膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

全身性強皮症の心病変

全身性強皮症(SSc)の臓器病変としては、肺(間質性肺炎)、腸(SIBO: 小腸内細菌増殖症)が代表例。ただ心病変もそこそこの頻度で見られる。ただ心病変は案外多い割には注目されにくい。
理由としては
  1. 病態がとにかく多彩
  2. 進行例でない限りわからないことが多い→早期スクリーニング考慮
  3. 治療法が基本的に従来の循環器的治療が中心
といった点が挙げられる。
一方で
  1. 致死的で難治例が多い
  2. β-blocker等通常の心疾患で使用される薬剤が使いにくい
  3. 免疫抑制療法の適応は不明で、逆説的に心毒性を持つものが多い
といった点で注意が必要。

【疫学】

  • SSc患者の10-30%に見られるが、スクリーニング方法によりけり
  • リスク…急激な皮膚硬化、抗 U3-RNP抗体陽性、筋骨格症状
 

【病態】

  • 多彩…心筋リモデリング・線維化、冠動脈・心内膜下の細動脈の編成→虚血→心筋細胞のアポトーシス・線維化など→左心室拡張機能障害となる
  • その他心筋炎の場合もある(リスク…筋炎オーバーラップ患者、c/PR3-ANCA陽性)
 
表:SSc心病変の病態と症状(Best Pract Res Clin Rheumatol. 2021;35(3):101668.)
病態 心筋線維化 心筋炎 小血管障害 心膜病変
主な
臨床症状
呼吸困難、動悸、失神 拡張機能障害
HFpEF、HFrEF
不整脈、伝導疾患
呼吸困難、動悸、胸痛
失神
HFrEF
不整脈
胸痛、呼吸困難
心筋灌流障害
壁運動異常
急性心膜炎
心筋梗塞
収縮性心膜炎
心嚢液貯留
心タンポナーデ
 
 

【検査】

  • 無症候性の場合が多く、定期的なスクリーニング検査が重要…ECG、経胸壁心エコー、自己抗体、BNP or NT-proBNP、心筋トロポニン
    • 自己抗体…セントロメア(肺高血圧)、RNA ポリメラーゼ III (心筋障害)、PM-Scl(心筋炎)、U1-RNP(心膜炎)
  • 必要時心臓MRI、心臓カテーテル検査追加、循環器専門医紹介を追加
  • 間質性肺炎へのDLCO低値があった場合、心病変の伴うものでないかどうか注意が必要
表:SSc心病変の検査(Best Pract Res Clin Rheumatol. 2021;35(3):101668.)
検査 詳細
採血 CK-MB、トロポニンI or T
BNP or NT-proBNP
CRP、ESR
心電図 安静時
Holter心電図
心エコー 収縮能、ドップラーなど
カテーテル検査 冠動脈造影、右心カテーテル
核医学検査 SPECT
運動負荷試験 6分間歩行試験
運動負荷心電図
運動負荷心エコー
心臓MRI ガドリニウム造影検査
T1マッピング
生検 心内膜、心筋生検
 

【心臓症状】

SScでは心臓合併症が高頻度に見られ、早期には無症状のことが多いが、予後に大きく影響する。主な心臓合併症は以下の通り
 
①微小血管障害による心筋虚血・線維化
  • 心臓冠動脈の小動脈・細動脈への線維→血管障害を起こす。他の心筋障害の背景にある可能性あり
  • レイノー現象の強い患者で多いとされる
  • 症状…大半は無症状。たまに狭心症症状を起こす
  • 検査…通常の心臓検査+心臓核医学検査が有用
  • 治療…β-blocker・Ca-blockerなどが用いられるが、β-blockerはレイノー現象悪化リスクあり注意
 
②伝導障害・頻脈性不整脈
  • 脚ブロック・房室ブロックなどを起こす→上室性頻脈を起こすことが多い。心室性頻脈は稀。
  • 背景として微小血管障害に伴う虚血・線維化、自律神経機能不全による伝導系線維化がある
  • 症状…動悸、脈の結滞。持続性心室頻脈性不整脈は突然の心停止リスクあり。
  • 治療
    • 伝導ブロック…循環器的治療。房室伝導を遅延させる薬剤(β-blocker、ジヒドロピリジン系Ca-blocker、ジゴキシン)は避ける
    • 頻脈性不整脈…循環器的治療。β-blockerは慎重投与。
 
③自律神経障害
  • 疾患過程の初期段階で発生し、心筋線維症に先行するあり
  • 症状…めまい、低血圧、失神、発汗異常など
  • 診断…仰臥位・座位・立位での心拍数/血圧測定、Tilt試験
  • 治療…対症療法。ミドトリン(メトリジン®)はレイノー悪化リスクあり禁忌。
 
④心膜病変
  • 頻度不明、多くは無症候性の心嚢液貯留
  • 病態…心嚢液貯留(最多)、急性心膜炎・収縮性心膜炎(稀)
  • 診断…ECG異常(心膜炎パターンなど)、心エコー異常、心臓MRI異常
  • 治療…通常の心膜炎と同様の管理
 
  • 主には心臓繊維化に伴う心機能低下
  • 活動性心筋炎は稀だが、致死的…筋炎オーバーラップ症例で多い
  • HFpEF・HFrEFの2種類に分かれるが、HFrEFは少数
    • HFpEFの場合、心臓線維化に伴う拡張障害が遠因
    • その他右心不全もあるが、HFrEFに伴う右心負荷・肺高血圧症に伴うものなど原因は多彩
  • 診断…心エコー、心臓MRI、心臓カテーテル検査
    • 心臓MRIは正常心筋・線維化心筋のガドリニウム取り込み差異を検出可能
    • 無症候性心病変のスクリーニングとしては心臓MRIが優れている→SSc患者における心機能障害、筋炎オーバーラップ症例、心筋逸脱酵素上昇、心筋炎疑いでは実施して良いかもしれない
  • 治療…通常の心不全治療が基本。β-blockerはHFrEFでない限り使わない方が良い
    • 急性心筋炎・心膜炎の場合、免疫抑制療法を行っても良い…例)ステロイド(PSL10-20mg/d)+IVCY, MMF, IVIGなど
    • ただし治療薬の心毒性、ステロイドによる腎クリーゼリスクが問題となるため、心筋生検で心筋炎が証明された症例・臨床的に心筋炎・心膜炎が証明された症例にのみ使用すべき?
 

【アプローチ】

提唱されている診断アプローチ(Best Pract Res Clin Rheumatol. 2021;35(3):101668.)
  1. 全患者に病歴聴取・身体所見、スクリーニング検査(安静時ECG、心エコー、NT-proBNP、心筋逸脱酵素
  2. 心病変疑わしい患者に対して、さらなる精査…24時間心電図、心臓MRI、運動負荷試験(6分間歩行試験、運動負荷心電図、運動負荷心エコー)
  3. 循環器専門医に相談したうえで、さらなる精査…右心カテーテル±冠動脈造影、SPECT、心筋生検、植込み型ループレコーダー
→病変・病態を特定したうえで治療
 
参考:
“Cardiac manifestations of systemic sclerosis (scleroderma)” UpToDate
 World J Cardiol. 2014;6(9):993-1005.
Best Pract Res Clin Rheumatol. 2021;35(3):101668.