膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ループス性脱毛と鑑別疾患

Lupus Sci Med. 2018;5(1):e000291.
 
皮膚症状のうち特徴的なのが脱毛症であるが、ループスの中にも様々なタイプの脱毛症があり、鑑別疾患も多彩である。

【Key-point】

  • ループス患者の脱毛はループス特異的/非特異的脱毛だけでなく、他疾患による脱毛の可能性もあり、鑑別は幅広い
  • ループスに特異的な頭皮DLEはは瘢痕化しやすく、QOLに関わる
  • 非瘢痕性脱毛(Lupus hairなど)はループスの活動性を反映していることがあるため、注意が必要
  • 一方でループスと関係のない脱毛もあるので、原因がはっきりしない場合、皮膚科と相談して鑑別を進める必要がある

 

【SLEと脱毛症】

  • 全身性エリテマトーデス(SLE)は、経過中80%に皮膚症状が見られるとされ、分類基準にも多く採用されている(表1)
  • 大別して瘢痕性脱毛・非瘢痕性脱毛に分かれるが、それぞれループスに特異的な脱毛・非特異的な脱毛症があり(表2)、鑑別疾患も多岐にわたる(表3)
 

表1:SLE基準と皮膚症状・脱毛症

基準
皮膚症状
脱毛症について
1971年ACR基準
6つの皮膚症状
頬部紅斑
・円板状エリテマトーデス
レイノー現象
脱毛症
・光線過敏症
・口腔/鼻咽頭潰瘍
基準に存在…急速かつ大量の頭皮毛髪の消失
1982年ACR基準
4つの皮膚症状
頬部紅斑
・円板状エリテマトーデス
光線過敏症
・口腔/鼻咽頭潰瘍
基準に脱毛症なし
1997年ACR基準
4つの皮膚症状
頬部紅斑
・円板状エリテマトーデス
・光線過敏症
・口腔/鼻咽頭潰瘍
基準に脱毛症なし
2012年SLICC
4つの皮膚症状
・急性皮膚エリテマトーデス
・亜急性皮膚エリテマトーデス
・口腔/鼻咽頭潰瘍
非瘢痕性脱毛症
基準に存在…他の原因(円形脱毛症、薬剤、鉄欠乏症、男性型脱毛症など)がない場合、目に見える抜け毛を伴うびまん性の薄毛・毛髪の脆弱性
2019年ACR/EULAR
4つの皮膚症状
・非瘢痕性脱毛症
・口腔内潰瘍
・亜急性皮膚ループス/円板状ループス
・急性皮膚ループス
非瘢痕性脱毛症として項目に入った
(※ACR/EULAR2021はブログ主が追記)
 

表2:ループス脱毛症の一覧

分類
疾患
瘢痕
ループス特異的脱毛症
円板状エリテマトーデス(DLE)
初期は非瘢痕性
→瘢痕性へ
急性皮膚エリテマトーデス
非瘢痕性
亜急性皮膚エリテマトーデス
Tumid lupus erythematosus
ループス非特異的脱毛症
Lupus hair
非瘢痕性
円形脱毛症/ophiasis(蛇行型脱毛症
非ループス性脱毛症
休止期脱毛症(Telogen effluvium)
非瘢痕性
成長期脱毛症(Anagen effluvium)

表3:脱毛症の鑑別診断

分類
疾患
瘢痕性脱毛
毛孔性苔癬
前頭部線維性脱毛症
頭頂部遠心性瘢痕性脱毛症(CCCA)
萎縮性脱毛症(Pseudopelade of Brocq)
頭部白癬(後期)
非瘢痕性脱毛症
Patterned hair loss(男性型/女性型脱毛症)
Acute diffuse and total alopecia areata
 (円形脱毛症の一亜型)
抜毛癖
梅毒性脱毛症
頭部白癬(初期)
 

【瘢痕性脱毛】

ループス性脱毛として特異的なのはDLEで、その他ループスと関係のない脱毛でも瘢痕性脱毛をおこす
 

◎ループスに特異的な瘢痕性脱毛

①DLE(円板状エリテマトーデス)
  • 皮膚ループスに特異的な皮膚所見
  • DLEの病変部として最多なのが頭皮で、30−50%に発生する
  • 20−40歳で多く、女性に多い
  • 進行すると永続的・不可逆的な脱毛をおこす
  • 病理所見…毛包構造の線維化
    • 臨床的には毛包開口部の不明瞭化が認められる
    • 線維化が進行することで脱毛は永続的・不可逆的となる
  • 臨床的特徴…以下の4点が特徴的
    • (毛細血管拡張・鱗屑も多い)
    1. 紅斑~紫斑の色調
    2. 萎縮性瘢痕・色素沈着などの損傷
    3. 毛包角化症・閉塞
    4. 瘢痕性脱毛
  • 他の瘢痕性脱毛は辺縁部での症状が強いが、DLEでの場合脱毛部分の中心での症状が強い
    • (A)中心部:萎縮性の白色プラーク、辺縁に紅斑・鱗屑・色素沈着不全
    • (B)ダーモスコピー…毛包閉塞、色素沈着、局所的な毛包性紅斑
  • かゆみ・疼痛・熱感を感じる場合もあるが、無症状の場合もある
  • 診断…皮膚生検、免疫病理学的検査、血算・尿検査・抗核抗体等
 

◎瘢痕性脱毛の鑑別疾患

②毛孔性苔癬(Lichen planopilaris: LPP)
  • 頭皮DLEの最大の鑑別
  • 頭皮に付着した微細な白色鱗屑(Wickham線条)を伴う、光沢のある扁平頂部多角形の丘疹が特徴的(扁平苔癬に類似)
    • 毛包周囲の紅斑(Int J Womens Health. 2013;5:541-556.)
  • 脱毛斑の周囲に毛包周囲角栓がある→DLEの脱毛部中心部の毛包閉塞とは異なる所見
  • 約半数で頭皮以外の苔癬様病変がある
  • 診断…脱毛斑の辺縁を生検→扁平苔癬様の所見
  • DLEと併存する場合もあり注意
 
③前頭部線維性脱毛症(Frontal fibrosing alopecia: FFA)
  • 扁平苔癬の一亜型
  • 閉経後の女性に発生する前頭側頭部に沿って帯状に分布する進行性の瘢痕性脱毛
  • 生え際の後退以外に、眉毛の脱毛も半数に発生する
    • 眉毛の脱毛を伴う生え際の後退
  • その他の特徴…顔面丘疹、眉間の紅斑、体毛の喪失
  • 皮膚生検…毛孔性苔癬と同様の所見だが、中間毛包・小毛包も侵される
  • DLEと併存する場合があり注意
 
④頭頂部遠心性瘢痕性脱毛症
  • 頭頂部に好発し、遠心方向に広がる瘢痕性脱毛症
    • (JAAD Case Rep. 2020;6(2):106-108.)
  • 中年のアフリカ系アメリカ人女性に多い
  • 病理…内根鞘の早期落屑が特徴的
 
⑤萎縮性脱毛症(Pseudopelade of Brocq)
  • 非炎症性・アイボリー色の斑点が特徴的な萎縮性脱毛→‘footprints in the snow’と呼ばれる
    • (Dermatol Ther. 2008;21(4):257-263.)
 
⑥その他
  • その他の鑑別…扁平上皮癌、乾癬による脱毛症、類天疱瘡など
 

【非瘢痕性脱毛症】

◎ループスに特異的な脱毛症

①急性皮膚エリテマトーデス
  • SLEのフレア時に発生する脱毛症で、休止期/成長期脱毛症・びまん性脱毛症に類似した脱毛をおこす
    • びまん性脱毛
  • 特に斑状脱毛症が多い
  • ただ、生検を行ってみるとSLE所見・ループスバンドテスト陽性を示す
  • 重症SLEで起こることが一般的で、SLEの活動性がコントロールされると脱毛も改善する
 
②亜急性皮膚エリテマトーデス
  • 頭頚部に起こることは稀だが、斑状脱毛症を起こした報告もある
    • 発生する際はだいたい体幹にも同様症状がある
  • 乾癬様の鱗屑を伴う場合も多い
 
③Tumid lupus erythematosus
  • 稀な皮膚ループスの一型で、日光過敏・紅斑性の浮腫性プラークを特徴とする
  • 頭皮症状は稀だが、円形脱毛症様の非瘢痕性脱毛・硬化プラークが見られた報告はある
 

◎ループスに非特異的な脱毛症

④Lupus hair
  • SLE患者の前頭部の細くて脆い髪を指すが、正確な定義はない
  • 慢性活動性SLEに罹患した女性に多く見られ、有病率は5-30%程度
  • lupus hairが見られる場合、SLEの疾患活動性残存・悪化を示唆し、フレア改善後に収まる事が多い
 
円形脱毛
  • SLE患者は円形脱毛症発症頻度が高い
  • 紅斑・鱗屑を伴わない、非炎症性の円形脱毛斑が特徴的
  • ダーモスコピー…毛幹の萎縮→断端毛、感嘆符毛、黒点
    • (Curr Probl Dermatol. Basel, Karger, 2015, vol 47, pp 21–32)
 

◎非瘢痕性脱毛の鑑別疾患

⑥休止期脱毛症(Telogen effluvium)
  • 身体的・精神的ストレスから発生する脱毛症で突然発生することがある
  • ブラッシングをするときに髪の毛が大量に抜け落ちることが特徴的で、進行するまで薄毛が目立たない
 
⑦成長期脱毛症(Anagen effluvium)
  • 薬剤(シクロホスファミド・メトトレキサートなど)による発毛の阻害による脱毛
 
⑧Patterned hair loss(男性型/女性型脱毛症)
  • 特徴的なパターンで発生する進行性の脱毛
    • 男性型…頭頂部・前頭部の生え際の脱毛
    • 女性型…頭頂部の正中線の脱毛
  • 一般的な脱毛症であり、SLE患者において除外することは困難
 
⑨抜毛癖
 
⑩梅毒性脱毛症
  • 二次梅毒の初期症状として起こる
  • 円形脱毛症・休止期/成長期脱毛症などのびまん性脱毛症に似た‘moth-eaten’ hairless patches が起こる
    • (CMAJ. 2013;185(1):61.)
 
⑪頭部白癬
  • 成人では稀だが、免疫抑制を背景に頭皮真菌症は起こりうる
  • 初期は非瘢痕性だが、進行すると瘢痕性になりうる