膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

乾癬性関節炎に対する薬剤治療EULAR recommendation2019

"EULAR recommendations for the management of psoriatic arthritis with pharmacological therapies: 2019 update." Ann Rheum Dis. 2020 Jun;79(6):700-712.
 
PsA(乾癬性関節炎)のEULAR recommendationが4年ぶりに改訂。マイナーチェンジが多いがアルゴリズムがわかりやすいのでまとめ。
 

 

 
表:12の推奨(括弧内は推奨レベル)
  内容
推奨グレード
1
定期的な疾患活動性評価・治療調整によって寛解、または低疾患活動性達成を目標にする
A
2
NSAIDsは筋骨格系症状緩和に使われる場合がある
A
3
ステロイド局所注射はPsAへの補助療法として考慮される。全身投与は最小量で行う
C
4
多発関節痛がある場合、迅速にcsDMARDsを開始する必要がある。皮膚病変がある場合はメトトレキサート(MTX)が推奨
B
5
単/少関節炎の患者のうち、予後不良因子のある場合はcsDMARDsを検討する
  • 予後不良因子…破壊性、炎症反応高値(CRP/ESR)、dactytilis、爪病変
C
6
末梢関節炎及び、1つ以上のcsDMARDsへの反応が不十分の場合、bDMARDsでの治療を開始する
  • 皮膚病変がある場合は、IL-17阻害薬・IL-12/23阻害薬が望ましい場合がある
B
7
末梢関節炎及び、1つ以上のcsDMARDs・1つ以上のbDMARDsへの反応が不十分の場合、またはbDMARDsが適切でない患者ではJAK阻害薬を検討する
B
8
軽症かつ1つ以上のcsDMARDsへの反応が不十分で、bDMARDs・JAK阻害薬が適切でない患者ではPDE4阻害薬を検討する
B
9
明らかな腱付着部炎があり、NSAIDs・局所ステロイド注射への反応が不十分な場合、bDMARDsによる治療を検討する
B
10
活動性でNSAIDsへの反応性が不十分な軸性疾患主体の患者では、bDMARDsでの治療を検討する
  • 通常TNF阻害薬だが、皮膚病変がある場合はIL-17阻害薬が好ましい場合あり
B
11
bDMARDsが適切に作用しない、または不耐性の場合はクラス内でのスイッチまたは他のbDMARDs/tsDMARDsへの切り替えを検討する
C
12
寛解が維持されている患者ではDMARDsの減量を慎重に検討する
C
 
 

図:PsA治療のEULR2019アルゴリズム
  • PhaseⅠ…非常に軽症、または初期
  • PhaseⅡ…csDMARDs使用
  • PhaseⅢ…bDMARDs使用(PhaseⅡで寛解達成できなかった、または軸性病変/腱付着部炎の患者対象)
  • PhaseⅣ…PhaseⅢ失敗例
 
①定期的な疾患活動性評価・治療調整によって寛解、または低疾患活動性達成を目標にする
  • PsAも、RA同様Treat to Targetの重要性が提唱されている
  • ただ、活動疾患性のGold-standardはなく、寛解の定義は現状ない
 
②NSAIDsは筋骨格系症状緩和に使われる場合がある
  • 症状緩和のためのNSAIDsは変わらず推奨
  • ただ疾患活動性が持続する場合、漫然としたNSAIDs単剤での治療は非推奨
    • 末梢関節炎:NSAIDs単剤治療は1ヶ月以内でなければならない
    • 軸性症状・付着部炎:NSAIDs単剤治療は最大12週間まで許容
 
ステロイド局所注射はPsAへの補助療法として考慮される。全身投与は最小量で行う
  • 治療のさまざまな段階で局所注射は使える
  • 軸性症状での全身性ステロイド投与は推奨されていない
 
④多発関節痛がある場合、迅速にcsDMARDsを開始する必要がある。皮膚病変がある場合はメトトレキサート(MTX)が推奨
  • 2019 recommendationでは、関節炎が多発関節炎と単/少関節炎に別れた…多発関節炎が予後不良であることが強調されたため
  • 「迅速」は「2週間以内に」という意味
  • 様々な臨床試験での有用性証明・皮膚病変への有用性からMTXがまず推奨される
  • MTXが使えない場合は、レフルノミド(LEF)・サラゾスルファピリジン(SASP)など
    • シクロスポリンは非推奨
 
⑤単/少関節炎の患者のうち、予後不良因子のある場合はcsDMARDsを検討する
  • 予後不良因子として、破壊性病変(レントゲン変化)、炎症反応高値(CRP/ESR)、dactytilis、爪病変が同定されている
 
⑥末梢関節炎及び、1つ以上のcsDMARDsへの反応が不十分の場合、bDMARDsでの治療を開始する
  • ただし、症状軽度・予後不良因子がない場合は他のcsDMARDsに変更する場合あり
  • MTX投与後3ヶ月以上待たずにbDMARDsを投与するのは過剰である
    • ただし、付着部炎・軸性症状が有意な場合はbDMARDsを早期に使用する
  • 長期データが多いので最初に使われるbDMARDsはTNF阻害薬が好まれる
  • IL-17阻害薬・IL-12/23阻害薬はTNF阻害薬よりも皮膚症状によく効くので、皮膚症状が重い場合は推奨される
    • ただし、炎症性腸疾患・ブドウ膜炎リスクに注意
 
⑦末梢関節炎及び、1つ以上のcsDMARDs・1つ以上のbDMARDsへの反応が不十分の場合、またはbDMARDsが適切でない患者ではJAK阻害薬を検討する
  • 海外ではPsAに対してトファシチニブ(ゼルヤンツ®)が承認されている(日本では適応なし
  • TNF阻害薬無効例でのトファシチニブの有用性が示唆されている
  • 帯状疱疹・静脈血栓リスクに注意
    • 高齢者・心血管リスクのある患者ではリスク高い
  • フィルゴチニブ・ウパダシチニブも治験中
 
⑧軽症かつ1つ以上のcsDMARDsへの反応が不十分で、bDMARDs・JAK阻害薬が適切でない患者ではPDE4阻害薬を検討する
  • 日本で使用でいるPDE4阻害薬としてアプレミラスト(オテズラ®)がある
  • 他の薬剤が禁忌かつ低疾患活動性の場合に限られる
    • 禁忌の例…悪性腫瘍・慢性感染症など
    • 軽症…少関節炎(≦4関節)、スコアでの疾患活動性低値、皮膚症状軽度など
  • ただアプレミラストに対してのデータは限られており、推奨としては弱い
 
⑨明らかな腱付着部炎があり、NSAIDs・局所ステロイド注射への反応が不十分な場合、bDMARDsによる治療を検討する
  • 腱付着部炎の患者では、NSAIDと局所糖質コルチコイドが第一選択の治療法である
  • 腱付着部炎にはcsDMARDsが有効でないため、NSAIDsが使えない/無効の場合はbDMARDsを選択する
  • bDMARDsはどれでも良い
 
⑩活動性でNSAIDsへの反応性が不十分な軸性症状主体の患者では、bDMARDsでの治療を検討する
  • 軸性症状へのエビデンスの多さから、TNF阻害薬が使われることが多いが、他でもいい
 
⑪bDMARDsが適切に作用しない、または不耐性の場合はクラス内でのスイッチまたは他のbDMARDs/tsDMARDsへの切り替えを検討する
  • 他の機序の薬剤でも同機序の薬剤でもいい
  • ただ、エビデンスは不足している
  • アバタセプト(オレンシア®)も一応選択肢に入る(日本では保険適応なし)
 
寛解が維持されている患者ではDMARDsの減量を慎重に検討する
  • 持続寛解(6ヶ月以上の完全寛解)のときのみ考慮する
    • 低疾患活動性では推奨されない
 
(感想)
アルゴリズムがよくまとまっていたので読んでみた。
端的に言えば、予後不良因子・関節痛以外の症状(dactylitis/付着部炎/軸性症状)があった場合は早めにbDMARDsにせよ、ということだろう
ただPsAは難病でもないので、患者負担が相当なものになる。その場合はcsDMARDs+関節注射でほそぼそやるしかない、という悲しい現状がつきまとう。