膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

SLE診断/治療アップデート(ARD)

"Update οn the diagnosis and management of systemic lupus erythematosus."
Ann Rheum Dis. 2020;annrheumdis-2020-218272.
ARDからのSLEアップデートレビュー。
内容は他のレビュー
・Nat Rev Rheumatol. 2019;15(1):30-48.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30538302/
・Lancet. 2019 Jun 8;393(10188):2344-2358. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31180031/
とそんなに変わりないが、
・ACR/EULAR2019年基準を満たさない「臨床的SLE」を診断する一案を提示した
・BLISS-LN等の2020年の研究を盛り込んだ
というところは新しい

①SLE総論

  • SLEはフレア(病勢の急激な悪化)が起こることが特徴的
      • SLEは"Preclinical phase"から始まり、すべての自己免疫疾患に共通する自己抗体が出現後、SLE似特異的な自己抗体が出現する
      • "Clinical disease"となってからはフレアが頻繁に起こり、不可逆的な損傷を起こす⇨死亡率増加
        • 時間の経過とともに、感染症、早期の動脈硬化症、悪性腫瘍などの併存疾患が多くなっていく
      • 疾患活動性の低い患者・寛解期の患者に対する治療はSLEの再燃頻度・重症度を低下させ、損傷を減少させうる
  • SLEの疫学
      • 男女比は1:10と女性が圧倒的
      • 発症率は10万人あたり年間0.3-31.5人で、過去40年間で増加中
      • 患者の大半は中年女性で、発症時は50%が軽症例
      • 一部は重症化し、最終的に軽症/中等度症/重症例が1/3ずつになる
      • アフリカ系やラテンアメリカ人の患者では重症化することが多い
  • 発症リスク
    • 紫外線、喫煙、薬物は確立した環境因子
    • 喫煙…抗リン脂質抗体・抗DNA抗体は喫煙と相関
    • 他の自己免疫性疾患含めた家族歴もリスク

②診断

  • 主な特徴・頻度
  • 関節炎症状はリウマチ専門医以外では見落としがち
  • ACR-1997、SLICC-2012、ACR/EULAR2019基準の3つの基準を組み合わせることでSLEを確実に早期に捉えることができる
    • ACR/EULAR2019基準
    • ただし、基準を満たしていなくても診断は可能
  • 基準を使っても重症化リスクのある患者を見逃してしまう可能性があることに注意

③基準を満たさない「臨床的SLE」診断フローチャート

      • 抗核抗体(ANA)をスクリーニングとして使用し、EULAR/ACR2019年基準に当てはめる
        • 抗核抗体陽性かつEULAR/ACR10点以上⇨SLEに分類
        • 抗核抗体陽性だがEULAR/ACR10点以下…以下を臨床的SLEと診断
        • 抗核抗体陰性例では低補体血症/aPL(抗リン脂質抗体)をチェック⇨陽性の場合、1つ以上の臨床ドメイン陽性かつEULAR/ACR10点以上なら臨床的SLEと診断
 

④SLEの評価

  • Choosing-wisely
    • 以下は推奨されない
      • 抗核抗体測定を繰り返す
      • 病態が安定・活動性の低い患者での血清学的検査を頻回に行うこと
      • ルーチンの検査から尿検査を省略すること
    • SLE患者は他の症状が出てもSLEのせいにしがちなので注意
  • SLEの表現系…色々ある
    • 小児期初発症のSLE(cSLE)
    • 臓器優勢のSLE
      • 皮膚科、筋骨格系(いわゆる"rheupus")、腎、神経、血液)
    • 抗リン脂質症候群を伴うループス
    • シェーグレン症候群
    • 逆にITP・溶血性貧血・APS・SS患者はSLE発症リスクが高い
  • 臨床経過
    • SLE発症リスクが高い患者の約70%が再発寛解を繰り返し、30%は寛解長期化・活動性の持続化が半々
  • 活動性評価
    • SLEDAIなどがあるが筆者の推奨としては以下の3つだが、どれも測定に時間がかかる
index
特徴・臨床関連性
使用方法・注意点・Pitfall
SLEDAI-2K
疾患活動性をスコア化
重症度
・0点 寛解
・1-4 低疾患活動性
・5-10 中等度疾患活動性
・>10 高疾患活動性
変化
・3点以上増加 フレア
・3点以上改善 改善
・±3点の変化  活動性の持続
SLEDAI計算前にPGAを計算する
SLEDAIによる症状と確信できるもののみ点数をつける
Pitfall(鑑別)
・膿尿…尿路感染症
・脱毛/WBC減少…薬剤
神経症状…代謝異常、薬剤、感染症
・活動性のない病変に注意…瘢痕性脱毛、固定した皮疹、継続したたんぱく尿
所要時間5-10分
SELENA-SLEDAI Flare index
フレアをスコア化
軽度ー中等度フレア
  • 3点以上の変化(※<12点の場合)
  • PSL増量(※<0.5mg/kg/dayの場合)
  • SLE活動性増加のため、NSAIDs・HCQ追加
重度フレア
  • >12点
  • PSL>0.5mg/kg/day
  • SLE活動性増加のため、CYC/AZA/MTX/MMF/生物学的製剤追加
  • SLEのため入院
  • PGAスコア2.5点以上
増悪だけでなく、活動性持続でも対象となる
所要時間10-20分
SLICC/ACR
DAMAGE
INDEX
(SDI)
不可逆的な臓器障害(ダメージ)をスコア化
(薬剤有害事象含む)
予後・死亡率等と関係
SDI 0 ダメージなし
SDI≧1 不可逆的なダメージあり
SDI≧3 重度ダメージあり
6ヶ月持続する症状のみをスコアする
所要時間10-20分
 
 

⑤治療

基本的には2019recommendationと同様の内容

  • 目標…寛解または低疾患活動性+再発予防
  • 全SLE患者は実体重<5mg/kgでのHCQ投与を推奨
  • 維持療法中はPSL<7.5mg/dayを目指し、可能ならば休薬
  • 免疫抑制剤(MTX/AZA/MMF)を使用してのステロイド減量・中止を図ることができる
  • 活動性持続/フレア症例ではベリムマブ追加を検討する
  • 難治性臓器症状ではリツキシマブ・CYC(シクロホスファミド)追加を検討する
臓器/特殊なループス
  1. ループス腎炎
    • 治療目標
      • 治療開始3ヶ月後のeGFR安定(ベースライン±10%)、尿蛋白25%以上の減少
      • 6ヶ月後で尿蛋白50%以上の減少
      • 12-24ヶ月後で尿蛋白<0.5-0.7g/24hr
    • 活動性増殖性ループス腎炎初期治療推奨…低用量IVCY(500mg×6回/隔週投与)orMMF(2-3g/day)+ステロイド(静注⇨PSL0.3-0.5mg/day)
      • 場合によってはMMF/カルシニューリン阻害薬(CYA/TAC)/IVCY併用考慮
      • ステロイドは3-6ヶ月以内に<7.5mg/dayまで減量する
  2. NPSLE(神経性新ループス)
    • 多い症状…痙攣、脳血管障害、認知機能障害
      • 脳卒中リスクは一般集団の2倍で、診断後1年以内の発症が最多
    • 他原因(感染症、悪性腫瘍等)の除外はなかなか大変
    • 治療
      • 血栓性・塞栓性⇨抗血小板・抗凝固療法
      • 炎症性⇨免疫抑制療法
        • SLEの活動性があり、aPL抗体やアテローム動脈硬化のリスクのない症例では、脳卒中に対する免疫抑制治療の閾値を低くする必要あり
  3. 血球異常
    • 治療が必要となる血球症状…自己免疫性血小板減少症・溶血性貧血
    • 血小板減少がある場合、末梢血塗抹標本を確認し、微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)・血栓性微小血管症(TMA)を除外する
      • MAHA…微小血管での微小血栓⇨赤血球破砕⇨溶血性貧血
      • TMA血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)等を含んだ症候群
        • SLEとTTPの合併はほぼない?
        • SLE患者はADAMTS13活性が低下している場合があるため、TTPと鑑別が困難な場合あるため注意
    • 治療…高用量ステロイドが第一選択
  4. 肺動脈性高血圧(PAH)・心臓症状
    • SLE患者の患者のPAH2つの表現型がある?…SLEの活動性の低い「純粋PAH」とSLEの活動性の高い「血管障害性」
    • SLE患者のPAHの原因は他もあるため注意
      • 慢性肺塞栓に伴う肺高血圧
      • 間質性肺炎による二次性肺高血圧
    • 心臓症状…最多は心膜炎だが、弁膜症・心筋炎もある
      • 心臓MRI・高感度トロポニン検査によって細菌認識されつつある
  5. 女性/妊婦のSLE
    • SLEは高悪性度子宮頚部異形成・子宮頚癌リスクが1.5倍になる⇨女性のSLE患者全員にHPV予防接種推奨
    • ほぼ全女性が妊娠可能で、母体胎児へのリスクを減らす対策ができるが、実施されていないのが現状
    • 胎児の先天性心ブロック・心血管系合併症・自己免疫性疾患発症リスクが有意に高い
    • 対策
      1. 家族計画をSLE診断後早期に話し合う(情報提供)
        • 人間関係・挙児希望・子宮頚癌リスク・妊孕性
        • 周産期合併症…子癇、胎児の先天性心ブロック、流産
      2. リスクの層別化⇨評価
        • 因子
          • 母体因子:年齢、喫煙、以前の妊娠合併症
          • 疾患因子(SLE):疾患活動性、臓器障害、自己抗体(aPL/APS、抗Ro/La抗体)
          • 薬剤:催奇形性薬剤
        • 評価
          • 低リスク…疾患活動性なし、自己抗体なし
          • 中リスク…疾患活動性なし、自己抗体あり
          • 高リスク…疾患活動性あり、不可逆的なダメージ、自己抗体あり
      3. 治療
        • 妊娠前/中の疾患活動性の低さとヒドロキシクロロキンの使用は妊娠転帰を改善する
        • 低用量アスピリン未使用妊婦は子癇リスク高い?
 

⑥合併症

    • リスク…SLEそのもの+治療内容(免疫抑制剤
    • 予防接種…インフルエンザ+肺炎球菌(PCV13/プレベナー®とPCV23/ニューモバックス®)+帯状疱疹ワクチン
      • できれば疾患活動性が落ち着いている時に行う
    • 敗血症の早期認識⇨治療
  • 心血管系合併症
    • SLE自体が心血管系合併症の独立したリスク
    • 高疾患活動性、ループス腎炎、aPL(+)、ステロイド使用などがあるとさらに高リスク
    • 心血管系合併症があるまたは高リスクのSLE患者…目標血圧<130/80mmHg
    • 腎疾患患者は目標<120/80mmHgで、RAS阻害薬推奨
    • SLEはPCI後の院内死亡の独立したリスク⇨ハイリスク群の治療・二次予防に注意
  • 悪性腫瘍
    • リスク上昇…血液腫瘍、肺癌、甲状腺癌、肝臓癌、子宮頚癌、外陰部癌
    • リスク低下…乳癌、前立腺
    • リンパ腫リスクは約3倍
  • 死亡率
    • 近年は改善傾向だが、40歳未満の死亡率は高いまま
 

⑦近年のSLE臨床試験

  • csDMARDs・生物学的製剤(bDMARDs)の併用でステロイド使用量を最小限とすることができるようになってきている
  • ループス腎炎・非腎炎SLE双方で、MMFはCYCと同等の効果があり、AZAよりも優れている?(Ann Intern Med 2015;162:18–26、J Am Soc Nephrol 2017;28:3671–8.)
  • 第2世代カルシニューリン阻害薬ボクロスポリンが活動性ループス腎炎に有効という試験結果あり(Kidney Int 2019;95:219–31.)
  • ベリムマブが活動性ループス腎炎にも有効という試験結果あり(BLISS-LN、N Engl J Med 2020;383:1117–28.)
  • I 型インターフェロン受容体サブユニット 1 に対するヒトモノクローナル抗体アニフロルマブ(anifrolumab)の有効性は検証中(N Engl J Med 2020;382:211-21.など)
 

⑧今後の展望

  • SLEの原因に対する理解は広がり、早期診断・より効果的かつ副作用の少ない薬剤の開発が進んでいる
  • 新たな治療薬の開発・臨床試験は進行中
    • 例)バリシチニブ、アニフロルマブなど
    • SLEは遺伝・環境の相互作用が自然免疫・獲得免疫療法の異常調節を起こし、IFN-αと自己抗体の過剰な産生を起こす⇨活性化閾値の変化・制御性T細胞機能の欠損が重要な要因?
      • 標的/検証中の免疫細胞/分子
        1. B細胞
        2. 血漿細胞
        3. B-T細胞共刺激
        4. IFN・IFN受容体
        5. 細胞内キナーゼ
        6. サイトカイン・サイトカイン受容体
  • NPSLEに関してはまだ理解が進んでいないため、今後の課題