"ANCA-associated vasculitis"
Nat Rev RheumatolよりANCA関連血管炎の傑作レビュー
凄まじく長いが、一気読みできるほど内容は濃い。
①ANCA関連血管炎の種類
ANCA関連血管炎(AAV)には
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多発肉芽腫性血管炎(GPA)…PR3-ANCA陽性が多い
の3種類がある。
GPA・MPAは上気道・下気道・腎臓病変が多い
一方でEGPAは喘息症状・好酸球増多等が多く、他2つとはoverwrapする部分が少ない→いろいろな面で別の病態と考えられている。
特徴は以下の通り
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多発血管炎性肉芽腫症
(GPA)
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顕微鏡的多発血管炎
(MPA)
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好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
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発症率(100万人あたり)
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0.4-11.9人
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0.5-24.0人
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0.5-2.3人
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有病率(100万人あたり)
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2.3-146.0人
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9.0-94.0人
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2.0-22.3人
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男女比
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1:1
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1:1
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1:1
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2012年改訂CHCCでの定義
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壊死性肉芽腫性炎症
上下気道病変が多い
小~中血管炎(毛細血管、細動静脈など)
壊死性糸球体腎炎が多い
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壊死性血管炎
免疫沈着物がほぼ/全くない
小血管病変(毛細血管、細静脈、動脈孔など)
小〜中動脈での壊死性動脈炎がありうる
壊死性糸球体腎炎が非常に多い
肺毛細血管炎も多い
肉芽腫性炎症はない
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好酸球の多い壊死性肉芽腫性炎症
気道病変が多い
小~中血管での壊死性血管炎
喘息・好酸球増多症を伴う
糸球体腎炎ある場合、ANCA陽性例が多い
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ANCAの頻度
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PR3-ANCA+:65-75%
MPO-ANCA+:20-30%
ANCA陰性:5%
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PR3-ANCA+:20-30%
MPO-ANCA+:55-65%
ANCA陰性:5-10%
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PR3-ANCA+:<5%
MPO-ANCA+:30-40%
ANCA陰性:55-65%
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鍵となる免疫細胞
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好中球
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好中球
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再発率
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GPA(・PR3陽性血管炎)より低い
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再発率は高い
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臨床的な特徴
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全身症状(体重減少、倦怠感、倦怠感、倦怠感など)
頭頸部病変・気道/肺病変・腎病変・末梢神経障害・皮膚病変
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GPAに似るが生検で肉芽腫病変がない
耳管症状頻度が低い
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喘息がほぼ必発
心臓病変が死亡率に寄与
肺病変・血中好酸球増多(>10%)
耳鼻科症状が多い
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病型によって好発症状はかなり異なる
②疫学
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血管炎の発生率は、1990年代以降のANCA測定の普及・医師の認知度上昇で上昇傾向
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AAVの発症率には地理的なばらつきがある
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GPA(PR3-AAV)…欧米に多く、東アジアほぼ発生しない(白人に多い)
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赤道近くの国に少ない
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小児には少ないが、あえて言えば女児に多くGPAが多い
③発症リスク
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遺伝因子も関係するが、大きいのは環境因子
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中高年に多く、性差はない
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環境因子として疑われているもの(確たるものはない)
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シリカ曝露
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1995年・2011年の大地震後に日本でAAVの発生率が上昇した(2011 年にニュージーランド地震では、相関関係なし)
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農村部生活…農薬や肥料への暴露?
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環境汚染…一酸化炭素レベルがAAVリスク増加相関
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紫外線、喫煙、有機溶剤など
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薬剤性血管炎もある
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中国でPTU症例多い
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ヒドラジン、ミノサイクリン、レバミソールを混ぜたコカイン(クラックコカイン)など…ANCA陽性血管炎と関連
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米国ではクラックコカイン症例多い
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ロイコトリエン拮抗薬…GPAと関連
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薬物誘発性血管炎疑う→薬歴・違法薬物使用についてスクリーニング
④発症メカニズム
GPA/MPOに関しては以下の通り
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リスクファクターによってPR3/MPOに対する免疫学的なT/B細胞の耐性の喪失する
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好中球を活性化する自己抗体であるANCAが発現する(自己反応期)
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ANCAは脆弱な微小血管に局在→抗原提示細胞に対して自己抗原を放出 + 好中球活性化で血管障害を惹起する(エフェクター期)
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血管内皮・組織障害が起こる
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ただ、ANCAの種類での障害臓器の違い・肉芽種病変の有無の違いの理由は不明
(分子レベルでの話は割愛)
EGPAについて
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よくわかっていないが、ANCA陽性EGPAとANCA陰性EGPAは臨床的にも異なることから、発症に関しても異なる要素があると考えられている
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好酸球機能不全が原因の一つと考えられている
⑤診断と定義・症候
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血管炎の分類は2012年改訂Chapel Hill Consensus Conference(CHCC )で決まっている(通称Chapel Hill分類)
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ANCA関連血管炎は「微量または免疫沈着を認めず、主に小血管(毛細血管/細静脈/細動脈/小動脈など)を主に障害し、MPOまたはPR3に対する特異的なANCAを伴う壊死性血管炎」と定義
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特に感染性心内膜炎は臨床所見が似るだけでなく、ANCA陽性(間接免疫蛍光検査:IIF)がありうるため注意!
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ELISAでの測定考慮
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臓器病変
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GPAによる鼻中隔破壊(白矢印)・新生血管(黒矢印)
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眼科病変…肉芽腫性眼窩腫瘤、後眼窩腫瘤、前房炎、網膜血管炎、視神経炎
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肺毛細血管炎→肺胞出血、咳嗽、喀血、肺結節
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急性肺胞出血による「すりガラス影」
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皮膚病変…紫斑、点状出血、壊死性皮膚血管炎
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腎病変…急速進行性糸球体腎炎→血尿、蛋白尿、高血圧
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間質性腎炎は少ない
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ANCA陽性のSLE・強皮症もいて似た所見をとる→ANCA陽性の血管炎性腎症だからといってAAVと決めうちせず、臨床的に合わない部分があった場合は定期的な診断見直しが必要
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末梢神経…多発性単ニューロパチー
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EGPAの病変はかなり特殊
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単一臓器病変(孤立性腎疾患または孤立性肺線維症など)もありうる。なぜか日本からの報告が多い。
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小児の血管炎の臨床所見はほぼ同様だが、再発率が高いので注意
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PR3-ANCA陽性患者はMPO-ANCA陽性患者よりも再発リスクが高いため、注意(PR3-ANCA陽性自体が高リスク)
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検査
⑥疾患活動性の評価
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専門医の評価+ツールの使用が一般的
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よく使用されるのはBirmingham Vasculitis Activity Score (BVAS)Five Factor Score (FFS)
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また血管炎は心血管系イベント・静脈血栓塞栓症リスクが高いため注意
⑦画像と生検所見
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胸部Xp・CT(肺結節・副鼻腔炎など)…基本的には単純CTでok
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間質性肺炎の検出には胸部HRCTが有用と思われる
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生検の必要性
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ELISA陽性ならAAV診断特異度は高いので、生検不要な場合があるが、診断確定には組織生検が重要
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鼻生検・腎生検・皮膚生検などが行われるが、診断に必須ではない
生検所見…特徴的な所見が多い
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総論
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フィブリノイド壊死+小血管炎がAAV全体に特徴的
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中心部:肉芽腫性炎症+フィブリノイド壊死(N)(MPA)
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炎症後の繊維化瘢痕(F)による血管内腔の閉塞(*)
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GPAによる肺の肉芽腫形成による壊死性所見(‘Geographic’ necrosis)
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腎臓
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免疫グロブリン・補体沈着がほとんどない糸球体毛細血管ループの細分化壊死、三日月状糸球体腎炎→糸球体硬化症へと進行する
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多くの場合、小血管の炎症初見と壊死性病変周囲の間質性浸潤を伴う
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呼吸器病変
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GPAでは上下気道に肉芽腫性病変+中心性壊死を起こす
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類上皮肉芽腫による‘Geographic’ necrosis(GPA)
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EGPAでは大量の好酸球に囲まれる
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AAV肺病変は、共通して好中球性毛細血管炎が見られる
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好中球性毛細血管炎(C)と繊維性浸出液(*)(MPA)
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その他
⑧予後
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治療・診断の改善によって予後は改善傾向
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5年生存率は70−80%程度
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死亡リスク…高齢、腎機能障害重度、肺胞出血、疾患活動性高い、腎生検結果など
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GPAの診断・PR3-ANCA・呼吸器病変は再発リスクを高める
⑨マネージメント総論
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疾患活動性・障害・予後・QOL等を考慮して治療を導入する
⑩寛解導入
一般的なステロイド使用前スクリーニングを行ったのちに治療する
臨床試験一覧
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グルココルチコイド
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即効性がある
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(N Engl J Med. 2020;382(7):622-631. )
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PEXIVASはRTXとの併用試験ということに注意!
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RITAZAREM試験…重症化しているかどうかにかかわらず、再発患者の場合、0.5mg/kg/dayでも良好な反応あり
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(Trials. 2017;18(1):112.)
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ステロイドパルスはよく行われるが、本当に意味があるかはわかっていない
ステロイド以外の薬剤…リツキシマブ(RTX)一択になりつつある
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シクロホスファミド(CYC)
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安いのがメリット
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間欠的静脈ないパルス投与または1日1回の経口投与→3−6ヶ月後に終了し、寛解維持に移る
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骨髄毒性等に注意
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リツキシマブ(RTX)
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複数の臨床試験でシクロホスファミドに非劣性
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PR3-ANCA陽性例・再発例でシクロホスファミドよりも優れていた
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投与方法…以下の2つが多い
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375mg/m^2を週1回、合計4回
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1,000mgを2週間間隔で合計2回
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腎機能低下例(eGFR<20等)では悩ましい
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RITUXVASではIVCY+RTX併用(375mg/m2/weekを4週間、1・3週目にIVCY 15mg/kg/d併用)というのがあったが、感染症リスクは高い
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その他…MTX、MMF、AZA
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6ヶ月時点での寛解率はCYCと同等だが、再発率は高いため、注意が必要
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血漿交換…PEXIVASの結果から腎炎・肺胞出血症例へは非推奨となっている
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IVIG…改善したという報告はある
⑪寛解維持
薬剤毒性・合併症を抑えつつ再発を予防する。中心はやはりRTX。
臨床試験一覧
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グルココルチコイド(GC)
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リツキシマブ(RTX)
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MAINRITSAN/RITAZAREM両方でアザチオプリンよりも優れていた
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使用例:RTX500mg,6ヶ月ごと、2年間使用(MAINRITSANプロトコル)
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ただ、RTXでの2年の治療後、さらに2年RTX継続することで再発率は低下した(MAINRITSAN3)
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→どこまでRTX継続すべきかはわかっていない
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RTX最終投与から再発までの平均期間は2年程度
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治療指針としてCD19陽性B細胞数・ANCA力価を使うことが多いが、バイオマーカーのみに基づいて治療しても再発頻度は高い
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その他
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RTXと比較して否定的な結果ばかりだが、アザチオプリン等での寛解維持も依然として行われている
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GPA・MPAの再発時の治療はRTXが望ましい
⑫EGPAの治療
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RTXの有効性は十分には確立されていない
⑬疾患活動性のモニタリング
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定期的な尿検査(血尿・蛋白尿)・腎機能チェック
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ベースラインのIgGが低い→RTX治療後の免疫不全リスク増加
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定期的なCD19陽性B細胞のカウント(必須ではないがRTXへの反応不十分な患者では役立つかもしれない)
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臓器病変あった場合は特異的な検査
⑭並存疾患の治療
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ST合剤
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ニューモシスチス肺炎の予防となる
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ただ、薬剤誘発性白血球減少症等の有害事象に注意
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定期的なワクチン接種…肺炎球菌・インフルエンザ
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推奨されるが、血清学的反応がRTX投与後にはイマイチな可能性がある
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静脈血栓症リスク、心血管系リスク
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悪性腫瘍
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シクロホスファミドを使用した患者は血尿(膀胱癌)・皮膚悪性腫瘍に注意してフォローする
⑮QOL
⑯今後の展望
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治療法はだいぶ改善しているが、特異的とは言い難く、薬剤副作用も多い
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再発リスクもまだはっきりしていない→今後新なバイオマーカーの開発が望まれる
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寛解維持療法をどこまでやるかもまだわかっていない
(感想)
凄まじく長いが、これでもだいぶ端折っている。ANCA関連血管炎というなかなか捕らえがたい病態のエッセンスを余すことなく凝集したレビューなので、ぜひ本文を読んでほしい。知識の整理としては最適だった。