Clin Exp Rheumatol. 2021;39(5):1099-1107.
ヒドロキシクロロキン(HCQ)は、SLEのキードラッグだが継続困難例が散見される。代表的なのが皮疹だが、網膜症を始めとした皮膚外症状にも注意が必要。
皮膚症状でHCQ使いにくくなった症例でも、減感作療法を行う場合があるため、そのへんもまとめて紹介。
【Key-point】
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HCQの有害事象で多いのは、皮膚では斑状丘疹状の紅斑、皮膚外では消化器症状・頭痛
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HCQ投与早期に多い有害事象・後期に多い有害事象があり、早期有害事象はHCQ中止で改善することが多いが、後期有害事象は不可逆的なことが多い
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HCQ再導入する手として減感作療法があるが、プロトコルはあいまい
【HCQと有害事象】
表:HCQでの皮膚・皮膚外有害事象
リスク
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皮膚有害事象 | 皮膚外有害事象 |
多
(10%)
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斑状丘疹状の紅斑
掻痒感
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消化器症状(食欲不振、下痢、吐き気)
頭痛
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少
(1%)
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色素沈着
爪甲色素線条
脱毛
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網膜症
めまい、耳鳴り
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稀
(1%以下)
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乾癬様皮膚炎
光線過敏性皮膚炎
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ミオパチー
心毒性
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不明
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急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)
薬剤性過敏症症候群(DRESS)
Stevens-Johnson症候群(SJS)
中毒性表皮壊死融解症(TEN)
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汎血球減少
溶血症
急性肝不全
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【HCQによる皮膚有害事象】
①斑状丘疹状の紅斑(Maculopapular rash)
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HCQによる皮膚有害事象のなかで最多(HCQ投与患者の最大10%に発生)
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HCQ投与早期に発生→投薬中止後数週間で消失
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累積投与量が100g未満、治療後4週間以内での発生が多い
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掻痒感を伴うことが多いが、掻痒感のみの場合は別の有害事象のことがある
②色素沈着
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口腔内/口唇粘膜・皮膚(特に下肢)への色素沈着
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SLE・シェーグレン症候群の患者で多い
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HCQ投与数ヶ月~数年で発症
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粘膜色素沈着は、累積投与量が400g以上で発症することが多い
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皮膚生検…マクロファージ、線維芽細胞、コラーゲン線維間の黄色-茶色の色素顆粒、Fontana-Masson染色陽性
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HCQがメラニンに結合する?
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色素沈着を起こした患者は網膜症リスクが高い→眼科検査推奨
③急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)
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HCQ投与後数週間で発症し、累積投与量が少なくても発生しうる
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症状…体幹上部から発症し、掻痒感を伴う紅斑と浮腫を伴うこともある非毛包性の局所性膿疱が徐々に広がっていく
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治療…HCQ中止後速やかに改善することが多い
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長期化することもあり、その場合はステロイド等が使用される
④薬剤性過敏症症候群(DRESS)
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重症薬疹の一種だが、HCQでは非常にまれ
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HCQ導入後2週間以上経過して発症する
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皮膚症状…斑状丘疹+膿疱、鱗屑、紅皮症、触知可能な紫斑
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全身症状…発熱、リンパ節腫脹
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採血…リンパ球増多、好酸球増多、異型リンパ球
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鑑別診断…AGEP、ウイルス性発疹、好酸球増多症候群、リンパ腫、膿疱性乾癬など
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治療…高用量全身性ステロイド
【HCQによる皮膚外有害事象】
多いのは、消化器症状と中枢神経症状
①消化器症状
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副作用で最も多く、患者の10%で発生する
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HCQ内服開始直後〜数週間以内で起こりやすい
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症状
②神経症状
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最多は頭痛
③網膜症
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用量制限毒性として最も重要な副作用
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HCQはメラニンに蓄積しやすい→網膜色素上皮に沈着し、不可逆的な視力障害を起こすことがある
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早期にHCQを中止すると完全に治癒するが、後期の変化はHCQ中止後も治癒しない場合あり→網膜毒性を早期に発見し、直ちに治療を中止することが推奨される
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初期症状は非常に特定しにくい…傍中心暗点、微妙な色覚障害など
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→HCQ長期使用予定の場合、治療開始時から定期的な眼科フォローを受けることが重要
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網膜症リスク…高齢、肥満、HCQ投与期間が長いことなど(Arthritis Rheumatol 2020; 72: 448-53.)
④心毒性
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稀だが重大な合併症
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心筋症・房室ブロック、QT延長症候群など
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累積投与量100g以上の場合、心毒性が高くなる→長期使用患者では心電図・心エコーでのモニタリングが必要
【減感作療法】
定まったものはまったくない。症例報告レベルしか存在しない。
短期で行うもの(入院・ICU利用)もあれば、数週間かけて外来で行うものもある。わかりやすいものを紹介。
有害事象が軽度なら①の37日間コースを途中(10mgくらい)から開始するのが現実的な気がする。
①37日間コース(Lupus. 2019;28(7):918-919.)
②26日間コース(Lupus. 2018;27(5):703-707.)
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2段階のHCQ減感作プロトコルを実施
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希釈した(0.1mg/ml)HCQ溶液の投与量を漸増→1ヶ月後には200-400mgへ