膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

仙腸関節炎の鑑別

J Inflamm Res. 2018;11:339-344.
BMC Musculoskelet Disord. 2017;18(1):170.
 
仙腸関節炎は、軸性脊椎関節炎(AxSpA)の症状として有名だが、AxSpAに特異的な症状というわけではなく「ミミック」も多く存在する。
 
【Key-point】
  • 仙腸関節炎/関節痛は脊椎関節炎で有名な所見だが、ミミックも多々存在する
  • ミミックとして多いのは非炎症性疾患(DISH・腸骨硬化性骨炎など)で、画像・病歴での鑑別が重要
  • 一方で病理所見でしか鑑別困難な例もある
 

 

 

仙腸関節炎総論】

◎病歴・症状

  • 炎症性腰痛の原因の一つ
    • ※炎症性腰痛の定義(ASAS)…以下の5項目のうち4項目を満たすことと定義
      1. 発症年齢40歳未満
      2. 緩徐な発症
      3. 運動で改善
      4. 安静で改善しない
      5. 夜間疼痛
  • 発症初期は片側性・間欠性のことが多く、機械性疼痛と誤診されることが多い
  • 疼痛部位…殿部・腰部下部が多いが、鼡径部・下腹部・大腿骨転子部・下腿への放散痛もありうる(J Anat. 2012;221(6):537-567.)

◎身体所見

 

仙腸関節ミミック

表:仙腸関節痛を起こす疾患

(J Inflamm Res. 2018;11:339-344.)

分類
疾患
リウマチ性炎症性疾患
軸性脊椎関節炎…強直性脊椎関節炎など
家族性地中海熱
Behçet病
SAPHO症候群
リウマチ性非炎症性疾患
腸骨硬化性骨炎(Osteitis condensans ilii:OCI)
びまん性特発性骨増殖症(Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)
変形性関節症
多中心性細網組織球症
化膿性仙腸関節
Whipple病
その他
骨パジェット病
リンパ腫・悪性腫瘍
外傷後
 

表:仙腸関節ミミックと鑑別ポイント

(BMC Musculoskelet Disord. 2017;18(1):170.)

 
疾患
骨盤X線所見
骨盤外X線所見
遺伝子
発症年齢・性別
脊椎関節炎
強直性脊椎炎(AS)
・対称性・両側性(AS)
・AS以外では片側性変化が一般的
・関節下部(滑膜)が主体
・骨びらん
・末期は骨強直が起こる
・連続性の脊椎病変(skip lesionなし)
・Shiny corner sign…脊椎前方上下部の椎骨終板(corner)に骨硬化を起こす
 
HLA-B27
40歳以下
男女差なし
骨パジェット病
・腸骨稜・腸骨線・坐骨-恥骨線の骨肥厚・硬化
・溶骨性・骨硬化性病変
・非対称性が多い
頭蓋骨・長骨病変が多い
HLA-DR2
SQSTM1遺伝子
40歳以上
DISH
仙腸関節上部(靱帯部)が中心
・「強直」の出現
・脊椎部のskip lesion
・分厚い骨のbridgingと硬直
Flowing ossification(前縦靱帯・傍脊柱結合組織・4つ以上の隣接する椎体での異所性骨硬化)
・脊椎全体に起こるが、胸椎が典型的
・脊椎外の骨端骨化、手膝肘の関節周囲骨化、大腿四頭筋腱の骨化
COL6A1での複数SNP(一塩基多型)があることもある
50歳以上
腸骨硬化性骨炎
仙腸関節下部に隣接する腸骨の三角形状骨硬化
・骨びらんはない
・関節腔は正常(狭窄なし)
なし
HLA関連なし
中年
40歳未満の経産婦が中心
サルコイドーシス
・片側性が多いが、両側性の場合もある
仙腸関節辺縁の硬化、不整
・骨関節に肉芽腫が浸潤することで、滑膜・軟骨病変も起こりうる
・胸部X線…肺門リンパ腺腫脹(BHL)、浸潤影
・指X線…網状”レース状”パターンの骨所見
BTNL2遺伝子
中年
その他感染症
・感染から15日頃まではX線変化なし
・広範な骨びらん
・連続的な骨修復が発生し、強直が起こることもある
感染の局在に依存
HLA-B39(ブルセラ菌)
全年齢(若年・小児が典型的)
 

①骨パジェット病

  • 局所的な骨吸収亢進・骨形成の亢進の結果、骨構造異常・骨の形態的な腫大変形が起こる疾患
  • すべての骨で起こりうるが、仙腸関節にも起こりうる
  • 仙腸関節パジェット病は、皮質の肥厚・硬化を起こし、非対称性が中心
  • 診断
  • 治療…ビスホスホネート製剤、鎮痛剤

②びまん性特発性骨増殖症(DISH)


③腸骨硬化性骨炎(Osteitis condensans ilii:OCI)

  • 仙腸関節に隣接する腸骨の良性硬化を特徴とする疾患
  • 原因は不明だが、腸骨への機械的ストレスが原因と考えられている→経産婦に多い
  • 症状は軸性下背部痛が多く、背中のこわばりは少ない
  • 血液検査は正常で、腰痛以外の症状はない
  • X線写真
    • 仙腸関節下部の腸骨の三角形状骨硬化が特徴的
        • 仙腸関節腸骨側の三角形状骨硬化(Cureus. 2019;11(4):e4518.)
    • 骨びらん・関節腔狭小化はない
    • 両側性が典型的だが、片側性もある
        • 左腸骨の骨硬化(Ann Rheum Dis. 1954;13(2):147-156.)
  • 治療…鎮痛、理学療法

④サルコイドーシスによる仙腸骨炎

  • 全身性慢性肉芽腫症で、あらゆる臓器に影響する
  • その一つが骨サルコイドーシスで、まれに仙腸関節病変を起こす
  • 炎症性腰痛ではなく、機械性腰痛を起こす場合もある(Rheumatol Int. 2009;29(3):343-345.)
  • 画像
    • X線所見…強直性脊椎炎とほぼ同様(仙腸関節の硬化・不整)
        • (Rheumatol Int. 2009;29(3):343-345.)
  • 確定診断は生検での非乾酪性肉芽腫証明
    • ただし、結核除外に注意
 

仙腸関節感染症


⑥変形性仙腸関節

  • CT・MRIレベルではよくある変化
  • スポーツをしている若年者・高齢者で多く見られる
      • CT:腸骨上部の骨硬化・関節裂隙狭小化(Acta Reumatol Port. 2019;44(1):42-56.)
      • CT:腸骨下部の骨硬化(Acta Reumatol Port. 2019;44(1):42-56.)

副甲状腺機能亢進症

  • 骨吸収が亢進した結果、仙腸関節周辺の軟骨下骨吸収が起こり、関節不整・骨びらんなどが起こる
  • 通常は両側性で、腸骨側で変化が顕著
  • 画像
      • Xp:骨硬化・軟骨下骨吸収(Acta Reumatol Port. 2019;44(1):42-56.)
    • f:id:CTD_GIM:20220124114554p:plain

      • CT:軟骨下骨吸収・骨びらん(Acta Reumatol Port. 2019;44(1):42-56.)