膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ループス腎炎寛解導入でのタクロリムスvsシクロホスファミド静注

JAMA Netw Open. 2022;5(3):e224492.
 
SLE合併症の代表例であるループス腎炎(LN)への寛解導入療法といえば、ステロイド免疫抑制剤である
免疫抑制剤の選択肢として、カルシニューリン阻害薬の一種タクロリムス(Tac)・シクロホスファミド静注(IVCY)がある
→直接比較を行った中国からの第3相臨床試験
 
Q:中国人でのループス腎炎(LN)への初期治療として、タクロリムス(Tac)とシクロホスファミド静注(IVCY)の有効性・安全性はどうか?
A:奏効率に関してTacはIVCYに対して非劣勢
 

【Method】

中国の35施設で実施、無作為化(1:1)非盲検第3相試験
P(患者):ループス腎炎患者(活動性あり)
  • 腎生検でクラスIII、IV、V、III+V、IV+Vのどれかが証明されている
  • 18~60歳の患者
  • BMI18.5-27
  • 24時間尿蛋白≧1.5g
  • 血清クレアチニン<260μmol/L(※血清Cre<2.94mg/dL)
I/C:Tac群・IVCY群に、1:1でランダム割付
  • 試験開始前、全例にステロイドハーフパルス(mPSL500mg/day x3日間)
  • ステロイド後療法…PSL0.8mg/kg/日(最大45mg/日)4週間→2週間毎に5mgずつ漸減して20mg/日→2週間毎に2.5mg/日ずつ減量→24週時点で10mg
    • 漸減プロトコル…45mg→(4w)40mg→(6w)35mg→(8w)30mg→(10w)25mg→(12w)20mg→(14w)17.5mg→(16w)15mg→(18w)12.5mg→(20-24w)10mg
  • Tac…4mg/day分2で開始→14日目以降、トラフ値4-10ng/mL目標で投与量調整
  • IVCY…0.75g/m2BSAで投与→4週おきに0.5-1.0g/m2BSAを目標にWBC2500-4000以上になるように0.25 g/m2で調整
  • ※ミコフェノール酸モフェチル(MMF)は併用していない
Outcome
  • Primary outcome…24周目の完全/部分奏効率
    • 完全奏効…蛋白尿<0.5g/24hr、血清アルブミン≧3.5g/dL、腎機能が安定(血清Crが基準範囲内orベースラインからの上昇が15%以下)
    • 部分奏功…蛋白尿<3.5g/24hrでベースラインから50%以上減少、血清アルブミン≧3.0g/dL、腎機能が安定
  • Secondary outcome…SLEDAIスコア、免疫パラメータ(補体C3・C4、抗dsDNA抗体)、腎機能(24時間蛋白尿、血清アルブミン、血清Cr値、eGFR
24週時点での治療後完全/部分寛解率は、Tac83.0%・IVCY75.0%
 

【Result】

◎患者ベースライン

  • 299名を1:1割付
      • 2群で大きな差はない
      • 女性優位、平均年齢34.2歳、腎生検はクラスⅣ+Ⅴが最多
        • ※ミコフェノール酸モフェチル(MMF)を使用しないため、出産可能年齢の女性が多く含まれている
    • 299例中263名投与完遂
      • 中止例…有害事象(各群7例)、同意撤回(タクロリムス群1例、IVCY群6例)など
  • 治療コンプライアンスは99%で問題なし

◎Primary outcome

  • 24週時点での奏効率に関して、TacはIVCYに対して非劣勢
    • 奏効率Tac群83.0%、IVCY群75.0%
  • 腎生検クラス別解析…Ⅳ+Ⅴ患者以外ではTacの方がIVCYより奏効率が高い

◎Secondary outcome

  • SLEDAIスコア…二群とも低下。24週時点では若干Tac群の方が低め
  • 補体・抗dsDNA抗体…二群とも改善。有意差なし
  • 24時間蛋白尿量…4週以降、Tacの方が有意に改善
  • 血清アルブミン…二群で有意差なし
  • 血清クレアチニン…Tacの方がクレアチニン値改善しているが、二群ともに基準範囲
 

◎安全性

  • 二群とも同等の割合で有害事象発生(Tac群157名、IVCY142名)
    • Tac群で多い有害事象…上気道感染、下痢
    • IVCY群で多い有害事象…上気道感染、嘔気・嘔吐、脱毛、白血球減少
  • ただし重篤な有害事象に関しては、Tac群はIVCY群よりも有意に少ない…Tac群29例(18.5%)、IVCY群35例(24.6%)
    • 多かった重篤有害事象…感染症
    • 3件の有害事象で2名が死亡…Tac群水痘、IVCY群敗血症性ショック・肺炎
 

【Discussion】

  • 24週後の奏効率に関して,Tacによる初回治療はIVCYに対して非劣性(Tac群83.0% vs. IVCY群75.0%)
  • 過去試験とほぼ同様のTac群の奏効率(83.0%)を示した
    • Tac対ミコフェノール酸モフェチル(MMF)…6ヵ月奏効率Tac群89%、MMF群80%→TacはMMFに対して非劣勢(Ann Rheum Dis. 2016;75(1):30-36.)
  • TacはIVCYと比較して24時間蛋白尿量が有意に改善した→Tacの方が腎臓に速やかに作用する?
  • 過去研究よりもTac群のeGFR低下が少なかった→トラフを正確にモニターしたから?
  • 重篤有害事象発生率がTacの方が少なかったが、長期毒性は未評価のため注意
 

【Conclusion】

  • 中国人LN患者に対しての初期治療として、高用量ステロイド+Tacは有効かつ良好な安全性を有する
 

【感想】

  • 妊娠可能年齢のLNに対してのIVCY・MMFは妊孕性の問題で初期から使いにくく、Tacの選択が多い
  • Tacの有効性の根拠の一つにはなると思う
  • LNに対してのリツキシマブ(RTX)・ベリムマブの役割も大きくなってきているので、ますますIVCYの役割は少なくなっていきそうではある