膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

SLE合併妊娠のエキスパートオピニオン(ACR)

Tarter L, Bermas BL. Expert Perspective on a Clinical Challenge: Lupus and Pregnancy. Arthritis Rheumatol. Published online November 17, 2023. doi:10.1002/art.42756
 
ACRのエキスパートオピニオンシリーズ。
●ポイント
  • SLE合併妊娠はSLEフレア・母体胎児イベントのリスクが依然高い
  • 妊娠前にSLEコントロール・妊娠可能な薬剤への変更・HCQ継続を行う
  • APSSSA,SSB抗体陽性の場合、別途リスクがある。APSに関しては抗血栓薬、SSA,SSB抗体陽性に関してはHCQが有効。
  • 子癇前症とループス腎炎の鑑別は難しいが、鑑別ポイントがある
 

①アプローチ概要

  • 重大臓器障害(重度の肺高血圧 症、肺線維症、心筋症、弁膜症、末期腎不全、劇症型抗リン脂質症候群既往など)は、妊娠禁忌となりうる

 

②禁忌薬剤

安全性

薬剤

投与量制限、妊娠中の使用時期

妊娠との適合性:

胎児or母体のリスクが最小限

HCQ

(ヒドロキシクロロキン)

-

スルファサラジン

葉酸の補充をしつつ<2g/日

アザチオプリン

-

低用量アスピリン

≦162mg/d; 高用量は避ける

コルヒチン

-

妊娠中、選択的使用を考慮する

タクロリムス

-

シクロスポリン

-

IVIG

-

アバタセプト

妊娠初期(妊娠12週以前)には胎盤透過性がなく、ベネフィットがリスクを上回る場合はこれ以降の使用を検討する; 生物学的製剤の移行は妊娠初期に増加するため、妊娠後期に暴露されると乳児の免疫抑制が増加する可能性がある。

アニフロルマブ

ベリムマブ

エクリズマブ

IL-1阻害薬

リツキシマブ

妊娠中は避ける:

胎児への悪影響のリスクが高い

シクロホスファミド

妊娠3ヶ月前までに中止。妊娠第2-3期において、他の治療法がなく致死的疾患にのみ使用を検討する。

MMF

(ミコフェノール酸モフェチル)

妊娠の6週間前までには中止。SLEでは、理想的には妊娠の6ヶ月前には中止し、必要に応じて妊娠に適合した薬剤に変更して病勢をコントロールする。

メトトレキサー

妊娠の1-3か月前に中止

 

APSの管理

  • SLE患者の1/4~1/2に抗リン脂質抗体(aPL)陽性となるが、そのうちAPS関連血栓合併症を起こすのは10-15%程度と少数
  • 妊娠を計画しているSLE患者の患者には、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体(aCL)IgG,IgM、抗β2GPⅠ抗体IgG,IgMを測定する
  • 治療
    • 産科的APSの場合、妊娠6-12週で低用量アスピリン+予防用量ヘパリン(通常は低分子量ヘパリン)で治療する
    • 血栓APSの場合、妊娠中低用量アスピリン+治療用量ヘパリンで治療する
    • aPL抗体陽性でAPSを示唆する既往のない女性の場合、妊娠中低用量アスピリンで治療する(子癇前症予防)
 
臨床基準の1項目以上が存在し、かつ検査項目のうち1項目以上が存在するとき、抗リン脂質抗体症候群とする。
●臨床基準
  1. 血栓症:画像診断、あるいは組織学的に証明された明らかな血管壁の炎症を伴わない動静脈あるいは小血管の血栓症
  2. 妊娠合併症::以下のいずれか
    1. 妊娠10週以降で、他に原因のない正常形態胎児の死亡
    2. (i)子癇、重症の妊娠高血圧腎症(子癇前症)、(ii)胎盤機能不全による妊娠34週以前の正常形態胎児の早産、(iii)3回以上つづけての、妊娠10週以前の流産(ただし、母体の解剖学的異常、内分泌学的異常、父母の染色体異常を除く。)
●検査基準
  1. International Society of Thrombosis and Hemostasisのガイドラインに基づいた測定法で、ループスアンチコアグラントが12週間以上の間隔をおいて2回以上検出される。
  2. 標準化されたELISA法において、中等度以上の力価の(>40 GPL or MPL、又は>99パーセンタイル) IgG型又はIgM型のaCLが12週間以上の間隔をおいて2回以上検出される。
  3. 標準化されたELISA法において、中等度以上の力価 (>99パーセンタイル)のIgG型又はIgM型の抗β2-GPI抗体が12週間以上の間隔をおいて2回以上検出される。(本邦では抗β2-GPI抗体の代わりに、抗カルジオリピンβ2-GPI複合体抗体を用いる。)
 

④新生児ループスのリスク

  • 抗Ro/SSA,La/SSB抗体陽性患者では新生児ループスリスクが高い。症状としては皮膚・肝機能障害が多く、重篤症状としては先天性心ブロック。
    • 先天性心ブロックリスクの高い抗体はRo52>Ro60>La(Scand J Immunol, 2011. 74(5): p. 511-7.)
  • 妊娠中のHCQ使用は心ブロックリスクを低下させることがわかっており、Ro/SSA,La/SSB抗体陽性患者では推奨される(Arthritis Rheumatol, 2020. 72(4): p. 529-556.)
  • 推奨はないが、胎児心拍の家庭モニタリングがおすすめ…1,2度AVblockであればデキサメタゾン投与によって改善する可能性がある
 

⑤妊娠モニタリング

推奨事項は以下の通り
  SLE APS Ro/SSA,La/SSB(+)
妊娠前
  • SLE活動性の評価、検査*
  • 禁忌でない限りHCQ内服、妊娠6ヶ月前からSLEコントロールの必要性に応じて妊娠に適合した他薬剤内服になっていることを確認する
  • 薬剤アドヒアランスの確認
  • 妊娠前カウンセリングのため、周産期医に紹介する
  • 全SLE患者で抗リン脂質抗体の存在を評価する
  • 全SLE患者で抗Ro/SSA,La/SSB抗体の存在を評価する
妊娠
1期
  • SLE活動性の評価、検査*
  • 血圧チェック
  • 妊娠期間中、SLEコントロールのため、必要に応じてHCQ・その他の妊娠に適合した薬剤を継続する
  • 子癇前症予防のため、低用量アスピリン81-162mg/日を妊娠10-14週目から開始し、妊娠中継続
  • 血栓APS:妊娠と同時に治療用低分子ヘパリン(例:エノキサパリン1mg/kgを12時間毎投与)に変更する(ワルファリンには催奇形性があるため)
  • 産科的APS:子宮内妊娠が確認されたら予防的低分子ヘパリン(例:エノキサパリン40mg/日)を開始する。
  • 禁忌でない限りHCQ内服していることを確認する
*血算生化、dsDNA、C3/4、ESR、CRP、尿検査、随時尿TP/Cre
 
  • 全ての妊娠中SLE患者は、妊娠10-14週目までに低用量アスピリン81-162mg/dayを開始→妊娠中も継続
    • 子癇前症予防。出血イベントは増えないとされる
  • 妊娠による生理的変化とSLEフレアの鑑別は難しい
    • 浮腫…血漿量の増加→心拍出量増加→浮腫・肺水腫
    • 関節痛、倦怠感、関節腫脹
    • 採血…Hb・血小板低下。ESRは上昇するがCRPは変化しない→CRP高値なら、SLE再燃・感染を示唆する
    • 補体は妊娠では上昇する

⑥子癇とループス腎炎の鑑別

  • SLE患者は妊娠中ループス腎炎フレアリスク・子癇前症リスクどちらも高く、鑑別は難しい…どちらも蛋白尿の増加、高血圧、腎機能の悪化を起こす。ただ治療は異なる→鑑別困難なら妊娠中断が最終手段となる
  • 妊娠初期の新規or増悪した蛋白尿と高血圧→ループス腎炎の再燃が多い。妊娠20週以降は鑑別困難。
  • 元々ループス腎炎ない患者で鑑別が難しい場合、腎生検も一応考慮される
 
●鑑別ポイント
腎炎フレア 子癇前症
蛋白尿(≧0.5g/24hr) 蛋白尿(≧0.3g/24hr)
血清Cre上昇(±) 血清Cre上昇(±)
補体低値 補体正常
抗dsDNA抗体上昇 抗dsDNA抗体変化なし
白血球減少 白血球増多
尿中細胞円柱 尿中細胞陰性
血小板減少(±) 血小板減少(++)
酵素正常 酵素上昇(++)
破砕赤血球(-) 破砕赤血球(++)
尿酸値低値 尿酸値上昇
 

⑦妊娠中のSLEフレアへの治療

  • 妊娠中のSLEフレアは、迅速かつ積極的な治療が必要
  • 妊娠中のSLEフレアの治療は、非妊娠患者とほぼ同様。
 
●妊娠中SLEの管理のアプローチ

  • 妊娠中のグルココルチコイドの使用は、妊娠糖尿病・高血圧・骨粗鬆症感染症などのリスクが上昇する→最低限にする
  • ループス腎炎の場合ステロイド+タクロリムス、アザチオプリンでの治療
  • →無効or治療不十分な場合、リツキシマブorベリムマブを検討(※催奇形性はないようだが、乳児の免疫抑制リスクあり、弱毒化生ワクチン接種は延期する必要があるかもしれない)
    • シクロホスファミド(CYC)は催奇形性があり、妊娠初期は高リスク。致命的な症例でのみ使用を考慮する(その場合胎児は死亡すると思われる)(Lupus, 2005. 14(8): p. 593-7.)
 
●妊娠中のループス腎炎の治療に対するアプローチ