膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

神経・精神症状を起こすSLE(NPSLE)

Drugs Aging. 2022;39(2):129-142.
Radiographics. 2022;42(1):212-232.
Arthritis Rheumatol. 2019;71(1):33-42.
Cureus. 2021;13(9):e17969.
Rheumatology (Oxford). 2020;59(Suppl5):v52-v62.
 
SLEは様々な臨床症状を起こすが、その一つに神経症状・精神症状をおこすNeuropsychiatric systemic lupus erythematosus (NPSLE)がある。最近立て続けにレビューが出ていたのでまとめてみた。
 

◎ポイント

  • NPSLEは虚血と炎症の2つの要素が絡み合っており、さらに非SLE症状が加わることで複雑になっている
  • NPSLEの症状は19に分けられるが、多いのは不安障害・気分障害・認知機能障害・頭痛
  • NPSLE診断アプローチは除外診断+各種検査で通常のSLEとあまり変わらない
  • 治療に関しても通常SLEと同様だが、虚血要素・炎症要素・非SLE要素それぞれを集学的に治療することが求められる
  • NPSLEには診断マーカーもなければ定まった治療アプローチも現状無い

【NPSLEとは?】

  • SLEは神経・精神症状を起こすことがあり、NPSLE(Neuropsychiatric SLE)と呼ばれる
  • NPSLEはSLEの初発症状であること・SLE患者が途中で起こすことがある
  • NPSLE発症リスク…SLE活動性が高い、NPSLE既往、抗リン脂質抗体陽性の3つ(Ann Rheum Dis. 2010;69(12):2074-2082.)
  • 高齢者で起こることもあるが、非常に診断・治療共に難しい
    • 鑑別疾患が多彩で併存疾患・ポリファーマシーに加えて、疾患の現れ方・経過の変化も様々であるため
  • NPSLEの発症機序は、虚血と炎症の2つに分かれる
    1. 虚血…抗リン脂質抗体、免疫複合体、白血球凝集素を介した大小血管への傷害
        • 血栓形成に伴う障害(Radiographics. 2022;42(1):212-232.)
    2. 炎症…血液脳関門透過性亢進・髄腔内の免疫複合体形成・炎症メディエーター産生による自己免疫性炎症による傷害
        • 活性化したポリクローナルB細胞が自己抗体産生→自己抗体等が血液脳関門といったNeuroimmune interfaceに浸潤→標的に抗体が付着し、結果的に局所炎症・ニューロン毒性・脱髄などが起こる(Radiographics. 2022;42(1):212-232.)
      • (Arthritis Rheumatol. 2019;71(1):33-42.)
  • NPSLEの症状は19に分けられる(Arthritis Rheumatol. 2019;71(1):33-42.)
    • 多い症状は、不安障害・気分障害・認知機能障害・頭痛
    • 精神症状のうち、多いのは気分障害・不安障害で双極性障害は稀
    • ただ、症状のうちSLEと本当に関連があるのは3分の1程度とされる
表:NPSLE症状一覧

※カッコ内は頻度
 

【診断】

◎診断アプローチ

  • NPSLEはSLEはの初期症状のこともあれば、SLEの経過中に診断されることもある
    • SLEの疾患活動性と無関係に起こることもあるため、注意が必要
  • 診断は基本的には除外診断感染症代謝異常、悪性腫瘍、薬剤性などを除外
    • 特にSLE経過中に発症した場合、ステロイド精神病との鑑別が難しい
  • この上でSLE分類基準等を参考に臨床診断する
表:臨床症状別の診断アプローチ(Cureus. 2021;13(9):e17969.)

 

◎自己抗体

  • 測定する抗体…抗核抗体(ANA)、抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、抗Ro/La抗体、抗ヒストン抗体など
    • NPSLEに特異的な抗体はない
    • リボソームP抗体はNPSLEの精神症・うつ病と関連があるかもしれないが、感度は20%程度と低い
  • APS抗体陽性の場合、脳神経障害・痙攣性疾患・脊髄症・運動症状が多くなる
  • AQP4IgG陽性の場合再発リスク高くなる→筋萎縮症患者ではAQP4抗体は評価する
表:NPSLEの自己抗体(Nat Rev Rheumatol. 2019;15(3):137-152.)

◎髄液検査

  • 中枢神経感染症除外に必要
  • NPSLEの髄液所見は軽度以上のことが多い
  • 髄液IL-6軽度高値が特徴的(保険適応外)
  • 無菌性髄膜炎・血管炎・横断性脊髄炎の場合でも異常が起こる場合あるため注意
 

◎画像検査

  • MRI、SPECT、PET-CTなどが用いられるが、最も重要なのはMRI
  • 画像についてはhttps://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/rg.210045(Radiographics. 2022;42(1):212-232.)参照
  • 特に多いのは、T2強調画像での皮質下・脳室周囲の高信号領域
      • (Radiographics. 2022;42(1):212-232.)
  • ただし、血管炎・脳血管障害・脱髄性病変など多彩な病態があることに注意
 

◎NPSLEの鑑別疾患

  • 鑑別は非常に幅広い
  • リウマチ性疾患…血管炎、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、関節リウマチ
  • 感染症…感染性心内膜炎、結核、ライム病
  • その他…悪性腫瘍、糖尿病、甲状腺機能亢進/低下症、アルコール関連障害、薬剤性
  • 薬剤性NPSLE
    • 高齢者で特に注意…合併症、ポリファーマシーが多い
    • 高リスク薬剤…プロカインアミド、ヒドラジン
 

【治療】

  • 特に決まったアプローチはなく、一般的なSLEと同様に行うことが多い
    • 臨床試験もほぼ存在せず、SLE全体の臨床試験でも重度のNPSLEは除外されていることが多い
  • ただしNPSLE症状全てがSLE症状ではないため、非SLE因子に対しては非SLE固有の介入を行う
  • 虚血性病変・炎症性病変それぞれにアプローチする
    • 虚血性病変…APS抗体陽性の場合、抗凝固療法・抗血小板療法
    • 炎症性病変…通常のSLEに近い
      • ヒドロキシクロロキン+ステロイド+他免疫抑制剤(アザチオプリン、シクロホスファミドなど)±バイオ製剤(Belimumabなど)
図:NPSLEの治療オプション