膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

リウマチ多発筋痛症(PMR)とステロイド漸減

リウマチ多発筋痛症(PMR)は非常にコモンな疾患で、ステロイド単剤治療が可能なリウマチ性疾患としても有名である。
ただステロイド漸減に関しては定まったものがあるわけではない。
きちんとPMR治療の難しさ(再発リスク)・診断の難しさ(ミミック)・ステロイドを減らすことの重要性を患者と共有することが重要。
 
◎まとめ
  • PMRへのステロイド中止は難しいことが多い(治療2年時点で約半数しか中止できていない)
  • 再発する場合、まず再度の鑑別診断・ステロイド漸増考慮
  • 難治例ではMTX・TCZ投与も考慮されるが、決して万能ではなく長所・短所を把握した上で行う

①PMRへのステロイド導入・漸減

PMRのステロイド漸減に関しては決まったデータが有るわけではないが、あまりに早い漸減は再発率を上げる(J Rheumatol 2005;32:65–73)
→ACR/EULARのガイドラインを参考に行われる(Ann Rheum Dis. 2015;74(10):1799-1807.)
 
◎PSL(プレドニゾロン)内服の場合
  • 初期治療…12.5-15mg/dayのPSL内服
  • 初期漸減…4-8週間以内にPSL10mg/dayまで漸減
  • 漸減…寛解が続く限りPSL漸減中止。PSLを 4 週間ごとに 1 mg ずつ (または隔日で 10/7.5 mg などのスケジュールを使用して 1.25 mg ずつ) 漸減
→再発しなければ約1年で治療終了
※現実的にはPSL5mg/dayからは1mg/2ヶ月程度の漸減、隔日内服などが行われる場合も多い
 
表:PMRへのPSL漸減の一例

◎mPSL(メチルプレドニゾロン)筋注の場合(軽症かつステロイド関連合併症が懸念される場合に選択)
  • 120mgで3-4週間毎に投与し、2-3ヶ⽉ごとに20mgずつ減量
 
ただ一方でPSL中止ができるのか?というとそういうわけでもなく、かなり再発率は高くPSL中止できない例も多い(Clin Exp Rheumatol. 2013;31(4 Suppl 78):S86-S92.)
  • PMR治療開始から2年後の時点でのステロイド中止率は約50%
  • 一方でPSL中止できた患者の平均治療期間は20-28ヶ月
→早期中止することは難しいが、中止できる場合は順調なことが多い
 
このためPMRには以下の2つのサブグループがあるとする考え方もある(UpToDate "Treatment of polymyalgia rheumatica"など)
  • PSLを問題なく漸減できる群
  • PSL漸減困難例(再発例)
 
表:PMRの再発リスクとして報告されているもの

ただし再発リスクの高い患者に対して、長期間PSL治療したからといって再発を防げるのか?ということはわかっていない。(Ann Rheum Dis. 2015;74(10):1799-1807.)
 
特に再発例に関しては、関節リウマチ・偽痛風の他、腫瘍随伴症候群などの致死的疾患が見つかることも多いため注意が必要
 
表:PMRミミック(Lancet. 2017;390(10103):1700-1712.)

参考
 

②再発したときどうするか?

ガイドライン的にはまずステロイド増量が勧められるが、難治例の場合他DMARDs併用が行われる(Ann Rheum Dis. 2015;74(10):1799-1807.)
→実質的には関節リウマチの治療に近づく
 
ガイドライン(Ann Rheum Dis. 2015;74(10):1799-1807.)
  • 再発時、まずPSLを再発前の用量まで増量→徐々に(4-8週間以内に)再発時の用量まで減量
  • 再燃(2回以上)を繰り返すようであればMTX(7.5mg~10mg/週)を検討する(※日本では保険適応外)
 
最近はTocilizumab(TCZ, IL-6阻害薬)の併用報告も多くなっている
  • TCZ点滴(TCZ8mg/kg/4w)併用でPSL漸減可能(SEMAPHORE)…JAMA. 2022;328(11):1053-1062.
  • TCZ皮下注(TCZ162mg/1w)でもPSL早期終了可能(PMR-SPARE)…Ann Rheum Dis. 2022;annrheumdis-2021-221126.
TCZ併用すればいいというものではなく、以下のような問題点がある
  • Tocilizumab使用するとCRP・血沈が使い物にならなくなる
  • 副作用に注意が必要…憩室穿孔、感染症
  • 治療費が高額
  • そもそも日本では保険適応外
 
ただステロイド漸減困難なPMRに関してステロイド据え置きがいいかと言うとそういうわけでもなく、低用量ステロイド(PSL<5mg/d)であっても感染症・心血管イベントは優位に増加する(Ann Intern Med. 2020;173(11):870-878.)
DMARDs導入・低用量ステロイドに関してのメリット/デメリットを加味した上、患者とshared decision makingを行って治療方針を検討するのが現実的
 
まとめれば以下を患者に説明した上でステロイド治療を導入するとよいと思われる
  • PMRはステロイド内服が著効する疾患だが、漸減中に再発することが多い
  • 一方でステロイドは副作用が非常に多いため、再発リスクがあっても漸減することが求められる
  • PMRの可能性が極めて高いため治療は開始するが、その確定診断は不可能に近いため症状再発時には他疾患でないかどうか含めた再度の精査が必要なことがある
  • ステロイド漸減困難で関節リウマチとしての治療が妥当と判断した場合、他薬剤(MTX・TCZなど)を併用する可能性がある