膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

高安動脈炎の治療 〜日米欧ガイドラインの比較〜

高安動脈炎は難治性かつ治療エビデンスも限られることから、どう治療するかは非常に悩ましい
参考になるのはガイドラインで、日本・アメリカ(ACR)・ヨーロッパ(EULAR)それぞれガイドラインが存在する
 
この3つを比較しつつ高安動脈炎の治療についてまとめてみた。
※PSL:ステロイド、MTX:メトトレキサート、AZA:アザチオプリン、TNFi:TNF阻害薬、TCZ:トシリズマブ、MMF:ミコフェノール酸モフェチル、CyC:シクロホスファミド、IFX:インフリキシマブ、ETN:エタネルセプト
 

【治療概略・フローチャート

 

1. ACRガイドライン

  1. 一次治療…高用量ステロイド+他免疫抑制剤(MTX or AZA), TNF阻害薬の併用療法
  2. 臨床的寛解達成→PSL漸減
  3. 臨床的寛解非達成→免疫抑制剤追加…TNF阻害薬>TCZ

2.EULARガイドライン

※Major relapse…以下のいずれかを伴う再発
  • 虚血症状(顎跛行、視覚症状、頭皮壊死、脳卒中、四肢跛行など)。
  • 進行性の大動脈/大血管の拡張、狭窄/解離を起こす活動性の大動脈炎症がある
 Minor relapse…Major relapseを満たさない再発
  1. PSL40-60mg/day+csDMARDs(MTX, レフルノミド, MMF, AZA, CyCなど)開始
  2. ステロイド漸減…2-3ヶ月以内に15-20mg/day、1年後に≦10mg/day目標
  3. 持続的寛解維持→PSL漸減
  4. 再発→PSL再増量(Major relapseでは40-60mg/day, Minor Relapseなら最終有効量まで増量)+TCZ or TNFi追加検討
 

3.日本ガイドライン

  1. PSL0.5-1mg/kg/day単剤で開始
  2. PSL漸減…5mg/w減量(30 mg/日まで)→ 2.5mg/w減量(20mg/日まで)→月あたり1.2mgを超えない減量 → 維持量:5-10   mg/日 →off
  3. 再発→PSL増量+免疫抑制剤併用…TCZ、MTX、AZAなど
 

4.3つのガイドライン比較

【治療各論】

1. ステロイド

  • 3ガイドラインともにPSL高用量(1mg/kg/day程度)、限局性病変の場合減量投与考慮を推奨
    • 初期PSL投与量30mg/day以下の場合、再発率高い(J Rheumatol. 2020;47(2):255-263.)
        • PSL投与量別での再発率:PSL低用量で再発多い(J Rheumatol. 2020;47(2):255-263.)
  • ステロイドパルス
    • 全くデータはない
    • 日本・ACRでは「緊急性の高い場合・難治例の再燃時に考慮される場合あり」と記載あり
    • ただACRでは、高用量ステロイドステロイドパルスとなっている
  • ◎減量速度
    • ACRは記載なし
    • 日本…詳細に記載あり(5mg/週減量(30 mg/日まで)→2.5mg/w減量(20mg/日まで)→月あたり1.2mgを超えない減量 → 維持量:5-10   mg/日 →off)(※活動性がある場合はより遅い)
      • 「再燃・非再燃に寄与する最も重要な因子はPSL減量速度(P= 0.01)であり,減量速度が1ヵ月あたり1.2 mgより速いか遅いかで再燃率が有意に異なっていた」という日本からのコホート研究(Circ J 2012; 76: 1004-1011.)をもとに上記記載となっている
    • EULAR…2-3ヶ月以内に15-20mg/day、1年後に≦10mg/day
      • 臨床試験の再発データから上記推奨あり…「ステロイド単剤治療群で4週目以降に1週間あたり10%減量を行った場合、再発率が高くなった(8〜16週目で約80%)」(Ann Rheum Dis 2018;77:348–54.)
  • PSL隔日内服についてはどのガイドラインにも記載なし
    • GCAに関して、ステロイド単剤時代の連日内服vs隔日内服で、隔日内服のほうが再発率は高く、有害事象は少ないという報告あり(Ann Intern Med. 1975;82(5):613-618.)
 

2.csDMARDs

 

3.bDMARDs

  • 日本・EULARではTCZ・TNF阻害薬優劣ないが、ACRではTNF阻害薬>TCZ
    • TAKT study(高安動脈炎へのTCZvsプラセボ比較RCT)でPrimary outcome(高安動脈炎再発率低下)を満たせなかったため(Ann Rheum Dis 2018;77:348–54.)
    • またTCZ投与によってCRPが陰転化するため、疾患活動性評価にCRPが使えなくなるという問題点もある
    • 直接比較試験は現在実施中(IFX vs TCZ: INTOReTAK, NCT04564001)
表:TNF阻害薬とIL-6阻害薬の比較(Front Med (Lausanne). 2022;8:814075.)

  • その他bDMARDs(ガイドラインほぼ記載なし)
    • Abatacept…negative studyあり非推奨(Arthritis Rheumatol. (2017) 69:846–853.)
    • Usutekinumab(抗IL-12/23阻害薬)…小規模研究では効果報告あり(Scand J Rheumatol. (2016) 45:80–82.)
 

【私案】

一案を記載してみる。特にエビデンスに基づいているものでもないので、あくまで「一案」である。(患者背景・保険適応に注意)
  1. PSL高用量+他免疫抑制剤併用…MTX or AZA±TNF阻害薬
  2. PSLを日本推奨を参考に漸減…5mg/w減量(30 mg/日まで)→ 2.5mg/w減量(20mg/日まで)→月あたり1.2mgを超えない減量 → 維持量:5-10   mg/日 →off
    • 場合によってはPSL隔日内服も考慮
  3. 再発する場合、EULAR推奨を参考にPSL再増量(Major relapseでは40-60mg/day, Minor Relapseなら最終有効量まで増量)+免疫抑制剤種類変更/増量を考慮