"Antisynthetase syndrome - much more than just a myopathy” Semin Arthritis Rheum. 2020;51(1):72-83.
- "Antisynthetase syndrome - much more than just a myopathy” Semin Arthritis Rheum. 2020;51(1):72-83.
- ①前置き
- ②疫学
- ③病態
- ④診断
- ⑤症状
- ⑥予後・併存症
- ⑦治療
- ⑧まとめ
- ⑨感想
①前置き
②疫学
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1970年頃にPM(多発性筋炎)患者で抗Jo-1抗体陽性率が高く、その場合間質性肺炎合併率が高いことが報告されたことが始まり
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有病率は19人/10万人程度とされる(全世界)
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→PM/DM(皮膚筋炎)より有病率が低いが、免疫介在性壊死性筋炎・封入体筋炎と比較して多い
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若干女性に多い(7:3)
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発症時平均年齢は48±15歳とPM/DMとほぼ同様
③病態
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抗ARS抗体は「細胞質のアミノアシルtRNA synthetase」に対する抗体であり、うち8種類のアミノ酸に対する抗体が検出されている
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抗Jo-1, 抗PL-7, 抗PL-12, 抗EJ, 抗KS, 抗OJ, 抗Zo, 抗Ha抗体
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最多は抗Jo-1抗体、その他はIIM患者全体の5%以下
抗ARS抗体
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対応抗原
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PM/DMにおける頻度
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通常の検査での測定
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抗Jo-1抗体
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histidyl-tRNA synthetase
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18-20%
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可能
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抗PL-7抗体
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threonyl-tRNA synthetase
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3-5%
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抗PL-12抗体
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alanyl-tRNA synthetase
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3%
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抗EJ抗体
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glycyl-tRNA synthetase
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2-6%
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抗KS抗体
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asparaginyl-tRNA synthetase
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2%
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抗OJ抗体
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soleucyl-tRNA synthetase
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0-5%
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(EUROLINEでは可能)
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抗ZO抗体
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phenylalanyl-tRNA synthetase
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稀
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抗Ha抗体
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tyrosyl-tRNA synthetase
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稀
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通常のARS抗体測定(MESACUPTM anti-ARSテスト)ではOJ, Zo, Haは測定できない→検査結果陰性でも抗ARS抗体症候群ではないということはできない
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一応EUROLINE検査では自費であるが、ZO・Ha以外は測定可能
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Mi-2, Ku, PM-Scl100, PM-Scl75, Jo-1, SRP, PL-7, PL-12, EJ, OJ, Ro-52をまとめて測定してくれる
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値段は数万円程度
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ARSは特発性炎症性ミオパチーの30%に検出される
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喫煙等の環境因子の吸入→抗ARS抗体症候群の肺病変を起こすとされる
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IIM患者ではNETosis(※免疫細胞の細胞死の一形態、自爆することで細菌を捕捉する)が亢進していることがわかっているが、抗ARS抗体症候群での関与に関しては現状不明
④診断
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抗ARS症候群の分類基準は、IIMに対するEULAR/ACR基準の他Solomon基準・Connor基準がある
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ただ、抗ARS症候群は「筋炎の一種」という側面もあれば「間質性肺疾患の原因の一種」という側面もあるため、診断基準は一定ではない
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Solomon基準
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Connor基準
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EULAR/ACR(IIM診断基準)
(RMD Open 2017;3:e000507. )
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自己抗体
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抗ARS抗体陽性
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抗ARS抗体陽性
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抗Jo-1抗体陽性
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臨床症状
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大項目
・間質性肺疾患(ILD)
・Peter/Bohan基準でPM/DMと診断
小項目
・関節痛
・レイノー現象
・メカニックハンド(機械工の手)
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・間質性肺疾患(ILD)
・Peter/Bohan基準でPM/DMと診断
・レイノー現象
・メカニックハンド(機械工の手)
・持続する不明熱
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・四肢の対称的な筋力低下
・近位筋優位の下肢筋力低下
・頚部筋力低下が屈筋>伸筋である
・嚥下・食堂全道障害
・皮膚病変(ヘリオトロープ・ゴットロン)
・発症年齢
→以上を筋生検の有無でscoringする
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追加検査
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なし
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なし
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・筋生検での特徴的な所見
・骨格筋酵素の著増
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診断基準
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・ARS抗体陽性+2つの大項目を満たす
・ARS抗体陽性+大項目1つ以上+小項目2つ
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ARS抗体陽性+1つ以上の臨床症状
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IIM確定:筋生検無しで7.5点以上、筋生検ありで8.7点以上
IIM疑い:筋生検無しで5.5点以上、筋生検ありで6.7点以上
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※Peter/Bohan基準(古典的な皮膚筋炎診断基準)
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項目
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判定基準
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多発性筋炎(PM)
皮膚筋炎
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それぞれの基準で内包している疾患概念が異なることに注意
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→リウマチ専門医等の評価で診断確定することが多い
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ただ、ARS抗体陽性+軽度の臨床症状+ILDを「自己免疫性間質性肺炎(IPAF)」と診断するか「抗ARS抗体症候群」と診断するかは議論が分かれるところ
⑤症状
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抗ARS抗体症候群は筋炎・関節炎・ILD・レイノー現象・皮膚症状・発熱など多彩な症状を起こすが、多いのは筋病変(90%)とILD(71%)で他は少ない
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症状が時系列によって異なることが多い
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発症時
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抗Jo-1抗体…孤立性関節炎が多い
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抗OJ抗体…筋炎が多い
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抗PL-7,PL-12,EJ抗体…孤立性ILDが多い
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時間経過とともに他の症状が出現し、大半は筋炎・関節炎・ILDの3症状が出てくることが多い
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ただ、PL-12抗体は孤立性ILD、OJ抗体は孤立性筋炎のままが多い
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ただコホート研究が多く、実際の症状発生率に関してはよくわかっていないことに注意
⑤-1 筋炎
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軽症(筋酵素上昇のみ)から重症(運動障害)まで多岐にわたる
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ARS抗体症候群全体の40%程度に見られ、Jo-1抗体陽性患者で高頻度かつ重症例が多い
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ただ筋萎縮は非典型的(Jo-1では15.2%)
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MRIでの筋病変は65%に見られる
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筋生検…筋膜周囲壊死・マクロファゴサイトーシス
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多発性筋炎・封入体筋炎と比較して、筋膜・筋周囲の病変が多い
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特に抗OJ抗体ではびまん性壊死の頻度が高い
⑤-2 間質性肺疾患(ILD)
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抗ARS抗体症候群の約50%に見られる
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高頻度の抗体は抗PL-7、PL-12、EJ抗体
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一般的な症状は労作時の呼吸困難だが、無症候性のILDも非常に多い
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呼吸筋低下による呼吸困難との鑑別が重要
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CT・肺生検では非特異的間質性肺炎(NSIP)パターンが最多で、次いで多いのはUIP(usual interstitial pneumonia)
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抗PL-7、PL-12抗体陽性例はILD症状重度のことが多く、呼吸機能検査でのFVC・DLCO低下やCTでの線維化病変が多い
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抗EJ抗体陽性例では急性発症のILDが多く、CT上DAD(びまん性肺障害)パターンが多い
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参考:DAD画像
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Chronic Respiratory Disease 2011;8(1):53–82
⑤-3 関節痛/関節炎
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抗ARS症候群では多い症状だが、頻度は50%程度とされる
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特に抗Jo-1抗体陽性例で多い
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関節痛の部位は手指(PIP・MP)関節・手関節が多く、対称性のことが多い
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X線上の骨変化は乏しい
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原因不明の多発関節炎の鑑別として抗ARS抗体症候群を挙げる必要がある
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抗CCP抗体陽性例では関節炎の頻度が高い(RAとのoverwrap?)
⑤-4 レイノー現象
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大体40%程度に出現する
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レイノー現象が優位に多い抗体は特にない模様
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Med J Islam Repub Iran 2015. Vol. 29:233.
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レイノー現象を起こしていない抗ARS抗体症候群患者の爪をキャピラロスコピーで観察すると約1/3で異常所見あり→抗ARS抗体症候群を疑ったら全例でキャピラロスコピーをするといいかもしれない
⑤-5 発熱
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発熱の発生率は35%程度とされ、抗PL-12陽性例で最多だった
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不明熱の精査としてPET-CTを撮像し、肩近位筋のFDG取り込み亢進・肺の異常陰影から抗ARS抗体症候群と診断された例もある
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Rev Esp Med Nucl Imagen Mol 2016;35:197–9
⑤-6 皮膚病変
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メカニックハンド(手指・手掌の亀裂・鱗屑を伴う角化亢進症)が特徴的だが、他の皮膚病変との鑑別は難しい
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Cutis. 2017;100:E20-E24
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抗ARS抗体症候群の約36%で見られ、抗Jo-1・PL-12抗体陽性例で多い
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ちなみに足趾にも同様の病変を起こすことがあり、”hiker’s feet"と呼ばれる
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その他、ヘリオトロープ・ゴットロン・Vネックといった皮膚筋炎に特徴的な皮疹も皮膚筋炎同様に見られうる
⑤-7 その他の症状
⑥予後・併存症
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死亡率は一般人口よりも高いとされているが、よくわかっていない
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抗Jo-1抗体陽性例の主な死因…ILD、悪性腫瘍、感染症など
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抗ARS抗体症候群自体での癌発生率は一般集団と大差ないという報告あり…ただ、皮膚筋炎同様積極的なスクリーニングが望ましい?
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臨床予後因子…高齢発症、重度の肺病変、CADM(筋症状を伴わない皮膚筋炎)、悪性腫瘍、食堂病変、石灰沈着
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特にUIP合併の場合予後悪いため、CT評価が重要
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血清学的予後因子…フェリチン高値
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肺病変の治療抵抗性…抗PL-7,PL-12抗体陽性
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筋症状の治療抵抗性…抗Jo-1抗体陽性
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65%の患者は治療での筋力低下改善が得られたが、寛解達成は18%と非常に低い
⑦治療
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希少疾患のため大規模な臨床試験はない→主には後ろ向き解析・専門医の意見から成立している
⑦-1 ステロイド(糖質コルチコイド)
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第一選択
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通常0.5-1mg/kgで治療開始し、重症例ではステロイドパルス併用することが多い
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その後臨床症状の改善・CK改善が観察されるまで4-12週ステロイド維持(※長過ぎるような気がしてならないが…)
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→その後ステロイド漸減していく
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PM患者ではデキサメタゾン40mg/day x4日という経口パルス療法で副作用が軽減できたという報告あり(Neuromuscul Disord 2010;20:382–9. )
⑦-2 免疫抑制剤
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軽症例ではステロイド単剤だが、治療抵抗例が多いため大半の症例で免疫抑制剤をsteroid-sparing-agentとして用いる
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頻用されるのはメトトレキサート(MTX)、シクロホスファミド、アザチオプリン(AZP)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、カルシューニン阻害薬(CyA・Tac)など(※日本ではILD合併症例でのTac以外は保険収載なし)
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有効性については議論が分かれるところ
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嚥下障害合併等の重症例では免疫グロブリン療法(IVIG)の有用性報告あり(※日本でも保険収載あり)
⑦-3 生物学的製剤
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リツキシマブ(RTX)(抗CD20抗体)
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ILD合併の難治性筋炎の治療オプションとして有望視されている(※保険収載なし)
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RTX投与での呼吸機能改善報告あり
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アナキンラ(抗IL-1抗体)
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筋炎・関節炎・ILD・発熱遷延患者で使ってみた報告はある
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トシリズマブ(抗IL-6抗体)
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発熱・関節痛遷延例での使用報告はある
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TNF阻害薬…あまりうまくいっていない
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その他…アバタセプト(CTLA4抗体)、ウステキヌマブ(IL-12/23抗体)、JAK阻害薬に関しては研究中
⑧まとめ
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抗ARS抗体症候群は多彩な症状を呈するため診断困難となる例がある一方で、致死的となりうる疾患である
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ただ希少疾患のため、診断・治療ともに研究が進んでいないのが現状である
⑨感想
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抗ARS抗体症候群は「皮膚筋炎の一型」「自己抗体陽性の間質性肺炎」「よくわからない関節痛」といった多彩な臨床像を呈するため、かなりとらえどころがない疾患である
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しかも抗体の種類によってさらに臨床像が分かれるところがそれを助長している
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レビュー読んでもはっきりしない部分は多いが