膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

Sjögren症候群と自己抗体

Sjögren症候群自己抗体一覧
自己抗体
特質
臨床との関連
抗Ro/SSA抗体
50-70%
疾患マーカー
先天性心ブロックの原因
若年、重症
腺外症状
新生児ループス
抗La/SSB抗体
25-40%
疾患マーカー
先天性心ブロックの原因
腺外症状
新生児ループス
RF
36-74%
subpheontype marker
抗Ro/SSA抗体
腺外症状
抗CCP抗体
3-10%
subpheontype marker
関節炎
3-10%
subpheontype marker
酵素上昇
3-27%
subpheontype marker
ムスカリン3受容体抗体
60-80%
潜在的な病原性の役割
Sicca症状
ポイント
  1. 抗Ro/SSA、抗La/SSBはSjögren症候群患者の血清によく見られ、全身疾患と関連している
  2. 抗Ro/La抗体の胎盤移行は新生児ループスの原因となり、新生児の心筋炎への関与・炎症誘発の発症メカニズムが想定されている
  3. 抗Ro/La抗体は病気の発症に数十年先行しているが、病気を発症するリスクの高い健康な抗体陽性患者に対しての予防的な治療介入方法は、現状ない
  4. RF、抗ミトコンドリア抗体、抗セントロメア抗体といったSjögren症候群患者に見られる他の抗体は特定の臨床症状と関連している
  5. ムスカリン3受容体抗体に結合する自己抗体は、唾液の機能に影響を与えるため、病原性に関与している

①抗Ro/SSA抗体、抗La/SSB抗体

  • Sjögren症候群で最も多く見られる抗核抗体の一種
  • 抗Ro/SSA抗体はRo52、Ro60抗体の2種類に分かれる
  • Ro60は核・核小体、Ro52は細胞質に局在、抗La/SSB抗体は主に核に見られる
  • 抗Ro/SSA抗体・抗La/SSB抗体は測定方法にもよるが、Sjögren症候群の50-70%に見られる(Ann Rheum Dis. 2013; 72(4):476–478.)
  • 測定法:通常はELISA法が使用される
  • SS-AとSS-B
    • 抗La/SSB抗体単独陽性は非常に珍しく、Sjögren症候群になる可能性は低い(Ann Rheum Dis. 2015; 74(8):1557–1561.)
    • 抗Ro/SSA抗体・抗La/SSB抗体療法陽性ならSjögren症候群らしさが上がる
    • 抗Ro/SSA抗体単独陽性の場合、Sjögren症候群以外の疾患を発症している場合がある(Clin Exp Rheumatol. 1989; 7(2):181–184.)
    • …皮膚筋炎、特発性炎症性筋炎、全身性硬化症、混合性結合組織病(MCTD)、原発性胆汁性胆管炎(PBC)など→抗核抗体陰性SLEになりうる
  • SS-A陽性の原発性Sjögren症候群は腺外症状が多い…脾腫、リンパ節腫脹、血管炎、レイノー現象など
  • SS-A抗体は、リンパ腫・肺病変との関連性はないとされる
 
①-1 新生児ループス
  • 母体から受動的に獲得した新生児の自己免疫傷害症状で、新生児ループス皮膚炎・肝炎・血清学的異常を伴う先天性心ブロック(CHB)を起こす
    • 特にIII度ブロック・完全ブロックは致命的
    • 母体の抗体が乳児の循環系から排出されると改善する
  • 自己免疫性CHBは抗Ro/SSA抗体陽性妊娠の1~2%に発症し、その後の妊娠の12~20%で再発する(Exp Cell Res. 2014; 325(1):2–9.)
  • 母体の抗Ro/SSA抗体と関連している
  • 新生児ループスを起こした乳児の母親の約半数は、自己免疫疾患(多くはSjögren症候群)を後に発症する(Ann Rheum Dis. 2009;68(6):828-835.)
  • CHBの原因は完全には解明していない
    • 仮説:母体の抗Ro/SSA抗体が、発達中の心臓の正常リモデリング中にアポトーシスした心筋細胞に結合→アポトーシスした心筋細胞がファゴサイトを活性化→炎症性サイトカインや線維性サイトカインを産生し、最終的に房室結節の瘢痕化を起こす(Arthritis Rheum. 2004; 50(1):173–182.)
 

②RF(リウマトイド因子)

  • 抗Ro/SSA・抗La/SSBの抗体陽性と全身性疾患と関連している
  • RFはSjögren症候群の重症度と関連があり、陽性の場合腺外症状が多くなる
 

③抗ムスカリン3受容体抗体

  • 原発性Sjögren症候群での存在が報告されているが、Sjögren症候群における役割ははっきりしない
  • Sicca症状に影響している可能性が示唆されている
 

④抗セントロメア抗体

  • セントロメア抗体は限局皮膚硬化型全身性強皮症(lcSSc)でよく見られるが、原発性Sjögren症候群でもよく見られる
    • 関節免疫蛍光法では3.7-27%、その他の方法では20-25%で陽性(Arthritis Res Ther. 2010; 12(2):R47.)
  • セントロメア抗体陽性の場合最も多い症状はレイノー現象(Clin Exp Dermatol. 1994; 19(4):298–302. )
  • ただsicca症状の有病率も高く、抗セントロメア抗体陽性で原発性Sjögren症候群と診断される場合がある(Med Interne. 1992; 13(6):413–414. 7–8.)
  • セントロメア抗体が認識するポリペプチド抗体は3種類あり、CENP-A, CENP-B, CENP-Cと呼ばれる(J Clin Invest. 1986; 77(2):426– 430.)
    • 原発性Sjögren症候群ではCENP-C単独陽性が多いが、強皮症ではCENP-B, CENP-C二重陽性が多い(J Rheumatol. 2004; 31(6):1121–1125. )

⑤その他

  1. 抗CCP抗体(ACPA)
    • Sjögren症候群の3-10%に存在(Acta Reumatol Port. 2009; 34(4):608–612.)
    • 関節炎と関連している
  2. ミトコンドリア抗体
    • シェーグレン患者の1.7~13%に存在するとされるが、検査方法でまちまち(J Autoimmun. 2012; 39(1–2):34–42.)
    • 原発性胆汁性肝硬変(PBC)の血清学的マーカーでもある
    • PBC・Sjögren症候群はともにオーバーラップしている部分がある
      • Sjögren症候群の肝臓症状と抗ミトコンドリア抗体は関連あり
      • PBCでSicca症状が見られる場合あり
        • ただしPBCでSS-A抗体陽性はまれ
 
参考:
"Autoantibodies in Sjögren's Syndrome." Rheum Dis Clin North Am. 2016;42(3):419-434.
“The anti-Ro/SSA and anti-La/SSB antigen-antibody systems” UpToDate