膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

SLEの眼症状

Clin Exp Med. 2018;18(2):135-149. 
SLEの稀な症状として眼病変があるが、詳しくまとめてみる
  • SLE患者の約3分の1に眼病変があるとされ、病変部位は様々
  • SLEの初発症状が眼症状という報告は多々ある
  • 眼窩周囲、付属器、眼球、視神経等に病変を起こす
  • SLEの他シェーグレン症候群関連症状もある
SLEにおけるRed-eyeの原因(Rheumatology (Oxford). 2007;46:1757–62)
多い ドライアイ(乾燥性角結膜炎)
少ない 上強膜炎
強膜炎
結膜炎(非感染性)
まれ 角膜炎(乾性角結膜炎以外)
前部ブドウ膜炎
 
SLEにおける視力喪失の原因(Rheumatology (Oxford). 2007;46:1757–62)
前眼部 重度の乾燥性角結膜炎
水晶体 白内障(炎症・ステロイド
硝子体 硝子体出血(増殖性網膜症に続発)
網膜 度の血管閉塞性網膜症
網膜中心静脈閉塞症 (CRVO)
網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)
網膜中心細動脈閉塞症(CRAO)
網膜細動脈分枝閉塞症(BRAO)
滲出性網膜剥離
中毒性黄斑症(クロロキン網膜症)
脈絡膜 ループス脈絡膜症
脈絡膜滲出液
脈絡膜梗塞
脈絡膜新生血管膜
神経 視神経炎
前部虚血性視神経障害
後部虚血性視神経障害
視交叉障害
皮質梗塞

①眼周囲

◎眼瞼の皮膚症状

  • 下眼瞼に多い
  • 多くは非対称性・両側性
  • 病歴が長いことが多い
  • 通常の眼瞼炎治療は無効なことが多く、局所ステロイド+ヒドロキシクロロキン(HCQ)が有効
(J Ophthalmol. 2015;2015:254260.)
◎眼窩偽腫瘍
  • 眼科周囲の筋肉・脂肪織への炎症波及で起こる
  • 画像検査→生検による確定診断
  • 局所ステロイドステロイド全身投与・IVCYの報告がある

画像:T1Gd造影…神経周囲への炎症波及(Clin Case Rep. 2016;4:1065–7.)

◎ドライアイ(乾燥性角結膜炎)

  • SLEの眼症状として最多で、約3分の1で発生する
  • 続発性シェーグレン症候群に伴うものが多いが、SLEそのものでも起こる
  • ドライアイの重症度…抗dsDNA抗体力価、C3低値が関係している(C4、赤血球沈降速度、ANAは関係しない)
  • 診断…シルマーテスト+角膜フルオレセイン染色が基本。
  • 治療…基本的には眼科用ジェル、シクロスポリン点眼→難治例では免疫抑制剤(MTX,CyAなど)、進行例では涙腺プラグ

②前眼部

◎角膜炎

  • 角膜びらん、再発性の点状上皮欠損、角膜実質への浸潤、一過性角膜内皮炎、末梢潰瘍性角膜炎など
  • 症状…眼痛、流涙過多、目のかすみ
  • 治療…局所/全身ステロイド+HCQでよく改善する

◎上強膜炎・胸膜炎

  • 稀(有病率0.6-0.8%)だが、SLEの初期症状となりうる
  • 前部強膜炎(壊死性、血管閉塞性、肉芽腫性)と後部強膜炎(非壊死性)に分かれる
  • 症状…眼痛、眼の発赤
  • 検査…前部はSD-OCT検査、後部はCT・MRIが有用
    • T1強調画像での強膜炎(黒矢印)、視神経炎(白矢印)、涙腺炎(*)(AJNR Am J Neuroradiol. 2016;37:2334–9.)
  • 治療…強膜病変はSLE活動性を示唆する→SLEへの全身治療が重要

◎結膜炎・前部ぶどう膜炎

  • 単独例はほぼなく、強膜炎などに合併することが多い
  • 有病率は0.47%と稀であり、ぶどう膜炎全体にSLEスクリーニングをする必要はない(JAMA Ophthalmol. 2015;133:1190–3.)
  • 治療…強膜炎同様、全身治療が重要

③後部

◎網膜症

  • 続発性シェーグレン症候群に伴うもの・SLE疾患活動性不良時の発生が多い
  • 抗リン脂質抗体症候群APS)に続発するものと、SLE自体によるものがある
    • APS抗体(抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント)陽性がリスク
    • 再発性梗塞・血栓塞栓症はAPSによるものが多い
  • 病態…網膜の毛細血管・細動脈の血管炎→局所的な微小梗塞・塞栓症
  • 眼底所見…非常に多彩だが、微小血管障害→網膜血管異常・乳頭浮腫・出血性斑点が多い
    • その他…網膜剥離、視神経萎縮、硬性滲出液、網膜中心動脈閉塞など
  • 治療…眼科治療+全身治療
    • 眼科治療…重度の場合ベバシズマブ硝子体注射、血管新生に対してのレーザー光凝固術、硝子体切除術
    • APSによるもの…抗血栓薬(SAPT/DAPTなど)
    • SLEによるもの…全身治療(ステロイド、HCQ、免疫抑制剤
  • 稀な亜型…Purtscher’s retinopathy(プルチャー網膜症)
    • 網膜血管の近位部閉塞→突然の視力消失
    • 多くが頭頚部の外傷に伴うものだが、SLEなどの内因性疾患でも稀に起こる
    • 眼底所見…網膜の白化斑点と視神経周囲・後極の出血(Am J Ophthalmol. 2014;158:1335–41.)
 

◎脈絡膜疾患

  • 網膜症よりもさらに稀
  • SLEの活動性と相関する(特に腎症と関連)
  • 症状…片側/両側性の羞明、視力低下
  • 検査…眼底検査・OCTでの漿液性の網膜剥離、血管造影異常
  • 治療…SLEの全身治療に準じる

◎視神経炎

  • SLE全体の1%程度と稀
  • 症状…片側性の重度の視力喪失、眼球運動時の眼痛
  • 多発性硬化症などとの鑑別が重要
  • 治療…視力回復の為早急な治療が必要→まずステロイドパルス

◎虚血性視神経症(ION)

  • 網膜への血流低下→虚血→突然の視力消失
  • 症状…視力喪失、眼痛はない。
  • リスク…SLE活動性、APS抗体陽性
  • 検査…眼底検査での乳頭浮腫、視覚誘発電位異常、血管造影異常
  • 治療…ステロイドパルス・高用量ステロイド使用、シクロホスファミド・リツキシマブなど

◎眼球運動障害・神経眼症状

  • 脳実質病変→眼球運動制限、眼瞼下垂など
  • 脳幹病変が多い…ブラウン症候群、ホルネル症候群など

④SLE治療薬の有害事象

ステロイド有害事象

◎HCQ有害事象

  • 長期投与による角膜症、網膜症に注意が必要
  • 5年間HCQを投与された2361人のコホート…HCQ網膜症の有病率は7.5%。4-5mg/kg/dayでの網膜症有病率は最初の10 年間で 2%未満→20年間後には約20%に増加( JAMA Ophthalmol. 2014;132:1453–60.)
  • 検査
初期 視野検査でのまだら状の傍中心窩領域損傷
中期 OCT検査での傍中心窩環の菲薄化・破壊
網膜外側・色素上皮の破壊
晩期 眼底検査でのBull’s eye所見(黄斑症)
 
  • 治療…基本的には治療不能。早期発見できれば、HCQ中止によって改善することが多い→HCQ使用期間が長くなった場合、頻回の眼科フォローが重要
  • 予防…初期スクリーニング→定期フォローが重要
    • HCQ使用量節約→HCQ実体重換算5mg/kg/dでの投与が推奨される(米国眼科学会, Ophthalmology. 2016;123:1386–94.)

◎その他

  • メトトレキサート(MTX)、シクロホスファミド、シクロスポリンで網膜症などの報告あり
  • その他についてはほぼ報告なし