膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

巨細胞性動脈炎に対してのトシリズマブは中止できるか?

Adler S, Reichenbach S, Gloor A, Yerly D, Cullmann JL, Villiger PM."Risk of relapse after discontinuation of tocilizumab therapy in giant cell arteritis. "Rheumatology (Oxford). 2019;58(9):1639-1643. 

巨細胞性動脈炎の患者でトシリズマブ単剤(ステロイドフリー)を経験したが、「やめれるのか?」という疑問があったので読んでみた

※巨細胞性動脈炎へのトシリズマブについては↓参照ctd-gim.hatenablog.com
 ①背景

 巨細胞性動脈炎(Giant Cell Arteritis: GCA)はステロイド治療中の再発例/難治例に対して抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(Tocilizumab:TCZ、アクテムラ®)が頻用され、その効果はGiACTA試験等によって実証されている。 
 ただ、寛解後TCZをやめることができるか?」という疑問が出てきた⇨TCZ使用後寛解したGCA患者に対してTCZを中止し、前向きに追跡調査した 
②方法
 以前のGCAに対するTCZでの維持療法のRCT(Lancet. 2016;387(10031):1921-1927)に参加したTCZ群20人のうち、17人が参加。
  • 52週間のトシリズマブ治療が完遂し、寛解維持状態である
    • 寛解定義…以下の「再発」がないこと
      • ESR1hrが20mm以下から40mm以上に再上昇またはCRP>10mg/L
      • GCA所見が1つ以上出現(頭痛、頭皮/側頭動脈の痛み・圧痛、舌・顎跛行、側頭動脈所見、TIA、MRA所見異常、PMR症状、1週間以上38℃以上の発熱持続)
  • MRA・血清マーカーを実施
    • CRP, ESR, 決算
    • 炎症マーカー…IL6, soluble TNF receptor 2, soluble CD163, MMP-3, soluble intercellular adhesion molecule-1, Pentraxin-3.
 ③結果
  • 平均フォローアップ期間は、最終TCZ投与から28.1ヶ月
  • 17人中9人が平均29.3ヶ月間、臨床的・血清学的寛解を維持(長期寛解維持)
  • 17人中8人が平均6.3か月で再発(非寛解維持)
    • 8人中6人はTCZ中止後5ヶ月以内に再発
    • 残り2名は13,14ヶ月で再発
  •  f:id:CTD_GIM:20200911210212p:image 
 再発例と無再発例の比較
  •  f:id:CTD_GIM:20200911210215p:image 
    • 再発例は非再発例と比較して若年だった(平均年齢64.6歳vs 76.4歳; P = 0.006)
    • その他は有意差なし(性別、新規/再発かどうか、頭蓋部の症状、側頭動脈生検での陽性所見)
無再発例の血清マーカー
  • CRP・ESRは全員正常(無再発の条件のなので当然だが・・・)
  • IL-6値は正常化(TCZやめたので当然か)
  • MMP-3はTCZ中止前にわずかに高値⇨TCZ中止後に正常化
  • その他のマーカーは健常群との違いなし(soluble TNF receptor 2, soluble CD163, soluble intercellular adhesion molecule-1, Pentraxin-3)
  • ⇨血清マーカーに関しては健常者と差がない
MRA
  • 再発例は非再発患者よりも、RCT前からMRA上での血管炎領域数が多い(77% vs 63%)
    • 比率はRCTが終了するまでほぼ安定(77% vs 61%)
  • MRAでの血管壁信号増強は再発との相関なし
  • 治療によって経時的に増強領域が減少する傾向があるが、非再発例全員がMRA増強継続あり
  • 非再発例では鎖骨下動脈、腋窩動脈、大動脈弓、腸骨動脈領域での血管炎が少なかった
 ④Discussion
  • 患者の半数が2年間長期寛解していた⇨TCZが急性期反応の制御だけでなく、病原の細胞事象そのものに大きな影響を与えているということの示唆?
  • 逆に、半数は再発した⇨GCAにはIL-6に反応しない免疫経路が病原性に関与していることの示唆?
  • 治療中止時の再発予測因子は、若年であることと血管炎部位が多いことが示唆された
    • ただ、予測に使えるほどの価値はない
  • TCZの仕様でCRP/ESR正常化した患者で、再発を予測するバイオマーカーが求められており、研究中
 ⑤結論
GCAに対してのTCZはやっぱりやめにくい 
 
⑥感想
  • GCA患者へのTCZ使用はポピュラーだが、単剤になった例までいくとあまりない。この論文のnが少ないのはこういう難病の論文ではつきものなので仕方ないのだが、厳しい現状がわかったという以上に得るものはあまりない。
  • 現状TCZ使う例は再発/難治例だからやめにくいのは仕方ないことだが、やはり「TCZのやめにくさ」というのはネックであり続けそう。
  • GCAではどんなに良くてもTCZをやめると半分くらい再発する
  • 現状再発予測できるものはなさそう
  • MRAでの血管壁増強効果は寛解例でも持続する
ということは覚えておいてよさそう。もっと大規模な追跡調査/良いマーカーが出ればわかることも増えるだろうが…