膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ANCA関連血管炎と皮膚症状

Arthritis Rheumatol. 2020 Oct;72(10):1741-1747.
 
ANCA関連血管炎(AAV)は
多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
・顕微鏡的多発血管炎(MPA
・多発血管炎性好酸球性肉芽腫症(EGPA)
に分けられるが、それぞれの皮膚症状・全身症状との関連についてデータベースから解析した。
 
AAVには皮膚症状がかなりの頻度で起こることが知られているが、どのような症状があり、全身症状との相関があるかどうかについては研究がなかった。
 

方法

世界中の130の施設のAAV患者1184人のデータを解析…DCVAS studyのデータを利用
→患者の特性・皮膚所見・血管炎症状をANCA関連血管炎のサブタイプごとに解析
 

結果

①皮膚症状頻度

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  • 皮膚症状はAAV患者によく見られる(35%

    • 皮膚症状はEGPA特に多い…GPA(34%), MPA(28%), EGPA(47%)

  • 皮膚症状のあるAAV患者は、複数の皮膚症状があることが多い…EGPA59%、GPA51%、MPA34%

②皮疹の種類別まとめ

 

皮膚病変
凡例
備考
点状出血・紫斑

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全てのAAVの皮膚症状で最多(15%)
GPA・EGPAで多い
圧痛を伴う皮膚結節

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AAV皮膚症状の8%
GPA・EGPAで多い
Maculopapular rash
(斑点状丘疹)

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AAV皮膚症状の8%
EGPAで多い
爪の線状出血
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GPA・EGPAで比較的多い

livedo racemosa
(分岐状の暗赤色網状斑)

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MPAで多い(7.0%)
Extensive urticarial plaques
(蕁麻疹)

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EGPAで多い(8.0%)
 
③ANCAとの関連
  • MPO-ANCA陽性例と比較して、PR3-ANCA陽性例・ANCA陰性例で皮膚症状が多い
  • MPO-ANCA陽性例と比較して、PR3-ANCA陽性例・ANCA陰性例では特に点状出血/紫斑・爪線状出血が多い
    • 逆にMPO-ANCA陽性例では蕁麻疹・そう痒が多い
  • 複数の皮膚病変は、ANCA陽性例が陰性例と比較して多い
 
④全身症状と皮膚症状の関連
  • 皮膚症状がある場合、全身症状も多い傾向あり
    • 皮膚症状のあるGPAは、皮膚症状のない症例と比較して肺・腎・神経・筋骨格系・消化管血管炎症状が多い
    • EGPAでも腎機能低下・神経症状・筋骨格症状・消化器症状が多い
    • MPAの場合、皮膚症状があると神経・筋骨格症状が多いが、肺・腎症状は少ない
  • ANCAタイプ別解析…同様の所見
    • 皮膚所見のあるMPO-ANCA陽性例では、皮膚症状のない症例と比較して神経・筋骨格症状が多いが、肺・腎症状は少ない
    • PR3-ANCA陽性例・ANCA陰性例では、皮膚症状があると肺・腎・神経・消化器症状が多い
  • 重症度と皮膚症状の相関…ありそう

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    • GPA・EGPA・PR3-ANCA陽性例・ANCA陰性例では、重症の血管炎症例では皮膚症状が多い
    • MPO-ANCA陽性例ではあまり相関なし
    • 重症血管炎発症リスクも同様で、MPO-ANCA陽性例以外では皮膚症状があると重症リスク高くなる
MPAMPO-ANCA陽性例以外のAAVでは皮膚症状は重症・多臓器病変のリスクとなる
  • 皮膚症状別解析→点状出血・紫斑は重症血管炎との関連がありそう
 
⑤皮膚生検
  • 皮膚生検は皮膚症状のある患者の内、GPAの29%、MPAの22%、EGPAの44%で実施
  • →それぞれGPA82%、MPA94%、EGPA68%で血管炎の診断と解釈された
 

Discussion

  • AAV患者での皮膚症状頻度は高く、複数の皮膚症状があることが多い
    • 特にEGPAでは皮膚症状が多い
  • ANCA・サブタイプに特異的な皮膚症状はなかった
    • あえて言えば、掻痒感・蕁麻疹等のアレルギー/非特異的皮膚症状がEGPAで多い
    • MPAでlivedo reticularis/ livedo racemosaが多かった→鑑別に役立つかもしれない
  • 点状出血/紫斑はAAVの皮膚症状で最も一般的で、蕁麻疹等と比較して血管炎に特異的
    • →AAVの重要な初期症状として早期に捉え、生検することが重要
    • 皮膚症状があっても皮膚生検が行われていない例が多いため、見逃さず皮膚生検することが重要
      • 皮膚生検による診断率は非常に高い
  • GPA・EGPA・PR3-ANCA陽性例・ANCA陰性例では皮膚症状と重症血管炎に相関あり
    • MPAは臓器病変の有病率が他と比較して低いことが関連している?
  • limitation
    • データベースからのまとめでしかない→想起バイアス、データ欠落、皮膚生検が非正確である可能性あり
    • ヨーロッパ中心のデータベース→人種の偏りが強い(大半が白人)
    • 皮膚所見の詳細は不明
 

結論

  • 皮膚症状は、血管炎症状の中でもわかりやすく診断しやすい病変であるため、適切な認識・診断が重要
  • GPA・EGPAにとっては重症度のマーカーとなりうる(MPAでは微妙)
  • 皮膚検査・治療はAAVの診断・治療に役立つ
 
感想
  • 血管炎の症状は捉えにくいが、皮膚症状は比較的わかりやすい
  • 皮膚症状の頻度・重症度との相関に関してはまとまったものが見たことなかったので助かった
  • ただ日本でよく見るMPAでは皮膚症状と重症度が相関せず、頻度の高い皮膚症状がさほどあるわけではないところには注意すべき
    • livedo racemosaが比較的MPAに特徴的ということは役立ちそう