膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ループス腎炎の治療推奨 (GLOSEN)

Clin Kidney J. 2023;16(9):1384-1402.
Spanish Group for the Study of Glomerular Diseases (GLOSEN)からの推奨。ループス腎炎は病型・治療薬が多く、エキスパートオピニオンが推奨に多い。

①腎生検適応

SLE患者における蛋白尿>0.5g/d、異常円柱所見、SLE患者において関連と思われる腎機能障害→腎生検実施し、原因を分類→治療

 

②治療による寛解基準

治療反応性において重要なのは時間経過。eGFR・たんぱく尿・血尿所見・免疫プロファイル(抗dsDNA抗体・補体)の改善目標を3,6,12ヶ月で設定

  • CR(完全寛解)…1日蛋白尿量<0.5g/d、血尿消失(≦5RBC/HPF)、血清Alb≧3.5g/dL、eGFR正常orベースラインから10%以内の低下
  • PR(部分寛解)…蛋白尿量減少(50%以上の改善はあるが、0.6-3.5g/d)、血尿減少(≦10RBC/HPF)、血清Alb≧3g/dL、eGFR正常orベースラインから25%以内の低下
  • ただしループス腎炎活動性以外の因子によるデータ異常に注意が必要…例)腎保護薬(ACEi、ARB、SGLT2i)、利尿薬等による腎機能低下
 
 

③ループス腎炎classⅠ/Ⅱ治療

  • classⅠ…ヒドロキシクロロキン(HCQ)、腎保護薬、SLE患者において全身治療
  • classⅡ…蛋白尿<1g/d・尿沈渣正常なら、classⅠと同様の治療。RAS阻害薬使用しても蛋白尿・血尿持続する場合、再度腎生検実施→classⅡのままなら、ステロイドMMF(この文献ではMPAA)→ステロイド漸減

 

④ループス腎炎classⅢ/Ⅳ±Ⅴ 初期治療

  • 初期治療としてmPSL250-500mg/d x3日間のパルス療法→経口PSL0.5-0.6mg/kg/d投与を行い、漸減していく
免疫抑制剤併用は以下のパターンに当てはめる
 
  1. 蛋白尿<3g/d、治療コンプライアンス良好、不妊症が心配、シクロホスファミド(CyC)が禁忌/不耐→ステロイド+MMF2g/dによるdouble therapy
  2. 蛋白尿<3g/d、治療コンプライアンス不良リスク、MMFが禁忌/不耐→ステロイド+IVCY6回(Eurolupusレジメン)→MMF(不耐の場合アザチオプリン(AZP))
  3. ステロイドMMF治療から2-3ヶ月後orIVCY後に蛋白尿減少が25%以下→Belimumab追加(特に免疫学的活性が持続する場合)、カルシニューリン阻害薬(CNI)追加(特に高度蛋白尿が継続する場合)…CNIはシクロスポリン、タクロリムス、ボクロスポリン
  4. 蛋白尿<3g/dだが、腎外SLE症状が強い・血清学的活性が強い・ステロイド早期漸減必要性が有る・ループス腎炎再発歴あり→最初からtriple therapy(ステロイドMMFBelimumab)
  5. 蛋白尿≧3g/d or complete nephrotic syndromeで、eGFR>45→triple therapy(ステロイドMMFCNI)
  6. 蛋白尿≧3g/d or complete nephrotic syndromeで、eGFR<45→患者プロファイルに応じた治療
 

⑤ループス腎炎classⅤ 初期治療

  • 蛋白尿<1g/d→HCQ、腎保護療法、腎外症状に応じたSLEのの治療
  • 蛋白尿1-3.5g/d→double therapy(ステロイド+CNI)。治療導入3-4ヶ月で蛋白尿減少が25%以下、特に持続的免疫学的異常がある場合、MMF追加
  • 蛋白尿>3.5g/d or complete nephrotic syndrome→triple therapy(ステロイドMMF+CNI)

 

⑥ループス腎炎classⅢ/Ⅳ±Ⅴ 維持療法

  • 維持療法におけるステロイドは低用量で、寛解状態ならば18-24ヶ月でステロイド中止を推奨
  • MMF治療は治療導入から18-24ヶ月で漸減推奨、MMF治療は3-5年以上続ける。CNIについても同様、
  • MMF不耐性の場合、AZPを投与。ステロイド/HCQ非耐性・再発例などではBelimumab考慮
  • 血圧・蛋白尿量を見てRAS阻害薬漸増推奨、蛋白尿目標非達成時はSGLT2i考慮(SGLT2iについてはエキスパートオピニオン)

 

⑦その他

  1. 難治例・治療抵抗例
    • triple therapyに対して3ヶ月異常反応なしの場合、難治・治療抵抗例とする
    • 初期治療がMMFの難治例→Rituximab(RTX)追加 or MMFをIVCY(Eurolupusレジメン)変更
    • 初期治療がCyCの難治例→RTX追加 or CyC延長で計6ヶ月間治療
    • 上記でも反応しない→新規CD20抗体薬(obinutuzumab)、抗形質細胞薬(daratumumab, bortezomib)、CAR-T、新規治験などへの参加
  2. 再発予防
    • フレア時…推奨に従って免疫抑制療法を実施。CyCを使用する場合、累積投与量>10gにならないようにする
    • 短期目標…3ヶ月以内の臨床的・免疫学的寛解を目指す。その後維持療法へ移行。
    • 再発患者における維持療法…治療コンプライアンスの維持、MMF治療を3−5年以上継続する、腎生検再検考慮
  3. 妊娠
    • ループス腎炎寛解から最低6ヶ月後に計画する
    • 催奇形性の薬剤は避ける。妊娠中に可能なのはAZP、CNI、ステロイド、HCQ。
      •  
    • 妊娠中HCQは継続、妊娠合併症予防として妊娠12週までに低用量アスピリン(100mg/d)を開始する
    • ループス腎炎フレアと子癇/HELLP症候群は鑑別が難しい場合があるので注意
      •  
  4. 微小血管塞栓症(TMA
    • ループス腎炎とTMA合併例では、抗リン脂質抗体・ADAMTS-13活性を測定する。ループス腎炎によるものなら免疫抑制療法のみで改善する場合もあるが、基礎疾患に応じて抗凝固薬・血漿交換・補体拮抗薬が必要な場合あり。

⑧薬剤副作用とその対策

 薬剤
副作用、対策 
 
 
ヒドロキシクロロキン
黄斑症…不可逆的→初期評価+定期的な評価
  • 危険因子:年齢60歳以上、黄斑症の既往、腎疾患・肝疾患、5年以上>5mg/kg(>400mg/日)の投与
心臓(心不全、LVH、伝導異常、収縮機能低下)…直ちに休薬
神経病変(ミオパチー、末梢神経障害)…直ちに休薬
消化器不耐症、そう痒症…減量
 
コルチコステロイド
全身合併症を避けるため、投与量と投与期間を最小限にする
食事、体重、血糖値、脂質の厳格な管理。
白内障緑内障のリスク増加…定期的な眼科的管理。 
 
 
 
 
 
 
 
シクロホスファミド
  • 血液毒性…投与量と投与期間を最小限にする。重篤な白血球減少にはGSGF
  • 消化器毒性…IVCYでリスクが高くなる。投与量減量、水分補給、制吐薬
  • 肺毒性(間質性肺炎、肺線維化)…低用量、短期間で使用する。上肺野へのすりガラス陰影で疑う→急性期はステロイド治療
  • 心臓毒性(心筋炎、心膜血症、心不全):投与量と投与期間を最小限にする
  • 膀胱毒性(出血性膀胱炎、膀胱痛、膀胱癌など)
    • リスク…累積投与量>30g、CyC経口投与、尿閉、水分補給不足、投与後の㉔時間の無尿
    • 予防:メスナ、水分補給、膀胱洗浄、泌尿器学的評価
  • 性毒性…CYCの静脈内投与が6ヵ月以下であればリスクは低い。卵巣障害のリスクは年齢・CYCの投与量に応じて増加する。
  • SIADH/低ナトリウム血症
    • リスク…>20mg/kgを超える静脈内投与、NSAIDsの使用、腎機能低下
  • 感染症ステロイド併用、低ガンマグロブリン血症併発の場合、高リスク
  • 悪性腫瘍(皮膚、子宮頸部、血液)
    • リスク…累積投与量>30gで高リスク。休薬から数年後でも起こりうる
    • 対策…投与量(<10g)、投与期間を最小限にする
  • 胃腸毒性投与量を最小限に抑える
  • 血液毒性…白血球減少症はまれ
  • 悪性腫瘍(まれ)
  • 毒性量は不明
カルシニューリン阻害薬(CNI)
  • 推奨血中目標値(CyA 60~100ng/mL、Tac 4~7ng/mL)
  • 血圧、血清クレアチニン、血清カリウムの定期的管理
  • 慢性腎毒性の疑いが強い場合は、新たに腎生検を行うよう評価
 
 
Rituximab
 
 

【感想】

ステロイド量は少なめの推奨…classⅢ/Ⅳ±Ⅴに対してのPSL0.5-0.6mg/kg/d
免疫抑制剤の使い分けをある程度明示してくれるのが、わかりやすくて良い
 
日本でも難治性ループス腎炎に対してのRTXが保険適応となり、難治例への対応は楽になっていると思われる。使用するシチュエーションもこのシチュエーション通りとなるだろう。ただし維持療法としてのRTXの効果は確立しておらず、他の維持療法が必要と思われる。