膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

Systemic sclerosis sine scleroderma(皮膚症状のない全身性強皮症)

Kucharz EJ, Kopeć-Mędrek M. Systemic sclerosis sine scleroderma. Adv Clin Exp Med. 2017;26(5):875-880. doi:10.17219/acem/64334
 
全身性強皮症(Systemic sclerosis: SSc)は、大別してびまん性皮膚硬化型(dcSSc)・限局性皮膚硬化型(lcSSc)に分かれる
ただまれに皮膚症状がないのに内臓症状・血清学的異常を起こす強皮症があり、Systemic sclerosis sine scleroderma(ssSSc)と呼ばれる
 

【ポイント】

  • ssSScは3群に分かれる
    1. Ⅰ型(完全型)…強皮症に典型的な皮膚症状が全くない(※少なくとも強皮症による臓器不全が出現するまでは)
    2. Ⅱ型(不完全型)…皮膚硬化はないが、他の皮膚病変(石灰化・毛細血管拡張・指尖部陥凹性瘢痕(pitting scar))はある
    3. Ⅲ型(遅延型)…皮膚硬化の前に、強皮症関連臓器障害が出現する
  • ssSScの疫学・臨床学的特徴はlcSScと似ている
  • 内臓に原因不明の線維性病変がある場合、ssSScを考慮する必要がある

【ssSScとは?】

強皮症の症状の中でも皮膚症状は特徴的である
症状として
  • 非圧痕性浮腫(non-pitting edema)→皮膚肥厚→皮膚硬化への進行
  • 指尖部菲薄化・指尖部潰瘍…血管障害による虚血
    • →進行すると指尖部萎縮、指切断の原因となる
  • 特徴的顔貌
  • 毛細血管拡張
  • 皮下組織の石灰化
  • 色素沈着(salt and pepper skin)
  • 毛包や皮脂腺の消失→乾燥
などがある(Scleroderma. New York, NY: Spring- er; 2011:503–523.)
その一方で皮膚症状がないのに内臓症状・血清学的異常を起こす強皮症」をSystemic sclerosis sine scleroderma(ssSSc)と呼ぶ
2013年ACR/EULAR強皮症分類基準でも、「レイノー現象・肺病変・爪周囲毛細血管異常・抗体陽性」があれば皮膚病変がなくても一応基準は満たす
2013年ACR/EULAR強皮症分類基準(診断基準ではないことに注意)
項目
点数
両手指のMCP関節より近位の皮膚硬化
9
手指の皮膚硬化:腫れぼったい指(2点)、PIPからMCPまでの皮膚硬化(4点)(高得点を優先)
2または4
指尖部病変:指尖部潰瘍(2点)、指尖部陥凹瘢痕(3点)(高得点を優先)
2または3
毛細血管拡張症
2
爪郭部の毛細血管異常
2
肺動脈性肺高血圧症、および/もしくは間質性肺疾患
2
3
セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼI(Scl70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性
3
計9点以上で全身性硬化症に分類
提唱されているssSScの定義は以下の通り(J Dermatol. 1996;23:344–346.)
  1. 身体所見上、皮膚肥厚がない
  2. SScに典型的な内臓疾患(遠位食道または小腸の運動低、肺線維症、肺高血圧症、心臓病変、腎クリーゼ)が1つ以上ある
  3. レイノー現象・毛細血管障害(指尖部菲薄化・指尖部潰瘍/壊死・爪周囲毛細血管異常)がある
  4. 抗核抗体陽性
  5. その他の膠原病疾患が否定的

【有病率】

  • 全身性強皮症の約5%がssSScであるとされる
  • ssSScにおける皮膚病変はまったくないわけではない
    • 特に爪周囲毛細血管拡張は7割程度に見られる(J Rheumatol. 2014;41:2179–2185.)
 

【定義・分類】

  • ssSScは3群に分かれる
    1. Ⅰ型(完全型)…強皮症に典型的な皮膚症状が全くない
      • 少なくとも強皮症による臓器不全が出現するまでは、皮膚病変はない
      • 血管異常としてレイノー現象を起こすこともある
    2. Ⅱ型(不完全型)…皮膚硬化はないが、他の皮膚病変(石灰化・毛細血管拡張・指尖部陥凹性瘢痕(pitting scar))はある
    3. Ⅲ型(遅延型)…皮膚硬化の前に、強皮症関連臓器障害が出現する
  • ssSScの男女比は1:9で女性優位→全身性強皮症と同様(1500人の解析結果)(Rheumatology. 2008;47:1185–1192.
  • ssSSc患者の40%で抗トポイソメラーゼⅠ(Scl-70)抗体陽性、35%で抗セントロメア抗体陽性
    • dcSSc患者の55%で抗トポイソメラーゼⅠ(Scl-70)抗体陽性
    • lcSSc患者の62%でセントロメア抗体陽性
  • レイノー現象・臓器病変の発症年齢に関しては、ssSScもその他のSScも差なし
参考:

 

ctd-gim.hatenablog.com

 

【臨床像】

  • ssSScの被験者のベースラインの人口統計学的および臨床的特徴は類似している(J Rheumatol. 2014;41:2179–2185.
  • 症状別
    • 少ない…食道運動障害、炎症性多発関節炎、筋炎、食道以外の消化器症状、心筋障害
    • lcSScと同様…間質性肺疾患は約1/4で見られる、肺高血圧は11%
  • 大体はlcSScと臨床像はほぼ同様で、皮膚病変の欠如/非典型的な出現が重要な鑑別点
  • ssSSc診断時の症状
    • 食道病変が最多(83%)、次いで肺病変(68%)
      • 消化器症状…嚥下障害、腹痛クランプ、悪心嘔吐、胃食道逆流症
      • 肺病変…間質性肺疾患、肺高血圧
      • 心筋障害…慢性心不全、心嚢液貯留、伝導障害、不整脈(心筋症自体は少ない)
 
【腎障害】
  • ssSScでの腎病変頻度は文献によってまちまち
  • ただ、全身性強皮症による腎不全患者は皮膚症状がない/遅れて出てくるパターンが比較的多く報告されている→ssSScによる腎不全は案外多い?
    • 腎クリーゼパターンも、慢性腎不全パターンもssSScに見られる
 

【予後など】

  • よくわかっていない
  • ANCA関連血管炎との合併例報告などもある(Springer Plus. 2014;3:513.)
 

【結論】

  • ssSScの診断は難しい
  • 原因不明の多形等の臓器障害を起こす患者に対して、ssSScの可能性を疑うことが重要
  • レイノー現象・毛細血管異常・全身性強皮症特異的抗体が診断に役立つ
  • ssSScのマネジメントは一般的な強皮症と同様である