膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

側頭動脈炎の鑑別

J Clin Med. 2022 Jan 5;11(1):275.
 
側頭動脈の血管炎がある場合、通常巨細胞性動脈炎(GCA)を想起するが、他の原因の場合もある
側頭動脈炎=巨細胞性動脈炎でない事がよく分かるレビュー
 
Key-point
  • 側頭動脈炎の原因として最多なのは巨細胞性動脈炎だが、側頭動脈に炎症を起こす疾患は他にもある
  • 非炎症性疾患としてはアテローム動脈硬化、炎症性疾患としてはANCA関連血管炎に注意する
  • 診断のゴールドスタンダードは側頭動脈生検だが、超音波所見で鑑別可能な場合もある
  • 生検を実施しない場合、ステロイドへの治療反応不良例に対して再度の病歴聴取・検査・生検等で鑑別することが重要

◎側頭動脈血管炎の鑑別診断

 
 
疫学
頭部臨床所見
頭部以外の臨床所見
検査所見
組織所見
(側頭動脈生検)
治療
巨細胞性動脈炎
GCA
発生率:50歳以上で、10万人あたり14.6人
有病率:10万人あたり75.5人
頭痛、頭皮圧痛、顎跛行
側頭動脈所見:硬化、圧痛、浮腫、脈拍減弱/消失
頭蓋内血管病変はない
PMR
四肢跛行…末梢脈拍の減弱/消失
虚血症状
・眼科:急性前部虚血性視神経症、中央網膜動脈閉塞、後部虚血性視神経症、複視
脳梗塞(椎骨脳底領域)
・四肢虚血
炎症反応高値(95%)
炎症性貧血、血小板増多(40-50%)
・肉芽腫性・非壊死性汎動脈炎
・単核細胞による中膜・内膜の炎症性細胞浸潤
・多核巨細胞浸潤
・内部弾性層の断片化
・中膜の破壊
・血管内腔狭小化
トシリズマブ、メトトレキサー
 
壊死性血管炎
…ANCA関連血管炎(AAV)、結節性多発動脈炎(PAN)
発生率
AAV: GPA、MPA、EGPAあわせて100万人あたり24.7-33.0人
PAN:100万人あたり0.9-8.0人
・側頭動脈病変の場合、88%で頭蓋症状(頭痛、顎跛行、頭皮圧痛、脈拍消失)
・関節痛、筋肉痛
-・皮膚症状(紫斑、壊死、リベドー)
・耳鼻科領域症状(鼻炎、副鼻腔炎
・眼科症状(外眼筋炎、強膜炎)
・末梢神経障害(単神経炎>多神経炎)
・糸球体腎症(AAV)、血管性腎症(PAN)
髄膜炎(GPA)
・肺の徴候
 喘息(EGPA)
 肺結節(GPA)
 肺胞出血
・心臓疾患(EGPA)
・消化器症状(消化管穿孔、膵炎、虫垂炎、腹膜炎)…主にPAN
炎症反応高値
ANCA陽性(AAV)
細胞浸潤を伴う壊死性血管炎(フィブリノイド壊死)
・AAV: 中膜・内膜に浸潤のない小血管(血管新生部・血管周囲への浸潤が特徴)
・PAN:側頭動脈・側副血行路への壊死性血管炎
免疫抑制剤(リツキシマブ、シクロホスファミド、メトトレキサート)
IgG4関連疾患
発生率:10万人あたり6人
側頭動脈等の動脈瘤
 
・後腹膜線維症
・リンパ節腫脹
・偽腫瘍
・膵炎、胆管炎
・涙腺炎、眼窩偽腫瘍
・唾液腺病変(Mikulicz、Küttner)
・肥厚性硬膜炎
・間質性肺疾患
・糸球体腎症または尿細管間質性腎症
・臓器障害に伴う生検査異常
・軽度の炎症反応上昇(30-40%)
好酸球増多(30-40%)
・低補体血症(30%)
・ポリクローナル高γグロブリン血症(70%)
・血清IgG4高値(>80%)
・IgE高値(>80%)
 
 
・頭頂皮質の外膜肥厚
・形質細胞・好酸球浸潤
・血管壁全体にIgG4陽性形質細胞散在
・動脈血栓症
・リツキシマブ
・アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)
非常に稀
・頭痛
・頭蓋内動脈病変(虚血性・出血性梗塞、脳動脈瘤、脳血栓性静脈炎、脊髄梗塞、脳神経症
・壊死性網膜炎
・虚血性視神経症
・大中血管狭窄、閉塞、血栓、解離
髄液中VZV-PCR陽性
血清・髄液中の抗VZV IgG/IgM
肉芽腫性動脈炎
血管壁炎症、中膜壊死、多核巨細胞・マクロファージ浸潤
VZV抗原陽性
・アシクロビル
ステロイドは無効
 
 
 

①巨細胞性動脈炎(GCA

  • 側頭動脈の血管炎の原因として最多
  • 50歳以降で発症し、70−80代での発症がピーク
  • 症状…非特異的症状・特異的症状に分かれる
    • f:id:CTD_GIM:20220115122037p:image

      • 側頭動脈の怒張、頭皮壊死
    • 非特異的症状:発熱(低頻度)、倦怠感、食欲不振、体重減少、関節痛(リウマチ性多発筋痛症)
    • 特異的症状:虚血症状…頭痛、顎跛行、頭皮圧痛、頭皮・舌壊死(稀)、視力低下、眼瞼下垂、脳卒中(椎骨脳底領域)
  • GCA表現型…2つに分かれる
    • f:id:CTD_GIM:20220115122044p:image

    • 罹病頻度…鎖骨下動脈(26-42.5%)、頸動脈(35-40%)、大腿動脈(30-37%)、腋窩動脈(14-17.5%)(Arthritis Rheum. 2006, 55, 131–137. )
    • Cephalic GCA…典型的GCA。頚動脈の頭蓋外分枝に病変を作り、側頭動脈病変が多い→圧痛を伴う硬結を作る
    • Large vessel vasculitis (LVV)-GCA…大動脈等の大血管の孤立病変、頭頚部血管病変はない
  • 画像診断
    • カラードップラー上の”Halo sign”(動脈壁の低エコー性肥厚・圧迫で潰れない)が特徴的…感度68%、特異度81%
      • GCA患者…低エコーの動脈壁肥厚
      • f:id:CTD_GIM:20220115122050p:image

    • ただし”Halo sign”には偽陽性もあるため注意…動脈硬化、他疾患(リンパ腫・梅毒など)
      • 動脈硬化患者…等/低エコー混在の動脈壁肥厚
      • f:id:CTD_GIM:20220115122103p:image

    • 超音波検査を繰り返すことによってGCA診断感度が上がる(Health Technol. Assess. 2016, 20, 1–238.)
    • PET-CTは非常に有効
    • 超音波検査…第一選択の検査
  • 組織生検…側頭動脈生検(TAB)
    • E:正常例。内膜構造が維持され、内部の弾性板構造が維持される。壁への単核球浸潤もなく、血管内腔が維持されている
    • F:GCA例、CD3染色。外膜・内幕接合部にT細胞浸潤があり、中膜・内部弾性板が破壊され、血管内腔が狭小化
    • 感度60−80%
    • 中膜あたは内膜に炎症性浸潤があることが絶対条件
    • f:id:CTD_GIM:20220115122118p:image

  • 治療…高用量ステロイドが中心

②壊死性血管炎

  • ANCA関連血管炎(AAV)・結節性多発性動脈炎(PAN)が原因で起こる
  • 側頭動脈生検の陽性患者322人の解析…317人は巨細胞性動脈炎だったが、3人はANCA関連血管炎・1人は結節性多発性動脈炎だった(Am J Surg Pathol. 2014 Oct;38(10):1360-70. )
    • →稀ではあるが、側頭動脈に炎症を起こす小・中型血管炎もある

◎ANCA関連血管炎による側頭動脈炎

  • 側頭動脈病変のあるAAVの症状
    • 頭部症状(頭痛、顎跛行、頭皮圧痛、側頭動脈脈拍消失)→GCAと共通
    • 全身症状(耳鼻咽頭症状・腎臓・肺・神経)→GCAとしては非典型的であり、ANCA測定につながる
  • AAVの血管生検所見
    • f:id:CTD_GIM:20220115122123p:image

    • 中膜・内膜への浸潤を伴わない、血管周囲小血管炎が特徴的
    • 動脈全体への炎症を起こすこともあるが、GCAとは異なりフィブリノイド壊死が見られる
    • T細胞・マクロファージ・好酸球の浸潤が多い
  • 側頭動脈炎があってもGCA症状が非典型的・ステロイド治療抵抗性場合、ANCA関連血管炎を疑う必要がある
    • 鑑別にはANCA測定・側頭動脈生検が有用
  • AAVとGCAステロイド投与後の治療が全く異なるため、鑑別することは非常に重要
 

◎結節性多発性動脈炎による側頭動脈炎

 

③血管外膜周囲の炎症

  • 側頭動脈そのものには炎症を起こしていない側頭動脈周囲の小血管炎(Small-vessel vasculitis: SVV)・外膜内の栄養血管炎(vasa vasorum vasculitis: VVV)は側頭動脈生検で偶発的に見つかった概念である(Arthritis Rheum. 2008 Aug;58(8):2565-73.)
  • 頻度…GCAと比較して稀だが、GCAと誤診されている場合が多い
    • 455例の側頭動脈生検→16例SVV、18例VVVであった
  • 病理
    • SVV…側頭動脈に炎症はなく、側頭動脈周囲の小型血管炎が特徴的(Arthritis Rheum. 2012 Feb;64(2):549-56.)
      • f:id:CTD_GIM:20220115122130j:image

    • VVV…側頭動脈の外膜栄養血管に限局した炎症(Arthritis Rheum. 2012 Feb;64(2):549-56.)
      • f:id:CTD_GIM:20220115122135j:image
  • 症状はGCA様だが軽症…頭部/全身症状ともに弱く、炎症反応もそれほど高くない
    • →SVV・VVVはGCAの軽症例?
  • 原因疾患…特発性大動脈炎、血清反応陰性関節炎、シェーグレン症候群、SLE、バージャー病、アミロイドーシス、悪性腫瘍、感染症など(J. Rheumatol. 2017, 44.)
  • 治療…ステロイド低用量、治療しなくても予後は変わらない?(Hum. Pathol. 2016, 57, 17–21.)
 

④IgG4関連疾患

  • 大中型血管炎を起こすことがある
    • 腹部大動脈が最多だが、冠動脈・上腸間膜動脈などもありうる
    • まれに側頭動脈炎を起こす…2例報告あり(Cases Innov. Tech. 2017, 3, 243–246.、Jt. Bone Spine 2021, 88, 105087.)
  • 側頭動脈生検…外膜肥厚、形質細胞浸潤、リンパ濾胞、血管壁全体のIgG4陽性形質細胞浸潤
    • A:形質細胞による血管壁炎症細胞浸潤(HE染色)、B:IgG4陽性形質細胞浸潤(Jt. Bone Spine 2021, 88, 105087.)
    • f:id:CTD_GIM:20220115122141j:image

 

⑤サルコイドーシス

  • 稀に血管炎を起こす…大血管が主体で、GCA・高安動脈炎との鑑別が必要
    • また、サルコイドーシス・GCA合併例の報告もある(Lancet 2015, 385, 2014.)
  • 側頭動脈生検…類上皮肉芽腫・ランゲルハンス巨細胞
    • f:id:CTD_GIM:20220115122148j:image

 

⑥水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)血管炎

  • 動脈内に感染を起こし、血管炎を起こすことがある
    • 大中型血管に発生→狭窄・閉塞・血栓症・解離を起こすことがある
    • 小型血管に発生することもある→脳内動脈の場合、脳卒中動脈瘤血栓性静脈炎・脊髄梗塞などを起こす(※非常に稀)
  • 診断…画像検査、VZV-PCR、髄液中抗VZV-IgG測定
  • 皮膚帯状疱疹発症から数週間-数ヶ月で発症することが多く、VZV血管炎罹病時に皮膚病変がないことも多い
  • まれに側頭動脈炎を起こし、鑑別が必要となる
  • ただGCA患者でも側頭動脈のVZV抗原陽性例があったり、ステロイド投与に対して治療抵抗性だったが、ガンシクロビル投与で改善したという報告もある→VZVがGCA発症の原因である可能性もある?(Curr. Opin. Rheumatol. 2016, 28, 376–382.)
 

⑦側頭動脈の外傷後

  • 側頭動脈周囲の手術(耳鼻科領域)後に、側頭動脈の仮性動脈瘤ができることがある
    • 右浅側頭動脈の仮性動脈瘤(J Clin Neurosci. 2014 Sep;21(9):1529-32.)
    • f:id:CTD_GIM:20220115122153j:image

 

⑧アテローム動脈硬化

  • GCA同様に高齢者で多く、鑑別が重要
  • 超音波検査…内・外膜の肥厚はあるが、高〜等輝度エコーとなり、低エコーは稀
    • 側頭動脈の動脈硬化、動脈壁肥厚はあるが、低エコー域はわずか
    • Holo-signと誤認する場合がある
    • f:id:CTD_GIM:20220115122157j:image

  • 頚動脈のIMT(内膜と中膜を併せた厚さ)>0.9mm、側頭動脈IMT>0.34mmはアテローム動脈硬化に伴うHalo-signの可能性が高くなる(Rheumatology (Oxford). 2018 Feb 1;57(2):318-321.)
 

⑨カルシフィラキシス(Calciphylaxis)

  • 末期腎不全に伴う細動脈・軟部組織の石灰化
    • 炎症ではなく、血管障害
  • 進行すると虚血・壊死を起こし、皮膚疼痛・潰瘍を起こす→GCAの頭部症状・眼科症状(失明など)を模倣しうる
  • 高血圧・末期腎不全の70代前後の男性に好発(Clin. Rheumatol. 2015, 34, 1985–1988. )
  • 組織生検…中膜の石灰化、血管内腔狭小化、フィブリン微小血栓
  • 参考:

    ctd-gim.hatenablog.com