
  • 皮下の圧痛性結節・プラーク
 

【治療】

  • 基本的には対症療法でOK…NSAIDs、四肢挙上
  • ただしIBDの場合、NSAIDsでIBD症状が悪化する場合があるため注意
  • ヨウ化カリウム…昔は用いられていたが、有効性が低いことがわかっている
  • ベーチェット病の場合、コルヒチン・ダプソンも有効
    • コルヒチン副作用:消化器症状(下痢・腹痛・嘔気)
    • ダプソン副作用:メトヘモグロビン血症、溶血、無顆粒球症、末梢神経障害
  • その他
      • あまり用いられないが、背景の感染症・悪性腫瘍除外ができれば使用されうる
      • 内服の他、難治性結節への局所注射も行われる
    1. ヒドロキシクロロキン
    2. ミノサイクリン
    3. 慢性例にはTNF阻害薬の報告もある
 
治療
作用機序
投与量
コメント
圧迫包帯・四肢挙上
浮腫・疼痛緩和
 
 
NSAIDs
抗炎症薬
ナプロキセン500-1000mg/day
IBDでは悪化リスクあるため注意
ヨウ化カリウム
抗炎症、好中球遊走・毒性ラジカルの抑制
300-900mg/day
甲状腺疾患の患者には注意
コルヒチン
抗炎症、好中球遊走・脱顆粒の抑制
1-2mg/day
ベーチェット病の患者で考慮
ダプソン
抗炎症、好中球ミエロペルオキシダーゼ・遊走性を阻害
50-75mg/day
再発・難治例で考慮
G6PD欠損症スクリーニングを考慮
 

【予後】

  • 予後良好で、大半例では自然消退する
  • 二次性の場合は根本原因の治療が必要

【結論】

  • 結節性紅斑の病因は不明だが、全身性疾患の最初の徴候である場合がある
  • 基礎疾患の管理のため、アルゴリズムを利用して根本原因をタイムリーかつ正確に診断する必要がある

【感想】

  • 「不明熱・不明炎症」という触れ込みで結節性紅斑患者が紹介されてきて、精査しているうちに自然消退・原因不明ということが多いが、このレビュー的にも同様の結論だった
  • 発熱・先行感冒エピソードがあった場合は、「溶連菌だったのかも」と思って処理してきたが、それもやむなしなのだろう
  • 結節性紅斑がベーチェット病のような膠原病の初期症状であることは稀ではあるが、「見逃したら恥ずかしい」のでしっかり調べて「溶連菌か特発性だったのだろう」と患者に説明する、という考え方は妥当だろう
 
参考:
Am J Clin Dermatol. 2021;22(3):367-378.
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