膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

リウマトイド血管炎

Autoimmun Rev. 2023;103391.
リウマトイド血管炎(Rheumatoid vasculitis: RV)は、RAの関節外症状として有名だが、RA治療の改善とともに減少傾向にある。
ただ、多彩な臓器症状・鑑別疾患の多彩さ・治療の難しさなど難しい例も散見される。治療としてはRituximabが中心だが、保険的に使いにくいのが難点。

◎機序・疫学

高力価のリウマトイド因子(RF)・免疫複合体 の血管壁への沈着→補体経路を活性化→好中球動員→血管炎、という機序が提唱されている
 
報告のあるリスク因子は以下の通り
  リスク因子 保護因子
環境
因子
RA診断時の喫煙
RA診断時の喫煙+末梢血管/脳血管疾患
-
疾患
特徴
重症RA(X線写真上の骨びらん、リウマトイド結節、関節手術が必要)
RF陽性
-
治療
因子
生物学的製剤の使用
TNF阻害薬
ヒドロキシクロロキンの使用
低用量アスピリン
TNF阻害薬
遺伝
因子
HLA-DRB1*1402
HLA-DRB1*0101
HLA-DRB1*04
HLA-DRB1*04 SE欠損患者におけるHLA-C3 
HLA-DRB5*01
HLA-C*0802
  • RAの活動性が低い場合でも発生したという報告あり、注意
 

◎症状

多い臓器症状は、皮膚(65-88%)、末梢神経(35-63%)、心臓(33%)
 
  • 皮膚症状…様々。
    • Bywater病変…爪周囲や指先の小さな褐色壊死性丘疹、非好中球性毛細血管炎と浅在性真皮血管の微小梗塞
    • 皮膚病変は影響を受ける血管のサイズによって異なる…小血管炎、中血管炎など
  • 末梢神経障害…血管炎による神経梗塞によって発生する。多発性単神経炎など。
  • 心病変…約3分の1で見られる。心膜炎が代表的。その他、不整脈、大動脈弁閉鎖不全症、心筋梗塞など。
  • 眼…結膜炎、強膜炎、潰瘍性角膜炎
  • その他稀なもの…肺血管炎(1%)、壊死性糸球体腎炎(1%)、腸管病変(2%)など
 
重症度予測…皮膚、多発性単神経炎、腸管
死亡率と相関…皮膚血管炎、3or4肢の神経障害、診断時のC4値低下
 

◎診断

古典的なRV診断基準は以下の通り(Scott and Bacon 1984年基準、Am J Med. 1984 Mar;76(3):377–84.)
以下のうち、1つ以上が存在
  1. 多発性単神経炎
  2. 末梢の壊疽
  3. 全身性疾患(体重減少、発熱など)に伴う急性壊死性動脈炎の生検所見
  4. 非典型的な梗塞または血管炎の生検証拠を伴う場合、深部皮膚潰瘍or活動性の関節外所見(胸膜炎、心膜炎、強膜炎など)
確定診断は、皮膚または筋肉の生検で血管炎所見の確認
  • 皮膚所見は以下の2つが典型的…好中球性浸潤が主体の小血管炎(leukocytoclastic vasculitis)
  • 真皮-皮下血管接合部の壊死性血管炎(中型血管炎、cPAN様)
     
RFIgA陽性と血清C3値の低下が特徴的とする報告もある(Ann Rheum Dis. 2003;62(5):407-413.)
 
ただ現在はRVの病態生理と症状の理解が進み、Scott and Bacon 1984年基準は適切ではなくなった
 
以下が改訂案


除外
以下を除外
  • 中毒性・薬剤誘発性血管炎…病歴聴取、内因性・外因性の原因関連データ
  • 感染症:…血液培養、感染症血清学検査(例:HCVHIVなど)、経胸壁心エコー
  • 固形・血液悪性腫瘍…血液検査、前立腺特異抗原、画像検査
  • その他自己免疫疾患…血清蛋白電気泳動、抗核抗体、特異抗体(SSA、SSB、ds-DNA、Sm、RNP)、抗リン脂質抗体、ANCA、クリオグロブリン血症、IgA関連血管炎



所見


1
臨床症状:
  • 皮膚症状: 小~中型血管血管炎を示唆する皮膚所見
  • 末梢神経障害: 多発単神経炎、感覚/運動性末梢性神経障害
  • 心臓症状: 心外膜炎/タンポナーデ、急性大動脈弁不全、不整脈心筋梗塞
  • 稀な症状…眼、中枢神経、肺、消化管血管炎、壊死性糸球体腎炎
2 全身症状…倦怠感、体重減少、筋肉痛、発熱
3 生物学的特徴…ACPA・RF陽性



診断

以下の場合TNF阻害薬誘発性RVを考慮
  • TNF阻害薬治療開始後のRVの短時間発症
  • TNF阻害薬中止後の良好な反応
以下の場合、組織学的所見不要でRVを考慮
  • 典型的なBywater皮膚病変+生物学的特徴
  • 異なる2つ以上の臨床症状+全身症状+生物学的特徴
  • 異なる2つ以上の臨床症状+生物学的特徴
その他の症例では、可能であれば血管炎の組織所見を得るよう考慮する…例:孤立性皮膚症状+生物学的特徴、TNF阻害薬誘発RVなど
 

◎治療

完全にエキスパートオピニオン。初期高用量ステロイド+TNFi/RTX→ステロイド漸減が基本。
 
-ステロイド・csDMARDs
  • TNFi・RTXの効果が出るまで6w-3ヶ月程度かかるため、”bridging”として使用する
  • mPSL投与(0.5~1mg/kg/日×3日間)→3ヵ月かけて漸減
  • MTXはできる限り継続+最適化…投与量調整・皮下注への切り替え
 
-生物学的製剤
  • 生物学的製剤未使用→TNFi・Rituximab(RTX)がRVの治療に有効とされる
    • TNFi誘発RVの頻度は非常に低いため、TNFiを避ける必要はないとされる
  • 生物学的製剤使用中のRV
    • 血漿交換はほぼデータなし。IVIG・その他b/tsDMARDs(TCZ、ABT、JAK阻害剤)は症例報告のみ。
    • TNFi使用中…TNF阻害薬中止・他生物学的製剤(RTX)へのスイッチを考慮。HCQ追加を考慮。
    • TNFi・RTX以外の生物学的製剤(TCZ,ABT)…TNFi、RTXにスイッチ
    • TNFi・RTXに抵抗性…シクロホスファミドが適応。