膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

CRPと関節リウマチの併存病変

“C-reactive protein and implications in rheumatoid arthritis and associated comorbidities.” Semin Arthritis Rheum. 2020;51(1):219-229.
 
CRPは頻用される指標ではあるが、使い方は案外難しい。今回はCRPとRAの併存症の関係性に絞ったレビュー。
 

 

①前置き
  • RAは全身の関節症状とともにQoL低下をもたらすが、他に心血管系イベントリスク(一般集団の2倍)といった併存症も抱えている。
    • RAの早期死亡の50%は心血管性病変によるものである
  • RAの炎症経路はIL-6、TNF-α、IL-1β、下流のシグナル因子と多岐にわたる
    • IL-6はCRPの産生を促進する機能を持っている
 
②RAにおけるCRPの役割
    • CRPは炎症・感染によって主に幹細胞から放出される
    • その後様々な細胞を活性化させることで炎症を起こす
  • RA患者ではCRP持続高値が多く、CRP>20mg/Lのことも頻繁にある
  • ただ、CRPが高い=RAの活動性が高い、というわけではなく、他の因子(体脂肪・女性ホルモン・食事・ストレスなど)も関連している
  • CRPが高いとRANKL発現を亢進させ破骨が亢進するだが、骨破壊におけるCRPの役割は現状不明
 
③RA疾患活動性マーカーとしてのCRP
  • CRP高値とRA疾患活動性は関連あり
    • DAS28の他、HAQ・患者報告尺度(朝のこわばり・疲労・痛み等)もCRPと関連あり
    • CRPはDAS28-CRP、SDAI、ACR/EULARのRA緩解基準に採用されている
  • ただRA再燃してもCRP正常値の場合は実臨床では多い
  • CRPはRAの画像的ダメージとの関連あり
    • →RA診断初期のCRP高値のRAは骨損傷のリスク因子
  • 以上よりRAの疾患活動性評価としてCRPまたはESRを測定することが推奨されている
    • ただ、DAS28-CRPはDAS28-ESRと比較して精度は落ちる
    • またTocilizumab等のCRPに影響を与える薬剤の投与によって当てにならない指標になる
 
④RAの併存症とCRPの関連

f:id:CTD_GIM:20210108202515p:plain

 
④−1 心血管性病変
  • RA患者は心血管系イベントリスクが一般集団の2倍程度とされる
    • 心筋梗塞関連死亡の発生率は50%高い
    • 65歳以上では特に高い
  • CRP・IL-6高値の場合、心血管系リスクが高い
    • CRP≧3の群はCRP<1の群と比較してリスクは58%高い
    • そもそも全身性炎症はアテローム動脈硬化症のリスクの一つである
  • RAの疾患活動性を低下させることで心血管系リスクも下げることができる
    • メタアナリシス上、MTX・TNF阻害薬の仕様によって心房細動リスクは約30%低下する
    • その他臨床試験上でもtacilizilumab, sarilumab, JAK阻害薬等の使用でも心血管イベントの低下が報告されている
 
  • RA患者は一般集団よりもメタボリックシンドローム率が高い(一般集団20%・RA患者30−40%)
  • CRPとの関連に関しては微妙なところ(報告によってまちまち)
 
④-3 糖尿病
  • RA患者は一般集団の最大2倍糖尿病のリスクがある
    • RAでの糖尿病の有病率は13−20%
  • 糖尿病のRA患者でのCRPは非糖尿病群よりも高い
  • RA患者でのCRP高値は耐糖能異常・インスリン抵抗性と関連あり→RA患者でのCRP高値は糖尿病リスクにつながる
  • ステロイドの使用で糖尿病は悪化するが、DMARDsの使用によるRA治療によって糖尿病は改善する
 
④-4 肺疾患
    • RA患者は一般集団と比較してCOPDリスクが70−100%上昇する
    • RA患者でのCOPDは死亡リスクを大幅に増加させる(約3倍)
    • COPD合併RA患者のCRP高値はリスクの一つで、COPD安定期のCRP≧3はリスク高い
    • ただ、bDMARDs使用によるCOPD増悪の有無に関しては微妙なところ
    • RA患者の間質性肺炎(RA-ILD)合併率は6−15%
    • RA-ILD発症の主なリスク…喫煙、高齢、男性、リウマトイド因子、抗CCP抗体
    • CRP高値とRA-ILDの関連はあまりなさそう
 
④-5 うつ病
  • RA患者におけるうつ病有病率は15-40%とされ、一般人口よりも多い
  • CRP高値のRA患者はうつ病発症率が高い
    • RAの疼痛による要因もあるため、因果関係は不明
  • RAの治療効果の良い患者はうつ病発症率が低く、RAの治療によって多少はうつ症状も改善する模様
 
⑤RA患者の管理におけるCRPの意義
  • CRPは利用しやすい炎症マーカーなのでRA管理で頻用されている
  • ただ、限界もある
    • RAの活動性とCRPが相関しない→「CRPが低いから炎症・RAは落ち着いている」という誤解を招きかねない
    • RAの診断を確定するものではなく、発症リスクの予測にも使えない
  • CRPは、一応RA患者の心血管系イベントの発症リスクには使えそうではある
 
⑥RA治療がCRPに及ぼす影響
  • 基本的にはどのDMARDsでの治療でもCRPは低下する
    • 特にIL-6阻害薬・JAK阻害薬はCRPを10mg/L程度は低下させる効果があり、用量依存性にCRPを低下させる
  • ただ「CRPが下がったからRAが改善した・心血管系イベントが下がった」という結果は必ずしも得られないことに注意
 
⑦結論
  • CRPはRAの炎症マーカーの一種であり、骨破壊等にも直接的に関与する
  • さらにCRPはRAの併存症にも影響を及ぼしている
  • RA治療でCRPを低下させることは疾患活動性の低下に寄与するかもしれないが、CRPはRA治療において絶対的なものではない
 
⑧感想
  • CRPは頻用する所見の割によくわからない指標ではあるが、RAにおいては悪影響を与えているものであることは確か
  • ただ、絶対視するほどのものではない、という結論が得られれただけでもこの論文は十分だろう
  • 併存症については微妙なところが多く、「RAは糖尿病・COPD・心疾患合併が多く、それをCRPが助長して悪化させている」という印象をうける
  • いずれにしろ、「CRPを治療する」のではなく「RAを治療する」ということを忘れてはならない
    • 実際実臨床でもCRP陽性でも全く活動性のない例もあれば、CRP陰性でもRAコントロール不良の例もあり正直アテにはならない