膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

難治性全身性強皮症の管理へのエキスパートオピニオン

Simms RW. Expert Perspectives On Clinical Challenges: Expert Perspectives: Challenges in Scleroderma. Arthritis Rheumatol. 2020;72(9):1415-1426. doi:10.1002/art.41406
 全身性強皮症(SSc)に関してのエキスパートオピニオン。
前回)炎症性筋症へのエキスパートオピニオン
症例)
56歳の女性、症状:レイノー現象、数ヶ月前からの指の腫れ、血圧160/100mmHgの高血圧症、進行性の息切れ
  • 身体初見:毛細血管拡張症、指硬化、近位皮膚硬化症(胸部と上腕部に厚い光沢のある皮膚)、両肺底部crackle
  • 血液検査:微小血管障害性溶血性貧血、血小板減少、血清クレアチニン値の上昇(以前は正常)
  • 胸部CT:両肺下葉にすりガラス陰影
→どう治療を行うか?

【全身性強皮症の初期評価・診断】

全身性強皮症(SSc)は
・限局性皮膚硬化型全身性強皮症(Limited cutaneous SSc, lcSSc)
・びまん性皮膚硬化型全身性強皮症(Diffuse cutaneous SSc, dcSSc)
の2種類に分かれる
初期評価として以下を確認し、modified Rodnan スキンスコアを計算すると良い
  • 手指皮膚硬化の有無に対しての触診
  • 近位部の皮膚硬化有無の確認(肘・膝など)→ある場合はdcSScらしい
    • 鎖骨上皮膚の皮膚光沢は特徴的
  • modified Rodnan スキンスコア(参考:http://derma.w3.kanazawa-u.ac.jp/SSc/pamphret/SkinScore.html
      • 0点:正常、1-9点:mild、10-19点:moderate、20-29点:severe、30点:very severe
 
その他の評価
  • 腱摩擦
  • 毛細血管拡張症
  • 心血管系の身体所見…肺底部crackle、心膜摩擦音、Ⅱp亢進、右心系負荷・肺高血圧徴候
血清学的評価
  • セントロメア抗体…lcSScと強く相関
  • 抗トポイソメラーゼⅠ抗体(抗Scl-70抗体)…dcSScと関連
  • その他…抗PM/Scl、抗Th/To、抗フィブリラリン抗体など…感度は低いが、SScに特異的
ただし、自己抗体は陽性だが間質性肺疾患のみがあるパターン(“Interstitial pneumonia with autoimmune features”, IPAF)に注意。
間質性肺疾患+強皮症自己抗体陽性は、”Systemic sclerosis sine scleroderma”のとなりうるため注意
dcSScの方が強皮症腎クリーゼ(SRC)・進行性間質性肺疾患(ILD)の発症率が高い
 

【強皮症腎クリーゼ(SRC)の評価】

  • 強皮症腎クリーゼ(Scleroderma renal crisis, SRC)は、重篤かつ致命的な合併症である
    • 治療法としてARB(アンギオテンシン受容体拮抗薬)・ACEi(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)が確立したことで、死亡率・末期腎不全リスクは減少
    • 透析が必要なSRC患者であっても、ACEi治療の継続で、最終的に約40%が透析を中止可能(J Rheumatol 2014;41:1040–8.)
  • SRCはdcSScに多く、lcSScではまれ→SRCの可能性を判断する前にdcSSc/lcSScのどちらであるかを明確にすることが重要
    • dcSScでのSRC発生率は約15%で、dcSSc発症早期(多くは1年以内)に発生する
      • ただし、発症から何年も経ってからの遅発性再発も報告あり
    • SSc全体でのSRC発症率は約3%だが、発生頻度は減少傾向
  • SRC発症のリスク因子…ステロイド使用、貧血、SRC発症前の高血圧、タンパク尿、うっ血性心不全、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性、近位部皮膚硬化、大関節屈曲拘縮、腱摩擦など
  • SRCの病態…腎臓の動脈血流障害による糸球体低灌流と、レニン放出の増加を伴う腎血管障害の2つが原因とされる
  • 臨床検査所見…微小血管症性溶血性貧血、尿中赤血球の新規出現、蛋白尿、急性腎障害、血小板減少、低補体血症など
  • 腎生検での典型的病理所見…腎内動脈・細動脈血管壁内での「タマネギの皮」様増殖(“onion skin” proliferation)、フィブリノイド壊死、糸球体の収縮
      • 「タマネギの皮」様増殖(鍍銀染色、x400)(Int J Rheumatol. 2010; 2010: 543704.)
 

【強皮症腎クリーゼのマネジメント】

  • SRCは早期発見が非常に重要→SRC高リスク患者には常に注意が必要
    • 特にSSc発症から1年以内の高血圧には注意→SSc発症から1年間は、頻繁に血圧測定を行ったほうがいい
  • SRCの治療法にはRCTはなく、エキスパートオピニオン・症例報告等によって構成されている
  • 初期治療:早期診断→短時間作動型ACEi(カプトプリルなど)による24時間以内の血圧降下が必要
    • 入院加療が望ましい
    • 血圧は最初の数日間は上昇したままで、改善が見られる前に腎機能悪化が起こる場合があるため注意
  • 治療抵抗例では降圧剤追加…カルシウム拮抗薬、ARB、α遮断薬の順に選択
  • ACEi治療は「アンカー」であり、Creが上昇しても透析を開始しても継続すべき
    • ARBはACEiの大体にはならない
  • その他の治療…、エクリズマブ(C5a阻害剤)、ボセンタン(エンドセリン1拮抗剤)、血漿交換が有効だったという報告はある
  • ACEi治療でのSRC予防効果は立証されていないどころか悪化リスクあり→強皮症患者へのACEiでのSRC予防は非推奨

表:強皮症腎クリーゼへの臨床試験一覧

【強皮症合併間質性肺疾患(SSc-ILD)の評価】

  • 強皮症の呼吸困難の鑑別は非常に幅広い
    • 鑑別)間質性肺疾患(ILD)、心不全感染症、肺動脈性肺高血圧(PAH)、その他の肺高血圧、胸壁運動制限、横隔膜・胸壁の筋障害など
  • 検査①高解像度CT(HRCT)が非常に有用
    • 強皮症患者の肺末梢すりガラス陰影→ILDの他、心不全感染症・肺胞出血・肺腺癌でも見られるため注意
    • ILDは典型的には両側末梢優位、下葉・後面優位に分布
      • 心不全…中枢側優位が多い
      • 感染症…パッチ状の不規則分布が多い
      • 悪性腫瘍…1ヶ所に限局していることが多い
      • 肥満…腹臥位・仰臥位で撮影して比較することでわかる(腹臥位の画像ではアーチファクトが消失する)
    • ILD進行→線維化の特徴が出てくる…胸膜直下網状影、牽引性気管支拡張、明瞭なハニカムサインなど
  • 検査②心エコー→肺高血圧を評価
    • ただし肺高血圧はPAHの他、左心機能障害・肺静脈閉塞症・慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症・重度ILDでも起こりうるので注意
    • 心エコーで肺高血圧が示唆された場合、右心カテーテルを検討する必要がある

【強皮症合併間質性肺疾患の背景】

  • SScの中にも重症ILDがおこりやすいもの・起こりにくいものがある
  • SSc-ILD進行リスク…呼吸生理学的な障害が重度、抗Scl-70抗体陽性、抗核抗体nucleorパターン(抗Th/To抗体、抗U3-RNP抗体、抗PM/Scl抗体)、HRCT所見が重度
    • 死亡リスク予測モデル…年齢・喫煙歴・肺拡散能(DLCO)で判定(Chest 2017;152:999–1007.)
    • 気管支肺胞洗浄液(BAL)は疾患進行・シクロホスファミド(CYC)への反応予測に有用ではない(Semin Arthritis Rheum 2009;40:73–88.)

【強皮症合併間質性肺疾患の治療】

  • SSc-ILD患者の大半は呼吸器症状がなく画像も安定しているが、患者の約40%はFVC<75%、10-15%はFVC<50%であり治療が必要な一群もいる
  • 画一的なアルゴリズムはないが、中等症以上にはミコフェノール酸モフェチル(MMF)、ニンテダニブを用いることがエキスパートオピニオンレベルでは推奨されている
    • MMFは保険適応外、ニンテダニブはPF-ILD(急速進行性間質性肺疾患)には適応あり

表:SSc-ILDへの臨床試験一覧

◎シクロホスファミド(CYC)

  • SLSⅠ(Scleroderma Lung Study I)(N Engl J Med 2006;354:2655–66.)
    • SSc-ILD患者へのCYC経口投与vsプラセボ
    • 12ヶ月後のFVC平均差が2.53%と少しCYC有利であった

◎ミコフェノール酸モフェチル(MMF

  • SLS II(Lancet Respir Med 2016;4:708–19.)
    • SSc-ILD患者へのMMF24ヶ月vsCYC12ヶ月・プラセボ12ヶ月
    • FVC改善・呼吸困難改善・HRCTでのILD範囲改善は、両群で有意差なく得られた
    • MMFはCYCと比較して忍容性が高く、有害事象は少なかった
    • 死亡はCYC群の2倍以上(11人対5人)で、大半はILDの進行が原因

◎自家造血幹細胞移植

  • 臓器不全のリスクがある急速に進行するSSc患者において、自家造血幹細胞移植(HSCT)も考慮される(Ann Rheum Dis 2017;76:1327–39.)
  • ASTIS試験(JAMA 2014;311:2490–8.)
    • 初期のdcSSc患者156名(ILD患者125名を含む)を対象に自家造血幹細胞移植→月1回のCYC静注と比較して長期生存率の大幅な改善あり
    • ただし治療に伴う死亡率は10%と高く、大半は1年目に発生
  • SCOT試験(N Engl J Med 2018;378:35–47.)
    • 肺病変or腎病変を有する 75 名の dcSSc 患者を対象に、造血幹細胞移植→無イベント生存率・全生存率共に改善
    • 死亡率は約5%
  • 造血幹細胞移植は治療関連死亡率が高いため、初期治療として考慮すべきではない

◎ニンテダニブ

  • 抗炎症作用・抗線維化作用を併せ持つチロシンキナーゼ阻害剤
  • SENSCIS試験
    • レイノー現象以外の症状が出てからの強皮症罹患歴7年未満で、胸部CTで肺に10%以上の病変が認められたSSc-ILD患者に対してニンテダニブvsプラセボ
      • MMF使用患者でのFVC年間変化率…ニンテダニブ投与群-40.2ml/年、プラセボ投与群-66.5ml/年
      • MMF非使用患者でのFVC年間変化率…ニンテダニブ投与群-63.9ml/年、プラセボ投与群-119.3ml/年
        • MMF非使用群の方がニンテダニブの効果は大きい(併用の場合効果40%減)
    • SSc-ILD患者にMMF+ニンテダニブ併用によって肺活量減少を抑制することができる
    • 消化器系副作用はニンテダニブ群のほうが多かった

◎ピルフェニドン

  • 抗線維化薬
  • RCT…FVC・運動能力・症状・皮膚疾患の改善/安定化に関して、プラセボ群と比較して有意差を示すことができなかった(Rheumatol Int 2020;40: 703–10.)
  • 現在より大規模な試験を実施中…SLS III(NCT03221257)

◎トシリズマブ(TCZ)

  • IL-6阻害薬
  • SSc-ILDでは、IL-6値がFVC・DLCOの低下と関連している(Arthritis Rheum 2014;66:S833.)
  • faSScinate試験(第2相試験)(Ann Rheum Dis 2018;77:212–20.)
    • 進行性SSc患者87名を対象に、トシリズマブorプラセボを48週間皮下投与
    • 24週目でFVC%が10%以上低下した患者は、プラセボ群よりもトシリズマブ群で少なかった(プラセボ群3% 対 トシリズマブ群-19%)
  • focuSSced試験(第3相試験)(Lancet Respir Med. 2020;8(10):963-974.)
    • SSc患者210名を対象に、トシリズマブorプラセボを48週間皮下投与
    • トシリズマブ群のほうが、48週目のFVC%変化率平均値は低かった(プラセボ群-4.6% 対 トシリズマブ群-0.4%)
      • ※本来のprimary endpointは皮膚病変(mRSS)だったが、皮膚に関しては有意差なし

◎リツキシマブ(RTX)

  • 皮膚・肺疾患共に有効性が示唆されている
  • dcSScのILD合併患者へのRCT(Rheumatology (Oxford). 2018;57(12):2106-2113.)
    • 60名のSSc-ILD患者に対して、CYC 500mg/m^2月1回投与 vs RTX1000mg×2回投与
    • 6ヶ月後のFVC%…RTX群で6.21%改善、CYC群で約1.0%悪化(P = 0.003)
    • 重篤有害事象はCYC群で多かった
  • 後ろ向き研究でもRTX治療の有用性は示唆された(Ann Rheum Dis 2015;74:1188–94.)
 

【SSc-ILDの治療アルゴリズム

  1. 全SSc患者は診断時にILD有無を評価する
    • 画像評価…HRCT
    • SSc発症時(レイノー現象は除く)、3年間は4-6ヶ月ごとに呼吸機能検査を繰り返し行う→それ以降はILDなければ毎年呼吸機能検査を行う
  2. 画像でILD・呼吸機能検査異常がある場合、ILDの経過・重症度を評価する
    • 重症度判定…以下が1つ以上あれば重症と判断
      1. FVC%≦70%
      2. 発症時、HRCT上のILD面積>20%
      3. FVCまたはDLCOが過去12ヶ月で10%以上低下
    • 経過判定…呼吸機能検査・画像所見・症状から、進行性・不確定・安定に分類
  3. 重症・進行例・進行例では治療を行う
    • 重症ILDの場合、MMFとニンテダニブの併用療法開始を検討
      • MMF2-3g/dayまで漸増、ニンテダニブは50-100mg/day分2へ
    • 経過不確定ILDの場合、まず12ヶ月MMF単剤での初期治療を検討し、進行例ではニンテダニブ追加を検討する
      • 12ヶ月のMMF単剤治療で呼吸機能検査安定の場合、感染症リスクと天秤にかけて治療漸減を検討する(例:MMFを500mgずつ6ヶ月毎に漸減)
    • 治療失敗例・MMF/ニンテダニブ不耐性の場合、CYC・RTXの点滴投与を検討する
  4. ILD安定例では、症状モニタリングを行いつつ3-6ヶ月ごとに呼吸機能検査を行う
    • 呼吸機能検査悪化例では、HRCTを実施し、悪化していれば治療を再検討する

症例)

56歳の女性、症状:レイノー現象、数ヶ月前からの指の腫れ、血圧160/100mmHgの高血圧症、進行性の息切れ
  • 身体初見:毛細血管拡張症、指硬化、近位皮膚硬化症(胸部と上腕部に厚い光沢のある皮膚)、両肺底部crackle
  • 血液検査:微小血管障害性溶血性貧血、血小板減少、血清クレアチニン値の上昇(以前は正常)
  • 胸部CT:両肺下葉にすりガラス陰影
→どう治療を行うか?
  • 入院の上、カプトプリル・MMF投与を開始し漸増(最終的にカプトプリル150mg8時間ごと、MMF1500mg12時間ごと投与)
  • 血圧・腎機能は改善したが、呼吸機能検査でFVC%70%と中等症であった→ニンテダニブを追加
  • ACEiは長時間作動型(リシノプリル40mg/day)に変更
 

【まとめ】

  • 全身性強皮症の致命的な合併症として腎クリーゼ・間質性肺疾患があり、初期評価時に強皮症の表現型(dcSSc/lcSSc)をはっきりさせることが重要
  • 腎クリーゼ治療の第一選択薬はACEi、第二選択はARB、第三選択はCaブロッカー
  • 間質性肺疾患は、治療開始前に重症度・経過を判断する
    • 重症の場合はMMF+ニンテダニブの初期治療が推奨される
    • 中等症・経過不確定の場合、MMFがファーストラインである
    • 安定・軽症では、画像検査・呼吸機能検査で定期的にモニタリングする
  • 間質性肺疾患の治療としては、トシリズマブ・リツキシマブ等が有望