膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

膠原病関連間質性肺疾患の総説(米国胸部学会)

米国胸部学会(American Thoracic Society, ATS)からの膠原病関連間質性肺疾患(CTD-ILD)に関する総説
非常によくまとまっているので紹介

【重要部分抜粋】

①原因疾患別の特徴

 
RA-ILD
SSc-ILD
IIM-ILD
一般的なHRCT・病理パターン
UIP
NSIP
NSIP with OP
病理所見
リンパ球凝集体と胚中心を伴うUIPパターン
肺胞構造を維持したまま、間質全体に均一な Bland pauci-cellular fibrosis(細胞性線維化)が起こる
典型的なNSIP
リスク因子
喫煙
CCP高値
男性
抗トポイセメラーゼ抗体(抗Scl-70抗体)
黒人
スキンスコア高値
抗Jo-1抗体
抗PL-7抗体
抗PL-12抗体
黒人
頻度
19-67%
〜90%
〜75%
予後
5年生存率
UIPパターン36%
NSIPパターン94%
5年生存率85%
5年生存率60-80%

CTD-ILDのCT所見に特徴的な所見

(Am J Roentgenol. 2018;210(2):307-313.)

所見
CT画像
1.Anterior upper lobe sign
前上葉に線維化が集中し、他の上葉では病変まばら

2.Exuberant honeycombing
肺線維化領域の70%以上が蜂巣肺化

3.Straight edge sign
肺後縁に沿った拡大のない、肺底部に限局した線維化

CTD-ILD治療薬一覧

薬剤
用量
作用機序
疾患
引用(PMID)
◎急性期
ソル・メドロール500-1000mg/日点滴x3日間
◎亜急性期
PSL1mg/day(≦60mg)
循環する白血球と炎症性サイトカインの合成を抑制
RA、IIMs、SS
※SSc患者では腎クリーゼリスクのため非推奨。ACEI/ARB使用を検討し、PSL<15mg/日で使用
-
ミコフェノール酸モフェチル(MMF
2000-3000mg/日・分2
T・B細胞の増殖を抑制する
イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼの不活性化によるT細胞の増殖の抑制
RA、SSc、IIMs、SS
SLSⅡ(27469583)
ケースシリーズ
アザチオプリン
(AZP)
2-3mg/kg/日
T・B細胞の増殖を抑制するプリンアナログ
RA、SSc、IIMs
ケースシリーズ
タクロリムス(Tac)
1-3mg/日
カルシニューリン阻害薬、T細胞の増殖および活性化の阻害
IIMs
ケースシリーズ
シクロホスファミド(CYC)
点滴:750mg/m^2/body/月 x6ヶ月
内服:1.5-2.5mg/kg/日
T細胞を標的としたアルキル化剤
RA、SSc、IIMs
SLSⅡ(27469583)
16790698
ケースシリーズ
リツキシマブ(RTX)
1000mg静注
0,2週→6ヶ月毎
RA、SSc、IIMs
ケースシリーズ
Nintedanib
150mg内服x2回/日
FGF-R、PDGF-R 、VEGF-Rのチロシンキナーゼ阻害薬
RA、SSc、IIMs
SENSCIS(31112379)
INBUILD(31566307)
 

【前置き】

  • 間質性肺疾患(ILD)は、膠原病CTD)によく見られる症状である
  • ILDは、あらゆるCTDに見られるが、関節リウマチ(RA)・全身性強皮症(SSc)・特発性炎症性筋症(IIM)での合併例が多い
 

CTD-ILDの定義】

  • CTD-ILDは、「CTDを発症した状態でCTでILD所見(網状影、すりガラス陰影、牽引性気管支拡張、蜂巣肺、嚢胞等の組み合わせ)がある状態」と定義される。
  • CTD以外の肺疾患の原因の除外が必要…感染症、薬剤性、悪性腫瘍、特発性肺疾患およびその他の間質性肺疾患
 

【背景疾患】

  • CTD-ILDの原因として多いのは関節リウマチ(RA)・全身性強皮症(SSc)・特発性炎症性筋症(IIM)である
 
 
RA-ILD
SSc-ILD
IIM-ILD
一般的なHRCT・病理パターン
UIP
NSIP
NSIP with OP
病理所見
リンパ球凝集体と胚中心を伴うUIPパターン
肺胞構造を維持したまま、間質全体に均一な Bland pauci-cellular fibrosis(細胞性線維化)が起こる
典型的なNSIP
リスク因子
喫煙
CCP高値
男性
抗トポイセメラーゼ抗体(抗Scl-70抗体)
黒人
スキンスコア高値
抗Jo-1抗体
抗PL-7抗体
抗PL-12抗体
黒人
頻度
19-67%
〜90%
〜75%
予後
5年生存率
UIPパターン36%
NSIPパターン94%
5年生存率85%
5年生存率60-80%

①関節リウマチ(RA)

  • 主に手関節・手指・足などの小関節の炎症を伴う全身性炎症性疾患
  • すべての臓器に関与しうる
  • RA・リスク因子…遺伝、家族歴、中年、女性、喫煙など
  • ILDはRAの関節外症状の一つで、死亡・障害の主要な原因である
  • RAにおけるリスクはRAにおけるリスクと共通のもの(喫煙など)もあれば、異なるもの(男性など)もある

②全身性強皮症(SSc)

  • 免疫異常、血管障害、進行性の線維化を特徴とする自己免疫疾患で、多臓器に発症する…皮膚、肺、消化器、筋骨格系など
  • 皮膚病変の程度に基づいて限局型(lcSSc)とびまん性(dcSSc)に分類される
  • ILDはSScの主要な死因であり、経過は様々…急激に進行する人もいれば慢性経過の人もいる

③特発性炎症性筋症(IIM)

  • 筋力低下・皮疹・自己抗体(筋炎特異的抗体: MSA)を特徴とする疾患
  • ILD関連筋症は主に3種類に分けられる
    1. 皮膚筋炎(DM)…特徴的な発疹・筋力低下を起こす。筋症状のない皮膚筋炎(ADM)もある
    2. 多発筋炎(PM)…DMのような皮疹のないことが特徴
    3. ARS症候群(ASS)…ILD、筋炎、レイノー現象、発熱、機械工の手、関節炎などの症状が特徴

④その他の膠原病

  • シェーグレン症候群…無症状性ILDが~75%で見られ、気道病変・ILD両方が含まれる
  • SLE…肺病変としてILD・肺高血圧・肺胞出血があるが、ILDは他の膠原病と比較して稀
  • MCTD…50-66%にILDが見られ、ILD発症のリスク因子としてRaynaud 現象や嚥下困難、関節炎などの症状が挙げられる
 

表:筋炎特異的抗体と臨床的特徴

抗体
標的抗原
臨床的特徴
ARS(Jo-1, PL-7, PL-12, EJ, OJ, KS, YRS(GA), Zo)
Aminoacyl-tRNA synthetase
高頻度でILDを合併する抗ARS症候群
SRP
Signal recognition particle
神経筋萎縮、心筋病変、治療抵抗性
Mi-2
Helicase protein
症状軽度、典型的な皮膚病変・軽度の筋炎、治療反応性良好
TIF1-γ(抗p155/140)
TIF gamma/alpha
腫瘍関連筋炎(CAM)
SAE
Small ubiquitin like modifier 1 activating enzyme
皮膚筋炎の特徴
MDA5(CADM-140)
Melanoma differentiation- associated gene 5
日本人には急速進行性間質性肺炎と重症皮膚病変を起こすが、白人では比較的重症度が低い
NXP-2
Transcriptional regulation and activation of p53
若年性皮膚筋炎、重度の筋疾患、石灰沈着、皮膚病変主体
HMGCR
3-hyroxy-3-methylglutaryl- coenzyme A reductase
成人のスタチン使用に関連、壊死性筋症
参考:

 

ctd-gim.hatenablog.com

 

膠原病への検査】

  • 自己抗体検査
  • エコー検査
    • 肺胞血圧の場合、右心室収縮圧(RVSP)上昇が見られる場合もあるが、確定診断には右心カテーテル検査が必要
    • 心筋症・拡張異常がある場合もある
    • CTD-ILD患者に、スクリーニングエコーを考慮
  • 食道造影検査…蠕動運動の異常、運動障害、胃食道逆流(GERD)などが認められることがある
  • 皮膚・筋生検… 臨床的、血清学的所見がない場合、IIMの診断に有用

【ILDの診断・評価】

  • 呼吸器専門医とリウマチ専門医の意見の調整を行うことで診断・治療を行うべき
  • 呼吸機能検査
    • 疾患初期は正常である可能性がある
    • FVC低下・1秒率正常~高値の拘束性障害が多い
    • DLCO低下がよくある
    • RA・シェーグレン症候群では気道病変が多く、 FEV1/FVC<0.70の閉塞性障害も見られる
    • 最大吸気圧・呼気圧(MIP/MEP)の低下は呼吸筋障害(IIM)で見られうる
  • HRCT
    • NSIP・UIPパターンが多く、OPパターンはあまりない
    • RA…UIPが最多で、NSIPは少なく、OPは稀
    • SSc…NSIOが最多だが、UIPがSScの最大40%で見られる
    • IIM…NSIPとOPのオーバラップパターンが特徴的

  • 以下の3つがILDを示唆する(Am J Roentgenol. 2018;210(2):307-313.)
    1. Anterior upper lobe sign(前上葉徴候)
      • 前上葉に線維化が集中し、他の上葉は相対的に病変がまばらになる
      • CTD-ILDの陽性尤度比1.99
      • f:id:CTD_GIM:20211020212310g:image
    2. Exuberant honeycombing(強烈な蜂巣肺化)
      • 肺線維化領域の70%以上が蜂巣肺になっている
      • CTD-ILDの陽性尤度比3.69
      • f:id:CTD_GIM:20211020212317g:image
    3. Straight edge sign
      • 肺後縁に沿った拡大のない、肺底部に限局した線維化
      • CTD-ILDの陽性尤度比4.22
  • 肺病変を持つ全患者は安静時・労作時・夜間の酸素化を評価する必要がある
  • 肺病変以外の呼吸器症状の原因を評価する必要がある
    • SSc…肺高血圧
    • IIM…呼吸筋障害→MIP/MEP評価
    • 冠動脈疾患、心筋・心膜障害
 

【疾患進行モニタリング】

  • 疾患進行速度を評価するため、短期間での呼吸機能検査(3ヶ月以内)・HRCT(6ヶ月以内)の繰り返しを考慮すべき
  • 繰り返し頻度
    • 軽度のCTD-ILD→最初の1−2年は呼吸機能検査を6ヶ月毎に行う
    • 中等度ー重症CTD-ILD…より頻繁(3-6ヶ月ごと)に呼吸機能検査を行う
    • 最初の3年間は単純HRCTを年に1回実施する
    • 心エコー…1−2年毎に行うことが多い

【治療】

  • リウマチ専門医と相談
  • ILDと膠原病両方を治療できる薬を見つけるよう努力する
  • 薬物療法は大別して免疫抑制療法と抗線維化療法があり、ILDのサブタイプによって決定する
  • 臨床試験は基本的にはない
  • 抗線維化薬:Nintedanibは進行性線維化ILDに対して、過去24ヶ月以内に以下の基準のどれかを満たすものに使用
    1. FVC予測値の10%以上の相対的低下
    2. FVC予測値の相対的低下が5-10%で、呼吸器症状の悪化またはHRCT上の線維性ILDの範囲の拡大のどちらかを伴うもの
    3. 呼吸器症状の悪化及び、HRCTにおける線維化病変の増加
  • RA-ILD
    • 臨床試験はない
    • FDAで有意いつ承認されているのはNintedanib(進行性線維化ILDに対して)
  • SSc-ILD
    • 初期治療にはミコフェノール酸モフェチル(MMF)やシクロホスファミド(CYC)が使用されている
    • MMFはCYCより副作用が少ない→MMF使用が多い
    • アザチオプリン(AZP)は良いデータなし
    • ステロイドは、腎クリーゼに注意(PSL>15mg/dayで多い)
    • Nintedanibは承認あり
    • Tocilizumab(TCZ)もSSc-ILDに対して承認あり(FDA
  • IIM-ILD
参考:

表:CTD-ILD治療薬

薬剤
用量
作用機序
疾患
引用(PMID)
◎急性期
ソル・メドロール500-1000mg/日点滴x3日間
◎亜急性期
PSL1mg/day(≦60mg)
循環する白血球と炎症性サイトカインの合成を抑制
RA、IIMs、SS
※SSc患者では腎クリーゼリスクのため非推奨。ACEI/ARB使用を検討し、PSL<15mg/日で使用
-
ミコフェノール酸モフェチル(MMF
2000-3000mg/日・分2
T・B細胞の増殖を抑制する
イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼの不活性化によるT細胞の増殖の抑制
RA、SSc、IIMs、SS
SLSⅡ(27469583)
ケースシリーズ
アザチオプリン
(AZP)
2-3mg/kg/日
T・B細胞の増殖を抑制するプリンアナログ
RA、SSc、IIMs
ケースシリーズ
タクロリムス(Tac)
1-3mg/日
カルシニューリン阻害薬、T細胞の増殖および活性化の阻害
IIMs
ケースシリーズ
シクロホスファミド(CYC)
点滴:750mg/m^2/body/月 x6ヶ月
内服:1.5-2.5mg/kg/日
T細胞を標的としたアルキル化剤
RA、SSc、IIMs
SLSⅡ(27469583)
16790698
ケースシリーズ
リツキシマブ(RTX)
1000mg静注
0,2週→6ヶ月毎
RA、SSc、IIMs
ケースシリーズ
Nintedanib
150mg内服x2回/日
FGF-R、PDGF-R 、VEGF-Rのチロシンキナーゼ阻害薬
RA、SSc、IIMs
SENSCIS(31112379)
INBUILD(31566307)
※RA:関節リウマチ、IIMs:特発性炎症性筋症、SS:シェーグレン症候群、SSc:全身性強皮症
 

【補助療法】

  1. 酸素療法…酸素を処方→Sat≧88%を保つ
  2. GERD治療
  3. ワクチン
    • インフルエンザ・肺炎球菌ワクチン
    • 長期の免疫抑制を行う場合、不活化帯状疱疹ワクチンを検討
  4. 支持・緩和療法…終末期だけでなく経過を通じて患者ケアの一環として考慮
  5. 肺移植
    • 治療しても疾患が進行している場合に考慮
    • CTD-ILDの移植成績は他のILDと同等
 

【予後】

  • CTD-ILDの予後はIPFと比較して良好だが、ILDのサブ対応などに影響する
疾患別
  1. RA
    • 生理機能検査異常(FVC10%以上低下)もリスク(死亡率2倍)
    • ILDの存在は死亡率を2~10倍に増加させる
    • 生存期間中央値は6.6~7.8年、5年死亡率は35~40%
    • 予後因子…HRCT における ILD のサブタイプ(UIP は予後が悪い)、高齢、男性、DLCO の低下、病理検査における線維化の存在など
    • 進行は一般的…初期の無症候性ILDでは50%、UIPでは60%が1.5年で進行
    • 急性増悪が他のCTD-ILDと比較して多い→死亡の大きな要因
  2. SSc
    • SSc患者のILDは死亡率を挙げる
    • 予後因子…高齢、FVC低値、CT上のILD範囲が広い、呼吸機能検査異常
  3. IIMs
    • 予後因子…自己抗体の種類、ILDパターン、人種
    • 悪性腫瘍リスクがDMでは高い→年齢相応の癌検診を推奨
    • NSIP・OP患者は治療反応性良好
    • Jo-1・Ro-52陽性患者は、Jo-1飲み陽性の患者と比較してILD重症
    • 急速に症状進行・治療しても6ヶ月後にFVC・DLCOが10%以上低下→肺移植考慮
 

【Interstitial pneumonia with autoimmune features (IPAF)】

  • CTD-ILDを示唆する臨床的、血清学的、放射線学的特徴を示しながらも、CTD-ILDの診断基準を満たさないものと定義
  • NSIP・UIPが多い
 

【まとめ・結論】

  • ILDは、CTD患者の罹患率・死亡率の重要な要因である
  • CTD-ILD患者の管理は個別に行う必要があり、リウマチ専門医と呼吸器専門医が密接に連携する必要がある
  • 炎症要素が顕著なCTD-ILDに対しては免疫抑制剤が、進行性の線維性ILDに対しては抗線維化剤が治療の中心となる
 

【感想】

  • 日本ではCTD-ILDの治療に保険適応のある薬剤が少なく、ステロイドの比重が専門医以外では多くなりがちなのが問題点
  • 間質性肺炎の診療に長けた膠原病科医も少ないので、診療内容に地域差が出てしまうのも困ったところ
  • 日本でもガイドラインが出ているので、それも参考にしていただき、より質の高い診療ができれば良いのだが…