あまりまとまった報告はないが、自分なりにまとめてみた。
【Key-point】
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「血管炎に伴う胆嚢炎」という概念がある
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血管炎による胆嚢炎には2パターンある…全身性血管炎による胆嚢炎・胆嚢限局血管炎
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全身性血管炎に伴う胆嚢炎は、胆嚢炎以外の症状を呈していることが多いため、そちらに注目すると診断できる
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診断のゴールドスタンダードは胆嚢の病理所見→胆摘は診断兼治療
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全身性血管炎に伴う胆嚢炎の場合、免疫抑制剤投与が治療の中心となることが多い
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胆嚢炎で説明できない全身症状のある無石性胆嚢炎の場合・胆嚢病理で血管炎所見があった場合、膠原病の合併を疑ってもいいかもしれない
【総論】
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全身性血管炎は稀に腹部臓器に症状を起こし、胆嚢に起こると胆嚢炎を起こす
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発症率はPANで8-40%、その他血管炎では2%未満(Medicine (Baltimore). 2005;84(2):115-128.)
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大半が中型血管への壊死性血管炎→中型血管炎を起こす疾患で構成されている
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血管炎による胆嚢炎には以下の2パターンが有る(Medicine (Baltimore). 2014;93(24):405-413.)
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全身症状を伴う胆嚢血管炎=全身性血管炎による胆嚢炎(Gallbladder vasculitis-Systemic vasculitis: GB-SV)
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全身症状のない胆嚢血管炎=胆嚢限局血管炎(Gallbladder vasculitis-Focal single-organ vasculitis: GB-SOV)
表:胆嚢限局血管炎と全身性血管炎による胆嚢炎の比較
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胆嚢限局血管炎
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全身性血管炎による胆嚢炎
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原因
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不明
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結節性多発動脈炎(PAN)
B型肝炎ウイルス関連血管炎
自己免疫疾患関連血管炎(SLEなど)
顕微鏡的多発血管炎(MPA)
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)など
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全身症状
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なし
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多い
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胆石有無
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胆石性胆嚢炎のこともある
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無石性胆嚢炎が多い
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治療
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胆嚢摘出術
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免疫抑制剤投与が必要なことが多い
胆嚢摘出術は不要なこともある
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【各論】
以下pubmed収載された症例を元にまとめ(独自)
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EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)
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もともとEGPA様のエピソードがあり、腹痛で胆嚢炎が見つかることが多い
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EGPAは腸炎などの消化器病変が多い血管炎であるが、胆嚢炎もまれに見られる
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画像は通常の胆嚢炎と区別がつかないが、無石性胆嚢炎が多いのは特徴かもしれない
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超音波検査:胆嚢壁肥厚、胆石(-)(BMJ Case Rep. 2021;14(7):e243536.)
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PET-CT:胆嚢壁への異常集積、内服は正常(BMJ Case Rep. 2021;14(7):e243536.)
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胆摘術後の胆嚢病理から診断に至る例が多い
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胆嚢病理:血管周囲に好酸球を主体とした肉芽腫性炎症・壊死性血管炎(Clin Rheumatol. 2016;35(1):259-263.)
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胆摘を実施せず改善する例もあり、が治療に必要かどうかは不明(BMJ Case Rep. 2021;14(7):e243536.)
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PAN(結節性多発性動脈炎)
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PAN患者のうち1.6-2.7%で胆嚢血管炎が見つかる(Clin Rheumatol. 2005;24(6):625-627.)
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剖検例では10-40%で胆嚢血管炎がある→実は多い?(Medicine (Baltimore). 1999;78(1):26-37.)
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以前から筋痛・炎症反応高値などを合併している例が多い
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胆嚢病理:胆嚢壁フィブリノイド壊死、壊死性血管炎・血管閉塞(Arq Bras Cardiol. 2011;96(3):e35-e41.)
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MPA(顕微鏡的多発血管炎)
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まれに腹部症状を起こす…胆嚢炎の他、消化管出血・消化管穿孔なども原因となる
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胆嚢病理:細血管でのフィブリノイド壊死、血管壁の破綻(Nihon Shokakibyo Gakkai Zasshi. 2017;114(12):2167-2174.)
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→胆嚢病理に血管炎所見があった場合、ANCA測定を考慮する
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IgA血管炎
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腹痛・関節痛・皮膚病変が三徴の疾患
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腹痛の原因は主には腸炎だが、胆嚢炎を起こしたという報告も多々ある(J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2016;62(3):457-461.)
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症例:palpable purpura発症と同時期に腹痛→胆嚢炎と診断(Digestion. 2004;70(1):45-48.)
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胆嚢病理:壁内動脈の線維性壊死・壁を貫通した炎症(Digestion. 2004;70(1):45-48.)
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SLE(全身性エリテマトーデス)
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SLEの腹部症状として稀に胆嚢炎がある
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入院SLEの患者8411人中13人(0.15%)がSLE関連胆嚢炎だった(Lupus. 2017;26(10):1101-1105.)
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→SLE患者が急性胆嚢炎を発症した場合、SLE関連胆嚢炎の可能性を考え、免疫抑制剤で治療可能かどうか判断する必要がある
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胆嚢炎の原因…血管炎、抗リン脂質抗体症候群による血栓症、腸間膜炎症性静脈閉塞病(MIVOD)、漿膜炎が複合的に絡んでいる?
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CT所見…胆嚢壁の浮腫性肥厚、無石性胆嚢炎(Medicine (Baltimore). 2021;100(22):e26238.)
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関節リウマチ
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リウマチ性血管炎に伴う胆嚢炎の報告はある(BMJ Case Rep. 2013;2013:bcr2012008228.)
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胆嚢病理:胆嚢小動脈のフィブリノイド壊死
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その他