EULAR2023で公表されていたSLE推奨が論文化。
それほど新規性はないが個人的に気になったポイントは以下の通り
- ステロイドは初期用量から中等度ステロイド許容という記載あり
- ステロイド減量目標が7.5mg→5mgに変更。さらに寛解時のステロイド中止まで言及
- 生物学的製剤(Belimumab・Anifrolumab)が治療推奨に追加されたが、既存治療と比較して優れているかというのは全く不明で、並列表記
- 重症・再発例は、高用量CYC・RTX推奨
- TMA・CAPSへのEculizumab有用性が期待されるが、推奨には入らず
包括原則
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A | SLEでは、患者教育・shared decision-makingを行い、患者や社会にかかるコストを考慮した、集学的で個別化された管理が必要である。 |
B | SLEの疾患活動性は、臓器障害の評価(少なくとも年1回)と共に、有効な検査機器を用いて毎回の診察で評価する(頻度は医師の判断) |
C | 日光対策・禁煙・健康的でバランスの取れた食事・定期的な運動・骨の健康向上対策などの非薬理学的介入は、長期的な転帰を改善するために重要である |
D | 薬理学的介入は、患者の特徴・臓器病変の種類と重症度・治療関連有害事象・併存疾患・進行性臓器障害のリスク・患者の嗜好によって決定される。 |
E | SLEの早期診断(血清学的評価を含む)、臓器病変(特に腎炎)の定期的なスクリーニング、寛解を目指した(寛解が不可能な場合は疾患活動性が低い)迅速な治療開始、治療の厳守は、再燃や臓器障害を予防し、予後を改善し、QOLを高めるために不可欠です。再燃や臓器障害を予防し、予後を改善し、QOLを向上させるためには、治療開始とその厳守が不可欠である。 |
推奨/声明 | |
1 | ◎ヒドロキシクロロキンの適応・用量 ヒドロキシクロロキン(HCQ)は、禁忌でない限り、全患者に目標用量5mg/実体重kg/日で投与することが推奨される。ただし再燃のリスクと網膜毒性に基づいて個別化される。 |
2 | ◎ステロイド適応・減量 糖質コルチコイド(GC)が必要な場合は、臓器病変の種類と重症度に基づいて投与し、PSL換算≦5mg/dの維持量に減量し、可能であれば中止すべきである。中等症〜重症の患者では、mPSLパルス静注(125~1000mg/日、1~3日間)を考慮する。 |
3 | ◎免疫調節/免疫抑制薬の適応 HCQ(単剤or糖質コルチコイドとの併用)に反応しない患者、または糖質コルチコイドを慢性使用で許容される用量以下に減量できない患者に対しては、免疫調節/免疫抑制薬の追加を考慮する。 免疫調節/免疫抑制剤(例…メトトレキサート(MTX)、アザチオプリン(AZA)、ミコフェノレート(MMF))and/or 生物学的製剤(例…ベリムマブ(BEL)、アニフロルマブ(ANI))を考慮すべきである。 |
4 | ◎重症例への治療 臓器・生命を脅かす症状のある患者では、IVCYを考慮すべきであり、難治例ではリツキシマブ(RTX)を考慮してもよい。 |
5 | ◎皮膚症状への治療 活動性皮膚症状の治療には、外用薬(GC、カルシニューリン阻害薬)、抗マラリア薬(HCQ、クロロキン)、GC全身投与を使用する。 MTX、MMF、ANI、BELを第二選択療法として考慮する。 |
6 | ◎精神神経症状への治療 SLEに起因する活動性の精神神経症状の場合、炎症性症状にはグルココルチコイドと免疫抑制薬、アテローム血栓性/aPL関連症状には抗血小板薬/抗凝固薬を考慮すべきである。 |
7 | ◎血小板減少への治療 重症の自己免疫性血小板減少症の急性期治療には、高用量GC(mPSLパルス静注を含む)、±IVIG、and/or RTX、and/or 高用量IVCY後のRTX、AZAによる維持療法、MMF、シクロスポリンによる維持療法を考慮すべきである。 |
8 | ◎ループス腎炎寛解導入療法 活動性の増殖性ループス腎炎の患者には、低用量(EuroLupus)IVCY or MMF + GC(mPSL iv→低用量経口投与)を行う。 BEL(CY or MMFと併用) or カルシニューリン阻害薬(特にボクロスポリン or タクロリムス、MMFと併用)の併用療法を考慮すべきである。 ※EuroLupus…IVCY 500mg/2w x6回(0,2,4,6,8,10週に実施) |
9 | ◎ループス腎炎維持療法 腎反応後、ループス腎炎の治療は少なくとも 3 年間継続すべきである。 MMF単剤 or ベリムマブ・カルシニューリン阻害薬との併用による初期治療を受けた患者は、これらの薬剤を継続すべきである。しかしCY単剤 or BEL併用で初期治療を受けた患者については、CYからAZA or MMFに置換すべきである。 |
10 | ◎重症ループス腎炎の治療 腎不全のリスクが高い患者(GFR低下、組織で半月体形成・フィブリノイド壊死あり、重症間質性腎炎)では、高用量IVCY(NIHレジメン)+mPSLパルスの併用が考慮される。 ※NIHレジメン…IVCY 0.75-1g/m^2体表面積/月 x6回(6ヶ月間) |
11 | ◎寛解患者の減薬 持続的寛解が得られたSLE患者では、まずGCを中止し、徐々に治療を漸減することを考慮すべきである。 |
12 | ◎血栓性抗リン脂質症候群(APS)合併例の治療 血栓性APSを合併したSLEは、初回動脈or誘引のない静脈血栓症発症後、長期のビタミンK拮抗薬で管理すべきである。 低用量アスピリン(75-100mg/日)は、APSを伴わないが高リスクのaPLプロファイルを有するSLE患者に考慮されるべきである。 |
13 | ◎ヘルスメンテナンス 感染症予防のための予防接種(帯状疱疹ウイルス、ヒトパピローマウイルス、インフルエンザ、COVID-19、肺炎球菌)、骨健康・腎保護・心血管リスクの管理、悪性腫瘍のスクリーニングを行うべきである。 |
以下推奨詳細で気になったところメモ
- ヒドロキシクロロキンの適応・用量
- HCQ用量<5mg/kg/dの場合、(>5mg/kg/dと比較して)再燃リスク約2倍、中等度〜重度再燃リスクは6倍以上に増加(JAMA. 2022;328(14):1458-1460.)
- HCQ 血中濃度の有用性が示唆されているが、実用性はない
- クロロキンが推奨から消えないのは、HCQが効果で入手困難な国に配慮している
- ステロイド適応・減量
- 目標維持PSL≦5mgになったのは、有害性と効能のバランスから。以前は≦7.5mgだった
- ステロイドはあくまで”bridging”ということを念頭に投与する
- 免疫調節/免疫抑制薬の適応
- ANIが新規承認されたが、特に比較データもなく変化なし
- 重症例への治療
- RTX→BEL等のデータが出ているが、重要な改訂なし。
- 造血幹細胞移植等の新規治療データが出てきており、今後改訂される可能性ある
- 皮膚症状への治療
- ANIが皮膚症状への有用性データあり、推奨追加。他は変化なし。
- 精神神経症状への治療
- 血小板減少への治療
- ループス腎炎寛解導入療法
- ループス腎炎維持療法
- 重症ループス腎炎の治療
- 寛解患者の減薬
- 血栓性抗リン脂質症候群(APS)合併例の治療
- ヘルスメンテナンス
- Covid-19、水痘・帯状疱疹ワクチンも推奨。
- 腎保護…RAS阻害薬による降圧(目標血圧≦130/80mmHg)。SGLT2阻害薬も有用?