膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

全身性強皮症のミミック

全身性強皮症(Systemic Sclerosis, SSc)は「皮膚硬化」を特徴とする疾患で、その他レイノー現象・爪周囲異常血管・皮膚外臓器症状などを起こす

ただ、この「皮膚硬化」という点で様々なミミックが存在するので、まとめ。ただ、頻度は低いものもある。

 

自分なりのSScミミック除外目的にやるべきことは、以下の通り

  1. 病歴
    • 発症様式…急性経過ではミミック疑う
    • レイノー現象確認…二相性変化確認→あればSSc考える
    • 腎疾患・糖尿病有無確認
    • 職業・家族歴・薬歴確認
  2. 身体所見
    • 皮膚硬化分布…四肢末端に硬化がないものは、ミミック疑う
    • レイノー現象・爪周囲血管異常確認
    • 浮腫・皮疹の確認→あればミミック除外
    • 関節所見・関節拘縮確認
    • 全身症状確認…神経障害・心肺機能評価
  3. 血液検査
  4. その他
    • 画像検査…特に好酸球性筋膜炎疑いでは造影MRI
    • 皮膚生検…悩ましい症例では積極的に実施(※モルフィア疑いでは意義乏しいことに注意)
    • (必要あれば)悪性腫瘍スクリーニング

 

 

表:全身性強皮症ミミック一覧

限局性
モルフィア(限局性強皮症)
circumscribed morphea
linear scleroderma
generalized morphea
pansclerotic morphea
mixed morphea
全身性
炎症性・免疫介在性疾患
好酸球性筋膜炎
移植片対宿主病
硬化性萎縮性苔癬(Lichen sclerosus et atrophicus)
POEMS症候群(多発性神経炎、臓器肥大、内分泌障害、単クローン性ガンマグロブリン症候群)
沈着性疾患
硬化性粘液水腫
全身性アミロイドーシス
腎性全身性線維症
硬化性浮腫
脂肪皮膚硬化症(Lipodermatosclerosis)
職業上の暴露
エポキシ樹脂、有機溶剤、ポリ塩化ビニル、シリカ
遺伝性疾患

先天性筋膜ジストロフィー

早老症…プロジェリア症候群、Acrogeria、ウェルナー症候群

代謝性疾患

甲状腺機能低下症(粘液水腫)

フェニルケトン尿症

晩発性皮膚ポルフィリン症

糖尿病性手関節症

毒物・化学物質によるもの

医薬品…バリカチブ、ビソプロロール、ブレオマイシン、ブロモクリプチン、カルビドパ、D-ペニシラミン、L-トリプトファンペンタゾシン放射線照射後の線維症、毒性油症

殺虫剤…ジニコナゾール、マラチオン

化学物質…ベンゼン、マラチオン、ナフタレン、トルエントリクロロエチレン、塩化ビニルモノマー

【特に重要なミミック

表:重要な全身性強皮症ミミックと鑑別ポイント

疾患 皮膚の性状 分布 組織学・検査上の異常 臨床的特徴・合併症 関連項目

全身性強皮症

(Systemic Sclerosis, SSc)

厚い

固い

光沢がある

皮膚硬化

手・顔に多い

背中にはない

薄い表皮

過剰コラーゲンと非晶質性結合組織を持つ飛行した細胞性真皮

まばらな血管周囲のリンパ球性炎症浸潤

強皮症特異的な自己抗体

レイノー現象

爪周囲血管異常

嚥下障害

胃食道逆流症

間質性肺疾患

肺動脈性肺高血圧症

RNAポリメラーゼⅢ抗体

…悪性腫瘍リスク増加と関連

硬化性浮腫

(Scleredema)

パン生地様

皮膚硬化

背中、首、顔

手足にはない

皮膚は正常〜薄い

皮膚に厚いコラーゲン束が蓄積し、その間にはムチンが沈着

線維芽細胞の増加はなく、弾性線維は減少

炎症性浸潤はない

レイノー現象なし

爪周囲血管正常

嚥下障害

眼球運動麻痺

肝脾腫

心筋症

感染後

単クローン性γグロブリン血症

多発性骨髄腫

糖尿病

硬化性粘液水腫

(Scleromyxema)

「敷石状」硬結を伴うワックス状丘疹 眉間・耳に顕著な病変のある顔首、背中、前腕、手

ムチンの顕著な皮膚沈着

不規則なコラーゲン線維を伴う、網状真皮における星状線維芽細胞の増殖

軽度-中等度の血管周囲炎症細胞浸潤

単クローン性γグロブリン血症(IgG lambda)

レイノー現象は稀
爪周囲血管正常
嚥下障害
関節痛・関節炎
肺高血圧症
神経障害…発作、脳症、精神病、昏睡

単クローン性γグロブリン血症

多発性骨髄腫

好酸球性筋膜炎 木のような硬結が表層真皮を超えて広がる"Groove sign"

体幹・四肢

顔・手足にはない

真皮・皮下接合部での好酸球浸潤

皮下・真皮の筋膜の肥厚好酸球増多

アルドラーゼ上昇

高ガンマグロブリン血症

レイノー現象は稀

爪周囲血管正常

手根管症候群

関節拘縮

全身合併症は稀

骨髄異形成

免疫介在性血球減少

固形癌

血液悪性腫瘍

汎硬化性限局性強皮症(Pansclerotic morphea)

厚い

皮膚硬化

低or高色素

顔、足、体幹、四肢の非対称性分布

手にはない

網状層の皮膚炎症

関連する検査の異常なし

レイノー現象なし

爪周囲血管正常

全身性病変なし

外部からの圧迫による二次性嚥下障害

呼吸機能検査で拘束性障害…胸郭運動制限

腎性全身性線維症

高色素性の硬結

結節性の木のような斑状プラーク

体幹・四肢の対称性病変

顔、手、足にはない

多数の紡錘形の線維芽細胞

ムチンで区切られた厚いコラーゲン束筋肉を含む全層を覆う

血清クレアチニン値上昇

レイノー現象なし

爪周囲血管正常

顕著な屈曲拘縮

関節・筋肉の線維化

心臓・肺の線維化

末梢神経障害

腎不全・腎機能障害

ガドリニウム中毒

糖尿病性手関節症

(Diabetic Cheiroarthropathy)

皮膚肥厚

“Prayer sign"

上肢・手

皮膚の線維化

コラーゲンの増加

高血糖

レイノー現象なし

関節可動域低下

関節拘縮

長期コントロール不良の糖尿病

表:病理イメージ(Am J Dermatopathol. 2014;36(6):449-464.)

①硬化性浮腫(Scleredema)

 

  • 1902年にドイツの皮膚科医Abraham Buschkeによって初めて報告された皮膚硬化疾患
  • 3つのサブタイプに分かれる
    • 1型:「感染後」
      • ”Scleredema adultorum of Buschke”とも呼ばれる
      • サブタイプ中最多
      • 20歳未満に多く、女性に好発
      • 感染症が発症契機となることがある
        • 連鎖球菌、麻疹、ムンプス、インフルエンザ、水痘など
      • 急性発症・数ヶ月〜数年で症状消失するが、まれに周期的な増悪が起こる
        • 基本的には良性疾患
    • 2型:「MGUS関連」
      • 単クローン性γグロブリン血症(MGUS)、多発性骨髄腫と関連
      • 緩徐進行で難治性
    • 3型:「糖尿病性」
      • 長期コントロール不良の糖尿病と関連し、「糖尿病性強皮症」とも呼ばれる
      • 男性、40歳以上、糖尿病による微小血管合併症を併発している事が多い
      • 緩徐進行で難治性
◎臨床的特徴
◎診断
  • 皮膚生検…肥厚した真皮下に膨張したコラーゲン繊維があり、その間にはヒアルロン酸で構成された非晶質性結合組織がある→表皮は正常〜薄い
      • (Am J Dermatopathol. 2014;36(6):449-464.)
  • ただし生検は必須ではなく、臨床的診断が可能
◎治療

 

②硬化性粘液水腫(Scleromyxema)

  • 1954年にGottronが初報告
  • 硬化性粘液水腫の他、Arndt-Gottron病、丘疹性粘液症、粘液性苔癬とも呼ばれる極めて稀な疾患
  • 平均発症年齢は60代で、小児では稀
  • 男女比均等
  • 原因不明だが、患者の80%に副腎皮質の炎症があり、関連が示唆されている(Arthritis Care Res. 2012;64(8):1175–85.)
◎臨床的特徴
  • 直径2〜3mmの肌色の苔癬状丘疹を形成する皮膚ムチン沈着の存在が特徴→「敷石状」硬結がある
      • (J Am Acad Dermatol. 2013;69(6):1062-1066.)
  • 部位…眉間、首、後耳介領域に多いが、体幹だけでなく四肢にも起こる
      • 硬化性粘液水腫による手指皮膚硬化(Curr Treatm Opt Rheumatol. 2016;2(1):69-84.)
  • 長期化すると、プラークによる「仮面様顔貌」が起こる
  • その他全身症状…嚥下障害、関節痛・関節炎、肺高血圧症、神経障害(痙攣、脳症、精神病、昏睡など)
    • " Dermato-neuro syndrome”は致命的な合併症で、発熱・痙攣・昏睡の3徴が特徴
◎診断
  • 皮膚生検…ムチンの顕著な皮膚沈着・不規則なコラーゲン線維を伴う、網状真皮における星状線維芽細胞の増殖
      • (Am J Dermatopathol. 2014;36(6):449-464.)
    • 軽度-中等度の血管周囲炎症細胞浸潤を伴う
    • 良性の単クローン性γグロブリン血症と関連…IgG lambda
  • 診断基準…以下の4つを満たす
    1. 強皮症のような丘疹性皮疹
    2. 硬化性粘液水腫(Scleromyxema)様の皮膚生検結果…真皮のムチン沈着、紡錘状線維芽細胞の増殖、コラーゲンの増加
    3. 単クローン性γグロブリン血症
    4. 甲状腺機能障害がない
  • SScとの鑑別ポイント…特徴的な丘疹様皮疹があり、耳・背中中央部がの病変がある点(※SScでは背部・耳病変は稀)
◎治療・予後
  • 多発性骨髄腫に準じた治療が行われることが多い…化学療法、自家幹細胞移植
  • IVIGも有用
  • 全身合併症がある例では予後不良なケースがある

 

好酸球性筋膜炎

  • 1975年にShulmanが報告し、Shulman症候群とも呼ばれる
  • 非常に稀で有病率不明
  • 30−60代に多く、白人・男性に好発
  • 原因不明だが、放射線治療後・虫刺され・薬剤誘発・外傷・激しい運動後などが潜在的に誘発するとされる
  • 自己免疫性疾患との関連報告あり…骨髄異形成症候群・白血病、免疫介在性血球減少、固形癌、甲状腺疾患なども
◎臨床的特徴
  • 数週~数ヵ月の経過で、圧痛を伴う対称性の皮下硬結が亜急性に発症する、というのが典型例
  • 全身症状も起こすことがある…発熱、体重減少、全身倦怠感など
  • 皮膚
    • 初期…”Orange-peel like appearance”(“peau d’Orange” appearance)と呼ばれる四肢浮腫を起こす
      • 腕・大腿に皮膚表面の凹凸を作る→「オレンジの皮」のようなしわになる
        • ( Open Access Maced J Med Sci. 2019;7(18):2964-2968.)
    • 進行…硬結が進行し、“Groove sign”と呼ばれる静脈と一致した部位の皮膚の凹みが発生する
      • 患肢を挙上するとより見え、皮膚をつまむと折り目がつく
        • (Mayo Clin Proc. 2021;96(8):2184.)
    • 四肢の他、体幹にも発生する
  • 左右対称性の非びらん性関節炎が時々起こり、関節拘縮を起こす
  • 関節周囲の線維化で、手根管症候群等の末梢神経障害を起こす
  • SScとの鑑別ポイント…レイノー現象は稀、爪周囲血管異常なし、全身性の合併症は稀
◎診断
  • 皮膚生検がゴールドスタンダード…真皮・皮下接合部での好酸球浸潤が特徴
      • (Am J Dermatopathol. 2014;36(6):449-464.)
  • 臨床的所見・画像/検査所見から診断することも多い
    • MRI…筋膜の肥厚、T2高信号(AJR Am J Roentgenol. 2005;184(3):975-978.)
      • 造影MRIでは、より筋膜肥厚が顕著になる
    • 末梢血好酸球増多も多い
  • 炎症反応上昇・高ガンマグロブリン血症・アルドラーゼ上昇(CK正常)などもある
◎治療
  • ステロイド治療が第一選択
    • PSL0.5-1.0mg/kg/dayを数週投与→漸減が多い
  • 広範の症状・全身症状合併の場合、追加の免疫抑制剤が必要…MMF・MTXなど
  • 大体が治療反応良好で、予後良好。自然治癒例もある。

 

④モルフィア(限局性強皮症)

  • 皮膚・皮下組織への硬化を伴うコラーゲン沈着が特徴の炎症性疾患
    • ※名前がややこしいが、限局性皮膚硬化型全身性強皮症(lcSSc)とは全くの別物なので注意!!
  • 5つのサブタイプがある…※日本のガイドラインでも同様の分類を踏襲(https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/126112039.pdf
    1. circumscribed morphea
    2. linear scleroderma:線状強皮症
    3. generalized morphea:汎発型限局性強皮症
    4. pansclerotic morphea
    5. mixed morphea
  • 根本原因はわかっていないが、外傷・感染症等による内皮細胞の障害→リンパ球の動員・炎症性サイトカイン分泌・線維芽細胞活性化→組織・血管の線維化が起こるとされている
◎臨床的特徴
  • 急性発症で、数ヶ月以内に発症
  • 典型的には背部・某脊柱領域に発生するが、体幹・四肢近位部に起こる場合もある
  • 手に起こることは稀
  • 脂肪組織、筋膜、筋肉の広範な皮下の線維化が見られる
    • 悪化すると、重度の拘縮、皮膚の壊死、難治性潰瘍が発生する場合あり
  • レイノー現象はまれ、爪周囲血管異常はない
  • 関節痛・筋肉痛を伴う場合がある
  • 胸郭病変の場合、CT正常でも呼吸機能検査で拘束性障害を起こすことがある
◎診断
  • 皮膚生検でのSScとの鑑別は困難…生検結果が似ている
  • →基本的には分布で鑑別する
◎治療
  • 有効な治療法は確立していない
  • 症例報告レベル…MTX・ステロイド・光線療法併用など

 

⑤腎性全身性線維症

  • 末期腎不全患者にガドリニウム造影剤を投与することによって発生する皮膚硬化
◎臨床的特徴
  • 急性発症の浮腫、徐々に拡大する結節・丘疹→合体してプラークになり、掻痒感を伴う
      • Clin J Am Soc Nephrol. 2007;2(2):258-263.
  • ガドリニウム投与後数日-数週間で発症することが多いが、晩期に発症した例も報告がある
  • 四肢末端から発症し、肘・膝に進展する
    • 顔面病変はない
  • 重度の関節拘縮・神経障害・内臓合併症を起こすことがある
  • レイノー現象は稀で、爪周囲血管異常はない
◎診断
  • 皮膚生検…真皮線維症、炎症細胞浸潤はない
◎治療
  • 有効な治療法は確立していない
  • 免疫抑制剤はあまり有効ではない
  • 腎移植の他、疼痛管理・理学療法のような支持的療法が多い
  • 予防として、腎機能障害患者へのガドリニウム造影を避けることが重要

 

⑥糖尿病性手関節症(Diabetic Cheiroarthropathy)

  • コントロール不良の糖尿病患者に起こる合併症(1型でも2型でも起こる)
  • コラーゲンのグリコリシル化→皮膚線維芽細胞刺激→線維化が主因と考えられている
◎臨床的特徴
  • 両手・手指背側の対称性硬化/皮膚肥厚が特徴
  • 関節拘縮の結果、指を伸ばせない→”Prayer Sign"と呼ばれる
      • BMJ 2017;359:j4878)
  • レイノー現象なし、爪周囲血管異常なし
◎診断
  • 皮膚生検…腱鞘周囲の皮膚硬化・線維化
  • 超音波検査、MRI…皮下組織・屈筋腱鞘の肥厚
◎治療

 

【感想・意見】

  • 強皮症疑いとして時々紹介されてくるものとしては限局性強皮症(モルフィア)が多いが、他にも注意すべき疾患が多々ある
    • 特に好酸球性筋膜炎は重要な鑑別
  • どのミミックレイノー現象・爪周囲血管異常はまれ・強皮症自己抗体は稀という傾向がある→しっかりとキャピラロスコピーで爪周囲血管を見ることが重要!
  • ただし、全身性強皮症の中にもseronegativeもあり、悪性腫瘍との関連がよく言われる(Mymensingh Med J. 2008;17(2):192-196.)
    • 強皮症ミミックの中にも悪性腫瘍関連疾患がいくつかある(Scleredema、Scleromyxema、好酸球性筋膜炎)ので、見分けがついてないだけの可能性もあるが…
    • モルフィアではない広範囲の皮膚硬化があったら、年齢相応の悪性腫瘍スクリーニング+免疫グロブリン測定はしてもいいかもしれない
  • まとめると強皮症ミミック除外目的に以下はやったほうがいいだろう
    1. 病歴
      • 発症様式…急性経過ではミミック疑う
      • レイノー現象確認…二相性変化確認→あればSSc考える
      • 腎疾患・糖尿病有無確認
      • 職業・家族歴・薬歴確認
    2. 身体所見
      • 皮膚硬化分布…四肢末端に起こっていないものはミミック疑う
      • レイノー現象・爪周囲血管異常確認
      • 浮腫・皮疹の確認→あればミミック除外
      • 関節所見・関節拘縮確認
      • 全身症状確認…神経障害・心肺機能評価
    3. 血液検査
    4. その他
      • 画像検査…特に好酸球性筋膜炎疑いでは造影MRI
      • 皮膚生検…悩ましい症例では積極的に実施(※モルフィア疑いでは意義乏しいことに注意)
      • (必要あれば)悪性腫瘍スクリーニング

参考:

ctd-gim.hatenablog.com

 

参考:Morgan ND, Hummers LK. Scleroderma Mimickers. Curr Treatm Opt Rheumatol. 2016;2(1):69-84.