膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

膠原病による胆嚢炎

胆嚢炎は膠原病内科からするとあまり関係のない疾患に見えるが、稀に「膠原病(特に全身性血管炎)に伴う胆嚢炎」というものもある。
あまりまとまった報告はないが、自分なりにまとめてみた。
 

【Key-point】

  • 「血管炎に伴う胆嚢炎」という概念がある
  • 血管炎による胆嚢炎には2パターンある…全身性血管炎による胆嚢炎・胆嚢限局血管炎
  • 全身性血管炎に伴う胆嚢炎は、胆嚢炎以外の症状を呈していることが多いため、そちらに注目すると診断できる
  • 診断のゴールドスタンダードは胆嚢の病理所見→胆摘は診断兼治療
  • 全身性血管炎に伴う胆嚢炎の場合、免疫抑制剤投与が治療の中心となることが多い
  • 胆嚢炎で説明できない全身症状のある無石性胆嚢炎の場合・胆嚢病理で血管炎所見があった場合、膠原病の合併を疑ってもいいかもしれない

【総論】

  • 全身性血管炎は稀に腹部臓器に症状を起こし、胆嚢に起こると胆嚢炎を起こす
    • 発症率はPANで8-40%、その他血管炎では2%未満(Medicine (Baltimore). 2005;84(2):115-128.)
    • 大半が中型血管への壊死性血管炎→中型血管炎を起こす疾患で構成されている
  • 血管炎による胆嚢炎には以下の2パターンが有る(Medicine (Baltimore). 2014;93(24):405-413.)
    1. 全身症状を伴う胆嚢血管炎=全身性血管炎による胆嚢炎(Gallbladder vasculitis-Systemic vasculitis: GB-SV)
    2. 全身症状のない胆嚢血管炎=胆嚢限局血管炎(Gallbladder vasculitis-Focal single-organ vasculitis: GB-SOV)
 

表:胆嚢限局血管炎と全身性血管炎による胆嚢炎の比較

 
胆嚢限局血管炎
全身性血管炎による胆嚢炎
原因
不明
結節性多発動脈炎(PAN)
B型肝炎ウイルス関連血管炎
クリオグロブリン血管炎(原発性・C型肝炎ウイルス関連)
自己免疫疾患関連血管炎(SLEなど)
顕微鏡的多発血管炎(MPA
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)など
全身症状
なし
多い
胆石有無
胆石性胆嚢炎のこともある
無石性胆嚢炎が多い
治療
胆嚢摘出術
免疫抑制剤投与が必要なことが多い
胆嚢摘出術は不要なこともある
  • 推奨検査…炎症反応、血算、肝・腎機能検査、尿検査、ウイルス血清検査(HBVHCV)、筋電図、画像検査、必要あれば自己免疫マーカー(ANCA、リウマトイド因子、補体、クリオグロブリンなど)、血管画像検査
 

【各論】

以下pubmed収載された症例を元にまとめ(独自)
  1. EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)

    • もともとEGPA様のエピソードがあり、腹痛で胆嚢炎が見つかることが多い
      • 例)発疹・しびれ・喘息・副鼻腔炎好酸球増多のある中年男性の腹痛→画像上の胆嚢壁肥厚
    • EGPAは腸炎などの消化器病変が多い血管炎であるが、胆嚢炎もまれに見られる
    • 画像は通常の胆嚢炎と区別がつかないが、無石性胆嚢炎が多いのは特徴かもしれない
        • 超音波検査:胆嚢壁肥厚、胆石(-)(BMJ Case Rep. 2021;14(7):e243536.)
        • PET-CT:胆嚢壁への異常集積、内服は正常(BMJ Case Rep. 2021;14(7):e243536.)
    • 胆摘術後の胆嚢病理から診断に至る例が多い
        • 胆嚢病理:血管周囲に好酸球を主体とした肉芽腫性炎症・壊死性血管炎(Clin Rheumatol. 2016;35(1):259-263.)
    • 胆摘を実施せず改善する例もあり、が治療に必要かどうかは不明(BMJ Case Rep. 2021;14(7):e243536.)
  2. PAN(結節性多発性動脈炎)

    • PAN患者のうち1.6-2.7%で胆嚢血管炎が見つかる(Clin Rheumatol. 2005;24(6):625-627.)
      • 剖検例では10-40%で胆嚢血管炎がある→実は多い?(Medicine (Baltimore). 1999;78(1):26-37.)
    • 以前から筋痛・炎症反応高値などを合併している例が多い
    • 胆嚢病理:胆嚢壁フィブリノイド壊死、壊死性血管炎・血管閉塞(Arq Bras Cardiol. 2011;96(3):e35-e41.)
  3. MPA(顕微鏡的多発血管炎)

    • まれに腹部症状を起こす…胆嚢炎の他、消化管出血・消化管穿孔なども原因となる
    • 胆嚢病理:細血管でのフィブリノイド壊死、血管壁の破綻(Nihon Shokakibyo Gakkai Zasshi. 2017;114(12):2167-2174.)
    • 胆嚢病理に血管炎所見があった場合、ANCA測定を考慮する
  4. IgA血管炎

    • 腹痛・関節痛・皮膚病変が三徴の疾患
    • 腹痛の原因は主には腸炎だが、胆嚢炎を起こしたという報告も多々ある(J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2016;62(3):457-461.)
    • 症例:palpable purpura発症と同時期に腹痛→胆嚢炎と診断(Digestion. 2004;70(1):45-48.)
    • 胆嚢病理:壁内動脈の線維性壊死・壁を貫通した炎症(Digestion. 2004;70(1):45-48.)
  5. SLE(全身性エリテマトーデス)

    • SLEの腹部症状として稀に胆嚢炎がある
      • 入院SLEの患者8411人中13人(0.15%)がSLE関連胆嚢炎だった(Lupus. 2017;26(10):1101-1105.)
      • SLE患者が急性胆嚢炎を発症した場合、SLE関連胆嚢炎の可能性を考え、免疫抑制剤で治療可能かどうか判断する必要がある
    • 胆嚢炎の原因…血管炎、抗リン脂質抗体症候群による血栓症、腸間膜炎症性静脈閉塞病(MIVOD)、漿膜炎が複合的に絡んでいる?
    • CT所見…胆嚢壁の浮腫性肥厚、無石性胆嚢炎(Medicine (Baltimore). 2021;100(22):e26238.)
  6. 関節リウマチ

    • リウマチ性血管炎に伴う胆嚢炎の報告はある(BMJ Case Rep. 2013;2013:bcr2012008228.)
    • 胆嚢病理:胆嚢小動脈のフィブリノイド壊死
  7. その他

    • 若年性特発性関節炎(JIA)…Intern Med. 2021;60(12):1955-1961.
    • クリオグロブリン血管炎…Clin Gastroenterol Hepatol. 2005;3(10):xxvi.
    • 皮膚筋炎…BMJ Case Rep. 2014;2014:bcr2014205066.
    • ※TAFRO症候群…厳密には胆嚢炎ではないが、「胆嚢壁浮腫」という形では報告あり(J Med Case Rep. 2018;12(1):295.)