膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

広義の”Difficult to Treat RA”について考える ②各論

今回は3つに分類した広義のD2TRAについての対応を考えてみる。
 
前回の総論

ctd-gim.hatenablog.com

 

【ポイント】

  1. そもそもRAではない…診断ミス
    • 特にSeronegative RAには注意が必要
  2. 治療強化困難なRA…、アドヒアランス不良、不適切な薬剤管理、合併症、金銭面
    • 薬剤有害事象…MTX増量には患者教育の他、投与方法変更といった方法での対応も考慮
    • アドヒアランス不良…有害事象・有効性への疑問が原因として多く、しっかりとした情報提供が重要
    • 合併症…肺・腎・肝・感染症・悪性腫瘍などの合併で治療選択肢が限られる
    • 金銭面…社会制度の活用が策だが、非常に難しい
  3. 治療強化しても難治性のRA(狭義の難治性RA)
    • まず炎症性病態・非炎症性病態どちらが問題かを見極める(両方合併していることも多い)
    • 炎症性の場合、異なるターゲットに対してのb/tsDMARDsを順に使っていくことがまず推奨されるが、サブタイプに応じた治療・Ctrl+Alt+Delアプローチも有用
    • 非炎症性の場合、原因の特定→総合的介入+現実的なゴール設定が重要

①そもそもRAではない

EULARからのD2TRA推奨1-1では「D2TRA と推定される場合、誤診の可能性・ミミック疾患の併存をまず考慮する」となっている。
特にRF/ACPA陰性のRA(Seronegative RA)には注意が必要で、実はSpA(脊椎関節炎)・結晶性関節炎等であることが多い
  • 参考:“Seronegative RA”435例を10年フォロー→RAに再分類されたのはたった3%
またRF/ACPA陽性なら全てがRAというわけでもなく、RF/ACPA陽性PsA(乾癬性関節炎)もあるので注意

②治療強化困難なRA

◎薬剤有害事象

  • 薬剤有害事象で大きな問題になるのはメトトレキサート(MTX)で、十分量増量できればMTX単剤でもRAはある程度寛解できる
  • ただMTX増量は難しい事が多い
    • 日本人で臨床試験プロトコール(8mgスタート、4週おきに4mg増量・最大16mg)に従って増量しても平均10mg/w( RMD Open. 2017;3(1):e000363. )
    • アドヒアランス不良も多い…MTX内服251人中42%が処方どおりにMTXを服用していなかった(Rheumatol Ther. 2015;2(1):73-84.)
  • MTX内服患者への対策は以下の通り(Open Access Rheumatol. 2017;9:67-79.)
    • 教育…MTX内服の重要性、脱水予防
    • 葉酸増量
    • 嘔気…分割投与(例:16mg分1→8mg朝夕に分割)、制吐薬、皮下注製剤変更(メトジェクト®)
      • 分割投与は他の副作用リスクに注意
      • 皮下注は経口と比較して、バイオアベイラビリティ良好・消化器症状が少ないという報告があるOpen Access Rheumatol. 2017;9:67-79.)
        • 皮下注(SC)と経口(Oral)MTXの血中濃度比較
 

アドヒアランス不良

アドヒアランス不良の原因は以下の9種類に分類される
表:アドヒアランス不良の原因(Rheumatology (Oxford). 2021;60(11):5105-5116.)

  • うちD2TRA患者で多い原因は、有害事象・有効性への疑問である(Rheumatology (Oxford). 2021;60(11):5105-5116.)
  • 治療開始時に投薬の必要性含めた情報提供の実施・csDMARDsのアドヒアランスの確認の2つを行うことが重要(Semin Arthritis Rheum. 2013;43(1):18-28.)
 

◎不適切な薬剤管理

  • 生物学的製剤は冷所保存が必要であり、例えばヒュミラ®では遮光・凍結を避け2~8℃で保存することが推奨される
  • 不適切な温度条件によってタンパク質が変性し、抗薬物抗体リスク・有効性低下リスクが増す(Rheumatology (Oxford). 2016;55(4):704-709.)
  • 適切に生物学的製剤を保管できていない患者は多い
    • 製剤に温度計を装着して監視→<0℃ or >25℃で2時間以上保管した患者が26.3%(Rheumatology (Oxford). 2016;55(4):704-709.)
  • ◎生物学的製剤使用患者で無効の場合、一度保管状態を確認してみる必要がある
 

◎合併症

  • 併存症が多い患者はD2TRAのリスク…間質性肺炎感染症など
  • 特に肺/腎/肝疾患・易感染性・悪性腫瘍合併例では治療法は大幅な制限を受ける
 

◎経済面

  • 貧困・社会的地位が低いことはD2TRAのリスクだが、特に治療面での制限が大きな問題となる(Rheumatology (Oxford). 2021;60(8):3778-3788.)
  • 生物学的製剤・JAK阻害薬の値段は月額16,000〜45,000円(3割負担)と非常に多くな負担となる
  • 日本リウマチ学会「メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド」に患者支援制度についてのまとめがあり、是非参照を
  • 外来治療でRA患者に利用できる社会制度は色々あるが、特に使用頻度が多いものとしては以下の4つが挙げられる

    • 高額療養費制度
    • 医療費控除
    • 指定難病制度(悪性関節リウマチ)
  • 特に使うことが多いのは高額療養費制度
    • 1カ月内に支払った医療費が高額となった場合、所得・年齢に応じた限度額を超えた額の払い戻しを受けることができる
    • 問い合わせ先:市町村役場 or 健康保険組合の窓口
    • 大体月44,000円になると覚えておくと良い(年収770万円以下)
      • 日本リウマチ学会「メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド」より
 

③ 治療強化しても難治性のRA(狭義の難治性RA)

◎難治性RAの分類

難治性のRAの原因は、炎症性要素・非難治性要素に分かれる

炎症性要素・非難治性要素の原因は以下の通り

特に大きな問題となるのは肥満・線維筋痛症で、RAと関係なく疼痛の原因となるため活動性評価が困難となる。EULAR推奨でも「RAの臨床評価は、肥満・線維筋痛症存在下では注意して解釈する必要がある」とある。(Ann Rheum Dis. 2022;81(1):20-33.)

炎症性/非炎症性の鑑別

難しい例が多いが、血液画像検査・臨床評価をもとに鑑別する

◎炎症性難治性RAへの対応

EULAR推奨では以下のようになっている(Ann Rheum Dis. 2022;81(1):20-33.)

「この薬剤を使えばすべて解決」と言える薬剤は現状なく、どれを使うのかは現状臨床医の判断が主なのが現状。
  • TNF阻害薬,IL-6阻害薬,JAK阻害薬, CTLA4-Igどれも中止率・奏効率は変わらない(Ann Rheum Dis. 2022;annrheumdis-2022-222586.)
  • どの薬剤に変更してもプラセボよりは効く(RMD Open. 2021;7(1):e001512.)
確立したアプローチがあるわけではないが参考になるアプローチを2つ紹介
 
1. RAサブタイプからの治療薬選択(Nat Rev Rheumatol. 2021;17(1):17-33.)
  • RAには獲得免疫系(抗体陽性)要素が強いもの、自然免疫要素が強いものに分かれる
  • 獲得免疫寄り…持続的な炎症が特徴的→Rituximab, Abataceptなどを選択
  • 自然免疫寄り…炎症のスパイクが特徴的→IL-1阻害薬など(日本では保険適応外)
 
2.Ctrl+Alt+Delアプローチ(https://rheumnow.com/blog/my-approach-difficult-ra
"Ctrl+Alt+Del"(PCのソフトウェア再起動コマンド)によって、患者ごとの最適な治療法リストを作成する

 

◎非炎症性難治性RAへの対応

非炎症性は原因が様々で、原因がわかったとしても有効な治療方法がない場合もある。このため、総合的なアプローチが推奨される。

心がけるポイントは以下の3つ(https://rheumnow.com/blog/my-approach-difficult-ra
  1. 痛みゼロを求めすぎない
  2. 紹介状・多職種介入を活用する
  3. 原因がわからない場合、画像診断を積極的に行う
 
特に「痛みゼロを求めすぎない」というのは重要で、この根拠としてよく言われるのが"Fear avoidance model"。痛みへの恐怖に対しての注意・回避行動の結果、どのように慢性の筋骨格系の疼痛を発症・維持するかを説明する精神医学的モデル。
    • ◎負の方向…痛みへの悲劇的解釈→過剰回避→廃用→疼痛悪化
    • ◎正の方向…痛みの恐怖への対峙