膠原病・リウマチ一人抄読会

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EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)レビュー

Trivioli G, Terrier B, Vaglio A. Eosinophilic granulomatosis with polyangiitis: understanding the disease and its management. Rheumatology (Oxford). 2020;59(Suppl 3):iii84-iii94. doi:10.1093/rheumatology/kez570
EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)はANCA関連血管炎の一種とはされるが、かなり病態・治療が他のANCA関連血管炎とことなるので、比較的最近のレビューをまとめ。
 
Key-point
  • EGPAは主に「血管炎」症状を起こすANCA陽性型と、主に「好酸球性」症状を起こすANCA陰性型で構成される
  • 臨床症状は多彩で、好酸球増多症・血管炎などの疾患を模倣した症状を起こす
  • Rituximab・Mepolizumabは、難治性・再発性症例に有効であることが示されている

【Intro】

  • EGPA(Eosinophilic granulomatosis with polyangitis: 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、”Churg-Strauss症候群”)は、成人発症の喘息・臓器病変を伴う血液/組織の好酸球増多・少血管炎を特徴とする免疫性疾患である
  • 症状は非常に多彩で、患者ごとで症状が大きく異なる
  • EGPAのサブセットは2つに分けれる
    • 「血管炎」症状を起こすANCA陽性型
    • 好酸球性」症状を起こすANCA陰性型
 

【分類・疫学】

  • EGPAはANCA関連血管炎の一種に分類されてはいるが、GPA(多発血管炎性肉芽腫症)・MPA(顕微鏡的多発血管炎)とはかなり異なる
  • 異なる点
    • ANCA陽性率が低い…EGPAでのANCA陽性率は30-40%
    • 血管炎の病理所見を示さないEGPAもいる好酸球増多症(HES)に分類できるEGPAもいる
  • 有病率…年間発症率は0.5~4.2例/100万人、有病率は14~18例/106人と推定されている(Best Pract Res Clin Rheumatol 2005;19:191–207.)
    • 地域差はあまりないとされている(Rheumatology (Oxford). 2011;50(10):1916-1920.)
 

【臨床症状・検査所見】

  • EGPAは、前駆症状→好酸球性症状→血管炎、という3段階を経て進行する
    1. 前駆症状…喘息、副鼻腔炎→通常8−10年後好酸球症状・血管炎症状を起こす
    2. 好酸球症状…肺浸潤、消化器症状、好酸球性心筋症
    3. 血管炎症状…糸球体腎炎・紫斑・ニューロパチー
  • ただし、各段階がオーバーラップする場合・好酸球/血管炎症状の全く無い場合もあり、一律に3段階を経ない場合もある
  • ANCAの有無によって症状が異なるのも特徴
 
表:ANCAに応じたEGPAの症状・転機
特徴
ANCA+(%)
ANCA-(%)
研究間での統計的有意差
前駆症状
 全身症状
57-85
42-54
 
 喘息
95-100
97-100
 
 副鼻腔炎/鼻ポリープ
51-77
38-78
 
 診断前の喘息期間(年)
 ※中央値
3-10
7-9
 
臓器症状
 肺浸潤
40-56
39-71
*
 胸水
5
12
*
 肺胞出血
7-20
0-3
*
 心筋症
8-9
19-33
***
 心膜炎
7-13
17-36
*
腎症状
27-51
12-16
***
皮膚症状
45-60
36-48
 
 紫斑
25-29
7-20
****
末梢神経症
63-84
44-65
*
 多発単ニューロパチー
51-54
24-39
****
中枢神経症
3-17
7-12
 
消化器症状
20-42
22-26
 
7
8
 
疾患評価
 BVAS中央値
21-22
17-18
 
 FFS≧2
3-25
7-12
 
 好酸球増多>10%
91
97
 
 生検での小血管炎
76-79
31-32
****
転機
 喘息・耳鼻咽頭症状の悪化
20
19
 
 5年間再発リスク
35-46
22-35
*
 5年生存率
92-95
88-97
 
 10年生存率
89
76
*
アスタリスク数は統計的に有意差の出た研究の多さで記載
※FFS…Five Factor Score、EGPAの予後因子のスコア(Medicine (Baltimore). 1996;75(1):17-28.)
  • 蛋白尿(>1g/day)
  • 消化器症状
  • 腎機能障害(Cre>1.58mg/dL)
  • 中枢神経障害
  • 心筋症

①喘息・副鼻腔症状

  • 喘息は95-100%の患者で発症し、最初の症状であることが大半
  • 成人発症・喀痰中の好酸球増加・アレルギー検査は陰性が特徴で、再発性の鼻炎・副鼻腔炎も多い
  • 患者の約半数が鼻ポリープに罹患しており、免疫抑制療法を受けていない患者では、通常術後再発する
    • f:id:CTD_GIM:20210916201637p:image

      • a. 両側上顎洞炎、b. 左鼻腔粘膜ポリープ
  • ただし応用症状は重症の成人発症喘息にも見られる→EGPAの前駆症状or不完全型EGPA?
  • 上記症状がある場合、全身症状への進展の可能性を考え、密なフォローアップがいいと思われる
 

②臓器症状

肺症状
  • 肺浸潤は40−60%で見られるEGPAで最も一般的な症状の一つ
  • 胸部X線写真…末梢斑状影として出現し、移動性のことが多い
  • 肺CT…間質性肺炎、非空洞性結節、気管支壁肥厚が多い
    • ごく一部でびまん性肺胞出血が起こり、致命的な場合がある
  • f:id:CTD_GIM:20210916201644p:imagef:id:CTD_GIM:20210916201649p:image

    • d. びまん性すりガラス影
    • e. 左肺胸膜下陰影・中隔/気管支の肥厚・牽引性気管支拡張
    • f. 大葉性肺炎・小葉中隔の肥厚を伴う網状陰影
心臓症状
  • 他のANCA関連血管炎(GPA・MPA)と比較して心臓症状が多い…30-45%で発生
  • 主には心筋症で、心筋内への好酸球浸潤に起因する
  • ANCA陽性例が多く、左心室機能障害・好酸球関連心内膜障害による心室血栓が起こる事がある
  • 心筋症は死亡リスクと関連があり、MRIでの評価が有用
    • f:id:CTD_GIM:20210916201656p:image

       
      • 心臓MRI心室中隔・乳頭筋における後期Gd造影点状高信号
消化器症状
  • あまり頻繁には発生しない
  • 症状…非特異的な腹痛・下痢・軽度の出血
  • 検査
    • カプセル内視鏡…小腸に限局的な病変が多いため有用
    • 腹部CT…腸管肥厚など
  • まれに腸穿孔・膵炎などを起こすことがある
腎症状
  • GPA・MPAと比較して稀だが重症
  • 尿所見異常(軽度蛋白尿・顕微鏡的血尿)が患者の最大1/4で見られるが、腎不全はまれ
  • <5%の患者で急速進行性糸球体腎炎をおこし、予後を左右する
皮膚病変
  • Palpable purpuraが一般的だが、livedo racemosa・皮膚潰瘍・結節が起こる患者もごく一部いる
  • 一部の患者ではアレルギー性好酸球性症状を起こし、病理では肉芽腫性浸潤を示す蕁麻疹様発疹を起こす
末梢神経病変
  • 50%以上の患者に発生
  • 多発単神経炎を起こすことが多いが、対称的下肢症状を起こすこともある
 

【検査データ・表現型】

  • ほぼ全例に好酸球増加はあり、疾患活動性と相関する
  • CRP等の炎症マーカーも活動期に上昇する
  • IgE高値は多いが、一般的なアレルゲン検査の得意性は低い
  • ANCAは30-40%で陽性であるが、ANCA陽性・陰性によって症状が異なる
    • ANCA陽性例…糸球体腎炎、皮膚紫斑、末梢神経障害などの血管炎症状が多い
    • ANCA陰性例…心筋症、消化器症状、肺浸潤の頻度が多い
      • この2つは部分的に重複している
  • EGPAは2つの表現型に分かれる
    1. MPO-ANCAと血管炎症状が強く、ANCA関連血管炎に類似する
    2. 顕著な好酸球症状を示す→好酸球増多症(HES)に近い
  • ANCA陽性例では再発リスクが高いが、ANCA陰性例では死亡リスクが高い
 

【その他の症状】

  • DVT(深部静脈血栓症)リスクが高い…EGPA診断時の10%にDVTがあったという報告もある
    • 好酸球による内皮障害→凝固亢進が原因?
    • MPO-ANCA陽性例で多い
  • その他後腹膜・膵臓・唾液腺腫瘍様腫瘤を起こすことがある…IgG4関連疾患様で、一部はoverwrapしている?
 

【診断・鑑別診断】

  • 典型例は喘息・好酸球増多・好酸球性症状・血管炎症状→すべてが揃っていれば診断は比較的容易
  • ただし揃っていない不完全な症例では、EGPAと認識するのが困難→EGPAを疑った場合臓器症状・典型症状をスクリーニングすることが重要
 
◎鑑別診断(ミミック疾患)
症状
鑑別
備考
好酸球増多
喘息・アトピー
好酸球数>1500/μLになるのはまれ
薬剤性
重症の場合はEGPA症状を模倣した臓器症状を起こす可能性がある
HES(好酸球増加症候群)
・ANCA陰性EGPAでの鑑別は困難
・骨髄増殖性HESは肝脾腫・血球減少・血清VitB12上昇・末梢血異常・遺伝子異常(FIP1L1-PDGFRα融合遺伝子など)が多い
 ※ただしEGPAでFIP1L1-PDGFRα融合遺伝子陽性例もある
・リンパ球性HESは皮膚症状・気道閉塞の頻度が高く、よりEGPAに近い
消化器症状
便培養で鑑別(感度は低い)
トキソカラ症・糞線虫症(Strongyloides stercoralis)は重度の好酸球増多を示すことがある
好酸球増多+呼吸器症状
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
慢性好酸球性肺炎
呼吸器症状に限局したEGPAと鑑別は困難→全身症状有無・経過で判別することが多い
血管炎症状
GPA・MPA
GPA…肺結節・副鼻腔骨びらんが多い、PR3-ANCA陽性が多い
MPA…EGPAよりも高齢患者で、腎障害が多い
 

【病理】

  • 組織の好酸球増加、小血管炎所見、周囲組織に壊死性好酸球浸潤を伴う血管外の肉芽腫所見が特徴的
  • ただしEGPAの病理は病変部位・病期によって大きく異る
    • 腎生検…好酸球浸潤は稀、肉芽腫形成のない局所的な半月体形成性糸球体腎炎(Am J Kidney Dis. 2006;47(5):770-779.)
    • 腓腹筋神経生検…神経外のリンパ球性血管炎(Brain. 1999;122 ( Pt 3):427-439.)
    • 皮膚紫斑の生検…好中球破砕像
    • 心内膜生検…好酸球浸潤(肉芽腫は伴う場合も伴わない場合もありうる)、好酸球性冠動脈炎
    • 肺病変…血管外肉芽腫を伴う好酸球浸潤、毛細血管炎など
  • ANCA陰性例より陽性例のほうが生検上の小血管炎が多い
 

【治療】

  • Five Factor Score(FFS)・重症度に基づいて治療方針を決定する
  • ※参考:

     

    ctd-gim.hatenablog.com

     

    • f:id:CTD_GIM:20210916201702p:image

ステロイド・従来の免疫抑制療法
  • ステロイドはEGPA治療の中心である
  • PSL1mg/kgで開始し、徐々に漸減していく
  • CYC(シクロホスファミド)は重症例/FFS≧1点の症例に用いるが、不妊等の問題に注意
  • 維持療法…CYC→アザチオプリン(2mg/kg/day)、メトトレキサート(0.3mg/kg/week)への切り替えが多い
  • ただ、ステロイド+アザチオプリンでの治療は再発率が高いことが知られている(Rheumatology (Oxford). 2019;58(12):2107-2116.)
◎生物学的製剤
 

【結論】

  • EGPAは好酸球増多症と小血管炎を起こす複雑な疾患である
  • 臨床表現型は多彩で様々な症状を起こすため、ミミック疾患の除外が重要
  • ANCA陽性例・陰性例など患者サブグループの分析によって様々な症状・病理所見・治療感度があることがわかっている
  • 従来の治療は良好な生存率を可能としているが、治療関連毒性・再発リスクなどが問題となっておりデータ不足である