全身症状・皮疹を起こす「その他の血管炎」の一つに蕁麻疹様血管炎がある。
「治らない蕁麻疹・皮疹」の生検結果でleukocytoclasic vasculitisが出たとき、蕁麻疹様血管炎を疑って精査したほうが良い。
膠原病や悪性腫瘍に併発することもあり治療も非常に難しく、リウマチ専門医が見るべき疾患の一つと思われる。
まとまった文献がなかったので自分なりにまとめてみた。
血管炎皮膚症状全体については↓参照
【ポイント】
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Urticarial vasculitis(蕁麻疹様血管炎)は、小型血管炎の一種である
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皮膚の小血管への炎症によって起こる皮膚症状で、組織診断ではleukocytoclasic vasculitis(白血球破砕性血管炎)が見られることが特徴
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低補体血症性を伴う場合、全身症状が多い
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背景疾患がある場合が多く、特に膠原病・悪性腫瘍合併有無には注意
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症状は24時間以上遷延する蕁麻疹様皮疹で、色素沈着を残すこともある…「治らない蕁麻疹」
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治療はまず経口抗菌薬・コルヒチン・ダプソンで、二次治療は免疫抑制剤
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難治例にはOmalizumabといった生物学的製剤も考慮される
【蕁麻疹様血管炎とは?】
Urticarial vasculitis(蕁麻疹様血管炎: UV)は、皮膚の小血管への炎症によって起こる皮膚症状で、組織診断ではleukocytoclasic vasculitis(白血球破砕性血管炎)が見られることが特徴である。
見た目は蕁麻疹だが、本質は血管炎であり治療も異なり、「難治性蕁麻疹」という臨床像を取る。
Chapel Hill分類(CHCC)2012では小型血管炎の一つに分類されている。
蕁麻疹様血管炎は2種類に分かれるが、低補体性は更に2種類に分かれる
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正常補体血症性(Normocomplementemic UV: NUV)
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低補体血症性(Hypocomplementemic UV: HUV)…低補体血症性蕁麻疹様血管炎症候群(HUVS)、それ以外の低補体血症性蕁麻疹様血管炎
うちHUVSは全身症状が多く、他は皮膚症状のみのことが多い
頻度は非常にまれ…アメリカでは10万人あたり0.5人/年の発生率(Int J Womens Dermatol , 7 ( 2021 ) , pp. 290 - 297)
【病態】
免疫複合体が介在する疾患であり、いわゆるⅢ型アレルギー反応が病態と考えられている。
特に重要なのが抗C1q抗体であう。抗C1q抗体による免疫複合体が補体古典的経路を活性化し、血管炎及び皮膚症状を起こすものと考えられている
【原因】
◎SLE
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特に蕁麻疹様血管炎との関連が示唆され頻度が多い
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SLEと蕁麻疹様血管炎は、関節炎・腎炎・低補体血症・抗核抗体陽性・抗C1q抗体陽性の場合があるといった一致点があり、鑑別が難しい
◎シェーグレン症候群
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SS-A陽性例では蕁麻疹様血管炎発生率が高い?(Ann Intern Med. 1983;98(2):155.)
【症状】
①皮膚
24時間以上遷延する蕁麻疹様皮疹で、色素沈着を残すこともある。ただ慢性蕁麻疹との鑑別は困難。
視診上の特徴…中央に白色~暗赤色~褐色斑を伴う直径0.5~5cm程度の膨疹。境界は明瞭。livedo・血管性浮腫を起こすこともある
画像:臍部の蕁麻疹様血管炎 (Int J Womens Dermatol. 2021;7(3):290-297.)
症状
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多い…蕁麻疹、血管性浮腫、環状紅斑
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少ない…色素沈着・紫斑
②全身症状
低補体血症・抗C1q抗体発現を伴う場合、全身症状を起こすことが多い
表:HUV・NUV別の臨床症状頻度(J Allergy Clin Immunol. 2022;149(4):1137-1149.)
症状
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多い…関節痛・筋肉痛、発熱
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少ない…呼吸器、腎臓、消化器症状
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腎障害…HUVSの約20%で発生し、糸球体腎炎を起こす
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COPD…20-30%で発生するが、HUVS患者では~50%で発生する
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まれ…胸膜炎・ぶどう膜炎・心膜炎・偽脳腫瘍・脳神経麻痺・横断性脊髄炎を起こすこともある
【診断】
基本的には臨床症状+組織診断。24時間以上持続する蕁麻疹・組織生検で白血球破砕性血管炎(leukocytoclasic vasculitis)が見られることが重要。
表:蕁麻疹様血管炎診断フローチャート(Int J Womens Dermatol. 2021;7(3):290-297.)
補体血症性蕁麻疹様血管炎症候群(HUVS)には診断基準が存在するが、組織診断が必須
表:補体血症性蕁麻疹様血管炎症候群(HUVS)の診断基準(Mayo Clin Proc. 1982;57(4):231.)
◎検査
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血算・炎症反応
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ESR上昇・低補体血症が特徴的
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補体値(CH50, C3, C4, C1q)、抗C1q抗体
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補体正常の場合、低補体血症性蕁麻疹様血管炎症候群(HUVS)は否定的で予後良好
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※抗C1q抗体は保険ベースでは測定不能
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腎機能、尿検査
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全身精査…HUVSの場合は必須
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胸部 X 線・肺CT、肺機能検査、心エコー検査、関節X線、眼科検査
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腎病変疑いの場合、腎生検
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悪性腫瘍スクリーニング(年齢推奨に応じたレベルで十分とされる)
◎組織診断
皮膚生検…白血球破砕性血管炎で、大半例で皮膚の毛細血管後細静脈に影響する。
真皮血管の損傷、血管壁/血管周囲への炎症性浸潤(好中球・好酸球有意→進行売るとリンパ球有意へ)
免疫蛍光染色…血管壁へのIgM,IgG沈着が多い。IgA、C1q 、C4、C3沈着もまれに見られる
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A:白血球破砕性血管炎、好中球有意の血管周囲浸潤、血管外赤血球漏出(HE染色 x100)
【鑑別疾患】
紅斑・蕁麻疹所見をとる疾患全てが鑑別。
鑑別のポイント(蕁麻疹様血管炎の特徴)は
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持続時間…24時間以上遷延するが、その後消退する
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皮疹形態…紫斑・色素沈着を伴うことがある
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生検結果…leukocytoclasic vasculitis、免疫蛍光染色での血管壁へのIgM,IgG沈着
表:蕁麻疹様血管炎の鑑別疾患 (Int J Womens Dermatol. 2021;7(3):290-297.)
特に重要となる鑑別は蕁麻疹(J Allergy Clin Immunol. 2022;149(4):1137-1149.)
◎蕁麻疹
蕁麻疹と比較して、蕁麻疹様血管炎は持続時間長時間・かゆみだけでなく"burning-sensation"を伴うことが多い。
抗ヒスタミン剤無効時は蕁麻疹様血管炎を疑い、生検することで鑑別可能。
ダーモスコピーによる紫斑の同定も有用
◎SLE
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露光部に限定しているかどうかが重要
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(J Allergy Clin Immunol. 2022;149(4):1137-1149.)
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ただSLE+蕁麻疹様血管炎とSLE皮疹の明確な区分は難しい
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CLEの亜型であるLupus erythematosus tumidusは日光暴露から 24-48 時間後に現れ、数週間-数ヶ月で消退する
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一方で蕁麻疹様血管炎は浸潤なし・紫斑・色素沈着が特徴的
【治療】
大規模研究はなく、基本的には症例報告ベース。二次性蕁麻疹様血管炎の場合、背景疾患の治療が症状改善に役立つことが多い。
基本的には保険適応外薬ばかりなので注意。難治性のことが多い。
表:蕁麻疹様血管炎の治療薬一覧 (Int J Womens Dermatol. 2021;7(3):290-297.)
◎内服治療
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第一選択は、経口抗生物質(ドキシサイクリンなど)・コルヒチン・ダプソン。HCQはSLE併発患者に使用される
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ステロイド並に有効とされている
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筋骨格症状にはNSAIDs有効。
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抗ヒスタミン剤…筋骨格症状には無効、急性期症状・血管性浮腫には有効
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MTXは皮膚症状・軽度の全身症状に有効とされ、PSLとの併用は難治例で特に有用?(J Allergy Clin Immunol. 2019;143(2):458-466.)
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ステロイド…中等症以上・難治例でよく用いられ、皮膚症状・全身症状両方に効果的。副作用には要注意。投与量は定まっていないが0.5-1mg/kg/dayで開始→漸減が多い
◎生物学的製剤
どれも症例報告レベル
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RTX(リツキシマブ):抗CD20抗体
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症例報告レベル。奏効率は報告によってまちまち
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Anakinra,Canakinumab:抗IL-1阻害薬
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Omalizumab :抗IgE抗体
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生物学的製剤の中では比較的報告が多い(J Allergy Clin Immunol. 2019;143(2):458-466.)
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補体正常性蕁麻疹様血管炎で有効?(BMC Dermatol. 2018;18(1):8.)
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日本でも特発性慢性蕁麻疹には保険適応あり(12歳以上、4週おき1回300mg)
参考:
J Allergy Clin Immunol. 2022;149(4):1137-1149.
Int J Womens Dermatol. 2021;7(3):290-297.
J Allergy Clin Immunol. 2019;143(2):458-466.
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