NEJM最新号で謎のループス祭りがあり
・ループス腎炎へのBelimumab有効性 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32937045/
・難治性SLEへのDaratumumab https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32937047/
が出ていた。その後者の方の論文。
Ostendorf L, Burns M, Durek P, et al. Targeting CD38 with Daratumumab in Refractory Systemic Lupus Erythematosus. N Engl J Med. 2020;383(12):1149-1155. doi:10.1056/NEJMoa2023325
2例の症例報告ではあるが、「自己免疫疾患に対するplasma cell標的治療が実臨床で行われ、ある程度の成果を出した」という点が重要なのだろう。
①Background
SLEとlong-lived plasma cell(長期生存型抗体産生細胞)との関与は以前より提唱されており、以前にはプロテアソーム阻害薬ボルテゾミブ(多発性骨髄腫治療に使用されている分子標的薬)での臨床試験が実施されたものの毒性が強いという問題があった(Mod Rheumatol. 2018;28(6):986-992.…8人中4人が治験中止)
抗CD38ヒト型モノクローナル抗体Daratumumab(ダラザレックス®、こちらも多発性骨髄腫治療に使用)はSLE患者末梢血中のplasma cell枯渇及びCD38のダウンレギュレーションを起こすということがex-vivoで証明されており、今回2例のSLEへDaratumumabが使用された。
②方法
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事前にインフォームドコンセント及び治験審査委員会によって承認された
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Daratumumabは多発性骨髄腫に対して承認されたプロトコルに従って投与された
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週1・4回、ダラツムマブ16mg/kgを8時間以上かけて投与
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アシクロビル(200mg/日)とトリメトプリム/スルファメトキサゾール(960mg/週3回)による抗ウイルス・抗真菌予防薬を開始⇨治療終了後3ヶ月間継続
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治療後の凍結保存末梢血単核球(PBMC)のフローサイトメトリーを実施
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1名の患者のPBMCに対してRNA解析を実施
③症例
症例①:50歳女性
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効果
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尿中蛋白/Creは6362→1197mg/gまで低下
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血清Cre改善、心膜炎改善
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SLEDAI-2Kも22→8まで改善
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PSLは20mg/day⇨4mg/dayまで減量でき、病勢は安定
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抗dsDNA抗体、破傷風トキソイド抗体価低下
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血清IgGはDaratumumab投与後、正常値よりも低下し、IVIGを2回実施後安定
症例②:32歳女性
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自己免疫性溶血性貧血で輸血を繰り返している+自己免疫性血小板減少症(ATP)、皮膚血管炎、関節炎、脱毛症、および粘膜潰瘍
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維持療法としてPSL10mg/day使用中
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Daratumumab使用⇨Belimumabで寛解維持
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効果
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溶血性貧血改善・血小板数正常化
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血管炎性皮膚病変、筋骨格・粘膜皮膚症状改善
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SLEDAI-2Kも21→6→4まで改善
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90日目の上気道炎以外副作用なし
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抗dsDNA抗体、破傷風トキソイド抗体価低下、抗核抗体力価の低下
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血清IgGは低下したが、正常範疇
④症例の解析
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フローサイトメトリー
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Daratumumab投与後、CD38の表面発現性の高い細胞(NK細胞、形質細胞様樹状細胞、形質芽細胞)が急速に一時的に現象
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CD19 + B細胞数は徐々に減少
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CD4 +およびCD8 + T細胞数は安定していたが、表面CD38発現は一時的に減少
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I型インターフェロン活性は大幅低下→Siglec-1の発現レベル低下
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健常者とのCD38発現の比較
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SLE患者は健常者と比較して、CD19lowCD27high形質芽細胞、成熟CD19+B細胞、形質細胞様樹状細胞でCD38高発現
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⑤Discussion
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Daratumumabは、抗核抗体力価の低下と共に抗dsDNAとワクチン誘発抗体の有意な減少(約60%)と関連+long-lived plasma cellの効果的な枯渇を示唆する所見があった
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⇨SLEの様々な症状は改善
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効果がある一方、ボルテゾミブと違い毒性作用はなかった
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感染症の増加もない?
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効果の要因の仮説…今後研究が必要
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CD19 + B細胞の減少…自己反応性B細胞に対してDaratumumabが作用?
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CD4 +・CD8 + T細胞の転写プロファイルが変化⇨抗原刺激に対しての遺伝子転写産物のダウンレギュレーション?
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多発性骨髄腫での治療同様、Daratumumabの効果は一過性である⇨Belimumabによる維持療法が必要
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適切な治療スケジュール/対象は現状不明
⑥感想
SLE等の自己免疫性疾患に対してのplasma cell標的療法に関してはかなり前から言われていた(Nat Rev Rheumatol. 2010;6(6):326-337.)が、2例実際に行われて結果を出した?ということが特筆すべきポイント。
評価は難しいが、血液腫瘍からRTXが輸入されたように、現在悪性腫瘍に使われている分子標的薬が今後自己免疫性疾患に対して輸入されて試されていく、というトレンドが強くなるきっかけになるのかもしれない。日本の実臨床で使えるようになるのがいつになるかは知らないが。