膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

好酸球増多症とEGPA

Mayo Clin Proc. 2023;98(7):1054-1070. 
好酸球増多症(HES)と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は好酸球増多+臓器症状を起こす疾患で、その2つは未分化な場合がある
 
ポイント
  • 好酸球数の増加は、HESやEGPAによるものである場合がある
  • HESまたはEGPA患者は、様々な臓器系を含む多様な臨床症状を示すことがある
  • HES・EGPAのいくつかの亜型は、臨床的特徴と検査の組み合わせにより鑑別可能である。ただ重複症例や発症初期には診断が困難であり、ステロイド使用により診断困難となる
  • ステロイド治療はHES・EGPA患者の大半に有効であるが、HES特定のサブタイプにおける第一選択薬や、免疫抑制薬・細胞毒性薬の第二選択薬によって、管理方法が異なることがある
  • 新規の好酸球標的治療薬の出現により、HES/EGPA患者サブセットのステロイド・第二選択薬の漸減が可能となり、長期毒性の軽減・予後改善の可能性がある 

  • 好酸球数の増加は、多くの疾患に関与している。
  • 好酸球増多症候群(HES)や多発血管炎好酸球性肉芽腫症(EGPA)などの疾患は、著明な好酸球数の上昇を示すことがあり、診断の遅れや不十分な治療のために罹患率や死亡率が高くなる危険性がある。
  • HESはいくつかのサブタイプに分かれる…M-HES(myeloid/lymphoid-HES)、L-HES(lymphocyte-variant-HES)、I-HES( idiopathic-HES)
  • HESとEGPAはオーバーラップする場合があり、鑑別診断が困難な場合もある。
    • ただ、オーバーラップの有無を鑑別する方法は非常に難しい
  • HESとEGPAの診断には、他の基礎疾患の除外や遺伝子検査が必要であり、骨髄性疾患の存在も考慮される。
    • 遺伝子変異…PDGFRA、PDGFRB、FGFR1、JAK
    • 骨髄性疾患の特徴…脾腫、血清トリプターゼ値、ビタミンB12値の高値
    • 不明な場合、イマチニブによる治療的診断が行われる場合がある

◎症状

臓器系
HES
EGPA
心臓 頻度+
死亡率と関連(好酸球性心筋炎、心内膜線維症、血栓形成、心内膜線維症)
頻度+
(好酸球性心筋症、心内膜線維症、冠動脈血管炎、心膜炎)
皮膚 頻度+++ L-HESの最も一般的な臨床症状 湿疹、蕁麻疹、紅斑性丘疹、斑点、紅皮症、粘膜潰瘍(M-HES)および紫斑など 頻度++ 蕁麻疹、紫斑など
消化器 頻度++ 好酸球性消化器病変、胆管炎、肝炎 頻度+ 好酸球性消化器病変、虚血、消化管穿孔
血液 頻度+ 基礎となる骨髄性疾患/腫瘍の可能性が示唆される 貧血、血小板減少症、脾腫 頻度+
腎臓
尿路
頻度+(HESでは稀)
間質性腎炎、好酸球性膀胱炎
頻度+
ANCA陽性患者で多い
糸球体腎炎、間質性腎炎
神経 頻度+~++
脳血管血栓症脳卒中(心内血栓からの塞栓)、脳症、末梢神経障害
頻度++ 末梢神経障害、単神経障害多発性、脳卒中
相対頻度++ I-HES・M-HESで多い 喘息、間質性肺浸潤、好酸球性気管支炎、胸水 頻度++++
EGPAほぼ全患者に見られる 喘息、間質性肺浸潤、肺胞出血
リウマチ 頻度+
関節炎、腱鞘炎、筋膜炎
頻度+~++
関節痛、関節炎

副鼻腔
頻度+~++
慢性副鼻腔炎
頻度+++
EGPAでは鼻中隔ポリープが多い
慢性副鼻腔炎、ポリープ
血管
凝固
頻度+
過凝固・血管損傷によって血管イベント/合併症が起こる 動脈/静脈血栓、小血管ダメージ、指壊死
頻度+++
過凝固・小血管血管炎が血管イベント/合併症に寄与 動脈/静脈血栓、壊死性血管炎

◎診断

①初期ワークアップ
  • 身体診察・病歴聴取

    • 薬剤歴(非処方薬を含む)、旅行歴、蠕虫寄生虫曝露リスクに関連する生活習慣、癌リスクと家族歴、原発性免疫不全の所見

  • 血液/体液の検査

  • 血液検査/骨髄検査

    • 血算、好酸球数、末梢血塗抹標本

    • 血清トリプターゼ、ビタミンB12、lgE、lgG、lgM、lgG4

    • ANCA

    • ローサイトメトリーによるT細胞 immunophenotyping

    • クローン性好酸球増多に関連するPDGFRA/B、FGFR1、JAK2遺伝子再配列/変異の細胞遺伝学的および分子学的検査、PCR/NGSbによるTCR遺伝子再配列解析

    • 骨髄検査は以下で考慮

      • 表現型・細胞遺伝学的検査でM-HES・I-HESが示唆される場合

      • 血中好酸球数>5000/mm3

      • 血清トリプターゼ高値

      • 全身性コルチコステロイド治療に反応

  • 末端臓器の病変/ダメージの検査

    • 心電図、心エコー

    • 血液検査;肝酵素、筋酵素、腎機能、血清トロポニンI/T

    • 胸部X線/CT画像、腹部超音波/CT画像

    • 臨床症状に応じて、さらなる精査

      • 心臓…心臓MRI、ホルターモニター検査

      • 血管…血管造影、静脈ドップラー超音波検査

      • 肺…気管支鏡検査・気管支肺胞洗浄、肺生検、肺機能検査

      • 消化管…内視鏡検査、腸管MRI、小腸通過性検査

      • 罹患組織/臓器の生検

      • 神経…脳MRI/造影CT、神経伝導検査、筋電図、軟部組織MRI

      • 癌が疑われる場合、FDG-PET検査

②診断
  1. 二次性…感染、重篤なアレルギー性疾患、癌、薬剤有害事象反応
  2. 骨髄性悪性新生物 or M-HES
    • PDGFRA、PDGFRB、FGFR1、JAK2遺伝子の再配列/変異
    • クローン性好酸球増多の所見(慢性好酸球白血病:NOS)、骨髄性新生物の可能性を示唆する複合的所見の存在
  3. L-HES
    • 好酸球増多因子を産生する異常なT細胞サブセットの所見
  4. I-HES or I-HES/EGPAオーバーラップ
    • I-HES…好酸球が介在する臓器障害を伴う、持続性の原因不明の症候性好酸球増多症(皮膚、肺、消化管、筋膜などの臓器特異的なHES亜型が含まれる)
    • I-HES/EGPAオーバーラップ…臨床的特徴(喘息、慢性鼻副鼻腔炎)・ANCA 陽性などでEGPA が示唆されるが、関連する血管炎の所見がない
  5. EGPA
    • 組織学的に確認された壊死性血管炎・代替病変(多発性単神経炎など) で、EGPAの分類基準を満たすもの
③治療・マネジメント
  1. 二次性好酸球増多
    • 根本的な原因を治療する
    • 好酸球による症状を管理するため、好酸球増多症の一時的治療が必要な場合がある
    • 好酸球増多が確実に消失するようにフォローアップを行う
  2. 骨髄性悪性新生物 or M-HES…チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブなど)、JAK阻害剤、化学療法、同種幹細胞移植
  3. L-HES…ステロイド、IFN-α、細胞毒性/免疫抑制薬、好酸球標的療法
  4. I-HES…ステロイド、細胞毒性薬(ハイドロキシウレア)、IFN-α、好酸球標的療法
  5. I-HES/EGPAオーバーラップ…吸入コルチコステロイド・気管支拡張薬の投与、血管炎または肉芽腫性炎症を示唆する新規症状有無のフォローアップ
  6. EGPA…ステロイド、細胞毒性/免疫調節療法(シクロホスファミド、メトトレキサート、アザチオプリン、リツキシマブ)、好酸球標的療法
 

◎治療薬

  • HESの治療には経口コルチコステロイドが第一選択薬であり、重症の場合には細胞毒性薬・免疫調節薬が必要となることがある。
  • 新しい好酸球減少療法は、HESやEGPA患者の血中好酸球数を減少させ、疾患の浮腫や再発を減少させる可能性がある。
  1. クローン性好酸球増多を引き起こす変異→キナーゼ阻害薬
    • PDGFRA関連HESの場合、イマチニブへの感受性が極めて高い
    • 変異が検出されない患者でも、イマチニブに反応した例がある
  2. 細胞毒性/免疫抑制薬
    • ハイドロキシウレア、IFN-αをステロイドと併用する場合がある
    • EGPAに関しては、 Cyclophosphamid・Rituximabの併用などが行われる
  3. 新規治療…抗IL-5阻害薬
    • Mepolizumab…EGPAへの有用性あり。HESにも有効報告あり
    • Reslizumab、Benralizumab…HES、EGPAへの有効性の少数報告あり
    • Dupilumab(抗IL-4抗体)…投与開始直後に好酸球増多が起こることが多く、肺好酸球疾患の増悪の報告が多い→注意が必要