膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

SLEのまれな臨床所見

Clin Exp Rheumatol. 2022;10.55563/clinexprheumatol/jrz47c.
 
SLEな様々な臨床所見があるが、特に珍しい所見をまとめた症例ベースでのレビュー。
 
病変部位
頻度
消化器
ループス腸炎 0.59 -10.7%
偽性腸閉塞症 0.5- 4%
蛋白喪失性腸症 0.5 -7.5%
膵炎 0.1-5.5%
無石胆嚢炎 0.15-0.5%
肝臓
ループス肝炎 9.3%
自己免疫性肝炎 2.3%
間質性肺疾患 4%
Shrinking lung syndrome 1.5%
ループス肺炎 3%
心臓
心筋炎 0.4-6%
肺動脈性肺高血圧症 1-14%
上強膜炎・強膜炎 1.7-3.1%
前部ぶどう膜炎 0.6-0.8%
ループス網膜症 1.2-28.8%
神経
無菌性髄膜炎 <1%
Chorea 0.3-2.4%

◎消化器

  • SLEの初期症状として、消化器症状が現れることがある
  • 胃腸症状はSLE患者の15-60%に認められ、多くは非特異的
    • 多い症状…腹痛、吐き気、嘔吐、下痢
  • 主な発症機序…小血管炎、平滑筋機能障害、リンパ管拡張症など
 
ループス腸炎
有病率 0.59 -10.7%
画像所見…腸壁の肥厚、腸の拡張、target sign、comb sign
偽性腸閉塞症
有病率 0.5 - 4%
機械的閉塞を伴わない腸管拡張
泌尿器症状(ループス膀胱炎、尿管水腎症など)の合併が多い
その他
蛋白喪失性腸症 (0.5 -7.5%)
膵炎 (0.1-5.5%)
無石性胆嚢炎 (0.15-0.5%)
 

◎肝臓

  • SLE患者の25-60%が疾患の経過中に肝障害を示すといわれる
  • 多くは治療副作用・感染症による非特異的な異常
  • SLE患者における肝機能障害の原因…薬剤(30.9%)、SLE自体(28.5%)、脂肪肝(17.9%)、自己免疫性肝炎(4.9%)、原発性胆管炎(2.4%)、胆管炎(1.6%)、アルコール(1.6%)、ウイルス性肝炎(0.8%)(Intern Med 2013; 52: 1461-5)
 
ループス肝炎
30.7%でSLEの初発症状
併発した疾患は、血液疾患(60.8%)、皮膚粘膜疾患(59.5%)、関節疾患(48.1%)、腎疾患(46.8%)
自己抗体…抗dsDNA抗体、抗リボソームP抗体が多い
自己免疫性肝炎
SLEで合併する例あり
肝機能障害のあるSLEで患者の5-10%に見られる
原発性胆汁性胆管炎
合併は非常にまれ
ループス肝炎と自己免疫性肝炎の鑑別は難しく、肝生検が推奨される

◎肺

  • SLE患者の50%に発生し、胸膜炎が最多
  • ただし感染症も非常に多く、SLE症状との鑑別が必要
(一覧に関してはTher Adv Musculoskelet Dis. 2021;13:1759720X211040696.より引用)
ループス胸膜炎
  • SLEの肺病変で最多(最大50%)
  • リスク…長期罹患、慢性的なダメージ、高齢発症SLE、抗RNP抗体、抗Sm抗体
  • 症状…胸痛・発熱・咳嗽・呼吸困難など
    • 無症状も多い(画像で初指摘)
  • 胸水…両側性・滲出性であることが多く、少量〜中等量であることが一般的
    • 外観は様々
    • 検査:多形核細胞、糖低値、LDH高値、補体低値・抗核抗体陽性など
  • 胸腔鏡検査…免疫複合体沈着のある臓側胸膜結節が検出されることもある
  • 治療…NSAIDs、NSAIDs非反応例ではステロイド
    • 難治例では、アザチオプリン(AZP)・メトトレキサート(MTX)・ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、ベリムマブなどの報告あり
急性ループス肺炎(ALP)
  • 稀だが、重症
  • リスク…他臓器の再燃時、抗Ro/SSA抗体陽性
  • 重度の呼吸器疾患(呼吸困難、頻呼吸、低酸素血症)・発熱・咳・肺底部雑音を伴う急性発症の肺炎
  • HRCT…胸水随伴が多い、斑状の両側浸潤影・すりガラス陰影
  • 鑑別診断…感染症、組織性肺炎(OP)、肺塞栓、薬物中毒、異種肺胞出血(DAH)、悪性腫瘍→診断難重する場合、肺生検が推奨される
  • 治療…ステロイド高用量+免疫抑制剤併用が中心
    • PSL1mg/kg/day、パルスも考慮
    • 免疫抑制剤…AZA、MMF、シクロホスファミド(CYC)など
    • 難治例…IVIG、血漿交換の報告あり
びまん性肺胞出血(DAH)
  • 稀だが、致命的
  • 血清学的・臨床的に高活動性の若年女性に多い
  • リスク…抗Ro/SSA抗体、血小板減少、CRP上昇、抗リン脂質抗体陽性など
  • 症状…急性/亜急性の呼吸困難、咳嗽、喀血、貧血
  • 胸部X線検査…斑状/びまん性陰影
      • (J Intensive Care. 2014;2(1):47.)
  • 呼吸機能検査…DLCO増加が一般的(肺胞内に血管外ヘモグロビンがあるため)
  • BAL(気管支肺胞洗浄液)…血性
  • 治療…高用量ステロイド
    • CYC、リツキシマブ(RTX)の併用の有効性報告が多い
    • 軽症〜中等症では、MMF・AZA考慮
SLE関連間質性肺疾患
  • 非特異的間質性肺炎(NSIP)、通常の間質性肺炎(UIP)、間質性肺炎(OP)、リンパ球性間質性肺炎(LIP)、濾胞性細気管支炎、結節性リンパ球増殖症などの報告あり
  • 症状…運動耐容能低下、乾性咳嗽、呼吸困難、肺底部雑音
  • 検査…呼吸機能検査、HRCT、血液検査など
  • 治療…抗炎症薬・抗線維化薬どちらもありうる
    • 抗炎症薬…PSL投与が多いが、その他はデータなし
      • 軽症〜中等症…AZAやMMF
      • 重症・急速進行例…CYC・RTX
    • 重症再発…ステロイドパルス+RTXorCYC→維持療法としてAZA・MMFなど
血栓塞栓症
 
  • SLEそのものが肺塞栓のリスク
    • 特に膜性腎症・抗リン脂質抗体陽性でリスクが高い
  • 治療…抗凝固薬
肺動脈性肺高血圧症(PAH)
  • 強皮症との合併例(MCTD)で多い
  • 早期は無症状→進行すると労作時呼吸困難を起こす
  • 身体所見…Ⅱp増強
  • 呼吸機能検査…DLCOの減少、肺活量正常
  • 胸部X線検査…心肥大・肺動脈分岐の肥大
  • 経胸壁心エコー…PAHのスクリーニングに有用
  • 右心カテーテル検査…PAHの確定診断・鑑別に必要
    • 安静時平均肺動脈圧≧25mmHg、肺動脈楔入圧正常がPAHの定義
  • 治療…他の膠原病PAH・特発性PAHと同様
    • エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、血管拡張薬など
    • 免疫抑制剤が有効な可能性もある
Shrinking lung syndrome
  • 原因不明の呼吸筋障害、非常に稀
  • 他の膠原病(関節リウマチ・シェーグレン症候群など)でも起こるが、最多はSLE
  • 呼吸困難、胸痛、呼吸機能検査での肺活量減少、胸部X線写真での横隔膜挙上が特徴(肺実質は正常)
  • 免疫抑制剤が有効という報告が多い
  • 咳・発熱・呼吸困難等の呼吸器症状を伴う患者、特に免疫抑制剤内服中の患者では、常に除外すべき
  • 胸部X線写真やHRCT…ALP、DAH、間質性肺疾患と見分けがつかない場合あり
  • →確定診断には、血液・痰・BAL等での細菌検査が必要
  • ワクチン接種での予防が推奨…肺炎球菌、インフルエンザ

◎心臓

  • SLE病変の出やすい臓器の一つ
  • 心膜、心筋、冠動脈、弁、伝導系等様々な部位に障害が出る
心筋炎
まれ(0.4-6%)
致死的な合併症
心膜炎を合併することが多く、心外合併症も多い
肺動脈性肺高血圧症
有病率1-14%、5年生存率70-80%
リスク…レイノー現象、血管炎の既往、抗リン脂質抗体
抗RNP抗体陽性がリスクかに関しては相反するデータあり

 

◎眼

  • SLE患者の約3分の1に眼病変があるとされ、病変部位は様々
  • 眼窩周囲、付属器、眼球、視神経等に病変を起こす
  • SLEの他シェーグレン症候群関連症状もある
 
角結膜炎
二次性シェーグレン症候群合併例で起こりやすい
SLEの眼病変で最多
上強膜炎・強膜炎
まれに発生する…有病率1.7-3.1%
非常にまれ…有病率0.6-0.8%
SLE発症初期が多いとされる
ループス網膜症
SLEの疾患活動性と相関する
病変の特徴…軟性白斑を伴う微小血管病変
リスク…SLEDAIが高い、CNSループス・ループス腎炎・自己免疫性溶血性貧血の合併、抗リン脂質抗体陽性(網膜中心動脈/静脈閉塞症・虚血性視神経症リスク)
 

◎神経

  • いわゆる"Neuropsychiatric SLE" (NPSLE)
  • 軽度の認知症症状〜重度の中枢神経症状まであり、死亡率は高い
無菌性髄膜炎
SLE患者の1%未満に見られる
イブプロフェン併用の場合、薬剤性髄膜炎の可能性に注意…特に再発する場合
症状は感染性髄膜炎と変わりないが、改善が非常に早いのが特徴的
※白血球低値・髄液糖高値が特徴的で、感染性との鑑別ポイント
Chorea
リスク…APS抗体、血栓症
比較的重症度の低いNPSLEとされる