大別すれば
①IBD単独、血清マーカーだけ陽性(血管炎合併なし)
②IBDと血管炎合併
③IBDそのものが血管炎を起こす(腸外症状の一部)
④血管炎がIBDのような消化器症状を起こす
という4種類に分かれると思われる。それぞれについてまとめてみた。
①血清マーカーだけ陽性
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炎症性腸疾患の診断の基本は、内視鏡所見+病理所見だが、自己抗体に関しての研究も進んでいる
表:IBDと自己抗体の陽性率(J Immunol Res. 2014;2014:185416.)
※ASCA:抗Saccharomycescerevisiae抗体、MZGP2:pancreatic zymogen granule protein 2 (GP2)
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特に問題となるのがPR3-ANCAで、UC患者で比較的高率に陽性となる→UCとCrohn病の鑑別に有用という報告もある(Clin Chim Acta. 2013;424:267-273.)
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PR3-ANCA>100U/mlの場合もあり、高力価陽性の方がUC重症度が高いとされている(Gut Liver. 2022;16(1):92-100.)
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PSC(原発性硬化性胆管炎)の合併予測マーカーとして有用という報告がある(PLoS One. 2014;9(11):e112877.)
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ANCA陽性・陰性での差に関しては、よくわかっていない(差があるとするものもあればそうでないものもある)(Pathology. 2019;51(6):634-639.)
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PR3-ANCA陽性だと重症度高いとする報告が多め(Clin Chim Acta. 2013;424:267-273.など)
②本当にIBDと血管炎が合併した例
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ケースシリーズレベルでは報告多い。罹病率はよくわかっていないが、非常に低いと思われる。
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多いのは大血管炎(主に高安動脈炎)、皮膚血管炎、ANCA関連血管炎(主にGPA:多発血管炎性肉芽腫症)
1. 高安動脈炎+IBD
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報告はかなり多く、日本からの報告が論文上は多い
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TAK患者470人中30人(6.4%)がUC合併(Arthritis Rheumatol. 2015;67(8):2226-2232.)
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TAK患者198例の解析…12例(6%)で炎症性腸疾患合併(Clin Exp Rheumatol. 2020;38 Suppl 124(2):61-68.)
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特にHLA-B52:01アリルの関与が報告されており、これが陽性の場合高安動脈炎+UC合併率は非常に高い
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高安とIBDの関連予測にANCAは役に立たなかった(Int J Rheum Dis. 2016;19(8):814-818.)
2.ANCA関連血管炎+IBD
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きわめて稀
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フランスの血管炎データベース解析…ANCA血管炎1607人中11人がIBD合併(Rheumatology (Oxford). 2015;54(11):1970-1975.)
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MPA患者は0人
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4人がEGPA+Crohn病、7人がGPA+UC
③IBDによる腸外症状
IBDは腸外にも症状をきたすことがあり、一部は血管炎症状と言われている
表:IBDの腸外症状一覧
(Gastroenterology. 2021;161(4):1118-1132, UpToDate"Clinical manifestations, diagnosis, and prognosis of ulcerative colitis in adults")
④血管炎による腸管(消化器)症状
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血管炎そのものから消化器症状が起こることもある
表:血管炎と消化器症状一覧(Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2017;14(3):185-194.)
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GPA
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5-11%に消化器症状
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消化管のどこでも起こるが、小腸・大腸に多い
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IBDを合併例では、鑑別が困難
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生検は深部まで行えば血管炎所見つかめるが、穿孔リスクが高い→非推奨
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5-30%に消化器症状
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腹痛、吐き気、嘔吐、下痢などの症状が多い
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まれに大腸虚血性潰瘍、腹膜炎、腸管穿孔なども起こる
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EGPA
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腸間膜動脈血管炎によるものと思われる
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30-50%に消化器症状
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非特異的な事が多い…腹痛(91%)、下痢(45%)、下血・血便、嘔気など
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稀に腸管梗塞・穿孔を起こす可能性がある(特に小腸)
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その他…無石胆嚢炎など
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結節性多発性動脈炎(PN)
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腹痛が多い…35-95%
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原因は腸間膜血管の壊死性炎症とされる