膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

巨細胞性動脈炎(GCA)・リウマチ性多発筋痛症(PMR)の長期管理

巨細胞性動脈炎(GCA)・リウマチ性多発筋痛症(PMR)の長期管理
Camellino D, Matteson EL, Buttgereit F, Dejaco C. Monitoring and long-term management of giant cell arteritis and polymyalgia rheumatica. Nat Rev Rheumatol. 2020;16(9):481-495. doi:10.1038/s41584-020-0458-5
GCA/PMRのフォローで悩むことが多いので読んでみた
 
 
①モニタリング
 
②バイオマーカー
CRPを始めとした血清マーカー・超音波等の画像マーカー両方を利用して管理していく。
血清マーカー
長所
短所
ESR(血沈)
頻用される
再発患者の20%以上はESR正常
TCZ使用下では偽陰性になりうる…貧血、年齢、感染症、高γグロブリン血症
頻用される
再発患者の20%以上はCRP正常
TCZ使用下では偽陰性になりうる
IL-6
疾患活動性と正の相関あり
TCZ使用患者では、再発の予測に使えるかもしれない
感染症の他、ステロイド・TCZによる影響を強く受けるため、使いにくい
Calprotectin
ESR・CRPよりも感度がよく、TCZ使用中の疾患活動性に使えるかもしれない
研究途上で結果に差があり、臨床での役割は限られる
PTX3
疾患活動性・視力障害に対して正の相関あり
PMRと健康なコントロール群の間で差がなかった
一般的でない
Osteopontin
疾患活動性と正の相関があり、IL-6とは部分的に独立?
一般的でない
 
画像マーカー
所見
長所
短所
超音波(US)

a:血管壁肥厚⇨"halo sign"
複数の血管壁を1回で評価できる
被爆もなく、利便性が高い
疾患活動性との関係性が不明
検者の腕前に依存
VHR-US
UHF-US
(高精度の超音波)
 
標準的な超音波検査同様
+血管外膜/中膜/内幕の解析ができる
疾患活動性との関係性が不明
一般的でない
造影CT

上行大動脈壁肥厚
短時間で可能、幅広く利用されている
寛解した患者でも壁肥厚が持続する
造影剤/被爆リスク
MRI、MRA

大動脈血管壁肥厚
血管形態が評価できる(動脈瘤・狭窄)
被爆なし
疾患活動性との相関は不明
撮影時間が長い、米国では利用しにくい
FDG-PET-CT

上行大動脈・右内頚動脈・腋窩動脈の高吸収
疾患活動性と相関している?
治療中止後の再発、大動脈拡張の予測ができる
他の炎症の原因を調べられる(感染症・癌など)
低疾患活動時の血管への弱い取り込みの意義が不明
一般的でなく、高額
FDG-PET-MRI
 
疾患活動性と相関している?
血管形態が評価できる(動脈瘤・狭窄)
他の炎症の原因を調べられる(感染症・癌など)
技術的なハードルが高い
全く一般的ではない
③長期管理
再発リスクとしては色々いわれている
GCAの再発リスク
  • 女性、治療前の疲労症状が強い
  • 発熱・体重減少・ESR高値・貧血(ステロイド治療長期化リスク)
  • CRP高値(>2.5mg/dlで治療失敗リスク増加)
  • CT・PET-CTでの大血管病変
PMRの再発リスクは、大血管病変・ベースラインの関節所見とは相関しない
 
  • 眼症状がある場合はステロイドパルスを検討
  • EULAR2018推奨
    • PSL40~60mg/dayで投与⇨2~3ヶ月以内に15~20mg/dayに漸減⇨1年後には<5mg/dayにする
  • GiACTAプロトコルのサブ解析…PSL単剤ではPSL26週漸減と比較して52週漸減プロトコルのほうが再発が少ない
      1. 60~40mg:10mg/wで漸減
      2. 40~20mg:5mg/wで漸減
    • N Engl J Med. 2017;377(4):317-328.
PMR
  • PSL12.5-25mg/dayで開始⇨4~8週間以内に10mg/dayまで漸減⇨4週間毎に1.0-1.25mg/dayずつ漸減
  • 経口薬の代わりにメチルプレドニゾロン筋肉注射(初期用量:120mg/3week)というのもオプション
 
ステロイド以外の治療
 
⑥治療の漸減・再発マネージメント
  • 1年以内でのPSL<5mg/dayが目標
  • TCZ併用によってステロイドは速やかに漸減することができる
    • PSL単剤では1年以上かかるが、GiACTAでは50%が約半年でPSL終了できている
  • 再発は、GCAの治療の漸減期および中止後に頻繁に起こる
    • TCZ併用有無に関わらず、PSL≦10mg/dayでフレアしやすい
      • N Engl J Med. 2017;377(4):317-328.
    • TCZ使用で寛解した患者も、TCZ中止すると47%が再発した
      • 中止後平均6.3ヶ月で再発
        • Rheumatology (Oxford). 2019;58(9):1639-1643.
    • ⇨TCZの立ち位置に関しては長期的な安全性の検証・費用対効果)まで一旦再増量することが勧められる
PMR
  • 再発率は31.5%とたかく、発症数ヶ月以内で高い
  • PSL<5mg/dayで維持できるようになるまでの中央値は1.44年と結構長い
  • ステロイドからの永久離脱までの期間中央値は5.95年(95%CI 3.37-8.88)
    • ただ、永久離脱できない人も多々いる…
  • 離脱が難しい要因…変形性関節症や副腎不全等の非炎症性疾患の悪化
  • 再発した場合は、最小有効量まで一旦増量or5-10mg増量
 

 
⑦合併症とのその治療
  • GCAの血管病変は、病期そのものだけでなく薬剤性(ステロイド副作用)・年齢等の多因子が絡むため、難しいものがある
    • そもそも、病気そのものよりもグルココルチコイド治療による合併症のほうが多い(Rheumatology 57, 322–328 (2018).)
  • ステロイド有害事象
    • PSL5mgでも感染症リスクは大幅に上がる(Ann Rheum. Dis. 75, 952–957 (2016).)
    • 代表的な有害事象…骨粗鬆症白内障緑内障、肺炎、糖尿病
    • メタ解析上PMR患者では、PPI併用群で心血管疾患・骨粗鬆症のリスクが高くなる(RMD Open 4, e000521 (2018).)
  • GCAの血管合併症
    • 動脈瘤・大動脈解離のリスクが上がる
    • 特にPET-CTで大動脈にFDG取り込み亢進があると、大動脈拡張が起こりやすくなる(Medicine 95, e3851 (2016).)
    • CT/MRIによる血管合併症スクリーニングを、診断時+一定期間おきに行う
      • 頻度に関しては不明瞭
      • フランスの大血管炎研究会推奨は2-5年おき
    • 心筋梗塞・脳血管障害・末梢血管障害リスクも増大する
      • 抗血小板薬/抗凝固薬でのリスク減少は実証されていない
合併症
予防
スクリーニング
治療
骨吸収阻害薬・VitD
運動、禁煙、減量
BMI、血清PTH値、血清補正Ca値
骨密度検査(DXA scan)
骨吸収阻害薬
VitD±経口カルシウムサプリ
運動・食事療法
血糖、HbA1c
ステロイドの代替薬の使用、ステロイドの減量
糖尿病の薬物療法
高血圧
運動・食事療法
禁煙、減量
血圧測定
ステロイドの代替薬の使用、ステロイドの減量
運動・食事療法
禁煙、減量
血中TChol・HDL・LDL・TG測定
脂質降下薬
体重増加
運動、減量
ステロイドの代替薬の使用、ステロイドの減量
PMRの場合ステロイド筋注への変更
ワクチン接種・禁煙
ツベルクリン検査・IGRA
肝炎の血清学的検査
結核・肝炎の治療
重度の場合はDMARDs中止
感染症状況に応じたステロイド減量
 
 
⑧まとめ
  • GCA/PMRの長期管理のポイントとしては以下の通り
    • 臨床症状、患者愁訴、血清/画像バイオマーカーを組み合わせた評価を行う
    • 再燃を抑える
    • ステロイドによる有害事象を最小限にする
    • 長期合併症を防ぐ
  • 主な臨床的疑問
    1. 画像診断をどの立ち位置で用いるか?
      1. 再発が疑われる場合、炎症マーカーが持続的高値の場合に実施する
    2. 画像診断の頻度と内容
      1. 超音波検査を最初に行い、必要に応じてMRI・PET-CT
      2. 基本的に2~3年ごとに検査(エビデンスなし、血管リスクのある患者ではもっと高頻度?)
      3. 特に炎症マーカー高値の場合PET-CTが有用
    3. GCAに対してトシリズマブをどういう場面で使うか?
      1. よくわかっていないが、トシリズマブ使用で確実にステロイドの量は減る
      2. ステロイド有害事象リスクが高い、難治性など?
    4. 今後の新規治療薬(GCAに関して治験中)
      1. JAK阻害薬…upadacitinib、Baricitinib
      2. GM-CSFα受容体阻害薬…mavrilimumab
      3. IL-6阻害薬…sarilumab
      4. IL-17阻害薬…secukinumab
 
あまり新しいことはないが、知識の整理にはなる。
  • どのタイミングでGCAにTCZを用いるかというのは、難しい疑問。手強そう/ステロイド入れることが危険ならさっさと入れるというのが望ましいだろうが、その線引きは難しい…
  • 大血管病変のGCAにTCZ入れると本当に指標が画像だけになってしまうので、注意が必要。ただこれ読む限り、画像だけでフォローするのも危険な気がする…