膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ANCA関連血管炎の新分類基準(ACR/EULAR2022年基準)

Arthritis Rheumatol. 2022;10.1002/art.41986.
Arthritis Rheumatol. 2022;10.1002/art.41983.
Arthritis Rheumatol. 2022;10.1002/art.41982.
 
ACR(アメリカリウマチ学会)/EULAR(ヨーロッパリウマチ学会)合同でのANCA関連血管炎の新分類基準が出たので紹介
いつものことだがあくまでも「分類基準」であっても「診断基準」ではない
  • あくまでも研究用の基準。他血管炎と区別することを目的としており、診断を確立させる目的ではない
  • 血管炎を模倣する疾患(ミミック)除外が前提条件
ただ内容から「ANCA関連血管炎らしさ」を知るという意味で役立つ
 

①多発血管炎性肉芽腫症(GPA)分類基準(Arthritis Rheumatol. 2022;10.1002/art.41986.)

 
GPA分類基準
基準適応前の前提条件
  • 小/中型血管炎と診断した際、以下の分類基準を用いてGPAと分類する
  • 分類基準を適応する前に、血管炎を模倣する疾患の除外が予め必要である
臨床基準
点数
  • 鼻腔病変:血性分泌物、潰瘍、痂皮、鼻閉・鼻詰まり、鼻中隔欠損・穿孔
+3
  • 軟骨病変:耳・鼻軟骨の炎症、嗄声・stridor、気管支病変、鞍鼻
+2
  • 伝導性・感音性難聴
+1
検査・画像・生検基準
  • cANCA or PR3-ANCA陽性
+5
  • 胸部画像…肺結節、腫瘤、空洞病変
+2
  • 生検…肉芽腫、血管外肉芽腫性炎症、巨細胞
+2
  • 画像…鼻/副鼻腔の炎症・コンソリデーション・液体貯留、乳様突起炎
+1
  • 生検…Pauci-immune型糸球体腎炎
+1
  • pANCA or MPO-ANCA陽性
-1
  • 血液好酸球数≧1x10^9/L(≧1,000/μL)
-4
10項目の合計点が5点以上の場合、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と分類

◎感度分析

検証用のGPA患者群に適応した場合…感度92.5%、特異度93.8%
  • f:id:CTD_GIM:20220203152521p:image

データベースからランダム選択したGPA患者群に適応した場合…感度94.6%、特異度83.8%
  • GPA旧分類基準(1990年ACR分類基準)の場合、感度69.3%、特異度75.8%
    • ※GPA1990年ACR分類基準…以下の4項目中2項目を満たす場合GPAと診断する(Arthritis Rheum. 1990;33:1094-100.)
      1. 鼻・口腔内の炎症…有痛性or無痛性口腔内潰瘍、化膿性or血性鼻汁
      2. 胸部X線異常影…肺結節、肺空洞陰影、固定性浸潤
      3. 尿所見異常…顕微鏡的血尿(>5 RBC/HPF)、または赤血球円柱
      4. 生検での肉芽腫性炎症の証明…動脈壁・血管周囲・血管外領域いずれかに肉芽腫性病変あり
 

②顕微鏡的多発血管炎(MPA)分類基準(Arthritis Rheumatol. 2022;10.1002/art.41983.)

MPA分類基準
基準適応前の前提条件
  • 小/中型血管炎と診断した際、以下の分類基準を用いてMPAと分類する
  • 分類基準を適応する前に、血管炎を模倣する疾患の除外が予め必要である
臨床基準
点数
  • 鼻腔病変:血性分泌物、潰瘍、痂皮、鼻閉・鼻詰まり、鼻中隔欠損・穿孔
-3
検査・画像・生検基準
  • pANCA or MPO-ANCA陽性
+6
  • 胸部画像…線維化、間質性肺疾患
+3
  • 生検…Pauci-immune型糸球体腎炎
+3
  • cANCA or PR3-ANCA陽性
-1
  • 血液好酸球数≧1x10^9/L(≧1,000/μL)
-4
6項目の合計点が5点以上の場合、顕微鏡的多発血管炎(MPA)と分類

◎感度分析

検証用のMPA患者群に適応した場合…感度90.8%、特異度94.2%
  • f:id:CTD_GIM:20220203152527p:image

データベースからランダム選択したMPA患者群に適応した場合…感度82.4%、特異度92.5%

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)(Arthritis Rheumatol. 2022;10.1002/art.41982.)

EGPA分類基準
基準適応前の前提条件
  • 小/中型血管炎と診断した際、以下の分類基準を用いてEGPAと分類する
  • 分類基準を適応する前に、血管炎を模倣する疾患の除外が予め必要である
臨床基準
点数
  • 閉塞性気道疾患
+3
  • 鼻ポリープ
+3
  • 多発単ニューロパチー
+1
検査・生検基準
  • 血液好酸球数≧1x10^9/L(≧1,000/μL)
+5
  • 生検…血管外の好酸球優位の炎症所見
+2
  • cANCA or PR3-ANCA陽性
-3
  • 血尿
-1
7項目の合計点が6点以上の場合、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)と分類

◎感度分析

検証用のEGPA患者群に適応した場合…感度84.9%、特異度99.1%
  • f:id:CTD_GIM:20220203163104p:plain

     
データベースからランダム選択したEGPA患者群に適応した場合…感度75%、特異度99%

【感想】

  • 血管炎の分類基準はACR1990年、日本厚生労働省基準などが使われていた
  • 今回のACR/EULAR2022年基準はGPA/MPAともに簡潔な内容になっており、重み付けを行う形となった
  • この基準から自分が得た感想は以下の通り
    • GPAは頭頚部症状が多い一方で、MPAは非特異的症状が多く臨床所見を当てにしにくい、ということがよく分かる(MPAの臨床基準がほぼない)
    • ANCA陰性Pauci-immune型糸球体腎炎もANCA関連血管炎と診断可能な場合がある
    • MPAの「肺繊維化」に点数を与えた(MPO-ANCA陽性間質性肺疾患をMPAと言いやすくしている?)
    • 非典型的症例をカバーしようとしている
      • MPO-ANCA陽性GPA・PR3-ANCA陽性MPAの存在をしっかり考慮している(-1点だが…)
      • ANCA陽性で他所見がかなり特徴的なら、好酸球数が増えていようとEGPAではなくMPA/EGPAと分類できるようにしている